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「ぴえん」を超えて「ぱおん」…首都圏に乱立する900棟のタワマンがこれから迎える相続地獄

プレジデントオンライン / 2022年4月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

相続税対策のためにタワマンを購入する人が増えている。オラガ総研の牧野知弘さんは「すでに首都圏では900棟のタワマンが乱立している。価値が維持できればいいが、価値が下がってしまえば、自分の身を滅ぼす刃になるだろう」という――。

※本稿は、牧野知弘『不動産の未来 マイホーム大転換時代に備えよ』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

■不動産による相続対策は「ぴえん」である

不動産投資は出口があって初めて結果が出る。不動産を使った相続対策には所得税対策で始めたワンルームマンション投資よりも厳しい未来が待っていそうだ。

アパート投資による節税は、ワンルームマンション投資と構造的にはよく似ている。節税だけに目的を絞り、需給バランスにほとんど目を向けなかったことから、競合が続々誕生する。

テナントがつかなければ運用収入がなくなる。賃料保証がある期間は安心だが、保証期間が切れると地獄の幕開けである。

アパートは賃貸マンションよりも安普請のものが多いため、大規模修繕や設備機器の劣化も早い。こうした工事関係も当初のアパート業者が仕切る。他社に頼めば、賃料保証は受けられなくなる。悪循環である。

マーケットから放り出されたアパートは相続されたのちも子供たちがこれを引き継ぐことになる。資産性がある優良な賃貸資産であればよいが、田園地帯にたたずむ(そのころには)ややくたびれてしまったアパートを相続した子供たちの未来はどこにあるのだろう。

借入金をなるべく多く調達すれば、節税効果はさらに増します、と言われていたはずだ。その借入金の元本は、あまり減ることなく子供たちに引き継がれているはずだ。

貸した金返せ、の声がリフレインする。だが返済原資であるはずのテナント賃料がままならない。SNS上で流行の表現を借りれば「ぴえん」である。アパートも売却できればよいが、どうだろう。

田園地帯の中にある、空き住戸の多いアパートを何の理由で買う投資家がいるというのだろうか。

■アパート相続の悲しすぎる未来

この頃になると金融機関も頭を抱えだす。担保であったはずの土地建物。評価額が下がってしまうと、貸し付けた元本の回収ができるのかどうかという懸念が持ち上がっているだろう。

差し押さえたところで、やはりマーケットで売却できないならば、今度は金融機関が抱え込むよりほかに術がなくなる。「ぴえん」超えて「ぱおん」である。

不動産業者は涼しいものだ。もう売却してしまったし、運用での手数料なんてしれたものだ。すでにその後に建設したアパートの営業に忙しく、新築物件にテナントを連れて行ってしまうなんていう悪辣な行為もお手のものだ。

家賃保証も築10年から15年でのリフォームを自社に依頼することを前提にしているため、それができない場合には簡単にはずすことができるからだ。

結局相続した子供たちは親が残したパッとしないアパートと多額の借入金に悩まされ、潤沢に現金でも持っていない限り、せっかく親から譲り受けた土地を売却して返済するしかない。

売却できなければ自己破産が待っている。良かれと思って始めた不動産投資が刃になって戻ってくるのがアパート相続対策の悲しい未来だ。

税務計画の支援
写真=iStock.com/kate_sept2004
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kate_sept2004

■「売り時を失ってしまう」タワマン節税の罠

タワマン節税もそんなにバラ色な未来が待っているわけではない。タワマン節税が本当にハッピーエンディングを迎えるためには、タワマンがこれからの未来どこまで価格を維持、値上げできるのかにかかっているからだ。

すでに首都圏ではタワマンが900棟以上林立している。初めのころこそレアものだった超高層からの眺めも、たとえば豊洲エリアではすでに、せっかく眺望を買ったと言ってもよい高層階からの眺めも眼前に立ちはだかった別のタワマンに塞がれてしまい、窓の外には他人の家、などという状態になっているマンションが多くなっている。

マンションは新しさが命。続々建ちあがるタワマンの賞味期限は、未来において意外に短いのかもしれない。

本来の不動産投資をやっているのであれば、目の前に他物件が建ちそうだ、家賃はそろそろピークアウトしそうだ、ライバル物件が増えて価値が下がりそうだ、と判断して、その心配が現実化する前に売り抜けることができる。

ところが相続対策が厄介なのは親が亡くなってくれないと、ミッションがコンプリートされないところにある。これでは売り時を失ってしまうのだ。

■一見損に見えて現金を持っていることが有効

たとえば1億円で買ったタワマン。相続評価では6000万円で評価され、その差額分4000万円の相続税率分だけ儲かったとしても、その後そのマンションが相場を2割下げてしまえば得した税金なんて吹っ飛んでしまうのだ。

2割下がったとしても売却して借入金を返済できれば良いが、ローン返済ができなくなるケースも考えられる。いったい何のための相続対策だったのか、子供たちに暗く厳しい未来を残すことになるのである。

子供たちが楽できるように考えて決断した対策が彼らの未来を苦しめる。何とも皮肉な結果であるが、これからの未来は、この失敗してしまった相続対策の犠牲となる「相続難民」が続出しそうである。

こうしたピンチに陥った場合、最も有効なのはやはり現金を持っていることなのである。現金は相続時に額面通りの評価となってしまい、なんだか損をしたような気分になるが、実はそこが間違いなのだ。

1万円札
写真=iStock.com/key05
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/key05

いくら相続税の税率が高くとも、額面以上に税金をとられることはない。不動産は、一見すると低い評価額になることから、不動産にしておいた方が得のように思える。

だが、そのように考える人は、なぜ不動産だと現金よりも低く評価してくれるのかに、考えが及んでいないのである。

■大きなテコは自分の身を滅ぼす刃に変わる

不動産は市況商品なのである。この先地価が上がるかもしれないが下がるかもしれない。だから下がった場合に備えて低く評価しているのである。

牧野知弘『不動産の未来 マイホーム大転換時代に備えよ』(朝日新聞出版)
牧野知弘『不動産の未来 マイホーム大転換時代に備えよ』(朝日新聞出版)

土地とはいえ、天変地異が起こるかもしれない。現金は手にもって逃げることができるが不動産は動かすことができないのだ。

建物にいたっては経年劣化する。劣化してしまう資産に現状での高い評価をつける訳にはまいらない、だから圧縮率も高いのだ。

特に、策を弄しすぎて身の丈に余る借入金を背負う。これが一番危険だ。借入金は事業をさらに推進、拡大するエンジンとしては極めて有効に機能するが、ただ節税するためだけに使うテコであるならば、大きなテコは、自分の身を滅ぼす刃に変わることを肝に銘じるべきであろう。

無理したツケは必ず戻ってくる。節税不動産の未来は相続難民の時代の到来を意味しているのかもしれない。

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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
不動産プロデューサー
1959年生まれ。東京大学卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストン コンサルティング グループ、三井不動産などを経て、2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。15年オラガ総研株式会社を設立し、代表取締役を務める。全国渡り鳥生活倶楽部代表取締役。主な著書に『空き家問題』『ここまで変わる!家の買い方 街の選び方』(いずれも祥伝社新書)、『不動産の未来』(朝日新書)など。

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(不動産プロデューサー 牧野 知弘)

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