韓国企業優勢の「人材のグローバル化」競争

プレジデントオンライン / 2012年4月23日 8時30分

李尚燮 リー・サムスム●6年以上にわたりLGエレクトロニクスのグローバル人事でシニアマネジャーとしてグローバル人事の戦略立案、採用、育成を担当。2009年以降は、大学で教鞭を執る傍ら、LG、ヒュンダイ、POSCOなどでコンサルタント業務を行う。(American Managemet Association=写真提供)

「LGエレクトロニクスのCEOやCFOなどのCレベルの役員は8人中6人が外国人です。私の直属の上司はイギリス人。人事担当役員もアメリカ人でした」

こう語るのは韓国の同徳女子大学の李尚燮(リー・サムスム)教授だ。李教授は2009年までの6年間、LGEの人事シニアマネジャーとしてグローバル人事戦略や人材育成の中核を担い、現在もLG、現代自動車、ポスコグループなど大手企業のアドバイザーを務める。

国内市場の収縮を背景に新興国をはじめグローバル市場に成長の活路を求める日本企業。だが、そこに強力に立ちはだかるのがライバルの韓国企業だ。すでに電子・電機分野では、価格・技術面の優位性を誇る韓国陣営の前に日本企業は厳しい戦いを強いられている。

そして水面下ではもう一つの“戦い”が始まっている。世界中から優秀な人材を獲得・育成し、戦力化する「人材のグローバル化」という競争である。

海外市場の人材マネジメントの歴史は、まず特定の地域・国の市場をターゲットに自国の社員を派遣。現地スタッフをマネジメントする仕組みに始まり、市場の拡大とともに現地のスタッフに経営を委ねる経営の現地化にシフトしていくという流れを辿ってきた。

しかし今や世界を一つの市場と捉え、国・地域を越えた開発・生産・流通を含む事業戦略を展開する時代に入っている。そうなると人材面ではもはや自国の社員だけでは限界があり、国籍に関係なく世界中から優秀な人材をいかに獲得できるかという人材競争力が重要になる。

また、獲得するだけでは競争力を持続できない。採用した人材を計画的に育成し、グローバル規模の配置を可能にする人材マネジメントの仕組みを構築することが必要だ。そして最終的に地域・本社の経営を担う人材を多く輩出していくことが世界市場で躍進する大きな鍵を握っている。

欧米の先進企業は1990年代後半にこの仕組みをすでに確立している。それに対して韓国、日本の企業は互いに周回遅れでの構築を目指しつつある“踊り場”の状況にあるといえるだろう。

だが、韓国企業は一歩も二歩も先んじている。たとえば冒頭のLGEの外国人役員の数だ。日本企業ではせいぜい1~2人の外国人役員を抱えるか、あるいは「うちの日本人役員の半分は海外経験者だ」と大手企業の社長が自慢する程度のレベルでしかない。前出の李教授は「外国人役員を増やすことには賛否両論あったが、内部にそれだけの能力がある人がいないので外から雇うことになった」とその理由を説明する。

じつは韓国企業ももともとは終身雇用や年功序列に基づく内部昇進制の文化であり、日本的経営をお手本にしていた時期もあった。それを大きく変え、現在のグローバル化の素地を形づくる契機となったのが97年のアジアの通貨危機だ。デフォルト寸前まで追い込まれた韓国経済にIMFが介入し、財閥解体や雇用規制の緩和をはじめ韓国企業の経営構造を大きく変貌させた。

それは人事制度にも及び、李教授は「日本の制度からアメリカの制度に移行し、韓国企業の人事制度は日本の制度と欧米の制度を組み合わせたハイブリッド型のシステムになっている」と指摘する。具体的には従来の年功的な賃金体系を解体した職務ベースの徹底した成果主義賃金への移行と終身雇用の崩壊である。

「通貨危機をきっかけにアメリカ寄りの成果主義賃金の導入が進み、企業だけではなく大学の教授にも成果評価の仕組みが導入されました。また、柔軟なレイオフ制度ができたことで、企業も終身雇用を保証しなくなり、30代ぐらいの人たちは3年ぐらい一社で働いたら別の会社に移っていくようになってきています。韓国人の中では終身雇用という考え方は終焉を迎えています」(李教授)

そしてもう一つの変化がグローバルな人材採用である。LGEの世界の従業員数は8万2000人。うち韓国人以外は5万2000人で65%を占める。通貨危機以降に韓国外の拠点に限らず、韓国内でも新卒・中途採用だけではなく、トップのエグゼクティブクラスでも外国人を採用するようになっている。もちろん日本企業のように韓国語が話せる外国人に限定して雇うことはない。当然、韓国内でも英語が必須となる。

李教授は日本と韓国企業に共通するグローバルマネジメントの障害は言語と集団主義の2つであると指摘する。

「企業文化が似ている日本と韓国企業に共通するグローバル化のバリアは言語的な制約ともう一つは、日本人は日本人で固まり、韓国人も韓国人同士で固まるという組織的なヒエラルキーを大事にするというような集団主義です」

だが、今は言語の制約は取り払われつつある。その一つは英語重視の採用だ。LGEの新卒の選考ではTOEI Cのスピーキングスコアが900点以上、GPA(グレード・ポイント・アベレージ)と呼ばれる大学の成績評価指標のスコアが一定以上あることが重視される。LGEだけではなくサムスン、現代自動車など大手も同様の要件を課し「要件に加えて、インターンシップを通じていくつかの課題について競争させ、1位か2位になった人を採用している」(李教授)という。

学生にとっては極めて狭き門であり、英語力がなければ「就職も望めないし、大手に入れなければ中小企業に行くしかない」(李教授)のが現実だ。ちなみにLGEの新卒採用者は経済状況にもよるが毎年1000~2000人。日本企業に比べて採用数は多いが、韓国はサムスンなど大手10大企業グループで韓国取引所上場企業の営業利益の6割を占める大企業偏重の社会だ。大企業への入社を目指した国民の教育熱も日本以上に狭き門であることが関係している。

※すべて雑誌掲載当時

(ジャーナリスト 溝上 憲文 宇佐見利明=撮影 AP/AFLO=写真 American Managemet Association=写真提供)

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