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「このままでは中国政府に殺される」自宅に軟禁された上海市民2600万人のSNSには書けない叫び

プレジデントオンライン / 2022年4月5日 10時15分

2022年3月28日、上海で、都市封鎖に備えスーパーに殺到する市民 - 写真=時事通信フォト

■「裏切られた気分。ひどすぎます」

「何が不満かって、東部の住民は買い出しに行く時間がまったく与えられていなかったことですよ! 西部の人は4日間も余裕があったのに、なぜ私たちだけ? っていう悔しい気持ちです。それに上海市政府は3月26日の時点でも『ロックダウンはしない』と明言していたんですよ。それが翌日になって突然変更するなんて裏切られた気分。ひどすぎます」

怒りながら一気にこうまくし立てたのは東部に住む知人の中国人女性だ。3月下旬、新型コロナウイルス(オミクロン株)の感染者が3000人近くにまで急増した上海だが、「経済的影響があまりにも大きすぎる」という理由で、ロックダウンはしない(できない)と言われていた。ところが、27日になり翌28日からロックダウンすると発表。人口2600万人の上海市民の間に衝撃が走ったのだ。

市政府は上海市に流れる黄浦江という川を境目にして市を2分割し、まず28日から4月1日まで東部をロックダウン、4月1日から5日まで西部をロックダウンすると発表。市民は外出禁止、公共交通機関やタクシーも運行禁止、店舗も閉鎖となった。

ロックダウンから2日後の3月30日、私は冒頭の東部に住む女性に電話で話を聞いたのだが、怒っているのは西部に住む人も同様だった。

■早朝6時からスーパーに行かないと食品を買えない

西部に住む独身の男性は「ロックダウンの発表後、急いでスーパーに行ったのですが、商品があまりにも少なくて茫然と立ち尽くしてしまいました……。とにかく買えるものを買って帰り、また翌日も早朝6時から買い出しに行くという感じでした。皆そうです。ネットスーパーは売り切れ続出で全然買えない状況なので。

2~3軒のスーパーをはしごしたのですが、そのたびに1時間以上も行列に並び、店内に入ったらすでに品薄状態。しかも値段が2倍以上になっているものもあって怒り心頭でした。それでも、お店の人が目の前で品出しすると、そこにわーっと人が殺到するので、奪い合いの修羅場になったところもありました。

私は独り者なので何とか食料は足りていますし、パソコンさえあれば在宅ワークできる仕事なので給料に響くこともないですが、労働者などは死活問題。それに、頼りになる身内がいなかったり、またはネットが使えなかったりする高齢者の世帯は本当にかわいそうだと思いますよ」と話す。

■市政府が配給する食糧セットはバラバラ

日本でも動画が報道されて話題になったが、上海と同じくロックダウンがあった吉林省長春市では高齢の男性がスーパーの入り口の前で「野菜を売ってくれないか」と哀願しているのに、店内からは「売れないよ!」という非情な返事が返ってきたということがあった。ネットでしか購入できないスーパーで、その高齢者はネットでの注文の仕方が分からなかったからだ。

中国のSNS上でその動画が拡散されると、「かわいそうすぎて見ていられない!」「ネット弱者は飢え死にしろということか!」「市政府が何とかしろ!」という罵声が飛んだ。

このような問題も起きているため、上海市政府は3月31日以降、全市民に順次食料配給を行ったのだが、この中身についても不満が続出した。地域やマンション群によって配給される食料セットの内容に大きな差があったからだ。前述の男性が住むマンションでは牛乳と野菜、果物、鶏肉などが配布されたが、野菜と果物だけのマンションもあった。それでも「配布されないよりはましだ。深夜まで1軒1軒食料を配る係員に罪はない。感謝している」という人もいる。

■いつどのタイミングで自宅が封鎖されるか分からない

だが、問題は、この先もロックダウンや、封鎖と解除が繰り返されるという問題がダラダラとしばらく続くのではないか、という不安があることだ。現に4月3日、上海市の感染者は約9000人に上り、封鎖が解除される見通しは立っていない。多くの上海市民はそのことを予測したり、覚悟したりしていたものの、いざ封鎖が延長されるとなると、やはり落胆の色は隠せない。

実は、今回のロックダウンより3週間ほど前の3月11日から、マンション群ごとのプチ・ロックダウンはすでに開始されていた。

中国では地方政府の末端組織である居民委員会というところがマンション群(社区と呼ばれる)を管理する仕組みになっている。1つのマンション群は数棟から数十棟まであり、ゲートで囲われている。3月11日以降、そのマンション群ごとに48時間、この居民委員会による封鎖が行われ、その間に2回のPCR検査を実施。陽性者が出なければそのマンションの封鎖は解除、という流れとなっていた。

私の中国人や日本人の知人たちも3月以降、全員がプチ・ロックダウンをすでに経験しており、そのたびに「やった! うちのマンションは今日解除されたよ」とか「うちはいったん解除され、喜び勇んで買い物に行って帰ってきたら、翌朝からまた封鎖になった。がっかりだ」という話をしていた。

解除されたときにすぐ買い出しにいかなければ、途端に食料不足に陥ることもあり、「まったく気が休まるときがない」「仕事のアポが全部キャンセルだ」という声が多数聞かれた。3月11日以降、ずっと封鎖されたままのマンション群もあるといい、社会生活に大きな支障をきたしている。

■病院も閉鎖し診察できず、薬ももらえない

4月1日に上海の別の友人から聞いた情報では「現在住んでいる棟に陽性者が1人でも出た場合は14日間、自宅ドアから外に一歩も出られない。同じマンション群(ゲート内)に陽性者が出た場合は7日間、自宅ドアから出られず、8日目から14日目までゲート内から出られない。同じ区域内(東京でいえば1丁目から4丁目までなどのやや広範囲なエリアのこと)に出た場合は7日間ゲートから出られない」ことになった。

むろん、食料不足という問題だけでなく、補償がないため労働者は仕事を失ったり、賃金がもらえなくなったりするし、小売店や飲食店は売り上げが大幅に減り、生活が打撃を受ける。病院も閉鎖となるため、持病の薬がなくなり、生命の危機に陥る人もいるし、1月の西安のロックダウンのときのように、陰性証明が切れた妊婦が病院で診療してもらえずに死産した、というような問題も十分に起こり得る。

ケースから持病の薬を取り出すシニア女性の手元
写真=iStock.com/FilippoBacci
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FilippoBacci

■「コロナで亡くなる前に政府に殺されてしまう」

「もし今、自分や家族が急病になったらもうアウトかもしれない」と嘆く人もいる。実際、3月下旬には上海の看護師が喘息の症状を訴え、自身が勤務する病院の救急外来に駆け込んだが、感染対策のためだといわれて拒まれ死亡するという悲しい出来事があった。

同じく3月末、上海市内で喘息の男性の家族が救急車を呼んだが来ず、たまたま通りかかった救急車に家族が「AEDを貸してください! お願いします!」と何度も懇願したが、別の患者のための救急車だといって救急隊から断られ、結局、死亡したということがあった。

これらの件は中国メディアでも報じられているほか、動画やSNSでも多数出回っている。SNSでは「なんて非情でお役所仕事なんだ。これでは、コロナにかかって亡くなるよりも先に、政府に殺されてしまうよ」「あとで謝罪したって、命はもう戻ってこない」といった批判の声が相次いだ。こうした問題が身近に起こっており、もろもろの不安から、市民の間に強いストレスがたまっていることは確かだ。

■3万人超の人間を夜通しで検査する徹底ぶり

それにしても、当初、巨大な上海市では市全域でのロックダウンは行わないといわれていたのに、結局ロックダウンに踏み切ったのはなぜか。もちろん感染者数が増えているからということが直接の原因だが、これは中国政府が昨年から強力に打ち出したゼロコロナ政策という方針を掲げ続けているからに他ならない。

中島恵『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)
中島恵『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)

私は『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)の取材のため、2021年夏から冬にかけて、中国国内に住む人々に、厳しすぎる政府のゼロコロナ政策についてどう思っているのかについて、話を聞いた。その際、それまでロックダウンの経験がなかった上海の人々は、ロックダウンに対して比較的肯定的な声が多かったのだが、それがわが身に起きた人の場合は反応が違っていた。

2021年10月末、上海ディズニーランドの入園者から1人の感染者が確認されたことが大きなニュースになったときだ。即座に2日間の休園が決定され、3万人以上の来園者とスタッフ全員がPCR検査を実施。全員の検査が終わって最後の人が敷地の外に出られたのは日付が変わった翌朝8時だった。

■やむを得ないと思っていたが、わが身に降りかかると…

私の知人が住むマンションにも当日ディズニーランドに出かけた人が住んでいたため、居民委員会から居住者のSNSグループに連絡が入り、もしその人が感染していたらマンション全体が封鎖になるといわれたという。知人は「私はディズニーには行っていないし、その人は同じゲート内のマンションとはいえ、かなり距離が離れた棟なのに、なぜ私たちまで外出禁止になってしまうのか」と強く憤っていた。

その知人もそうだが、同じ中国でも、遠いところで起きているロックダウンならば「政府の厳しいゼロコロナ政策も感染者数を減らすため、やむを得ない」と思うようだが、いざわが身に降りかかると「厳しすぎる」と否定的になる人が多い。

「たとえ感染者数が落ち着いていても、いつ、どこで感染者が出るか分からない。その場合は同じ時間、同じ場所にいた人は全員隔離の対象にされてしまう。それがいちばん怖いのです」と話していた人もいた。

■旅行しに来たはずが隔離施設に収容された

2021年10月、国慶節(中国の建国記念日)の7日間の大型連休の前、ある女性がSNSにスーツケースの写真とともに、次のようなコメントを書き込んでいた。

「もし今、5日間の帰省や旅行に出かけるならば、2週間分の衣服も持っていかないといけないですね。あなたにはその覚悟がありますか?」

実際、同年10月末、国慶節の期間中に内モンゴル自治区を旅行した団体観光客から感染が拡大して街は封鎖。約1万人もの観光客が隔離施設に収容されるという事態になった。しかも、10日間の隔離だけで終わらず、専用バスや列車に乗せられて別の街に移動し、さらに2週間も隔離された。

楽しい5日間の旅になるはずが、1カ月もの苦痛に満ちた隔離生活になってしまったのだ。このようなことが起こるため、「おちおち国内旅行にも行けない」と嘆く人もおり、厳しすぎるやり方に対する不満や疑問の声は高まっている。

■規制をめぐるトラブル動画は「氷山の一角」

2021年11月、広州市のショッピングセンターで、駐車場に入る際の体温検査でトラブルが起き、警備員の男性が客の男性を刃物で刺す事件があった。同年12月にも西安市のマンションのゲートで、警備員と住民女性がPCR検査をめぐって激しい口論になった。女性が「私は一般人じゃない。アメリカに7年住んでいた上級国民だ」というと、警備員が「それなら今すぐアメリカに帰れ」と言い返し、この女性は公共の秩序を乱したとして10日間の拘留処分となった。

厳しい規制が背景にある事件を取り上げる、このような報道は比較的少ない。日本でも時折、PCR検査をする医療従事者と住民の間で殴る蹴るのトラブルが起きているという中国の動画がニュース番組で報道されることがあるが、中国の知人によると「氷山の一角だ。実際には、小競り合いはあちこちで起きている」と話す。だが、中国メディアでもゼロコロナを否定する人の不満の声はあまり表面には出てこない。むろん、政府がメディアをコントロールしていることも関係しているが、それだけではない。

スマートフォンに表示された中国のWeChat含む各SNSのアイコン
写真=iStock.com/alexsl
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/alexsl

■「どんな制裁が降りかかるのか…」言えない本音

ある中国人は次のような「本音」とも思える話をしてくれた。

「自分たちもSNSなど目立つところに、いちいち不満を書かないからです。私の友人の間では、以前は中国政府のおかげで中国は世界で突出して感染者数が少ないと喜んでいた人もいたけれど、武漢、西安、上海と、巨大都市でのロックダウンがどれだけ人々に強いストレスを与えているか、身をもって分かってからは、ゼロコロナを否定する声も相当高まっています。

でも、それをSNSなど多くの人が目にするところに書けば、どんな影響があるか分からないし、自分自身に制裁が降りかかってくるかもしれない。だから、ゼロコロナに反対とは口が裂けてもいえないのです。今はただじっと耐えるしかない。そう思っているのです」

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)などがある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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