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「世界一の金持ちになっても10円玉を拾う」バフェットが投資家として尊敬を集める本当の理由

プレジデントオンライン / 2022年4月9日 10時15分

2005年7月、大物投資家や経営者が集まる投資会社主催の会議に姿を現したバフェット(米アイダホ州サンバレー) - 写真=EPA/時事通信フォト

あなたは道端に10円玉が落ちていたら拾うだろうか。10兆円の資産を築いた投資家ウォーレン・バフェット氏は「私は10セントが落ちていても拾う」と述べている。そんなバフェット氏の卓越した投資哲学とは――。

※本稿は、桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■豪華なオフィスなど必要ない

バフェットは、車のナンバープレートに「倹約(Thrifty)」と書いていたことがあるほど、「倹約」という言葉が大好きです。もちろん自分の私生活においても「複利式の考え方」を適用することで消費をできるだけ先延ばししようとしていますし、その他の面でもぜいたくをひどく嫌っています。

そしてそれは、投資についても同様です。

バークシャー・ハザウェイがサンフランシスコの銀行ウェルズ・ファーゴの株式を7%保有していた当時、幹部の1人がオフィスにクリスマス・ツリーを飾りたいと言い出しました。その話を聞いたCEOのカール・ライカートは飾ることは拒否しなかったものの、「それほど欲しいのならポケットマネーで買うように」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)と命じたといいます。
この話を聞いたバフェットと、バークシャー・ハザウェイの副会長を務めるチャーリー・マンガーは即座に同行の株を買い増しするという決断をしたといいますから、いかにバフェットが倹約の精神を重んじているかがよくわかります。

バッファロー・イブニング・ニュースを買収した際、同社のこぎれいなオフィスや印刷工場を目にしたチャーリー・マンガーはこんな感想を口にしました。「新聞社が新聞を発行するために、なんで宮殿が必要なんだい」

バフェットも同様の感想を持ったらしく、その建物を「タージマハル」(『投資参謀マンガー 世界一の投資家バフェットを陰で支えた男』)と呼んでいます。それは著名な建築家の手によるものでしたが、風の強いバッファローの街の建物としては相応しいものではありませんでした。

■コスト削減は日々意識して当たり前

決して実用的とはいえない建物を莫大(ばくだい)な費用をかけて建てることほど、この2人が忌み嫌うことはありませんでした。バフェットにとって質素倹約を重んじること、日々コスト意識を持つことは当然のことでした。

「私は、どこかの会社が経費削減に乗り出したというニュースを耳にするたびに、この会社はコストというものをちゃんと理解していないと思ってしまいます。経費の削減は、一気にやるものではないからです」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)

バフェットにとってコストの削減は、人が朝起きて顔を洗うことと同じようなものです。優れた経営者なら、朝起きて「さて、息でもするか」と考えないように、コスト削減も当たり前のようにできて当然のことだというわけです。

■自社の経費は同業他社平均の250分の1

その言葉通り、バークシャー・ハザウェイの経費はとても低く抑えられています。マンガーによると、それは同業他社の平均の250分の1程度であり、同社より低いところは他にないといいます。そのため、破格の値で売り出されていたビルを買って本社を移転するという計画が持ち上がった時も、豪華な事務所に移るのは社員や傘下の企業に良い影響を与えないという理由で中止をしています。

桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)
桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)

バフェットにいわせれば、倹約の精神は私生活から始まります。1996年の株主総会でこんなことをいっています。「バークシャーの取締役は昨年、合計で100ポンドの減量に成功しました。少ない役員報酬で生活していこうと努力した結果にちがいありません」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)

1993年、ABCの会長トーマス・マーフィーと一緒にドラマ『オール・マイ・チルドレン』に通行人役としてバフェットが出演した時のことです。出演料として一人300ドルの小切手を受け取ったところ、マーフィーは「この小切手は額に入れて飾っておこう」と喜んだのに対し、バフェットはこういいました。「私は小切手の写しを飾ることにしよう」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)

■巨額の資産を持っていても質素倹約

こんなエピソードもあります。2005年、バフェットとビル・ゲイツがネブラスカ大学リンカーン校で学生を前に公開対話を行った時、学生が「100ドル札を落としたら拾いに戻りますか。それとも貧しい学生に拾わせてあげますか」と質問したところ、バフェットはこう答えました。「もしビルが10セント落として出て行ったら、私が拾う」(『バフェット&ゲイツ後輩と語る 学生からの21の質問』)

アメリカドルを持っている人
写真=iStock.com/Rmcarvalho
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rmcarvalho

バフェットにかかれば300ドルはもちろん、10セントであっても10年、20年後にはそれなりの金額になります。バフェットの「倹約」はお金持ちかどうかに関係なく、習慣として体の一部になっています。ぜいたくをしだせばきりがなくなります。バフェットは公私ともに質素倹約を守り続けることで、グループ各社に良き手本を示そうとしているのです。

■お金を稼ぐのは「好きなことをやるため」

バフェットもチャーリー・マンガーも若い頃から「お金を稼ぐ」ことに関してはとても貪欲でした。2人とも若い頃から「お金持ちになりたい」と明言していましたし、それを隠すことはありませんでした。「自分はいずれ金持ちになると信じていました。それについては、一瞬たりとも疑ったことはありません」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)と言い切っていたほどです。

そして金持ちになるために早くから学び、実践した結果、2人とも巨大な資産を手にするようになったわけですが、だからといって2人はそのお金を使ってぜいたくをするわけでもなければ、自分が大金を持っていることを誇るわけでもありませんでした。

それどころか私生活は質素で、バークシャー・ハザウェイがどれほど巨大になろうとも、アメリカの企業の経営者がよくやるように多額の報酬を得ることはありませんでした。

2人にとってお金を稼ぐことは「自立」への道であり、自分が大好きなことをやるためにお金を稼ぐことが必要だったのです。

■「才能があるものに支払うのは当然」だが……

お金を稼ぐこと自体はもちろん悪いことではありません。だからといって、お金を稼ぐことを唯一の目的としてしまうと、人生で大きな間違いを犯すことになりがちです。

バフェットはソロモン・ブラザーズの株主として取締役会に名前を連ねていましたが、1991年まで同社が期待通りの利益をもたらすことはなく、失望と挫折を味わっていました。手元に届く財務報告書は、最新のものではないことが多いうえ、収益も落ち込む一方でした。理由は過大な社員報酬のためでした。なかでもジョン・メリウェザー率いるアーブ・ボーイズ(裁定取引組)の報酬は過大で、ある年にはそれまで300万ドルのボーナスを得ていた1人が2300万ドルに増額されることさえあったほどです。

バフェットは高額のボーナス自体に反対していたわけではありません。「才能があるものに支払うのは当然のことだ」(『スノーボール(改訂新版) ウォーレン・バフェット伝』)と理解を示してはいたものの、毎度毎度巨額なボーナスを要求する同社の社員たちの強欲さには辟易していました。

■強欲さが招いた嫉妬と不正

そして、こうした強欲さがやがて同社に大きな危機を招きました。

ソロモン・ブラザーズで国債の不正入札を行ったポール・モウザーは国債部門の責任者であり、相手を見下すような態度を取ることもありましたが、ともに仕事をする仲間からは好かれていたといいます。彼の当時の報酬は475万ドルでした。かなりの額です。

しかし、為替部門を数カ月で黒字化したモウザーにとってその報酬はあまりにも少なすぎました。元の同僚だったラリー・ヒリブランドが秘密のボーナスによって2300万ドルもの報酬を得ていると知って以来、不正に手を染めるようになっていったのです。

それ以前、アーブ・ボーイズの誰よりも高い報酬を得ていたモウザーにはこの大きな差は許しがたいものであり、屈辱でもあったのです。

もちろんそれだけが不正の理由とは限りませんが、こうした逆上の背景には嫉妬があるというのがバフェットの見方です。「真の原因は欲望ではなく、嫉妬です。(中略)200万ドルをもらえたら、みんな満足します。しかしそれは、210万ドルをもらっている者がいることを知るまでの話です」(『バフェットの株主総会』)。嫉妬は人間を惨めな気持ちにさせ、時に判断を狂わせます。特にお金の場合は嫉妬だけでなく、「お金を手にするために何でもしよう」という不正につながりやすいという問題があります。

■「お金がすべて」という価値観を忌み嫌う

バフェットはまた、ウォール街が抱える問題をこう指摘しています。

「巨大な市場が、金で人の価値を判断するような人々を惹きつけています。どれほど金を持っているか、去年どれほど稼いだかということを尺度にして人生を歩んでいくなら、遅かれ早かれ厄介な問題に巻き込まれるでしょう」(『スノーボール』)

バフェットは会社のために働いて損害を出すのは理解できると話しています。しかし、私利私欲のために不正を働き、会社の評判を傷つけるような行為は絶対に容赦しないと明言しています。

日本でもそうですが、自分を批判する人たちに対して、「私はあなたたちよりもはるかに稼いでいます」「あなたたちの何十倍の税金を払っています」などとさも特権階級であるかのようなことを平気で口にする人たちがいますが、その先にあるのはバフェットのいう「厄介な問題」だけ──。バフェットにとって、ウォール街的な「お金がすべて」という尺度は、最も忌み嫌うものの一つなのです。

■バフェットとビル・ゲイツの共通点

ビル・ゲイツもウォーレン・バフェットも、非常に早い時期からビジネスの才能を開花させ、多くのお金を稼ぐことに成功しました。しかし、2人とも私生活という点に関しては、その稼ぎから比してかなり質素な部類に入るのではないでしょうか。

マイクロソフトの若き経営者として成功したビル・ゲイツの秘書はゲイツお気に入りの食事をいつでも注文できるように電話に短縮番号を入れていましたが、相手は「バーガーマスター」というファーストフード店であり、頼むのは決まってハンバーガー、フライドポテト、そしてチョコレートシェイクでした。社員たちと洒落たレストランに行き、社員のためには高級ワインを頼みますが、ゲイツが頼むのはやはりハンバーガーでした。

若き成功者の姿をカメラに収めようとした時も、ゲイツお気に入りのセーターにはいくつも穴があいていて、どの角度からも撮ることができず、仕方なしにセーターを脱いだらシャツもしみだらけだったというのもよく知られた話です。

仕事には厳しく、お金にもうるさかったゲイツですが、自分が裕福な生活をすることにはさしたる関心はありませんでした。稼いだお金について次のようにいっています。「5000万ドル稼いだ人がいたとして、それをただ家を建てたり、自分たちのために使ったとしたら、それはただの消費です。富を貧しい人に分配せず、自分たちの目的のためだけに使っているからです」(『バフェット&ゲイツ 後輩と語る』)

■お金を正しく使うことのほうが難しい

こうした考え方はゲイツとバフェットに共通するものです。バフェットもこんなことを話しています。「その気になれば、1万人の人を雇って私の自画像を毎日描かせることもできるでしょう。それでもGNP(国民総生産)は成長します。しかし、それによって得られる生産物の価値はゼロです」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)

さらに、「お金を稼ぐのは簡単です。むしろ、使うほうが難しいと思います」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)とも語っています。

お金を使うことの難しさを知るバフェットが選んだのが、慈善事業のためにお金を使うことであり、ゲイツと手を組むことでした。

2011年、アメリカのウォール街を中心に行われたデモでキーワードの一つとなったのが、「1%対99%」です。現在では「1%」どころか、「0.5%」ともいわれていますが、この世の中にはほんの少数の圧倒的に裕福で恵まれた人たちと、それ以外の99%の人がいるという閉塞感や怒りからの抗議の言葉といえます。

■「残りの99パーセントの人間のことを考える義務がある」

バフェットは両親から莫大な遺産を受け継いだわけではありませんが、それでも「生まれた場所と時期がすばらしかった」(『スノーボール』)と、自らの幸運に早くから感謝しています。

たしかにバフェットは投資の才能に溢れていますが、もしアメリカ以外の国、たとえば発展途上国の小さな村などに生まれたとしたら、そうした才能が見出されることも花開くことも、その可能性は大きく下がったでしょう。

バフェットは自分の成功はこうした運によるものだと話しています。教育熱心な両親に恵まれ、尊敬すべき人たちと出会い、自分が大好きな仕事をすることができた結果が世界有数の資産を築かせることになった――それを自覚しているからこそ、自分たちのような人間は、そうではない人たちのことを考え、その人たちのために何かをすることが必要だと考えています。

「幸運な1パーセントとして生まれた人間には、残りの99パーセントの人間のことを考える義務があります」(『バフェットの株主総会』)といって、たとえばアメリカにおける税制の不公正を正すべきだと新聞に自らの考えを発表していますし、「私に言わせれば、この国の税制はあまりにもフラットです。率直に言って、ビルや私は、もっと高い税率を課せられるべきなんです」(『バフェット&ゲイツ 後輩と語る』)とも話しています。

■「お金は社会に返さなければならない預り証」

慈善事業への巨額の寄付も「私はずっと、お金は社会に返さなければならない預り証だと思っていました」(『スノーボール』)という思いからです。築き上げた富を自分たち幸運な1%のためではなく、世界中の貧しい人々のために使うことで、バフェットは幸運な1%としての自らの責務を果たそうとしているのです。

余計なことを考えなければ、お金を使うことはとても簡単なことです。しかし、バフェットやゲイツは単なる「消費」のためだけにたくさんのお金を使うことの愚かさをよく知っていました。

バフェットもゲイツもお金を稼ぐ天才ですが、一方で「お金の正しい使い方」を常に考えています。お金の使い方は、稼ぐこと以上に真剣に考えるべきテーマなのです。

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桑原 晃弥(くわばら・てるや)
経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開する。主な著書に『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)、『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)などがある。

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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)

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