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「栃木県・香川県の親が一番ツラい」子供の学費&仕送り地獄でヘトヘトになっているワケ

プレジデントオンライン / 2022年4月11日 11時15分

内閣府の調査によれば、国民の教育費負担感は年々上昇している。授業料・学費・塾代、習い事費、制服代、仕送り代といった教育費が家計をどれほど占めるかチェックした統計データ分析家の本川裕さんは「有名大学のある大都市圏とその通学圏では学費の負担が大きい。また、都市圏からあまり遠くないもののギリギリ自宅通学しづらい北関東(栃木、茨城)、東四国(香川・徳島)などは仕送り代などの負担が極めて大きい」という――。

■家計にとってますます重く感じられる教育費

2022年の新学期が始まった。大学の新入生が期待に胸をはずませて、勉学にいそしもうとしているが、親にとって頭が痛いのは、それにともなう教育費負担の重さである。

実際の教育費の額についてふれるまえに、まず、教育費の負担感が近年ますます重く感じられるようになっている実態を、意識調査の結果から見ておこう。

内閣府では「少子化社会に関する国際意識調査」を5年毎に実施しており、その中で、「子育てに関して何が経済的負担として大きいか」をきく設問を設けている。図表1は、日本の結果を2010年から掲げている。

もっとも回答が多く集まっているのは「塾など学校以外の教育費」であり2020年には59%が大きな負担だと答えている。後述記事との関連では、自宅外で通学する子どもへの仕送り費用の負担感もこの「塾など学校以外の教育費」への回答に含まれていると考えられる。

次に回答が集まったのは「習い事費用」の43%である。教育関連では、さらに「学校教育費」が37%と多くなっている。

こうした教育関連の諸費用については、2010年から5年毎の調査で、いずれも毎回回答率が上昇しており、教育費の負担がどんどん重く家計にのしかかって来ている状況がうかがえる。

2010年から20年にかけて、回答割合が低下しているのは「医療費」ぐらいであり、ほとんどの項目で負担感が増している点に、教育費を筆頭に子育ての経済的負担が全体的にますます家計を苦しめている状況がうかがえる。収入が伸びない中では2人の子育ては無理で1人で我慢、あるいは子育て自体をあきらめざるを得ないという方向に向かってもおかしくはなく、少子化の要因としては、やはり、これが一番であろう。

■子育ての経済的負担大:日韓は教育費、欧米は衣服代

こうした教育費の大きな負担は、日本社会だけの特徴なのだろうか。内閣府のこの調査は国際意識調査なので海外諸国と比較することが可能だ(図表2)。

子育ての経済的負担:教育費が大きい日韓、衣服費が大きい欧米

教育費負担、その中でも学校以外の教育費の負担を特に大きいと感じているのは、日本や韓国といった東アジア社会の特徴である。やはり、教育熱心という儒教国としての伝統が影響していると考えざるを得ない。

欧米諸国では、最も大きな経済的負担は、教育費よりむしろ衣服費であると感じている人が多く、文化の差が認められる。衣服費への負担感の差が大きいという点については、制服の制度が普及しているかどうかの差もあろうが、欧米の親は、自分らが属する民族や階級にふさわしい装いを強く意識し、そうした意味で子どもがばかにされないような衣装をさせることをわれわれが考える以上に重要だと考えているからだと見なせよう。

欧米諸国の出生率が日韓ほど低くならない原因としては、保育や教育をめぐる制度的支援の濃淡も影響しているだろうが、やはり、教育関連費用を日韓ほど負担に感じていない点が大きく作用していると考えざるを得ない。

■今や40代ではなく50代の親の教育費負担が最も大きい

このように教育費の負担感は非常に重いと言えるが、次は、実際の教育費を家計調査によって調べてみよう。ここでは、

「教育費」=学校の授業料・塾代など
「教育関係費」=「教育費」+制服代・通学定期代・仕送り額など

ついて、家計の消費支出全体に占める割合で教育費比率を見ていくこととする。

教育費は子どもが小さい時と大学生になった時、そして子どもが卒業してしまった時とでは負担額が大きく異なる。そこで、まず、世帯主の年齢別に教育費比率がどう変化するかを確認しておこう(図表3参照)。

40~50代の親で最大となる教育費負担

34歳未満では2.6%とそれほどではなかった「教育関係費比率」は、子どもが大きくなるにつれて、30代後半には5.8%、40代前半には9.4%と大きくなる。そして、子どもが大学に通うような年齢の40代後半~50代前半の親の世帯では14.1%、16.3%とピークに達する。そして、子どもが独り立ちしていく60代前半には4.4%まで低くなり、65歳以上ではおおむね1%前後以内にまで落ちるのである。

図表3には、教育関係費比率の推移を示した。図には示していないが、実は、二人以上の世帯全体では徐々に減少の傾向をたどっている。しかし、これは二人以上の世帯のうちの教育費負担の小さな高齢世帯の割合がわが国では特にどんどん上昇しているためである。

そこで、図表4には世帯主年齢が65歳未満(青色の線)の推移を示した。2000年から2015年にかけてはほぼ9%前後で安定していたが、その後、上昇に転じ、2021年には10%を越えている。

40代に代わって50代で重くなる教育費負担

図表4では、さらに、世帯主の年齢の中から40代と50代を選び、教育関係費比率の推移を示した。40代~50代の教育費負担は65歳未満の中でも特に大きいが、興味深いことに、40代の負担比率は2000~2021年に14%前後から12%前後ヘと低下しているのに対して、50代の負担比率は同期間に10%程度から2021年には14.4%へと急増し、40代を上回るに至っている点が注目される。

こうした動きは、一番、お金のかかる大学生の教育費負担を主に担う親の年齢が、晩婚化と晩産化によって40代から50代へとシフトしているのが大きな要因だと考えられる。

上の図表1~2でふれた子育ての経済的負担に関する意識調査は40代までの男女を調査対象としており、近年、教育費負担が急増している50代は対象となっていない。50代まで含めて調査すれば、さらに教育費の負担感の割合は大きく出てきたはずだと考えられる。

■大都市は大学授業料や塾代、地方は仕送りの負担大

次に、図表5では、教育費の中でどんな項目が大きい負担となっているかを、大都市と地方に分けて示した。

大都市では大学授業料・塾、地方では仕送りが大きな負担

大都市では、「大学授業料等」、すなわち大学の学費が教育関係費の32.6%を占め、もっとも大きい。次に「小中高授業料等」が19.0%、「補習教育」、すなわち塾代、予備校代(英語や水泳、音楽などの習い事費用は含まない)が18.1%で続いている。

地方では、「国内遊学仕送り金」が29.8%と最大の割合を占め、次に「大学授業料等」の24.9%、「小中高授業料等」の16.8%が続いている。

このように、大都市と地方でどちらが多いかは異なるが、今や、大学の学費と大学生を都会で学ばせるための仕送り金が教育関係費の2大項目となっており、これらを何とかして抑えなければ、日本の少子化は止まらないことが明らかである。

中国では、親の競争心をあおって生徒を獲得し儲けていた営利目的の学習塾の禁止令が昨年7月に出され、実際、政策の発表から半年で学習塾の8割近くが閉鎖されたという(東京新聞「視点」2022年3月24日)。

中国では2016年に「一人っ子政策」を撤廃し、昨年から3人目の出産も認めたが、出生人口の減少が続いている。そこで、政府は学習塾負担を減らして、2人目以降の子どもを産んでもらおうとしてこの政策を実施に移したのである。

日本の場合は学習塾というよりは大学が元凶である。大学の数を制限したり、大学教員の給与をカットしたり、自宅外からの通学を制限するといった中国並みの強制政策を日本もとれば、少しは教育費負担を削減できるかもしれないが、言論界を大学の先生が支配していて、少子化をもたらす最大の要因は保育分野にあると国民に信じ込ませている現状では、まず無理だろう。そこで、少子化の傾向が反転する見込みは、まずないということになる。

■教育費の負担率トップは栃木、2位は奈良、3位は東京

最後に、教育費負担の軽重に関する地域分布について見ていこう。今回と同じく教育費負担をテーマにした昨年3月の記事では、教育費比率の地域分布については、「全国家計構造調査」を使用したが、今回は「家計調査」によった(筆者注)

(筆者注)前回は、5年に1回、家計調査の拡大版として同じ総務省統計局が実施している全国家計構造調査の2020年結果が公表されたばかりだったので、これを使用したが、サンプル数が多いとはいえ家計調査と異なり年間平均ではなく調査月である10~11月の月平均値しか得られていないので、やはり、結果にやや限界があった。そこで今回は、サンプル数の少なさを補う意味で、毎月の家計調査の年平均結果のさらに5カ年平均で教育費比率の地域分布を分析した。地域ごとの高齢化の違いによるバイアスについては補正したが、家計調査の地域分析は県庁所在都市の値である点には注意が必要である(もっとも都市化の違いによるバイアスはかえって小さいという比較分析上のメリットもあるのであるが)。

家計調査のデータから図表6には都道府県別の教育費と教育関係費の比率を示し、図表7には教育関係費比率の地域分布をマップで示した。

教育費の負担率トップは栃木、2位は奈良、3位は東京

東京、京都という日本の2大文教都市とその周辺、およびそこからやや離れた北関東や東四国などに教育費負担の大きい地域が分布している。具体的には負担率1位栃木、2位奈良、3位東京、4位香川、5位千葉、6位徳島……となっている。

大都市とその少し外側で重く、遠隔地で軽い教育費負担

教育関係費の中でも教育費比率そのもの(図表6のオレンジの部分)は南関東や京都・奈良といった我が国のトップ大学集積地とその周辺で高いが、その少し外側の北関東や東四国などでは、むしろ教育関係費の中でも教育費以外の比率(濃紺の部分)が大きくなっている。

オレンジ色部分の多くは大学の学費が占め、濃紺部分の多くは仕送り代で占められている。従って、教育関係費の高い地域は、「学費過重地域」と「仕送り過重地域」の2種類に分けられるといえよう。

「仕送り過重地域」の代表は、教育費の負担率1位の栃木や4位の香川である。一方、「学費過重地域」の代表は負担率2位の奈良や3位の東京。

反対に、教育費負担が軽い地域を調べてみると、こちらも2種類に分かれている。兵庫、大阪、愛知のように仕送り負担が小さく学費もそれほど高くない地域と、青森、鳥取、沖縄、長崎、北海道のように学費も仕送り負担も比較的軽い地域とである。後者は日本列島の中でも遠隔地に位置している点が特徴である。

教育費負担の大きい地域分布の特徴をまとめると、有名大学の多い東京、京都といった大都市とその通学圏、およびそこからさほど遠くなく、教育熱だけは大都市並みだが自宅通学はできない北関東(栃木、茨城)や東四国(香川、徳島)、あるいは静岡、岡山といった地域である。

逆に、有名大学のある大都市へはエアライン移動せざるを得ないような遠隔地域ではかえって自宅外通学に踏み切る世帯は減ってくるので仕送りも少なくなり、教育費負担も比較的軽く済んでいる。仕送り代がかなりかかって教育費負担が大きくなっている栃木や香川は、地理的にもう少し大学のある地域から離れていれば仕送り代の額は今ほど大きくなっていなかったかもしれない。

■恵まれた仕送り茨城の学生、質素な生活の和歌山の学生

図表6の紺色部分、すなわち仕送り負担の大きい地域は、自宅外の東京や京都、その周辺で大学生活を送る子どもを多く送り出している地域と重なると思われる。

1世帯当たりの自宅外の通学者の人数については、日本政策金融公庫の調査結果が毎年発表されている。そこで、この値と図表6の濃紺部分(教育関係費の中で固有の教育費を除いた部分)の値との相関図を図表8に掲げた。

自宅外で学校に通わせている子どもが多い地域ほど 仕送り額の負担も大きい

X軸とY軸との関係については、正の相関、すなわち、大学のある都市でひとり暮らしや寮生活をする自宅外通学者を多く送り出している地域ほど濃紺部分(仕送り額等)が大きくなっていることが一目瞭然である。

香川、島根、徳島、長野などは自宅外通学者が多いので仕送り額が多くなっているといえよう。逆に、大阪、神奈川、東京、兵庫などは自宅外通学者が少ないので仕送り額も小さい。

興味深いのは自宅外通学者の人数がそれほど多くないのに仕送り額が大きいと見られる地域があることである。茨城、栃木、富山などがこうした地域として目立っている。過保護と見られるほど多くの仕送りをこうした地域の子どもには送っていると考えられる。

逆に自宅外通学者の人数の割に仕送り額が小さい地域もある。和歌山、青森などが出身の大学生は、他地域と比較して親に負担をかけないように質素な生活を送っていると見られるのである。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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