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狭小ワンルームに高齢者が大量居住する時代に…これから急増する「相続難民」のさみしい老後

プレジデントオンライン / 2022年4月12日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yaraslau Saulevich

これから日本人の老後はどうなるのか。不動産プロデューサーの牧野知弘さんは「大量相続で家が余るようになれば、高齢者もワンルームマンションを借りられるようになる。相続税を払えず、自宅を追われた『相続難民』の住まいになるかもしれない」という。ジャーナリストの河合雅司さんとの対談をまとめた『2030年の東京』(祥伝社新書)より、一部を紹介する――。

■老後資金が足りない人がすぐにできる自衛手段

【河合】もし老後資金が足りなければ、自衛手段を講じなければなりません。それは主に三つあります。①働けるうちは働くこと、②可能な人は資産運用すること、③自分でできることを増やして家計支出を抑えること――です。このうち、誰もがすぐにできるのは③です。

どんなことでも業者や他人に依頼すれば、サービス料を取られます。収入が少なくなった高齢期にこうした手数料が積み重なると家計を圧迫します。しかしながら、若いうちからさまざまな経験を積んで自分でできることを増やしておけば、無駄な出費は減らせます。さらに私が勧めているのが、「スキルの交換」です。

たとえば、大工仕事が得意なおじいさんと裁縫(さいほう)が得意なおばあさんが近くに住んでいるとします。それぞれが得意とするスキルを交換する形で助け合えば、業者にお金を払わないですみます。こうしたスキルの交換の仕組みを地域全体に根づかせておくことです。大概のことは、お金をかけずにできるようになりますから。このような暮らしの知恵を組み込んでいくことが、これからはとても重要となります。

【牧野】今までは1軒1軒の世帯の所得のなかで経済が完結し、世帯間の有機的なつながりはありませんでした。これを若年層の単身世帯も、高齢者世帯も、ファミリー世帯もつながることで、スキルは豊富になります。

わかりやすく言えば、コミュニティ作りです。これはマンションでもできます。むしろ、これからの共同住宅は、みんながシェアする機能がどれほど含まれているかが「売り」になるかもしれません。高齢化が進むニュータウンでも、それができれば、出ていく人は少なくなるでしょう。魅力的なコミュニティ=魅力的な街づくりとなります。

【河合】それが理想というより、そうせざるを得ないのです。昭和30年代くらいまでは東京でも味噌や醤油を貸し借りしたり、自分の庭の雑草を取るついでに隣の雑草を毟(むし)ったりしていました。多くの人が貧しかったので、当たり前のことでした。こうした庶民同士のゆるやかな絆(きずな)を、ある程度取り戻していくしか残された手はないと思います。

■「一発逆転で資産を増やしてやろう」は要注意

【河合】幸運にも元手(もとで)のある人は、前述の自衛手段「②資産運用」も選択肢となります。わずかながらも運用益が定期的に入ってくるのは心強いものです。

注意すべきはハイリスク・ハイリターンの金融商品に、定年退職後に手を出すことです。万が一、運用損となった場合、若い頃であれば収入もそれなりにあるので当座の暮らしに困窮することもありませんし、損した分を取り戻す時間的な余裕もあります。しかし、収入が減ってしまった高齢期の運用では、それができません。

一攫千金を狙って退職金を原資に投資した結果、「株が暴落して大損をしてしまった」などという失敗談も聞きます。それこそ取り返しのつかないこととなりかねません。リスクを覚悟した資産運用は、現役時代にすませておくことです。高齢期にも続けるのであれば限度額を決めておくか、リスクの大きくない商品を選ぶのが無難です。

【牧野】あせって無理をする典型ですね。FX(外国為替証拠金取引)に成功した人が書いた本などを読み、「俺も一発逆転で資産を大いに増やしてやろう」などと実行に移してしまう例です。退職金を元手にワンルームマンションやアパートに投資する人もいます。いずれも昭和・平成の発想です。会社員は一度に多額のおカネを手にしたことがないせいか、気ばかりが大きくなって失敗するのです。

おっしゃる通り、この年代になるとリカバリーできる可能性はほぼゼロになります。自分の身の丈にあった老後設計が求められます。

将来のお金を考える男女
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■東京圏がこれから迎える大量相続時代

【牧野】今後の日本、特に東京圏では大量相続時代を迎えます。高齢者が多く、死亡者が増えれば、相続が大量発生するのは理の当然です。

【河合】相続税を納めている人は案外少ないものです。基礎控除額は2015年、「3000万円+600万円×法定相続人の数」へと変更となり、大幅に引き下げられたため、かつて4%台前半で推移していた死亡者数に対する課税件数の割合は同年以降、倍増しました。

ただ倍増したと言っても、元の数字が小さいので大したことはありません。公益財団法人生命保険文化センターによれば、2019年の全国平均は8.3%です。ただ、地価が高く高所得者も多い東京都ではこの割合が高く、6人に1人が該当するとされます。

■生まれた家で大きく左右される「親ガチャ」の世界

【牧野】相続人が1人の場合、控除可能なのは遺産総額3600万円までですが、これは確かに都内、特に都心部に一戸建てを持っていると、面積や場所にもよりますが、オーバーすることが多いです。たとえ築40年の木造住宅で上物(うわもの)(建物)の価値が0だったとしても、土地代だけでオーバーしてしまいます。

ただ、この土地代というのが曲者で、路線価×坪数で評価額が出ますが、なかには売れない土地もあって、処分しようがないので税金が払えずに物納(ぶつのう)となります。しかし物納にはさまざまな条件があって、簡単ではありません。

ですから今後、相続はしたものの預貯金がないために税金が払えない「相続難民」が出てくる可能性が大いにあります。不動産だけではなく、金融資産も東京圏に偏(かたよ)っていますから、相続問題も地域偏在があるということになります。

【河合】相続とはある意味、格差社会の象徴です。たまたま資産家の家に生まれただけの話ですから、「親ガチャ」の世界です。しかし、政府は今後、資産課税強化の方向に行くと思います。社会保障費の伸びが著しいのに国民の消費税アレルギーは大きく、なかなか税率引き上げとはなりませんからね。

■親の財産を子供が受け継ぐ“常識”も変わっていく

【牧野】 不動産と相続は密接な関係にあります。実は、相続の評価額は、現金よりも同じ金額を不動産で持つほうが安くなることが多いのです。というのも、土地は前述の路線価で評価されますが、路線価は時価と言われる公示価格のおよそ8割の水準に設定されています。

また、建物は固定資産税の評価額が採用されますが、再調達価格の7割程度で評価され、減価償却分も考慮されるため、実際の土地・建物の時価よりもかなり安くなるからです。こうした不動産の持つ特性が、金融資産を貯め込んだ高齢富裕層の人気を博しています。そして、それが東京の新築マンションマーケットを歪(ゆが)める構造になっています。

【河合】「親の遺産を相続すれば老後資金は何とかなる」など、捕(と)らぬ狸(たぬき)の皮算用をしている人も多いことでしょう。「相続=親の財産を子供が受け継ぐ」と考えている人が多いと思いますが、2030年頃になると、こうした“常識”も廃(すた)れることになるかもしれません。「人生100年」と言うほどに長寿となり、親が90代半ばで子供が70代というケースが珍しくなくなるからです。

■「人生100年時代」は親も子供も金銭的自立が必要

60代後半や70代になると亡くなる人も増えてきますので、必ず親のほうが先に逝(ゆ)くとは限りません。遺言を書くのも複雑になりますよね。現在は大概、親が先に亡くなることを前提として書かれているでしょうが、今後は年老いた子供も親も同時に遺言を準備する時代となります。

それはすなわち、親の遺(のこ)した財産を自分の老後資金として当て込めなくなるということでもあります。相続できたとしても70歳前後となってからになります。「人生100年時代」とは、90代まで生きる親も高齢者となった子供も、それぞれが金銭的に自立できるよう準備をしておかなければ回らなくなる社会ということです。

90代まで生きる人が増えてくるにつれて、老後資金が足りなくなり、資産を切り売りせざるを得なくなる人(親)も増えることでしょう。いざ遺産相続となった際、残っていた財産が意外と少なかったということになりかねません。

2030年代後半になれば3軒に1軒は空き家になると推計されているのですから、実家の土地・建物にはほとんど資産価値がなくなっていたということも、日常の風景になるかもしれませんね。

上空から見た東京の街
写真=iStock.com/Delpixart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Delpixart

■極小ワンルームが単身高齢者の住み家になる

【牧野】大量相続時代には思わぬ副産物もあります。高齢者の住環境の好転です。家という基本的な居住空間が確保しやすくなるのです。現在は高齢者、特に収入のない1人暮らしの高齢者が家を簡単に借りられない状況にあります。家主が家賃の滞納や孤独死を恐れて、貸さないからです。

河合雅司、牧野知弘『2030年の東京』(祥伝社新書)
河合雅司、牧野知弘『2030年の東京』(祥伝社新書)

しかし、大量相続により家が余るようになると、家主と借主の立場が逆転します。家賃も下がるでしょうから支出が減り、可処分所得が増えることになります。不動産市場では現在、ワンルームマンションが余り気味です。これまでの主たる客層だった若年層が減り、ワンルームマンション投資時代に大量に造られた物件もあります。ワンルームマンションの家賃は安いですし、狭いために動き回らなくていい。高齢者向きなのです。

最近、デベロッパーが若年層向けに開発した賃貸マンションで、空室率が急上昇しています。特に都心へのアクセスが良い割に地価が比較的安い城東地区では、空室がまったく埋まらないことが報告されています。さらに、相続した一戸建て住宅を賃貸に回す動きも今後加速するでしょう。このようななかで、大量相続時代を迎えることになるわけですから、いっそうの値崩れが予想されます。

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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
不動産プロデューサー
1959年生まれ。東京大学卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストン コンサルティング グループ、三井不動産などを経て、2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。15年オラガ総研株式会社を設立し、代表取締役を務める。全国渡り鳥生活倶楽部代表取締役。主な著書に『空き家問題』『ここまで変わる!家の買い方 街の選び方』(いずれも祥伝社新書)、『不動産の未来』(朝日新書)など。

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河合 雅司(かわい・まさし)
作家・ジャーナリスト
1963年生まれ。中央大学卒業。産経新聞社入社後、同社論説委員などを経て、人口減少対策総合研究所理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授のほか、厚労省など政府の有識者会議委員も務める。2014年の「ファイザー医学記事賞」大賞をはじめ受賞多数。主な著書にベストセラーの『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』(いずれも講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)など。

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(不動産プロデューサー 牧野 知弘、作家・ジャーナリスト 河合 雅司)

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