子供を産むといきなり二級社員になる…大卒女性より高卒男性を昇進させる日本企業の残念すぎる実態
プレジデントオンライン / 2022年4月14日 9時15分
※本稿は、橘玲『不条理な会社人生から自由になる方法』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。
■日本の雇用制度は「イエ社会」を前提としている
戸籍制度に象徴されるように、日本はいまだ前近代的なイエ社会です。女性は「嫁入り」して文字どおり夫の「家(戸籍)」に入るのですが、男性が所属するイエは戦後の日本社会では「会社」です。男は会社、女は家庭という「イエ」に所属して社会を成り立たせてきたのが日本という国の姿です。
高度経済成長期にはこのイエ社会はうまく回っていました。50歳時未婚率の推移をみると、1950年は男性1.5%、女性1.4%、1970年でも男性1.7%、女性3.3%で、日本人のほとんどは生涯(おおむね50歳まで)に一度は結婚していました。こうした状況が変わりはじめるのが80年代からで、1990年には男性の未婚率が5%を超え、2000年に12.6%、2015年に23.4%、2020年は25.7%と急激に上昇していきます。
女性の未婚率は2010年に10%を超え、2020年には16.4%になり、いまでは男性の4人に1人、女性の6人に1人が独身のまま生涯を終えます。
国民の大多数が結婚して「イエ」を構えることを前提とした制度は、もはや維持不可能になりました。しかし、イエ社会を前提とした日本的雇用は、こうした大きな変化にまったく対応できません。
■男女の社会的な性差を示すランキングで日本は120位
日本でも1985年に男女雇用機会均等法が施行され、形式的には男女平等なはずなのに、管理職の男女格差はきわめて大きなままです。企業における女性管理職の割合はアメリカ39%、イギリス37%、フランス35%なのに対し、日本はわずか13%にすぎません(2019年)。その結果、男女の社会的な性差を示すジェンダーギャップ指数では日本は世界最底辺の120位(2021年)です。
─―情けないことに、これでも前年の121位から順位が1つ上がったといってよろこんでいます。
なぜこんなことになるのか、その謎を解明したのが社会学者の山口一男さんです。
山口さんは、アメリカなど欧米の企業では、役職と学歴はリンクしているといいます。当然、管理職の比率は大卒が多く、高卒が少なくなります。これはアメリカだけでなく、世界中がそうなっています。
学歴社会なのだから当たり前だと思うでしょうが、山口さんは世界にひとつだけ、この原則が通用しない国があることを発見しました。それが日本です。
■大卒の女性より高卒の男性が昇進する
日本の会社の特徴は、次の3つです。
①大卒の男性と、高卒の男性が課長になる割合は、40代半ばまではほとんど変わらない
②大卒の女性は高卒の女性より早く課長になるが、最終的にはその割合はあまり変わらない
③高卒の男性は、大卒の女性よりも、はるかに高い割合で課長になる
これをどう理解すればいいのでしょうか。
高卒の男性でも大卒の男性と同じように出世できるというのは、素晴らしいことです。日本の会社は学歴ではなく、社員一人ひとりの「能力」を見ているのですから。
高卒の女性より大卒の女性の方が出世が早い、というのも当然でしょう。日本の会社では、新卒採用で女性を「総合職」と「一般職」に分けています。総合職は男性と平等に扱われる大卒エリートで、一般職は事務系の仕事ですから高卒も多いでしょう。それが同じ昇進では、いくらなんでも理不尽です。
問題なのは、大卒(総合職)の女性よりも、高卒の男性の方がはるかに早く課長に昇進することです。60歳時点では高卒男性の7割が課長以上になっているのに、大卒女性は2割強と半分にも満たないのです。
■生まれ持った性別と残業時間で評価する日本
身分や性別のような生まれもった属性ではなく、学歴や資格、業績など個人の努力によって評価される社会が「近代」です。そして近代的な社会では、このようなことが起こるはずはないと山口さんはいいます。日本の会社はいまだに「前近代」、すなわち江戸時代と同じようなことをやっているのです。
しかし山口さんは、これは単純な女性差別ではないといいます。ある要素を調整すると男女の格差はなくなって、大卒の女性も男性社員と同じように出世しているからです。
その要素とは「就業時間」です。そんなバカな! と思うかもしれませんが、就業時間を揃えると大卒女性は男性社員と同じように昇進しているのです。驚くべきことに、日本の会社は残業時間で社員の昇進を決めているのです。
(山口一男『働き方の男女不平等 理論と実証分析』日本経済新聞出版社)
![暗いデスクに倒れる疲れたビジネスウーマン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/b/1200wm/img_dbde9eda24b7dc3a1a65c027e026176f330202.jpg)
会社という「イエ」で正メンバーになれるのはかつては男だけでしたが、いまでは女性も加わることができるようになりました。これはたしかに進歩ですが、しかし女性がイエの一員として認められるには、無制限の残業によって滅私奉公し、僻地や海外への転勤も喜んで受け入れ、会社への忠誠心を示さなければなりません。そしてこれが、「子どもが生まれても働きたい」と思っていた女性が出産を機に退職していく理由になっています。
日本の会社は、幼い子どものいる女性社員のために「マミートラック」と呼ばれる仕事を用意しています。「男性や独身女性と同じように働かせてはかわいそうだ」との温情とされますが、残業しなくてもいいマミートラックでは忠誠心を示すことができず、イエの一員とは認めてもらえません。当然、給料も減るし昇進もできないでしょう。
これまで対等の関係だったのに、いきなり二級社員のように扱われ、同期ばかりか後輩にも追い抜かれていくというのは、優秀で真面目な女性ほど耐えがたいでしょう。こうして彼女たちは、ちから尽き燃え尽きて専業主婦になっていくのです。
■「日本人じゃない」だけで待遇に差をつける日本企業
日本の雇用問題は、正社員と非正規の待遇格差や、女性管理職の少なさといったことに留まりません。より深刻なのは、あらゆるところに「身分」が出てくることです。
親会社と子会社の待遇格差も典型的な身分差別です。親会社から出向してきた社員と子会社のプロパー社員では、同じ仕事をしているにもかかわらず給料に差があるのを日本のサラリーマンは当然だと思っていますが、こんなことは海外の会社では許されません。
日本企業が海外進出するときに、本社採用と海外支社の現地採用を分けますが、これは国籍差別以外のなにものでもありません。現地採用の社員から「同じ仕事をしているのに、なぜ私は給料が安いんですか?」と訊かれたときに、「お前が日本人じゃないからだ」と答えている会社はいまでもたくさんあるでしょう。あまりにも身分社会にどっぷり浸(つ)かってしまったために、常識すらなくなってしまったのです。
日本企業の人事制度が国籍差別に基づいているというのはアジア諸国で広く知られていますが、さほど大きな問題になっているようには見えません。これには大きく2つ理由があって、ひとつは「それでも地元企業よりはマシ」というもので、もうひとつは「数年しかいないのだからどうでもいい」です。
いまのところアジアでは日本企業は地元企業より高い給料を払うし、オン・ザ・ジョブ・トレーニングも充実しています。それでも上には日本人社員がいて、彼らの多くは現地語はもちろん英語すら話せません。そんな上司のために真面目に働くのはバカバカしいだけなので、優秀な現地社員は3、4年働いて仕事を覚えると、さっさと(自分を平等に扱ってくれる)グローバル企業に転職していきます。
彼ら/彼女たちにとって、日本企業はキャリアビルディングの最初のステップでしかないのです。
■世界に名だたる日本企業が国籍差別をやめられない理由
アジアで成功している日本企業は、製造業や小売業など労働集約型の産業ばかりです。金融やITなど知識集約型の産業では優秀な人材はどんどん引き抜かれていくので、新人を採用しては一から社内教育する「シジフォスの神話」みたいなことを繰り返しています。
これはアジア圏の人材派遣業者のあいだでは何十年も前から常識になっていて、海外支社を担当する経営幹部も(まともなひとなら)理解していますが、現地採用と本社採用を平等に扱おうとすると、世界中の従業員を「年功序列・終身雇用」にしなければならなくなるのでどうしようもありません。
こうして世界に名だたる日本の大手企業が、国際社会からいつ「差別じゃないか」と批判されるのではとドキドキしながら、いまも国籍差別をつづけているのです。
■古臭い「身分制社会」が外国人に知れ渡る
安倍政権は外国人労働者の受け入れを拡大しましたが、日本社会の「身分制」を放置したままであれば、非正規の下に「外国人」という新たな身分ができるだけです。妊娠した外国人の技能実習生に対し強制帰国や中絶を迫る例が報じられていますが、これは明らかな人権侵害で、国際社会ではとうてい許容されません。
![橘玲『不条理な会社人生から自由になる方法』(PHP文庫)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/5/1200wm/img_5533b2efacbc7a379d2f77b1b68931ad152221.jpg)
日本的雇用に組み込まれた国籍差別をなくさなければ、「外国人労働者への門戸開放」は、日本がいまだに身分制社会であることを白日の下にさらすだけでしょう。
とはいえ、外国人にとって日本的雇用になんのメリットもないわけではありません。日本の大学に留学し、日本人学生といっしょに就活して、新卒一括採用で「正社員」になれば、日本人の社員と同等に扱われるからです。
欧米社会で外国人留学生が職を得る困難を考えれば、これはずっと魅力的なので、アジアの優秀な若者たちが日本の大学を目指す理由になっているとの指摘もあります(とはいえ、この留学生たちも仕事を覚えれば転職していくのでしょうが)。
■性差別的な国が「差別などない」と言っても説得力に欠ける
さらにつけ加えるなら、保守派のひとたちは、慰安婦問題で日本の主張がなぜ国際社会で通用しないかを真剣に考えるべきです。これは一般に「韓国の陰謀」とされているようですが、韓国が国連の人権委員会に自分たちに有利な報告書を書かせ、米下院やEUに非難決議を出させるちからを持っているのなら、いまごろ世界を征服しているでしょう。
国際社会から戦時中の日本軍の行動が疑いの目で見られるのは、いまの日本が性差別的な社会だと思われているからです。女性を差別している人間が、「むかしは差別なんかしていなかった」といくら言い張っても相手にされないのは当たり前です。
男女の社会的な性差を示すジェンダーギャップ指数で日本は世界最底辺の120位ですが、これが北欧諸国と同じ10位以内に入るようになれば、国際社会は従軍慰安婦問題でも日本の主張に耳を傾けるようになるでしょう。
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作家
2002年、小説『マネーロンダリング』でデビュー。2005年発表の『永遠の旅行者』が山本周五郎賞の候補に。他に『お金持ちになる黄金の羽根の拾い方』『言ってはいけない』『上級国民/下級国民』などベストセラー多数。
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(作家 橘 玲)
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