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ついにドイツも「脱ロシア」へ…エネルギー輸出に頼りきっているプーチン大統領の行き詰まり

プレジデントオンライン / 2022年4月11日 8時15分

ロシアのプーチン大統領=2022年4月6日 - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

■ロシアのデフォルトは時間の問題か

欧米諸国による金融、経済制裁によってロシア経済の悪化が鮮明だ。ウクライナ危機が発生するまで、ロシアは基本的に自国の原油や天然ガスなどの資源を輸出することで経済を成長させてきた。そのため、ロシア国内では、軽工業やサービス業の分野で企業は育っていない。

欧米諸国の厳しい制裁、中でも中央銀行への制裁などによってロシアの米ドル資金は枯渇し、デフォルト(債務の不履行、当初の約束通りに利払いや元本の返済がなされないこと)は時間の問題になっている。外資企業の撤退も増えている。経済と金融システムが混乱し、ロシアの経済成長率が急速かつ大幅に低下することは避けられない。

ウクライナ侵攻についても、キーウ(キエフ)近郊でロシア軍による民間人の殺害の疑いが浮上したことによって制裁は強化され、そのリスクは高まった。今後、懸念されるのは、追い詰められたプーチン大統領が、欧州向け天然ガスのパイプライン“ノルドストリーム1”を停止することも懸念される。

その場合、世界経済にはかなりの悪影響が生じる。供給制約はいっそう強まり、経済成長率の低下と物価上昇の同時進行が鮮明化するだろう。それ以外にも、ロシアが報復措置を実行する可能性が高い。ウクライナ危機が世界経済のゲームチェンジャーであることは冷静に考える必要がある。

■新しい需要を生み出しづらい産業構造

ロシア経済にはいくつかの特徴がある。まず、ロシアは世界有数の資源国だ。ロシアは地中から掘り出される天然ガスなどのエネルギー資源や、農地で収穫される小麦などの穀物を輸出して米ドルなどの外貨を獲得した。手に入れた外貨を用いてロシアは経済運営に必要な機械や資材を輸入した。2020年の輸出の51.3%が鉱物製品、8.8%が食料・農産品(繊維除く)だ。輸入の47.6%は機械や輸送機器、18.3%が化学製品だった。

次に、製造業とサービス業の育成が十分ではないと考えられる。理論的に、経済の発展は第1次産業(農林水産業)、第2次産業(建築や製造業)、第3次産業(サービス業)の順に進む。特に、製造業の成長は、新しいモノの創造を通して人々の新しい生き方を可能にする。それがサービス業の育成に欠かせない。輸出入のデータを見る限り、ロシアは自律的かつ持続的に新しい需要を生み出し、人々の満足感を高めるための産業構造を整備することが難しいようだ。

■「天然ガスを止める」と欧州を脅すが…

3月、ロシアのサービス業購買担当者景況感指数(PMI)が52.1から38.1に大きく低下したのはその裏返しに見える。欧米企業の撤退によってロシア資本が運営するサービス業の供給能力の低さがあらわになったといっても良い。製造業(工業力)の弱さは、エネルギー輸出にも関わる。ロシアは主にはノルドストリーム1などパイプラインを通してドイツなどに天然ガスを輸出する。それは液化技術の不十分さを示唆する。

ロシアは天然ガスの供給を止めると西側諸国に警告を発しているが、外貨獲得を考えるとその実行は容易ではないだろう。それは、プーチン大統領の姿勢から確認できる。3月下旬にプーチン大統領は天然ガスの購入代金をルーブルで支払うよう非友好国に圧力をかけた。

その目的はルーブルの売り圧力を少しでも弱めることや欧州などへの脅し、天然ガス価格押し上げによる利得増加などだろう。その後、プーチン大統領と会談したイタリアのドラギ首相はロシアがルーブルでのガス代金支払い要求を後退させたとの見方を示した。

■米ドル建て国債の半分以上をルーブルで買い戻し

プーチン政権にとってエネルギー資源などの輸出による外貨獲得は、社会と経済運営のために手放せないと考えられる。その状況下、中銀が海外で保有していた資産が差し押さえられたインパクトは非常に大きい。金融制裁によってロシアの米ドル資金は枯渇し、デフォルト懸念が高まった。

ロシア経済は追い詰められている。3月31日にロシア財務省が4月4日に償還期限(満期)を迎える20億ドル(約2470億円)の米ドル建て国債のうち、14億4760万ドル分をルーブルで買い戻したのは、外貨の枯渇がかなり深刻だからだろう。なお、買い戻しに応じたのはロシア国内の投資家が主だったとみられる。

4月に入ると、ロシア軍が民間人を多数殺害した疑いが浮上し、欧米各国はロシアへの制裁を強化した。4日に米財務省は、米金融機関によるドル建てロシア国債の元利金支払い手続きを承認しなかった。そのため、6日にもロシアはドル建て国債の元利金をルーブルで支払った。ロシアは約束通りに債務の返済を行っていない。

■追い詰められたプーチンがとる手段は

ロシアはデフォルトに陥ったと主要投資家らに認定され、ヒト、モノ、カネの海外流出は加速するだろう。GDP成長率の低下は避けられない。ロシア国民の不満は高まり、2024年に大統領選挙を控えるプーチン大統領は追い詰められるだろう。なお、2020年の名目GDPでロシアは世界11位(GDP規模は約1.5兆ドル(185兆円))だ。デフォルトが世界の金融市場を混乱させる可能性は低い。

それよりも懸念されるのが、ロシアがさらに強硬な手段に打って出る展開だ。経済面にフォーカスすると、4月6日時点でノルドストリーム1によってロシアは西側諸国と脆いながらも経済的な関係を保っている。天然ガスの4割をロシアからの輸入に頼ってきたEUは、今すぐロシア産の天然ガスや原油の供給が断たれることは避けなければならない。

ロシアにとってもノルドストリーム1は米ドルなどを確保するために必要だ。しかし、追い詰められたプーチン大統領が報復のために天然ガスの輸出を減らすなどすれば、欧州をはじめ世界経済には大きな負の影響がおよぶ。

石油パイプライン工業地区
写真=iStock.com/spooh
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/spooh

■“ロシア依存”のドイツが方針転換する意味

キーウ近郊などで多数の民間人の殺害疑惑が浮上した後、西側諸国は、真剣にロシアへのエネルギー依存を断たなければならないと危機感を強めはじめた。特に、ドイツの対ロ姿勢は一段と硬化しはじめたように見える。ランブレヒト独国防相はEUがロシア産ガスの輸入禁止を議論すべきと指摘した。

それはドイツのエネルギーや安全保障政策の転換といえる。その考えに傾斜するEU加盟国は増えるだろう。ロシアとウクライナの停戦交渉の内容、今なお激しい戦闘が続いていることなどを念頭におくと、ウクライナ危機が短期間で落ち着く展開は考えづらい。

ウクライナ情勢は深刻化し、欧州各国をはじめ西側諸国はロシアへの制裁を強めるために石炭、原油、天然ガスの禁輸など踏み込んだ措置を検討、導入しなければならなくなるだろう。6日に米国が発表した追加制裁に加えて、ガスプロムバンクなどが行うエネルギー関連の取引が金融制裁の対象に含まれる展開は排除できない。

■円安圧力はこれからも強まる

その一方で、EUはロシアからの供給減に対応するために、米国、アジア、中東、北アフリカなどからのエネルギー資源などの調達をさらに急がなければならなくなる。ロシアも小麦の輸出を制限するなど、対抗手段をとるだろう。

“西側諸国vsロシア”という対立構造は鮮明化し、世界経済のブロック化が加速する。エネルギー資源や穀物などの供給は追加的に制約され、世界全体で経済成長率は低下する。モノの価格上昇によって、各国のインフレ圧力もさらに強まる。米国に加えて、ユーロ圏などでもかなり急速に金融政策が正常化される可能性が高まっている。

その状況下、わが国では経済の実力の低下によって金融政策を正常化することが難しい。内外の金利差は拡大し、円安圧力が追加的に強まる。それは、輸入物価を押し上げ、国内の物価上昇圧力を高めるだろう。ロシアへの制裁強化によって、外需に依存してきたわが国をはじめとする世界経済にはかなりの悪影響がもたらされると懸念される。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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