「独立して稼ぐならプライドは邪魔なだけ」他人がやりたくない仕事ほど儲かるという不都合な真実
プレジデントオンライン / 2022年4月18日 12時15分
※本稿は、武田所長『スモールビジネスの教科書』(実業之日本社)の一部を抜粋・再編集したものです。
■論理よりも既に現実世界で起きている現象に焦点を当てる
スモールビジネスでは革新的なことは目指さない。そうなってくるとスモールビジネスのアイデアを考える方法はシンプルである。
スモールビジネスの戦略立案骨子
・探査領域において儲かっている企業を発見し儲かる手法を知る。
・対象顧客セグメントを明確にし、バーニングニーズを発見する。
・成功している企業の「儲かる手法」を改変しマイナーチェンジコピー品を創出して大手が捨てた市場の一部を頂く。
基本的にこれだけである。顧客の真の課題を考える、ゼロベースで何かを生み出すなど不要だ。既に流れている金を自分の方に少しだけ引き寄せるだけでよい。スモールビジネスであればこれで十分過ぎる規模になる。
調査や論理を通じてひねり出したビジネスプランが実際の世界で機能する確率は高くない。論理など現実世界を生き抜くには頼りになる武器でもないのだ。論理よりも既に現実世界で起きている現象に焦点を当てるべきだ。
論理とやらで調査を通じ発見出来た事象をつないでいき、一連のストーリーは作ったものの現実世界では全く成立しなかったという事例を何度も見てきた。頼りない武器ではビジネスの世界では戦えないのだ。
誰かが儲かっている、そこには金を払っている顧客がいる。サービスの提供者は何らかの工夫によりそこで原価との差分であるマージンを得ている。この事実こそ、ビジネス検討の出発点として何よりも重視するべきというのが私の考えである。
本稿では、戦略構築ステップ1として、自分の経験を振り返り探査領域を定めるためのアプローチを説明しよう。
■属人性はスモールビジネスの参入戦略として最高
まず自分の攻撃対象となる獲物を見つけよう。
とはいえ、会社やサービスは数え切れない程存在する。そんな中で、この探査領域をどのように絞り込んでいけばいいのか悩むだろう。
本書では初心者向けを意識して「自分の強みから絞り込んでいく」方法を紹介しよう。スモールビジネス上級者になると、対応可能な事業領域は拡大出来るが、まずは自分の強みから絞り込んでいくことを第一歩にしよう。
手持ちの武器はなにか?
基本的にスモールビジネスの武器は自分である。特にスモールビジネス立ち上げ初期は属人性で戦うことを基本とする。属人性はスモールビジネスの参入戦略として最高である。
仕組みとして大手企業に立ち向かうことはほぼ不可能であるが属人的な各個撃破であれば十分可能なのである。
例えば何故、外食市場は常に新店舗の参入が可能なのか。根源的には各店舗を運営する人間の能力にその競争力が起因するからである。つまり属人性で参入が可能だからだ(ただし飲食の場合は競争が激しすぎて成功出来るかは別問題である)。
これはコンサルティング、人材派遣、不動産運用など様々なスモールビジネスでも同様である。属人性はスモールビジネスが成立するためには必須なのだ。
逆に属人性が低い、技術で勝負する業界では自分が特異な技能者である場合を除き、スモールビジネスは成立しづらい。
仮に法人向け営業のシーンを考えると、どの会社から買うかよりもどの担当がつくかが重要であることは多いだろう。メディア運用でも「特定のコンテンツに専門性を持つライター集団など、属人性が機能する。
そのような属人性の高いビジネスは大手と言えど鉄壁の要塞によって市場への侵入を完全に阻むことは困難であり、スモールビジネスが攻撃対象にしやすいビジネスである。
■「人は一見やりたくないが、自分はやりたい」ことがあるか
2種類の競争力発生源
ここで、競争力には「仕事を通じて得られるもの」と「趣味を通じて得られるもの」の2つの発生源がある、ということについて解説する。
仕事を通じた競争力
ほとんどの人は、基本的にこれまでの仕事を通じて得た競争力を活用する。分かりやすい例を挙げれば、コンサルティング会社での勤務経験がある場合は、コンサルティング関連企業の情報を調査し儲かっている会社を探すことから始めるべきである。
この段階でそれらの企業に対する優位性までを考える必要はないが調査を開始する点としては適切だろう。
趣味を通じた競争力
趣味については注意が必要である。基本的に趣味は金を生まないので、純粋な趣味から調査を開始しても儲かる方法が見つかる可能性は、仕事起点で考えるよりも格段に低くなる。しかし困ったことに「好きを仕事にしたい」と考える人は多い。
飲食、スポーツなど趣味の延長線上で出来る仕事は確かに魅力があるが、ビジネスとしては厳しい結果になりがちである。何故なら、限定された機会に対して大量の参入者が発生するからである。
「人が一見やりたくないことをする」というのは、ビジネスの基本である。であるからして、「人は一見やりたくないが、自分はやりたい」ということが確立されている人は非常に強い。
自分の行動原理として人がやりたくなさそうなことをやる、というのは持っておいた方が有利に戦いを進めることが出来る。
■能力を使って他人がやりたくないことでポジションをとる
3つの競争力
さて、ここから先は自分の競争力を分解していこう。
基本的には以下の3点が個人としての競争力と言えるだろう。
2.ネットワーク
3.専門知識
この3つについて説明するが、注意してもらいたいのは現在の競争力のみでスモールビジネスの戦略を判断しようということではない。あくまで出発点としての整理である。スモールビジネスに取り組む中で自分自身が持つ競争力は急速に上がることを念頭に置いておこう。
能力
これは言わずもがなである。自分が金を生む能力を持っていれば当然それを武器に戦ったほうがよい。ポイントとしてはその能力は業界内で上位である必要はないという点である。
例えば投資銀行業界の中でエクセルが得意と言えなくとも金融に詳しいエクセル講師として成功している例が参考になるだろう。コンサル業界内部でパワポが得意でなくともパワポ講師として成功している例もあるだろう。
おそらく、業界内部からは揶揄(やゆ)されると思う。「あいつ在籍時は活躍してなかったくせにエクセルなんて……」と。しかしこんな意見は、スモールビジネスに取り組むものとしては歓迎しよう。スモールビジネスの基本方針は、「他人がやりたくないことをやる」であったことを思い出してほしい。
プライドの高い投資銀行の人たちは、「金融に詳しいエクセル講師」はやろうと思えば出来るがやりたがらない。それならばそのポジションを取れば圧勝出来ることを意味する。
そのポジションを取るだけの能力があればよいのだ。決してその業界内部においてチャンピオンでないと、能力を活用したスモールビジネスとして成功しないというわけではない。能力のみで戦うのではなく、能力を使ってポジションを取るのだ。
■誠実な人間としてネットワークを拡大させる
ネットワーク
初期段階では必ずしもなくてよいが、これはスモールビジネスに取り組む上で必須となる。スモールビジネスの場合は1つの法人内で出来ることは多くない。だからこそ顧客が求めるアウトプットを提供するには多くの人や企業と密接な協力関係を築いている必要がある。
この密接な協力関係の束がネットワークである。
スモールビジネスに向いていない人は信頼関係が構築出来ない人だ。これは顧客に対しては勿論であるが、協業相手に対してもそうである。
自分が間違ったときは謝る、約束は守るなど基本的な所作をしないとネットワークは大きくならず、競争力は向上しない。誠実な人間としてネットワークを拡大させていこう。
既に特定の業界でネットワークを持っている人がスモールビジネスを始める場合、それが大きな武器になる。
専門知識
専門知識は、やや能力と似ている概念であるが少し違う。
例えばあなたがエクセルの能力に長けていても、これだけでは多くの個人の中に埋もれてしまう。どうすれば「Xと言えばこの人!」というポジションを顧客の頭の中で築くことが出来るのか。
汎用性のある能力だけでポジションを取ること、突出したNo1を目指すということは不可能に近い。最初から諦めたほうがよい。
能力は専門知識と掛け算することでポジションの要塞を与えてくれる。
金融×エクセル、管理会計×エクセル、特定業界の収益性シミュレーション×エクセル、小売の在庫分析×エクセルなど、能力と専門知識を掛け算しよう。
専門知識はやはり、「外部からは一見理解しづらいが、分かる人には分かる」というものであればあるほどよい。
ちなみに専門知識と言われると、構えてしまう人も多いと思うがその必要はない。例えばあなたが、広告のビジネスに携わっていたとすれば、特定のセグメントにおける収益性が高いことくらいは知っていて、CAC(顧客獲得単価)や主要媒体の特徴も頭に入っているだろう。
このように、美味しい領域と競合を認識していることだけで、出発地点としては十分な優位性がある。
■能力の保有がビジネスの成否に直結するか
探査する事業領域の抽出
自分自身が持つ武器を整理出来ただろうか。
その武器が適用可能な事業領域(ビジネスモデル×コンテンツ)を考えてみよう。
ここで言うコンテンツとは専門とする領域のことである。このコンテンツの区切り方は様々である。例えば教室(ビジネスモデル)×金融・エクセル(コンテンツ)、メディア運用(ビジネスモデル)×仮想通貨(コンテンツ)などである。
能力から事業領域を絞る
広告運用、営業、コンサルティングなど職業から来る競争力を持っているとするとその能力のみを売るビジネスか、その能力を保有していることがビジネスの成否に直結するビジネスを考えるとよい。
あなたがコンサルティング能力に秀でていると考える場合はコンサルティングファームを作ると考えることも出来るし、それ以外にも例えば、法人向けにコンサルティングに近い営業が必要となる企業向けシステム導入代行ビジネスを行ってもよい。
前者であれば探査対象はコンサルティングファームに自分の専門コンテンツをかけ合わせる。後者であればシステム開発×会計ということになる。
ネットワークから事業領域を絞る
例えば信頼出来るフリーランスデザイナー30人を知っていたとしよう。この競争力を活用すればデザイン会社を作ることが出来る。自分が営業フロントに立ち、顧客を獲得して知人に仕事を渡し品質保証をするというビジネスである。
この場合デザイナーであるフリーランスを束ねたビジネスが探査対象ということになる。フリーランスマッチング×デザインということになろう。
■鉄板のビジネスモデルは最初から限られている
専門知識から事業領域を絞る
金融×エクセルという領域で知識を持っていたとしよう。これを教室というビジネスモデルで考える場合は社会人向け教育という事業領域が探査対象となる。
考え方を変えればエクセルを使った事業シミュレーションの下請けというビジネスでもよいだろう。この場合はコンサルティング×定量シミュレーションが探査対象となる。
手持ちの武器 事業領域の対応関係
手持ちの武器と事業領域は1:1の関係ではない。N:Mの関係になるため手持ちの武器から事業領域を考えるには知識が必要だが、不安にならないで欲しい。
スモールビジネスにスコープを限定すればN:M(ただしMは少数)というようにかなり絞り込むことが出来る。全てを網羅することは困難であるが、いくつかのビジネスについては既に例示した通りである。
ビジネスモデルには特異性を狙わず鉄板のスモールビジネスに自分の競争力を活用出来ないか、と考えるとよいだろう。
スモールビジネスに向いているビジネスモデルは最初から限られているのだ。その限定されたビジネスモデルに自分の専門であるコンテンツを掛け算すればよい。
自分が今までの経験で身につけた競争力から探査領域を絞りなさい!
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経営者
大学卒業後、戦略系コンサルティングファームに入社。退職後20以上のスモールビジネスを展開し、それぞれ売上年間数百万円〜10億円。トレンディ・ハイリスクなベンチャービジネスではなく「安定・着実」に売上100億円程度を目指すスモールビジネスを推奨する。スモールビジネスの事例や手法を解説・紹介し強い個人が活躍する時代を作るという狙いのもとに初の著書『スモールビジネスの教科書』(実業之日本社)を執筆。
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(経営者 武田所長)
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