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半年ごとに新作を大量生産、大量処分…ファッション業界は「流行を煽る」という商売を捨てられるか

プレジデントオンライン / 2022年4月14日 12時15分

村上要(むらかみ・かなめ)さん。1977年生まれ。東北大学教育学部卒業。2017年4月に「WWDJAPAN.com」編集長に就任し、21年4月から現職 - 撮影=西田香織

ファッション業界がビジネスモデルの変化に苦しんでいる。消費者の「トレンド離れ」が進み、思うような利益を上げられなくなっている。ジャーナリストの川島蓉子さんは「ファッション業界は『トレンド』を武器に、商品を大量生産して利益を得てきたが、いま大きな変化を迫られている。もう半年のサイクルだけに縛られるべきではないだろう」という――。

■トレンドを軸に服作りから流通まで回っている

ファッションの世界では、「22年春のトレンドカラーは○○」、「流行のビッグシルエットに注目!」といった文言をよく耳にする。が、トレンドや流行は、いったいどこから来て、何のために存在するのだろうか。

実はこれ、ファッション産業が持っている独自の仕組みであり、“流行=トレンド”を基に、モノ作りから流通までが回っているのだ。

その始まりは、店頭に服が並ぶ約1年半前までさかのぼる。欧米にはトレンド会社というものがあり、色、質感、シルエットなど、流行にまつわる「トレンド情報」が発信される。それに基づいて、糸や布のメーカーは製品を作り、約1年前に展示会に出す。

デザイナーはその布を使い、約半年前にコレクションショー(パリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドン、東京コレクションはこれを指す)として発表。その様子がファッション雑誌や新聞などのメディアを通して伝えられる。そのような長い過程を経て、春夏・秋冬シーズンの半年サイクルで新しい服が店頭に登場し、消費者の目に触れるようになるのだ。

■価値が下がりつつある「流行の最先端」

つまりファッションは、「今シーズンのトレンドは○○」という流行を生み出して消費者の消費意欲を喚起してきた産業であり、トレンドが川上から川下へ伝わっていく構図が、それを支えてきた。シーズンの終わりに、在庫を次シーズンに持ち込まないため、半年ごとにセールで価格を大幅に下げて売り切ってきた。

日本では、主に戦後から高度経済成長期にかけ、欧米のやり方を模倣するかたちで、この一連のシステムが機能してきたが、「流行の最先端であること」や「トレンドに乗っかっていること」が以前に比べて価値を持たなくなり、うまく回らなくなってきた。

それでは、このまま流行は消えていくのか。

人類はクレオパトラの時代から「流行」と密接な関わりを持ってきた。その意味で、流行という存在そのものがなくなることはないだろう。しかし、そのあり方が、「業界一斉に半年でワンサイクル」という構図ではなくなり、ブランドによってさまざまな提案の仕方が出てくるのではないか。

こうした私の仮説を、ファッション&ビューティメディア『WWDJAPAN』編集長の村上要さんにぶつけてみた。

■高級ブランドも抱えていた大量処分の問題

村上さんは、「業界全体で、流行を生み出すべく過剰になってしまったところを、そもそもの意義に立ち返り見直す動きが芽生えています」という。

ブランドによっては、オートクチュール(高級注文服)、プレタポルテ(高級既製服)、プレコレクション(メインのコレクションの前の小規模なプレタポルテコレクション)など、いわゆるコレクションショーを年7、8回行っているところもあるという。かつてファストファッションブランドと呼ばれていた「ZARA」や「H&M」は、週間単位で商品を入れ替えていた。

グローバル市場を視野に入れた成長拡大を追求する過程で、より速く、より大量にという動きが過剰になっていたのは事実だ。一方でそれは、大量の売れ残りを出すことを意味してもいた。2018年には、「バーバリー」が売れ残りを焼却したことが報じられて物議を醸した。

新型コロナの流行で外出する機会が減り、業績が停滞しているアパレル企業は少なくない。「コロナ禍はひとつのきっかけ。以前から存在していた課題が顕在化し、変革に拍車がかかったのではないでしょうか」(村上さん)。サステナブルという観点からも、サイクルのありようを見直す、コレクションの役割を見つめ直すといった動きが始まっている。

■サイクルの多様化は消費者にもメリットがある

ファッション業界の先行きについて、村上さんは「さまざまなサイクルのブランドが共存するようになるのではないか」と予想する。

あるブランドは短いサイクルで回していく、あるブランドは定番商品を長いサイクルで売っていく、というふうに、業界一律ではなく多様になっていく。これは消費者にとっても、選択肢が広がるのだからメリットがある。

一方、「周りがやっているから」と横並びを続けるところと、そうでないところは、道が分かれていく。

筆者はあるアパレル企業の役員と話していて、「コロナ禍を良い転機ととらえ、サイクルのあり方を見直そうとしたのだが、予想以上に費用も手間もかかって手こずっている」と耳にした。それなりの規模で半年サイクルを回してきたブランドにとって、ハードルは決して低くない。

他方で「小さいながらも半年という枠組みにとらわれず、SNSを駆使して新作を発表して受注を取り、必要数量だけ生産するブランドもがんばっています」と村上さん。半年ワンサイクルという枠組みにとらわれず、その企業やブランドが、どういった意思を持ち、どういうサイクルを選ぶのか。それぞれのサイクルの意味が問われていくというのだ。

■忘れてはいけないファッションの重要な役割

「本来、“流行=トレンド”は、時代の大きな流れをデザイナーがとらえ、服というかたちで表現したものにおける共通項。ゼロベースで新しいものを世に問いかけ、反応を得続けるからファッション業界は、トレンドに敏感です」

村上さんにそう言われて思い当たるふしがあった。冒頭で触れた、トレンド会社が発信する「トレンド情報」には、政治経済も含めた世の中の潮流を読み、未来に向けてどう進むかという視点も含まれている。

「ファッションは、人々が抱いている潜在的な欲望を可視化させる役割を担っている。洋服は、目的ではなく、その手段」と村上さん。

村上要(むらかみ・かなめ)さん
撮影=西田香織
大学卒業後、地元の静岡新聞社で社会部記者として働いていた村上さん。25歳で渡米し、ニューヨーク州立ファッション工科大学でファッション・コミュニケーションを専攻した - 撮影=西田香織

それが「売り切るため」、「今のサイクルを維持するため」と目的と手段を履き違えたり、いつの間にか目標を下方修正してしまったりで、表層的なトレンドを盛り込むだけになっていた企業は少なくない。その意味では、「人々が抱いている潜在的な欲望を可視化させる」という本質に立ちもどって、ファッションのあり方を見直す好機と言える。

これはファッションに限った話ではなく、クリエーションに関わる産業に共通する要件だ。「トレンド情報」は、クルマや家電などのデザイン部門も手に入れている情報であり、デザイナーの創造力を後押しする役割を担っている。

■「トレンドは決して悪者ではない」

人は、既にあるものだけでなく、漠然と欲しいと思っていたものがかたちになると、「そうそう、これが欲しかった」と手に入れて使うのではないか。暮らしを取り巻くモノやサービスには、そこを追求してヒットした商品が少なくないし、クリエーションはそこに大きく寄与している。

だからこそ、送り手である企業が創造的な挑戦を続けていかないと、存続・成長していくのは難しい。そしてそもそもファッションは、新しいクリエーションに基点に置き、進化してきたビジネスのはず。

「ゼロベースで新しいものを世に問いかけるシステムに意味があると考えるなら、結果生まれるトレンドは決して悪者ではない。サイクルの長短についても、問いかけの頻度が増せば、生活者のニーズにフィットする可能性が高くなる。そういう見方もできるのでは」という村上さんの話に気づかされるところは大きい。

■非常に閉じた世界で成り立ってきた業界だが…

また、ファッションは、特にラグジュアリー市場は、非常に閉じた世界で成り立ってきたビジネスでもある。トレンド情報を知っているのは、バイヤーやジャーナリストなど業界の中でも限られた人だけだ。その情報がピラミッドの上から下に広がっていくヒエラルキーが、業界を支えてきたと言っても過言ではない。

ただ、世の中全体のムードは、多様性を土台としたオープンでフラットな方向に向かっている。ファッション業界固有のヒエラルキーの意味が問われてもいるのだ。

コレクションショーもしかりだ。コロナ禍で、リアルなコレクションショーができなくなってデジタル配信に切り替え、限られたジャーナリストやバイヤーだけでなく、広く一般に公開するブランドは、「ルイ・ヴィトン」から「グッチ」、「メゾン マルジェラ」まで数多い。

それも、単にランウェイを歩く様子を動画配信するのではなく、映画仕立てにしてストーリーを展開したり、作るプロセスや意図をデジタルで表現したり、実験的な試みが盛り込まれている。このまま、コレクションもオープンでフラットになっていくのではと思っていた。

■デジタル技術が服の楽しみ方を変えていく

しかし、村上さんに聞くと、「コロナウイルスの感染状況の改善に伴い、多くのブランドがリアルなショーを復活させている」という。予想したほどSNSでバズらず、従来のやり方の方が効果的との判断が働いているようだ。デジタルによってファッション業界は門戸を開くことができるはずだが、今はまだ、その扉を開き切るまでには至っていない。

だからと言って、ファッションとデジタルが無縁なわけではない。村上さんは「拡張現実(AR)といったテクノロジーを駆使することで、服の楽しみ方が変化し、創造的な世界が拓けていくのは確か。ファッションは新しいものをいち早く取り入れるのが得意なので、さまざまな可能性を秘めている」とエールを送る。

村上さんのPC
撮影=西田香織

こうして試行錯誤を繰り返す業界で、ファッション・ジャーナリズムも変わる必要があるのだろうか。

村上さんは「単に『トレンドは○○』と“正解発表”するジャーナリストの役割は減っていくし、少なくとも生活者の“正解”に対する興味は薄くなっています」と激流の変化を感じ取っている。

■ファッションを伝えるメディアの存在意義

個人個人が好きな格好をすることを尊重し、多様性を認め合う価値観が広まる中、「かつてのように一大ムーブメントになるような流行は起きづらい」が、流行という存在はなくなるわけではない。特定のコミュニティでのみ通用する、局地的なトレンドが無数に、同時多発的に存在するようになる。半年というサイクルにも縛られることなく、さまざまな流行のかたちが共存していく、というのだ。

「今までは、服というかたちになった結果を主に伝えてきたのですが、何をどういう風に考え、どんな思いを持って作ったのかという過程をもっと伝えなければと感じています。それぞれにストーリーがあり、ユーザーはそこに価値を見出す時代だと思うのです」

送り手である業界と、受け手である消費者の双方に伝えていくのが、これから果たすべき役割だと言う。

村上要(むらかみ・かなめ)さん
撮影=西田香織

そうした村上さんの姿勢がよく表れているのが、WWDJAPANが週に2回、発信している「エディターズレター」だ。

そこには、「ここが悪い」と叩くのではなく、「もっとこうすれば」、「ここがおもしろい」と、前に向かう視点が盛り込まれている。そこには「業界がより良くなってほしい」という思いが込められているのだ。「ファッションが好き」「ファッションはおもしろい」が、試行錯誤を続ける業界の未来を拓いていくのだろう。

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川島 蓉子(かわしま・ようこ)
ジャーナリスト
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。その後、伊藤忠ファッションシステムに入社。伊藤忠ファッションシステム取締役、ifs未来研究所所長などを歴任し、2021年、同社を退社。今後は「創造こそがブランドを強くし、偏愛がそれを支える」という思いをもとに、「偏愛百貨店」というブランドを立ち上げるべく準備中。

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(ジャーナリスト 川島 蓉子)

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