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「日本はご飯が美味しくていい国だけど…」旅行先を日本→東南アジアに切り替えた英国人のホンネ

プレジデントオンライン / 2022年4月13日 12時15分

一足先に開国したタイは空港も賑わい始めた(バンコク・スワンナプーム国際空港にて、橋賀秀紀氏4月4日撮影)

■「いったいいつになれば日本に行けるの?」

「コロナ禍が明けたら、日本に行きたいのだけれど、いったいいつになったら行けるんですか? シンガポールやマレーシアは開国するのに……」

3月下旬のこと、スイスからロンドンへ飛ぶフライトを待っていたら、隣に座っていた英国人男性が、筆者が日本人と見るなりそう尋ねてきた。「今年になってから日本へ行けるチャンスを狙っているけれど、許可を取るのは難しそうで……」と言いつつ、「この夏は東南アジアで休暇を過ごすことでそろそろ予定を組もうかと考えているところだよ」とのことだった。

英国人のアジア旅行先はもともと東南アジアが人気で、日本は新参の部類に入る。2019年のラグビーW杯開催の成功に続き、昨年夏にはなんとか東京五輪を開催し、行ってみたい旅行先として人々が関心を持ち始めた。

■味噌入りケーキ、カツカレー…日本食がブームに

欧州の人々の間では、「コロナ明けの長期休暇は日本で」という声が意外と高まっている。例えば英国では、コロナ禍をきっかけに、日本食をベースとした料理が急激にポピュラーになった。人気の料理研究家が「味噌」を使った料理レシピを考案し、ついには紅茶のお供に食べるケーキにまで味噌を入れる怪しいお菓子が登場したこともある。

コロナの巣ごもり需要で、家庭で料理をする機会が増えた英国人たちの間では、新たに「カツカレーライス」が大衆的なメニューとしてすっかり浸透。じゃがいもや玉ねぎを切って、カレールーと混ぜて、チキンにパン粉をつけて揚げる(豚肉ではない)という料理が普及した。

しかし、日本食らしきものを口にし始めた人々の間では「どうもこれらの料理は本物ぽくない、怪しい」という疑問は当然湧き、ならば一度はおいしい日本料理を食べに行こう、というモチベーションが高まってきたのも無理はない。

しかし、くだんの男性のように「日本に行きたい心を抑えて東南アジアへそれっぽいものを食べに行く」という人々もまた多そうだ。

■東南アジアは観光復活に向け次々と「開国」

シンガポールを筆頭とするASEANの国々は4月1日前後に相次いで入国規制を全面解除した。ワクチン接種者に限るが、出発前にPCR検査を済ませ、陰性証明を取得してさえいれば、ほぼコロナ禍前と変わらない形でバカンスを楽しめるわけだ。

筆者が確かめたところでは、すでにベトナム、マレーシア、インドネシア、カンボジアが到着時の隔離措置なしで入国できるほか、タイも到着後1泊2日のホテル待機を済ませればあとは自由に行動できるようになっている。

こうしたアジアの国々のなかには、国の経済全体における「外国人観光客による出費」への依存度が2割を超える国もあるほどで、一日も早い国境の開放は不可避の課題だった。外国人受け入れを軸とした旅行業の復活に対する国民のモチベーションが高いこうした国々での滞在は、欧州人たちもきっと気持ちよく過ごすことができるだろう。

裏を返せば、欧州の人々から見ると「東南アジアは開き始めたが、日本はまだ開かない」という形に映る。政府は6日、106カ国に対する入国拒否の解除を決めたが、依然としてビジネスや留学目的に限定されたまま。せっかく日本は世界的な大イベントを2つやり遂げたのに、今もなお訪日を希望する人々の期待を挫(くじ)く政策を続けているのはいかにも惜しいと感じる。

欧州内を飛ぶフライトはどの区間もどこの区間もほぼ満席で飛んでいる(4月4日LCCライアンエアー機内にて)
筆者撮影
欧州内を飛ぶフライトはどの区間もほぼ満席で飛んでいる(4月4日LCCライアンエアー機内にて) - 筆者撮影

■「日本は政治家がきちんと働いていないのでは?」

「どうして日本は開国しないのでしょうか。公衆衛生が優れた国だから、コロナ感染のコントロールもできているでしょう? なのに、外国人に対して入国を許さないのは、政治家がきちんと働いていないとか、そんな事情ですか?」

男性が日本についてあれこれ質問してくるのは、本人曰く「姪っ子が最近日本語を習い始めたからボクも関心を持つようになってねえ」とのことだが、そのわりに情報収集力には目を見張るものがある。

あえて男性の職業は聞かなかったが、スイスと英国を行き来している人の中には金融・証券関係の従事者がとても多い。小さなできことでも金融マーケットの数字に跳ね返ってくる可能性があるのだから、ニュースに対する理解や解釈はとても鋭い。

正直なところ、筆者は答えに窮した。あえて、日本で一般的に言われている意見を参考にこう答えてみた。「多くの日本人は、どうも外国人がくるとコロナが拡散すると思っていて、訪日客に来てほしくないようなんです。日本ではこの夏、大きな国政選挙があり、現政権はそうした人々の人気を取る作戦のようなんですよね」

しかし、英国人男性はなおもたたみかけてきた。

「この円安傾向では、相当な物価高になっているのではないですか。ウクライナがあんなことになっていて、石油価格がどんどん上がっているし……。欧州もロシアのガスを買う買わない、という問題があって物価高ですが、資源がもともとない日本はもっとたいへんでしょう?」

■昨年から段階的な“出口戦略”を進めていた

「円安なんだから、日本であれこれ買いたい外国人もいそうなのに、このタイミングで開国しなくて、いったいどうするつもりなのか理解できないですよね。やっぱり政治家がサボっているようにしか見えないですよ」

この男性が首をかしげるのも無理はない。すでに開国に踏み切ったシンガポールなどのASEAN諸国も、なにも4月になっていきなり国境を開いたわけではないからだ。最も外国人受け入れが早かったのは、タイ政府の取り組みだった。

昨年7月、リゾート島として知られるプーケットについて「サンドボックス・プログラム」の名で、限定的ながら「ここだけでも入れるから、外国人リゾート客に来てほしい」との政策を打ち出した。これは、ワクチン接種済みならリゾート客への隔離措置が免除され、限定対象エリア内を自由に旅行できるという観光再開計画だ。

一方、シンガポールは、まずはコロナ感染がコントロールされている安全な国を選び、「指定国から直行で来るなら、隔離不要」と段階的な出口戦略をとった。この結果、英国など指定を受けた国の人々は「自由に出歩けるなら行こう」と、シンガポール行きのプランを組んだわけだ。なお、4月1日からはワクチン接種完了を条件にすべての国からの入国を認めている。

■「タイもシンガポールもやり方が賢い」

こうした状況について、タイで日本への送客を行っている旅行会社の幹部は、インバウンド事業再開の動きをこう分析する。

「タイもシンガポールも特定の範囲を決めて、そこだけをしっかりコロナ感染から守るという方法で部分的な開国に踏み切った」と指摘。「プーケットについては、感染規定を外国人にも守らせるからと、地域住民へもしっかり説明していた」と部分開国が始まった当時の状況を振り返る。

夏休みと休日のシーン
写真=iStock.com/LiuNian
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LiuNian

「行ける地域が限定的であっても、明確なルールを提示して外国人の受け入れを行った。バカンスの予定を組む欧州などの人々に『タイやシンガポールにはいつか行ける』と期待を見せ続ける方法は賢いやり方だった」と評価する一方、「日本も限定的な地域でも決めて、特定国からチャーター便で団体を入れて、インバウンド復活への布石でもやらなければ。何らかの形で、住民と共にインバウンドをこじ開けるという気概がないとダメだ」と力説する。

■「桜の季節には入国できる?」と問い合わせが来たが…

実際に、プーケットのサンドボックス実施は順調に推移し、1月以降は1カ月あたり9万人弱の外国人観光客を受け入れた。4月上旬時点では、タイ全土に行くには24時間のホテル隔離が必要なものの、1日の入国者が1万5000人の水準まで戻ってきている。

こうしたアジア諸国の積極的な動きがあるなか、日本Loverの外国人たちは訪日への見通しをどう立てるだろうか。

「タイやシンガポールも開くんだから、日本も桜の季節には開くんでしょう、という問い合わせも多かった。しかし、皆さん見ての通り、日本政府は今もって、どういうタイムラインで外国人観光客の受け入れを行うのか、具体的なプランを示してくれない。これじゃあ、外国人が日本行きのプランなど組んでくれるわけがない」(国内のインバウンド向け旅行会社社長)と嘆く。

■「日本にお金を落としたい」需要を相当取りこぼしている

日本の各種報道で取り沙汰されているように、日本の「悪い円安」はもはや金融制裁を食らっているロシアの通貨ルーブルよりも弱いとの説もあり、「世界の主要通貨」に対してひとり負けという立ち位置にある。これだけ円安が進むと、英国人男性のみならず、誰もが「日本へ買い物に行きたい」と思うのは当然だ。

深刻なのは、欧州以上にマニアックな日本好きが多いアジア圏からの需要を失うことで、大都市はおろか地方の観光地が潰えそうになっていることだ。インバウンド旅客のパイが大きい中韓だけでなく、ASEAN諸国からの需要も相当量取りこぼしている。インバウンド政策に携わる官僚や政治家は「中国や台湾、韓国が今もなおコロナで鎖国中だから、日本を開国しても大した稼ぎにはならない」と勝手に決めつけてはいないだろうか。

4月初旬までに国境を開けた東南アジアの国々は、日本への旅行需要が中国などと比べたら相対的に小さかったところが多い。コロナ禍を経て、日本にとっての新たなインバウンド市場に訴えかけるにはちょうど良いチャンスなのに、そうした機会を自分たちでみすみす逃してはいないか。

■「オワコン観光地」の烙印を押されかねない

円安に歯止めがかからない今、外国人訪日客による消費はコロナ禍、ウクライナ侵攻と立て続けに打撃を食らった日本経済の復活につながる。日本のコロナ鎖国が長引いたことから、海外での資源や穀物の買い付け競争でも買い負けていると聞く。安い円を使って、他国の買い付け額より高い値段で買わされていたのでは、物価の高騰に拍車をかけることになる。

居酒屋の入り口に赤い提灯の紙ランプが照らされた暗い夜の祇園地区の狭い空の路地
写真=iStock.com/ablokhin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ablokhin

旅行業界も海外の訪日予備軍の人々も待ち焦がれている「コロナ鎖国からの開国」だが、岸田文雄首相は先の会見で、こうした人々の期待に反して「具体的にいつからとかという予定は、確定はしておりません」と述べ、近々の「開国はない」ことを改めて公言した。これでは、すでに開国した国々と比べ、国際的な旅行マーケットでの日本のプレゼンスがどんどん収縮してしまう。

ただ漫然と「外国人来ないで」のポピュリズムに流され、然るべき準備なくインバウンド事業を放置している現状は、日本経済にとって適切な方向なのだろうか。ロジックを立ててしっかりと対策を練っている東南アジアの国々の取り組みには学ぶところが多い。「日本は良い国だから、開国すれば人が来る」とただ待っているだけでは、国際的な旅行市場から「日本はオワコン観光地」との烙印を押されてしまうかもしれない。

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さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。■Facebook ■Twitter

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(ジャーナリスト さかい もとみ)

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