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上位はスカスカな「まとめ記事」ばかり…そんなグーグル検索より便利な次世代サービスの共通点

プレジデントオンライン / 2022年4月30日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Riley Shot

「Google検索は死にかけている」と題するブログ記事がアメリカで話題になった。Googleに一体何が起きているのか。AIビジネスデザイナーの石角友愛さんは「役に立つ生情報がTwitterやInstagramなどで投稿されるようになり、Googleの検索結果にユーザーから不満の声が上がり始めた。Googleはネット社会の変化に対応する必要がある」という――。

■情報の濃い「生情報」にたどり着けない

今年2月、アメリカで「Google Search Is Dying」(Google検索は死にかけている)と題したIT系ブログ記事が話題となりました(※1)

※1:DKB「Google Search Is Dying」

この記事のポイントは、「広告」と「SEO」の蔓延でGoogle検索の質が低下し、ユーザーの「Google離れ」が起きているというものです。

ユーザーはどこに不満を抱いているのか。それは、なにかを調べたいと思ってGoogle検索をしても、上位には情報の薄い「まとめ記事」が出てくるばかりで、体験談やレビューといった「生情報」にたどり着けないという問題があるからです。

■試しにグーグルで「トンカツ 新宿」で検索すると…

この傾向は、特に商品や店のレビューで顕著です。

例えば「トンカツ 新宿」と検索すると、最上部にはGoogleマップとそれに紐付く複数の店名とレビューが表示されます。その下に出てくる検索結果のトップは「食べログ」のランキング、次は「ぐるなび」です。さらにまとめサイトや有名店のホームページなどが続きます。

残念ながら、トンカツマニアのブログなど、トンカツ愛にあふれた個人発信の記事は1ページ目にも2ページ目にも出てきません。

グルメサイトやまとめサイトにも役に立つ情報はたくさんあります。それを求めている方もいるでしょう。また、グルメサイトの多くがUGC(ユーザーが情報発信をする形でコンテンツを提供しているサイト)の形態をとっており、例えば食べログではレビューを読むことで「生の情報」に触れることができます。

しかし、それらのサイトにはいくつもの広告が貼られ、サイト内のランキングの信用性やレビューの公平性には疑問も向けられています。著名グルメサイトでは人気レビュアーが人気店から見返りをもらっていたことが明らかになり、大きな問題になったこともあります。

このように、公平な情報かどうかが分からないレビューサイトやまとめサイトがSEOを最適化させることで検索結果の上位に出てくるGoogle検索では、バイアスのない記事やオーセンティックなサイトにたどり着くことは、難しくなっています。

冒頭で紹介した「Google Search Is Dying」という記事のタイトルは必要以上に過激なものですが、驚くほど話題を集めたのは「Google検索は使いにくくなった」と感じている人が多いことの表れでしょう。

■本物の生情報はどこで得られるのか…アメリカで人気の「Reddit」とは

それではGoogle検索に代わる情報収集の方法はあるのでしょうか。私の住むアメリカでは近年、「Reddit」の利用が増えています。

Redditは掲示板型のニュースサイトです。誰でも自由に掲示板を閲覧でき、ユーザー登録をすれば書き込みができて、写真や動画、サイトのリンクも掲載可能です。日本の匿名掲示板サイト「2ちゃんねる」(現在は「5ちゃんねる」)などに形態としては近いですが、コンテンツの質や量を見ると、異なるものであることが分かります。

アメリカで人気の「Reddit」
アメリカで人気の「Reddit」

サービス自体は2005年にスタートしていますが、特にここ数年で存在感を増しています。2021年1月にはRedditを舞台に「ゲームストップ株騒動」が起きました。これはRedditに集った個人投資家たちが、ヘッジファンドが空売りした米ゲームストップの株を多数購入するなどして株価を乱高下させた事件です。日本でも大きく報道されたため、知っている方も多いでしょう。

Redditは日本ではあまり知名度はありませんが、世界の月間アクティブユーザーは4億3000万人にのぼり、特にアメリカで人気があります。

各種SNSのGoogle検索ボリュームの推移
各種SNSのGoogle検索ボリュームの推移 画像引用:Chartr「Social Media: When Was Each Platform Generating Its Peak Buzz On Google 一番下の中央がReddit。インスタグラムと並んでGoogle検索量が増え続けていることが分かる

Redditで調べ物をする場合、Redditの検索窓も使えますが、あまり操作性がよくありません。そこで、Redditで調べ物をしたい時には、Google検索で「検索クエリー Reddit」と打ち込むのがおすすめです。

実際に冒頭で紹介した「Google Search is Dying」の記事内で、Google検索では検索ワードの直後に「Reddit」がレコメンドされることが多くなっていると記載があります。それだけ「検索クエリー Reddit」と打ち込む人が増えているのでしょう。

■「生情報」と「信頼性」を作り出すRedditの仕掛け

Redditがここまで人気を博した理由は、主に2つあると考えています。

一つ目が「Subreddit(サブレディット)」です。ジャンルごとのコミュニティのようなもので、2ちゃんねるの「板」に相当すると考えてください。とても細分化されているのが特徴で、各種サブレディットの数は2021年で280万にのぼります。

中には大きなサブレディットもあり、例えば、ゲームストップ株騒動の発端となったのも「WallStreetBets(WSB)」という人気サブレディットでした。

「WallStreetBets(WSB)」という人気サブレディット
「WallStreetBets(WSB)」という人気サブレディット

サブレディットの種類は多岐にわたります。例えばその中から映画のサブレディットを開き、先日アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「Drive My Car」を検索してみます。するとNewsやDiscussionなどのタグがついた結果が表示されます。

その中のDiscussionを開いて見ると、多数のユーザーが映画の感想や内容に関する個人の見解を投稿しています。しかも一人の書き込みに対し、ほかのユーザーが書き込みをしてやりとりが生まれ、話が広がっていくのでとても臨場感があります。

まさに「生の情報」です。

Discussionを開いて見ると、多数のユーザーが映画の感想や内容に関する個人の見解を投稿している。
Discussionを開いて見ると、多数のユーザーが映画の感想や内容に関する個人の見解を投稿している。

■信頼できる情報はユーザー、コンテンツごとに判断される

理由の二つ目が、投票システムです。Reddit内の投稿の左側には上下の矢印がついていて、上向きの矢印を押せば「Upvote(賛成)」、下向きを押せば「Downvote(反対)」となります。

投稿のポイントは、賛成ボタンで増え、反対ボタンで減ります。ポイントの高い投稿は上位に表示され、ポイントの低い投稿は下がっていきます。そのため誹謗(ひぼう)中傷や嘘などマイナス評価が付きやすい投稿は、自然と目に触れにくくなるのです。

また「Karma(カルマ)」というユーザーごとの評価制度もあります。投稿に紐付けられたユーザーのプロフィールからカルマの数字を見ることで、その投稿の「信頼度」を測ることができます。

このようにユーザー一人ひとりやコンテンツの一つひとつが、その他のユーザーによって評価を受けて、蓄積された評価によってサイト上での表示順などが変化する仕組み、すなわち、他者からの過去の評価が大事な指数になることを「評価経済」と言います。

Redditでは、「評価経済」の仕組みをサイトのさまざまな箇所に戦略的に組み込むことで、「生の情報」と「信頼性」を担保しているのです。

■インスタやツイッターの「生情報」は検索に引っかかりづらい

先ほど、Google検索の質が落ちたのは主に「広告」や「SEO」が原因だと述べましたが、実はもう一つ要素があると考えています。それが「生情報の分散化」です。

2000年代のブログ全盛期には、個人がブログで日常の出来事から商品レビュー、旅行記まで「生の情報」を発信していました。

ところが資金力の豊富な企業がSEOを重視したサイト運営をするようになり、アルゴリズムが変わっていくにつれて、大きなトラフィックを生まない個人ブログは上位に表示されにくくなっていきました。

書き手の思い込みや意見をふんだんに盛り込んだ個性的なブログが表示されづらくなる一方、SEO対策を施した中身の薄いまとめ記事が上位に表示されるようになったのです。

その結果、ブロガーたちは発信場所をInstagramやTwitter、Redditなどに移していきました。私が長年ウォッチしていたファッションブログも、先日更新を停止し「今後はInstagramに注力していきます」とアナウンスしていました。

カフェでスマホを使用する女性
写真=iStock.com/Sushiman
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sushiman

これは、ウェブサイトを更新するコスト(ブログを毎日書くのは、毎日Instagramを投稿するよりもはるかにコストがかかります)に見合うリターンが得られなくなったための経済的選択です。

こういった流れにより生情報を提供するサイトが減少してきているのです。Google検索では、InstagramやFacebook内に投稿されたコンテンツの細かい内容まではクローリングできないため、検索結果には表示されません。

Google検索では求める生情報がそもそもウェブサイト上に掲載されておらず、さまざまなアプリや外部クローラーをブロックするサイト上に分散してしまった——。このためGoogle検索は生情報になかなかたどり着けず、ユーザーの期待に応えるような検索結果を出せなくなっているのです。

■独自の存在感・役割をみせる日本のTwitter

アメリカでは情報収集ツールとしてRedditを活用する人が増えていますが、現時点では英語圏での普及にとどまっています。日本ではほとんど普及していません。

それはなぜか。言語以外の理由を挙げるとすれば、おそらく日本ではTwitterが独自の存在感を示しているからではないでしょうか。

日本の多くのTwitterユーザーは、複数のアカウントを使い分けています。趣味や仕事、興味関心に合わせて複数のアカウントを作り、属性が似ていたり、その分野に詳しかったりするユーザーをフォローすれば、特定ジャンルのリアルタイムで有益な情報が得られます。

Twitterは文字数が140字に制限されているため、一つの投稿で発信できる内容は限られます。ですが、投稿にコメントを追加しつなげていくことで長文も投稿可能です。Twitterをブログのように使っているケースもよく見かけます。

日本のTwitterは、オーセンティックな情報を集める場所として、また情報発信ツールとして、Redditやブログのような役割を持っているのかもしれません。

■「実名経済」から「偽名経済」へ

少し話が飛びますが、最近のIT業界では「偽名経済(Pseudonymous Economy)」が話題を集めています。

これは暗号資産取引所Coinbaseの元CTO、バラジ・スリニバサン氏が提唱したもので、偽名・ニックネームでも活動でき、お金を稼ぐことができる経済・社会を意味します。

これまでは銀行口座や証券口座の開設、クレジットカードの発行、就職などはすべて実名が前提でした。ですが、最近では例えば暗号資産では、海外の取引所の一部は自由にユーザー名を設定でき、本人確認なしで取引ができます。DAO(自立分散型組織)では、ニックネームで登録し、組織内で働いて対価を得ることができるものもあります。

スリニバサン氏は、Twitterやメディアのインタビューなどで「偽名は分散化と同じくらい大事だ」と主張し、すでにSNSの世界で主流になっていると指摘しています。

■蓄積した評価が高ければ、影響力が高くなる

Facebookは実名で登録してもらうことで信頼性を獲得し、ユーザーを増やしていきました。

ただ、今のネット社会においては実名で意見を表明したり活動したりしていくことは、誹謗中傷など一定のリスクを伴います。その点、偽名であればプライベートな生活を切り離せるため、ある程度安心でしょう。

また偽名を使うことで、現実社会に存在する本人とは別の人格をSNS上に作り出すことができます。RedditでもTwitterでも、多くのユーザーが偽名を使っています。しかし、提供するコンテンツの質や頻度など、貢献度により一定の信用や評価が得られれば影響力を持つことは可能であり、お金を稼ぐこともできるのです。

ビットコインの発案者である「サトシナカモト」も偽名と考えられていますが、それでもその存在が今の社会に多大な影響をもたらしたことは間違いありません。

Redditの広がりは、「実名経済」から「偽名経済」への変化の一端とも考えることができます。偽名経済でも、過去に蓄積した評価という指標があれば、インターネット上では問題なく情報発信をすることができ、影響力を持つことができるようになっています。

今後、具体的な生情報を求めるユーザーたちは、評価経済の仕組みをたくみに導入している場所で、偽名の個人が提供する情報を取り入れることが多くなるかもしれません。

■Google検索は生まれ変わることができるのか

このように、Google検索結果の質が低下してきているという問題は、単にGoogleの問題だけでなく、ウェブサイト全体のエコシステムが近年大きく変革を遂げていることの象徴でもあることが分かります。

情報が分散化し、有名メディアなどの権威がある情報元以外にも、評価経済の仕組みにより信用を得た個人が影響力を持ち、さまざまなプラットフォームで情報発信ができるようになりました。さまざまなSNSアプリが存在し、ユーザーはアプリごとに使い分けを行い、特にZ世代は、求めている情報をアプリ内で直接検索をする傾向が強くなっています。

シアトルのサウス・レイク・ユニオンにあるグーグル本社・日没時
写真=iStock.com/400tmax
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/400tmax

とはいえ、Googleが非常に高い検索技術を有していることは間違いのない事実であり、新しい検索エンジンのスタートアップも登場しているものの、Googleほどの使いやすさではないことが多いのが現実です。また、Googleの広告収入は伸び続けている現状から分かることは、広告主にとって価値の高いツールであるということです。

いずれにせよ、Googleがこの状況に何ら対策を講じないとは考えにくく、「Google検索は死にかけている」と題するブログ記事に書かれているような、Google検索に不満を持ち始めているユーザーの声を無視することはできません。

例えば、今まで検索でクローリングできなかった情報サイトを検索可能にする、あるいはGoogle検索結果という世界で、より信憑性の高い個人が発信する生情報を増やしていくことになるでしょう。

ビジネスとしての拡張性を含め、新たな展開を見せてくれると思います。

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石角 友愛(いしずみ・ともえ)
パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
ハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、グーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをリード。その後、HRテック・流通系AIベンチャーを経てシリコンバレーでパロアルトインサイトを起業。データサイエンティストネットワークを構築し、日本企業に対して最先端AIの戦略提案から開発まで一貫したDX支援を提供。AI人材育成にも意欲的で、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)や、東京大学工学部アドバイザリー・ボードを務めるなど幅広く活動している。毎日新聞、日経クロストレンド、ITmediaなどで連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)『"経験ゼロ"から始める AI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)など多数。

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(パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー 石角 友愛)

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