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今年は「トカゲ台風」がやってくる…台風に「○号」という数字だけでなく愛称があるワケ

プレジデントオンライン / 2022年4月12日 19時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Elen11

4月8日、今年初となる台風が太平洋上で発生した。これを報じるニュースには「台風1号(マラカス)」とカタカナ名が併記されている。なぜ数字だけでなく、わざわざ個別の名前が用意されているのか。サイエンスライターの今井明子さんが解説する――。

■気象庁オリジナルの命名は番号順

過去に大きな災害をもたらした台風は、名前とともに語り継がれるものです。日本では、1947年に利根川流域で大規模な被害をもたらした「カスリーン台風」や、1959年に明治以降最多の死者・行方不明者を出した「伊勢湾台風」がよく知られています。

最近では2013年にフィリピンで6~7mの高さに達する高潮を発生させ、甚大な死者・行方不明者を出した「ハイエン」という台風の名前を耳にしたことのある人もいることでしょう。

台風が発生すると、気象庁では1月1日以降でもっとも早く発生したものを「台風第1号」とし、それから発生順に2号、3号……と番号をふっていきます。そして次の年に最初に発生したものは再び1号と呼ばれます。

これだと命名は簡単なのですが、印象に残りづらいのが欠点です。番号は人の記憶に残りにくいですし、「大きな災害をもたらした台風15号」といっても、それが2000年のものなのか、2019年のものなのかはわかりづらいです。このため番号ではなく「名前」でしばしば呼ばれてきました。

■なぜ昔の台風は女性名が多かったのか

こうした台風の名前は、かつては「カスリーン台風」のように女性の名前でした。これは、北大西洋と北東太平洋、中央北太平洋に発生するハリケーンの命名方法にならったものです。

なぜ女性の名前なのかは諸説ありますが、アメリカの空軍や海軍の気象学者が、彼らの妻や恋人の名前をつけて親しみを込めて呼び始めたという説が有名です。その後、男女平等の観点から1979年以降は男性と女性の名前が交互に使われるようになりました。

現在のハリケーンの名前は世界気象機関(WMO)が作ったリストから命名されています。リストの内容はハリケーンの発生するエリア(北大西洋、北東太平洋、中央北太平洋)ごとに違いますが、大西洋の場合はAから始まるアルファベット順で、Q、U、X、Y、Zを除外した21個の名前リストがあり、その年に最初に発生したハリケーンにAから始まる名前がつけられます。

さらに1年で22個以上ハリケーンが発生した場合は、Aから始まる追加の名前リストから命名されます。ただしこれは2021年からの話で、2020年までは追加の名前が必要になった場合は「α」や「β」などのギリシャ文字がつけられていました。

WMOによる2021年のハリケーン名リスト(編集部作成)
WMOによる2021年のハリケーン名リスト(編集部作成)

■1999年までは台風もハリケーン式命名法だった

北西太平洋と南シナ海で発生する台風に関しては、1999年まではハリケーンの命名方式にならってアメリカの米軍合同台風警報センターが人名をつけており、それが国際的な報道の分野から学術論文にまで使われてきました。

とはいえ、日本では人の名前の台風は戦後すぐのものというイメージが強く、比較的最近まで人の名前がついていたことを知らなかった人も多いのではないでしょうか。実際、私は1978年生まれですが、物心ついてから成人するまでの台風に人名がつけられていたことは知らず、もっぱら番号でしか台風の名前を認識していませんでした。

実は、気象庁では女性の名前を国内の情報に使ったのは1953年の台風2号までで、それ以降は船舶や航空機などに向けた国際的な予報や資料にのみ人名を使っていたのです。ただし、1972年までアメリカの占領下にあった沖縄では、本土よりは長い期間、アメリカ流の人名が浸透していました。

■台風委員会が140個の名前リストを用意している

というわけで、台風の名前に人名を使っていたのは1999年までで、2000年以降からは命名方式が変わりました。アメリカ人の人名は日本やアジアの国々にとってはなじみが薄いため、アジアの人々の防災意識を高めるためにもアジア名をつけようということになったのです。また、アジア名をつけることでアジア各国・地域の文化を尊重して連帯を強めるという目的もあります。

このアジア名を命名しているのは、台風委員会です。台風委員会は台風による災害を減らすために1968年に設立された国際組織で、日本を含む14の国と地域で構成されています。

台風の名前は、台風委員会の加盟国・地域が各10個ずつの名前を出しています。そして合計140個の名前をリストにして並べ、発生した台風順に命名しています。141個目の台風はふたたびリストの1番目の名前が命名されるのです。

なお、このアジア名もいわゆる「国際名」と呼ばれるもので、船舶や航空機などへの予報や学術論文などの国際的な情報に主に使われていて、国内向けの情報は各国が独自に名付けた台風の名前を使っています。ですから、日本でも引き続き「台風○号」という番号方式の命名は続いています。

■日本が出した名前はすべて星座名由来

アジア名には、文字数が多すぎないもので発音しやすいもの、ほかの国の言葉で感情を害する意味を持たないものなどの条件があります。要するに、「アホ」とか「バカ」はダメということですね(ちなみにアホはスペイン語でニンニクのこと、バカは同じくスペイン語で牛のことです)。ほかの国では動植物の名前や神様の名前、地名や物語の登場人物などがアジア名として使われています。

日本から出している名前は、「コイヌ」「ヤギ」「ウサギ」「カジキ」「コト」「クジラ」「コグマ」「コンパス」「トカゲ」「ヤマネコ」の10個です(2022年4月現在)。

これらの言葉の共通点は何でしょうか?

答えは星座名です。なぜ星座名なのかというと、固有名詞ではなく気象現象の名前でもないから、そして自然の名前なので利害関係が発生しにくいから、台風と同じく空にあって人々に親しまれているからという理由が挙げられます。「コンパスって日本語だったっけ?」「なんでイヌじゃなくてコイヌなんだよ」とツッコミを入れたくなりますが、そういった事情がわかれば納得ですよね。

■オーストラリアでは市民がサイクロンに命名できる

ちなみに、インド洋と南太平洋で発生するサイクロンに関しては、発生する場所によって命名する組織が違うようです。北インド洋の場合はインド気象局がサイクロンの命名を担当し、名前は南アジアや中東の13か国が提案しています。こちらは台風と似たような方式といえます。

そして、南インド洋や南太平洋などのオーストラリア付近の場合はオーストラリア気象局が命名を担当し、人名をつけています。こちらはハリケーンと似たような方式です。ちなみに、面白いことに、オーストラリア付近のサイクロンにつけられる名前は、一般市民からのリクエストを受け付けています。ただし、オーストラリア気象局のホームページには、「リクエストがものすごく多いので、必ずしもリクエストが通るわけではない」「通ったとしてもサイクロンに命名されるまで10年以上かかる」という注意書きもあります。

■台風の名前は「引退」することもある

このような台風のアジア名は、ときには引退することがあります。台風が大きな災害をもたらすと、そのアジア名は引退して、かわりの名前がリストに加わることもあるのです。

ヤシの木で、ストーム
写真=iStock.com/Sergey Gordienko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sergey Gordienko

たとえば冒頭であげた「ハイエン(中国名でウミツバメの意味)」はフィリピンでおびただしい死者を出したことから引退しました。そして、2019年に房総半島で大規模な停電を引き起こした台風15号の「ファクサイ(ラオス語の女性の名前)」と、同じ年に多摩川流域での氾濫をもたらした台風19号の「ハギビス(タガログ語で「素早い」の意味)」も引退しました。

同じ名前が再び命名されてしまうと、「え? あの大災害をもたらした台風がまた来るの?」と混乱してしまいますよね。これは台風に限らず、ハリケーンもサイクロン(インド、オーストラリア両方)も同様のルールです。

また、これまではアジア名について説明してきましたが、台風は気象庁からも命名されることがあります。特に国内で甚大な被害をもたらすと、地名などがついた名前がつけられるのです。

たとえば、1954年の洞爺丸台風や前述の伊勢湾台風などがこれにあたります。2019年の台風15号と19号も甚大な被害が発生したため、前者は「令和元年房総半島台風」、後者は「令和元年東日本台風」と命名されました。このように気象庁が命名することは1977年以降なかったため、いかにこの2つの台風の被害が大きかったかがうかがえます。

このような命名のルールを知っておくと、台風情報にもっと興味を持てるようになるのではないでしょうか。次に台風が発生したら、ぜひアジア名にも注目してみてください。

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今井 明子(いまい・あきこ)
サイエンスライター
1978年生まれ。京都大学農学部卒。気象予報士。科学系(主に医療、地球科学、生物)をはじめ、育児、教育、働き方などの分野で執筆。「Newton」「AERA」「東洋経済オンライン」「BUSINESS INSIDER JAPAN」「暦生活」などで執筆。著書に『こちら、横浜国大「そらの研究室」! 天気と気象の特別授業』(共著、三笠書房知的生き方文庫)、『異常気象と温暖化がわかる』(技術評論社)がある。気象予報士として、お天気教室や防災講座の講師、気象科学館の解説員なども務める。

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(サイエンスライター 今井 明子)

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