1ピース4000円超えのショートケーキが毎日完売…ニューオータニで超高級スイーツを買うのはどんな人か
プレジデントオンライン / 2022年4月22日 12時15分
■記念日に購入する人が圧倒的に多い
——「パティスリーSATSUKI」の「新エクストラスーパーメロンショートケーキ」といえば、1ピース4000円超の高級菓子として有名です。どんな方が買っていくのでしょうか。
【髙山剛和さん(以降、髙山)】記念日に購入される方が圧倒的です。そのためクリスマスは通常のショートケーキよりリッチな「スーパーシリーズ」と「エクストラスーパーシリーズ」が断然、支持されます。
——「エクストラスーパー」だけでなく、「スーパー」シリーズもあるんですね。これらのシリーズが生み出された背景を教えてください。
【髙山】ホテルニューオータニの開業40周年に当たる2004年に、お客さまへの感謝を込めたサービスを考える中で生まれたのが、「スーパー」シリーズの皮切りとなる「スーパーショートケーキ」でした。
グランシェフの中島眞介が、いちごは「あまおう」にこだわり、砂糖・卵・小麦粉といった材料ひとつひとつまで吟味して、1カット1000円で販売しました。
![「新エクストラスーパーメロンショートケーキ」](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/5/1200wm/img_a575f374951b9313fed282e2b027de1871424.jpg)
■大田市場であまおうを大量に買い求めた
——高級食パンが流行っている今ならわかるのですが、20年前にケーキ一切れ1000円超という価格は大きなインパクトだったのでは。
【髙山】マーケットには相当な衝撃だったようです。ただ私どもからすると1000円という価格は決して高いものではなく、「顧客還元価格」でした。正直、採算ベースではもっと高額で出さなければいけないケーキだったのです。他のパティシエから「こんな値段で売って大丈夫なのか」と心配されたこともあります。
あと、最高級のいちごを大量に大田市場で買い求めていましたので、他の飲食店の方々から、「水菓子として出すような高級品をどうして加工品で使うんだ」とのお声もあったようです。
——髙山さんにはヒットの確信、スーパーショートケーキの勝算があったのでしょうか。
【髙山】ヒットうんぬんでなく、使命感ですね。なぜ高級いちごである「あまおう」を加工品のケーキに使うのかと言えば、それをお客さまが求めているという思いがあったからです。新しい価値観を提供できなければ、決してお客さまに満足していただくことはできないだろうと。
■ピエール・エルメ・パリとの両輪で唯一無二の存在に
——ケーキに詳しくない自分ですら、「パティスリーSATSUKIのショートケーキはすごい」ことを知っていました。いちホテルのケーキがここまで有名になったのは、その「新しさ」ゆえですか。
【髙山】老舗ホテルであれ、新進のホテルであれ、ホテルのスイーツは昔からありましたが、指名買いされることはほとんどなかったと思います。
そんな中、ニューオータニは1998年に「パティスリーSATSUKI」の開店と同時に、伝説的パティシエ、ピエール・エルメ氏のブランドブティックを世界ではじめてオープンさせたんです。「パティシエ」という言葉が浸透する前で、紹介文には「お菓子職人」とただし書きを入れました。
日本で昔から愛されるスイーツを、日本の素材にこだわり、進化させて提供する「パティスリーSATSUKI」と、パリの本場の味を届ける「ピエール・エルメ・パリ」。この両輪によって、ニューオータニのスイーツが唯一無二になっていたのではないかと思います。
![手前はピエール・エルメ・パリの代表スイーツ「イスパハン」とコラボした「エクストラスーパーイスパハンショートケーキ」](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/e/1200wm/img_be8658126ad23b37b60b40c7580211a296076.jpg)
——98年のオープンを経て、2004年の「スーパー」シリーズが大評判を呼び、さらなる進化を遂げた「エクストラスーパー」シリーズが放たれるわけですね。
【髙山】2014年に開業50周年のアニバーサリー企画として誕生したのが「エクストラスーパー」シリーズです。
よりコンセプチュアルに、「新エクストラスーパーメロンショートケーキ」では使っているクリームも豆乳クリームにし、SDGsにも配慮しています。糖度14度以上のマスクメロン3分の1個分のメロンを使用しておりますので、箸休め的にライチの果肉も入れました。1ピース4000円超、1日限定20個でほぼ毎日完売しております。
■高級フレンチは無理でも、年に1度の高級ケーキなら買える
——「スーパーメロンショートケーキは1620円なので、「エクストラスーパー」の価格は2倍以上になります。強気ですよね。
【髙山】日本は平成の30年間、デフレに苦しみ続けました。お弁当がワンコインで提供され、居酒屋のメニューが300円均一という世界です。無駄を徹底的に省いた企業努力の賜物で、本当にすごいことだと思います。その一方で海外に目を向ければ、物価も賃金もどんどん上がっていて、「本当に日本はこのままでいいのだろうか?」という思いがありました。
![ニュー・オータニ執行役員の高山剛和さん](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/c/1200wm/img_3c88d21e8eea8b819dca9f5336169aff143926.jpg)
なぜ98年にケーキショップをオープンさせたかと言えば、バブルがはじけたからです。それまではビジネスマンの方をはじめ、多くの方が当ホテルの最高級フランス料理店「トゥールダルジャン 東京」にいらしていました。しかしバブル崩壊後は接待交際費も抑えられ、個人消費も冷え込んでいき、これまでと同じような頻度でトゥールダルジャン東京を使っていただくことが難しくなっていったわけです。
でも、だからといって、プレミアムな体験がしたくないわけではないですよね。誕生日は必ず1年に1度、誰にでもきます。その時、パティスリーSATSUKIのケーキなら1個1000円で買えます。たしかにコンビニエンスストアのケーキと比較すれば、相対的には高い。ただ、1年1度の記念日のために1個1000円のケーキは高いですか、ということだと思います。実際、年齢を問わずZ世代の方々もよくいらっしゃいます。
■「ご家庭の団らんから国際会議まで」を守り続ける
——ちなみに髙山さんはコンビニのスイーツも召し上がりますか。
【髙山】コンビニのスイーツはすばらしいと思います。本当に日本のコンビニはすごいですよ。もちろん私もよく食べています。
逆に、コンビニ各社の方々もSATSUKIのケーキをよく買われていくようです。皆さん研究されているのでしょう。常に進化をさせていこうという飽くなき探究心が、お客さまに新しいおいしさを提供してるのだと思います。研究して技を磨き合うのはお互いさまです。
——あらためて「スーパー」シリーズは富裕層向けの商品ではなく、プレミアムな体験を届けるためのコンテンツだったことがわかりました。
【髙山】「スーパー」、「エクストラスーパー」という名前も、わかりやすくすべての方に届くようにというところからのネーミングです。「もっとおしゃれな名前がいい」といったご意見があることも承知していますが、そこはわかりやすさを大切にしました。
1964年の東京オリンピックのために開業したニューオータニが当時掲げたキャッチコピーは、「ご家庭の団らんから国際会議まで」。つまりフルライン戦略、ターゲットは「全員」だからこそ、かっこよさよりわかりやすさなのです。
![ニュー・オータニ執行役員の高山剛和さん](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/0/1200wm/img_108636c97a13627943532acaeae49869133219.jpg)
■ニューオータニには「ゲートウェイ」の役割がある
——「スーパー」でとどまってはいけない理由が「デフレ日本」にあったというのも驚きでした。
【髙山】2月まで「愛媛かんきつフェア」として、こだわり品種の「甘平」「せとか」のパフェを提供していました。コロナの影響で飲食店が軒並み苦戦を強いられる中、生産者も窮地に立たされており、愛媛県からご相談をいただいて実現したものです。われわれとしては日本の魅力ある食材を商品化し、ブランド価値を高め、実売につなげていくお手伝いができればと思っています。次にチャレンジしたいのは「紅まどんなのショートケーキ」ですね。
日本は資源も少なく、人口もどんどん減っていく。これは抗いようのない現実です。だとすれば、日本のお役に立つのは民間外交の担い手であるわれわれホテルであり、ニューオータニに来ていただいた方を日本全国に誘う「ゲートウェイ」としての使命があると思っています。
——ケーキの話は日本の未来にまでつながっていたんですね。
【髙山】同僚からはよく「風呂敷を広げすぎ」と言われます(笑)。
コロナ禍になってからは、日本交通さんと一緒に「スイーツデリバリー」サービスをはじめました。「食べに行きたくても行けない」というお客さまの声から生まれたものです。タクシー業界もお客さまがいなくなって本当に苦労されていたので、お客さまからの課題も解決でき、パートナーであるタクシー会社さんもわれわれもうれしい、三方良しの取り組みができています。
だからホテルは面白いんです。なんでもできるんですから。
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編集者・ライター
1983年生まれ。TV制作会社を経て出版社に勤務。その後フリーランスとなり、書籍やフリーペーパー、映画パンフレット、広告、Web記事などの企画・編集・執筆をしています。ネタを問わず、小学生でも読める文章を心がけています。
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(編集者・ライター 小泉 なつみ)
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