地獄行きのバスに乗るようなもの…高齢者は「大学病院の専門医」をかかりつけ医にしてはいけない
プレジデントオンライン / 2022年4月16日 12時15分
※本稿は、和田秀樹『80歳の壁』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■高齢者は専門医の話は聞いてはいけない
今回のコロナ禍で、私は自分の患者さんに対しては、こう言っていました。
「マスコミとか、テレビに出ている医者の言葉を信じて自粛していると、歩けなくなりますよ。ソーシャルディスタンスをとっていれば大丈夫だから、マスクをしてでも散歩をしてくださいね」と。
それでも一部の人は感染を恐れ、外出しなくなりました。薬も家族が取りにきます。その結果、コロナにはかからなくても、足腰が弱ったり、ほかの病気が出てきたり、認知症が進んでしまったりしたのです。
もちろん、私の言うことがすべて正しいとは言いません。また、動物実験ばかりしているような医師の話が、すべて間違いとも言いません。
しかし、やはり高齢者になったら、大学病院の専門医ではなく、地域のいわゆる「町医者」をかかりつけ医にしたほうがいい、と私は思っています。
専門医は、高齢者を診る経験が少なく、高齢者診療の基本がわかっていない可能性があるからです。
■年を取るほど「個人差」が大きくなる
高齢者診療の基本は、個人に見合った診療をすることです。とくに70歳・80歳を過ぎた幸齢者の場合は、それが必要です。
年を取るほど、体の状態や身体機能は、個人差が大きくなるからです。たとえば同じ薬を飲んでも、効く人がいる一方で、だるさやふらつき、眠気などの症状が出てしまう人もいるのです。
高齢者診療の基本がわかっていない医師や、患者さんを観察していない医師にとっては、検査の数値が頼りです。薬を処方して正常値にすることが健康だと考えているわけです。このような治療が、体にダメージを与えることは明白です。
80歳の壁を超えていくには、いかによい医師を選び、よいつき合いができるか、が大きなカギを握ると言えます。
■よい医師の見抜き方
どんな医師を選べばいいと思いますか?
最も簡単な見分け方は、薬について話をしてみることです。
そもそも薬とは「体調をよくするためのもの」です。だから、もしも薬を飲んで具合が悪くなるなら、それは悪い薬なのです。量を減らしたほうが体調がよくなるなら、減らすのが正解なのです。
それなのに「これはよい薬だから」とか「薬をやめて死にたくないでしょ」などと取り合ってくれないようなら、その病院はやめたほうがいいと思います。
一方、患者の側も、医師に言われるまま薬を飲んだり、勝手に減らしたりするのではなく、素直に話をすることが大切です。
「この薬を飲むと体がだるくなる」とか「頭がぼんやりする」などと相談する。
まともな医師なら、「そうですか。薬が合わなかったのかもしれませんね」とか、「ほかの薬を試してみましょう」「お薬を減らしてみましょう」と対応してくれるはずです。そうした医師なら「よいかかりつけ医」になると思います。
■処方薬を飲むことで長生きするというデータはない
患者の話を聞かず、一方的に「薬を飲み続けよ」と言うような医師には、次のように言ってやりましょう。
「私がこの薬を飲み続けて、長生きできるデータはあるのですか?」
データなんてないはずです。にもかかわらず「動物実験ではこう」とか「海外の論文では」などと言うのなら、次はこう言ってあげましょう。
「日本では大規模な比較調査をやっているのですね?」
そもそも日本と欧米では、食生活も体格も違います。しかも日本人のほうが長生きです。それなのに動物実験や海外のデータを持ち出してくるのは、「臨床を知らない」と告白しているのと同じ。つまり患者を診ていないのです。
このような質問にタジタジになったり、怒りを露(あら)わにしたりする医師なら、こっちから願い下げです。大事な体を預けるわけにはいきません。晩年に、地獄行きのバスに乗るようなものです。
■待合室の雰囲気が明るいクリニックの医師を選ぼう
医師選びでは、医師との相性も大事になってきます。
80歳を迎える高齢者にとって、病院や医師はとても身近な存在です。診察の度に暗い気持ちになったり、気疲れしたりするような医師とは、つき合わないほうが賢明でしょう。相性がよくないのです。
病院との相性は、待合室に入った瞬間にもわかるものです。明るい感じがするなら、医師が患者さんときちんと向き合っている証拠です。反対に、どんよりと暗い感じがするなら、避けたほうが無難です。人生経験の豊富な、みなさんの感性が教えてくれているわけです。その直感を信じましょう。
病院は具合が悪いときに行く場所ですから、話をしていて気持ちがいいとか、真剣に話を聞き、応じてくれる医師のほうがいいに決まっています。
世間的な名医より、自分にとっての「明医」を見つけることが大切なのです。
「私の最期を看取ってほしい」と思えるようなら、相性は最高でしょう。
■高齢者には臓器別診療は弊害が大きい
日本の医療は基本的に「臓器別診療」のスタイルをとっています。このため病気を総合的な視点から捉えるのではなく、専門の臓器の状態から診断します。
医師は「健康の専門家」ではなく「臓器の専門家」なのです。医師が「病気が治る」と言うときは、「臓器の状態がよくなる」ということです。
近年ではトータルで病気を診る「総合診療」も増えてきましたが、全体からすればまだまだ少数です。
臓器別診療は、一概に悪いとは言えません。しかし80歳を過ぎる高齢者のような場合は、悪い方向に転がるほうが多いと私は思っています。
たとえば、循環器内科の医師は高齢者に「コレステロール値を下げよ」と指導します。動脈硬化になりやすく、心筋梗塞や脳梗塞で死ぬ人が増えるからです。
しかしコレステロール値を下げれば、免疫機能が低下してしまうのです。するとガンが進行したり、感染症にかかりやすくなったりします。
つまり、血管系の疾患で死ぬ人は減ったけど、ガンや肺炎で死ぬ人が増えた、ということが起こるのです。
事実「コレステロール値が高めの人のほうが長生きできる」という調査結果は多数ありますが、その逆はほとんどありません。
年を取れば、臓器の機能は全体的に低下します。ある臓器だけの治療をしても、ほかの面に支障が出てしまうことは少なくありません。「その臓器はよくなったけど、トータルでは不健康になった」ということが、往々にして起こるのです。
■臓器別診療は薬の量が増えてしまう
臓器別診療の弊害は、薬の多さにも表れています。
たとえば、検査をして「血圧が高い」と循環器内科では降圧剤を出します。
「頻尿だ」と医師にかかると泌尿器科でも薬が出る。さらに「血糖値が高い」ことがわかると内分泌代謝内科でも薬が出る。専門科それぞれで薬を処方され、気がついたら15種類の薬を服用していた、ということがよく起こるわけです。
多量の薬を飲み続けたらどうなるか? 体に大きなダメージがあるのは明らかです。なぜなら、薬は毒でもあるからです。特に高齢者になるほど多剤併用の害が明らかになっています。
もちろん、飲まなければならない薬もあります。だから、すべてをやめる必要はありませんが、日常生活の活動レベルを落とさないよう、最小限の薬にとどめる。これが高齢者の、薬との正しいつき合い方なのです。
■薬は必要な時に必要な分だけ飲む
日本には大規模な比較調査のデータがほとんどないので、薬を飲み続けても長生きできるという保証はどこにもないと言っていい状況です。
だったら、自分の思い通りに生きるのが一番です。
「たとえ数値が高めでも、元気に生きることを優先したい」
そのように伝えて、聞いてくれない医師なら、たいした医師ではありません。
そんな医師はこちらから見限ってやればいいのです。
「先生が言っているのだから」とか「先生に悪く思われるから」と医師の顔色をうかがい、我慢してしまう人がいますが、「薬を飲んだら長生きできる」という確証は医師にもないのです。
本来、薬とは体の具合が悪いときに、楽になるために飲むものです。長生きするために飲むというのが現代の考え方ですが、その証拠の調査、研究はちゃんと行われていません。
具合が悪いときには、我慢せず、飲めばいいのです。
頭が痛いなら、我慢せずに頭痛薬を飲めばいい。胃が痛くなったら、胃薬を飲めばいい。必要なときに、必要な分だけ飲むのが、薬との正しいつき合い方です。
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精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、現在、国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
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(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授 和田 秀樹)
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