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「日本のラーメンは驚くほど美味しいけれど…」中国の若者がカップ麺を嫌がるようになった理由

プレジデントオンライン / 2022年4月18日 11時15分

中国のスーパーで売られているカップ麺。紫色のパッケージの「老壇酸菜」味は、ずさんな製造過程が発覚して批判を浴びた - 筆者撮影

■「手軽で美味しい」カップ麺人気に翳りが…

3月末以降、上海市が新型コロナ(オミクロン株)の感染拡大の影響によりロックダウンとなっている。マンションの封鎖が長期間に及んでいる上海市民にとって最大の関心事は「食料確保」で、一時「即席麺(カップ麺、袋麺)さえも底をついてしまった」という嘆きがあちこちから聞かれた。

ただし、非常時の保存食として即席麺を必要としている地域を除き、中国全体では、即席麺の人気は急速に翳(かげ)りを見せている。即席麺といえば、保存が利き、味のバリエーションがあり、手軽で美味しい。とくに若者の間で人気があるというイメージがあるが、なぜ中国では人気がなくなってきているのだろうか。

中国最大の食品メーカーであり、即席麺(カップ麺を含む)市場で4割以上のシェアを誇る「康師傅(カンシーフー)」の2021年の売上高は約740億元(約1兆4000億円)で前年比9.5%伸びた。しかし、即席麺事業だけを見ると約284億元で前年比3.6%ほど減っている。二番手の「統一」も同様の傾向で、飲料は伸びているが、即席麺は苦戦している。

■靴で踏みつける、ポイ捨て…ずさんな製造過程を暴露

中国メディアの報道などを見ると、即席麺は長年売り上げを伸ばしてきたが、2015年ごろを境目として初めて減少に転じたという。それは世界ラーメン協会(WINA)のデータでも確認できる。同協会のデータでは、2014年に過去最高の約444億食を記録したが、2015年から減少し、2016年には約385億食にまで減った。

その後、コロナ禍の非常食という思いがけない「追い風」を受けて再び伸びているが、2020年にロックダウンされた武漢や、現在ロックダウンされている上海などでも、スーパーでは最後まで売れ残った即席麺もあったといわれている。

中国のSNSでチェックしてみると、とくに売れ残っていたのは「老壇酸菜」という漬物味の即席麺だ。今年3月、中国の「財経チャンネル」というテレビ番組で、この「老壇酸菜」味の即席麺を製造する行程に著しい不正があることが暴露された。この漬物を作る際、農家の作業員が素足や靴のまま漬物を踏みつけたり、タバコをくわえて作業していた作業員が漬物の中にそれをポイ捨てしたりしていた場面が撮影された。

そのことが明るみに出たとたん、多くの人々から「気持ちが悪い。絶対に二度と食べない」「やはり、見ていないところでこういうことをする労働者が中国には多い」「他にも何が入っているか分からない。怖い」などという批判が続出。その結果、ロックダウンが目前に迫った買いだめのときでさえ、スーパーでは最後まで手に取る人が少なかった。

■「カップ麺離れ」を生んだデリバリーの普及

上海でロックダウン中の若者数人に「(今回)即席麺を買ったか?」と聞いてみたところ、「仕方なく買ったが、当時はここまでロックダウンが長期化するとは思っていなかったので、それほどたくさんは買わなかった。以前から、即席麺は身体に悪いし、太りやすいし、栄養バランスも悪い、味気ない食べ物だと思って、買うのをできるだけ避けていたから」と話していた人が多かった。

なぜ即席麺の需要はそこまで落ちていったのか。そして、2015年ごろを境目として人気がなくなってきた背景にはどんな理由があるのか。取材していくと、大きく2つの理由があることが分かった。1つ目はデリバリーの急速な普及だ。中国で「飢了么」(ウーラマ)などのデリバリーが発達し始めたのはまさに即席麺の売り上げが落ちてきた2014~2015年ごろ。そして、それは同じ時期にスマホ決済が急速に増えたことと深く関係している。

中国のスマホが大型化し、4Gのサービスが開始され始めたのが2013~2014年。各地でWi-Fi環境が整い始め、通信速度も高速化した。同時にスマホで利用できるさまざまなアプリが誕生。中でも代表的なものが、アリペイ、ウィーチャットペイなどの決済サービスのアプリとデリバリーのアプリだった。

スマホで簡単に美味しい料理や食材が注文できるようになったことで、中国人の食生活は一変した。それまで、都市部の若者の残業飯として定番だった「仕事のデスクで夜遅くカップ麺をすする」というシチュエーションが激減したのだ。

中国の袋麺。調味料でジャンル分けされている日本とは違い、紅焼牛肉、西紅柿鶏蛋、香辣牛肉など中華料理で分けられている
筆者撮影
中国の袋麺。調味料でジャンル分けされている日本とは違い、紅焼牛肉、西紅柿鶏蛋、香辣牛肉など中華料理で分けられている - 筆者撮影

■「日本のカップ麺は美味しいけど、中国は…」

上海の独身男性に聞いてみると、「以前は週末も買い置きしていたカップ麺を食べていたが、デリバリーが便利になってからは、温かい中華料理やピザや日本料理を配達してもらっている。そのほうが100倍美味しいし、中国のデリバリーは値段もそんなに高くないから」と話していた。この男性は日本旅行に来て、日本でもカップ麺を食べたことがあると話しており「日本のカップ麺はわざわざ買って食べたいと思うくらいの美味しさ。驚きました。中国のカップ麺はそんなに美味しくない」と言っていた。

2つ目は、中国人の健康志向の高まりによって、即席麺を避けるようになってきたことだ。美食のレストランが急激に増えて選択肢が増えたことや、前述のような自国食品への不信感なども関係していると思うが、もともと中国では公園で体操や太極拳などをすることが盛んであり、医療への不信感、「医食同源」の考え方などもあって健康意識が高い人が多かった。だが、以前は経済的な理由で、あまり健康によくないと思っていても、「早い、安い、手軽」な即席麺に手を伸ばす人が大勢いた。

■中国人の意識を変えた「爆買い」ブーム

ここで少し中国の即席麺について紹介すると、中国では日本のように調味料(醤油、味噌、塩など)の味でジャンル分けしたものではなく、中華料理(紅焼牛肉、西紅柿鶏蛋、香辣牛肉など)の味でジャンル分けされている。日本同様、袋麺タイプ(5個パックなど)やカップ麺タイプ(普通サイズやビッグサイズ)があり、スーパーでは日本の何倍もの広い売り場で売っている。スーパーやメーカーによって異なるが、袋麺タイプ(5個パック)は13~20元(約190~380円)くらい、カップ麺は5~9元(約95~170円)くらいだ。

カップ麺の価格は5~9元(約95~170円)のものが多い
筆者撮影
カップ麺の価格は5~9元(約95~170円)のものが多い - 筆者撮影

余談だが、中国のカップ麺はプラスチック製のフォークがカップの中に入っており、外出先でもお湯さえあれば食べられるようになっているのが大きな特徴。以前は空港やターミナル駅の売店では必ずカップ麺が売られており、搭乗前に椅子に座って食べている人が非常に多かった。あちこちに給湯器が設置されており、お湯を簡単に手に入れられることと、空港などの飲食店があまりにも高くてまずかったから、仕方なくカップ麺で腹ごしらえしていたという人が多かった。

ところが、2014年ごろから、中国人の海外旅行ブーム、いわゆる「爆買い」が始まり、この現象をきっかけとして、彼らの健康に対する意識は、それまで以上に大きく変わり始めた。海外の観光地を見て回るだけでなく、ネット検索で海外のさまざまな情報を入手し、海外の社会やそこで暮らす人々の生活ぶり、健康意識などを初めて観察するようになり、知識と経験が増えていったのだ。

■日本の青汁やサプリで健康に目覚める人も

とくに大きな影響を受けたのが隣国の日本だ。中国人の海外旅行先として常に上位に入っており、日本でも中国人の「爆買い」は話題になったが、彼らが日本で最も多く買っていたものの一つが医薬品や健康食品だった。

中でも日本ならではの商品として中国で有名になったものが「青汁」などの健康食品やサプリ。購入した彼らはその効果を実感したり、中国に住む祖父母や親戚などに配ったりするようになり、中国に帰国後もネット販売で定期的に購入する人が増えた。

中国には漢方薬を扱う専門店や薬局(西洋薬や中国薬)はあるものの、日本のように気軽に医薬品や健康食品を買えるドラッグストアは存在しない。だが、ネット販売でどんなものでも手に入ることから、中国メーカーも日本をまねて「青汁」などの製造を始めた。

また、健康食品だけでなく、日本で人気の納豆を中国のスーパーでも買ったり、砂糖が入っていない烏龍茶なども人気になったりし始めた(それまでは甘い烏龍茶のほうが人気だった)。さらに、自宅のベランダで野菜を栽培したり、野菜ジュースを手作りしたりする人も増えた。

デリバリーは便利なので依然として人気があるが、コロナ禍が始まって以降、「誰の手を介して作られた料理だか分からないし、配送員のことも100%信頼できない。自分で手作りするのがいちばん安全だ」といって、デリバリーに頼らず、オフィスに手作り弁当や野菜サラダを持参する人も増えた。

■ロックダウンでも即席麺は選ばれていない

むろん、海外旅行できるようになったことと経済的に豊かになっていった時期が重なるため、日本での「爆買い」だけが彼らの健康に対する意識を変えたというのは言い過ぎかもしれない。だが、ネット上の情報量が爆発的に増えたことで、「即席麺はあまりよくない」「できるだけ手作りをしよう」という認識が高まっていることは事実だ。

今回、ロックダウン中の上海に住む私の中国人友人たちの中には、「モヤシ栽培器でモヤシを栽培して炒め物を作った」、「パンを手作りした」と言って写真をシェアしている人が多く、この状況でもカップ麺を食べている人はいなかった。

「爆買い」のとき、日本に観光を兼ねたがん検診などの医療ツアーに来る富裕層もいたが、そこまでお金はかけられないけれど、健康食品を取るなどして、少しでも長生きしたい、健康を維持したいと切実に思う人が増えた。ゼロコロナという厳しい政策の下で暮らす中で、そうした危機意識はますます高まっているようだ。

だからこそ、ロックダウン直前のスーパーでも、即席麺を最優先で買い物カゴに入れたという人は少なかったのだろう。そうした意識の変化が、2015年ごろを境とした即席麺の売り上げ減少へとつながっていったのではないか、と考えられる。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)などがある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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