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いくら議論しても答えが出ない…そんな時に役立つ統計学的な「仮の数字」を出す方法

プレジデントオンライン / 2022年4月18日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

失敗するかもしれないビジネス施策について、やるかどうかを決めるにはどうすればいいのか。経営コンサルタントの斎藤広達氏は「仮でいいから具体的な数字と確率を出して、議論のベースをつくる必要がある。そこで使えるのが統計学の考え方だ」という――。

※本稿は、斎藤広達『超文系人間のための統計学トレーニング』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■ゲームを繰り返すほど勝率は確率通りになっていく

【問題】
コイントスを2回行って、2回とも表が出たら100円もらえるというゲームをすることになりました。ゲームに勝てる確率はどのくらいでしょうか。

単純すぎる問題で恐縮です。ひっかけ問題ではありませんので、普通に計算していただければ結構です。

1回目で表が出る確率 1÷2=50%
2回目で表が出る確率 1÷2=50%
2回とも表が出る確率 50%×50%=25%

答えは25%。

つまり、4回に1回の割合でゲームに勝てる、ということになります。

とはいえ、このゲームを4回連続で行ったとして、一度も勝てないこともあれば、二度も三度も、あるいは全勝することだってあるかもしれません。

しかし、ゲームを繰り返せば繰り返すほど、この確率の計算通りの数字に近づいていくはずです。おそらく1万回も行えば、ゲームに勝つ回数は4分の1である2500回に限りなく近づいていることでしょう。

ここで言いたいのは、世の中のほとんどのものは、こうした統計的なルールに基づいて動いているということです。

一見、ランダムに見えるものも、トライアルを繰り返せば繰り返すほど、そのあるべき確率に近づいていきます。これを「大数の法則」と言います。

■最初のうちは想定通りにいかなくても焦らない

ここから得られる教訓は二つあります。

一つは、何事も成功の確率がどのくらいあるかを考えてから、行動を起こすべきだということ。低い可能性にかけてアクションを起こし、たまたま最初にまぐれ当たりしたとしても、結局はあるべき数値に戻っていってしまうからです。

ビジネスはギャンブルではありません。長く活動を続けるためには、最初に確率を考えることが不可欠です。

そしてもう一つは、「最初のうちは、想定通りにいかなくても焦らない」こと。確率が50%のはずのコイントスでも、表だけ、あるいは裏だけが3回も4回も出続けることはあります。確率で言えば、3回連続で同じ面が出る確率は12.5%、4回連続だと6.25%。決してレアな数字ではありません。

しかし、人は失敗が続くと不安に駆られるものです。そして、もう少し頑張れば成果が出るかもしれない状況にもかかわらず、手を引いてしまう。それは非常にもったいないことです。

■ゲームにおける「期待値」の考え方

さて、ここで覚えておいてほしい言葉があります。それが「期待値」です。確率を「1回のトライで得られる見込み」の値に落とし込んだものです。

先ほどのゲームは、コイントスを2回して、2回連続で表が出たら100円をもらえる、というルールでした。それ以外の場合はゼロ円です。

この場合の期待値は、以下の計算で求めます。

・2回連続で表が出る確率25%×100円=25円

期待値は「25円」になります。「このゲームに挑戦することで、25円を得ることができるだろう」という予測が立つ、ということです。

最初のうちは100円が連続で手に入ったり、一方でひたすらゼロ円が続いたりすることがあるかもしれません。しかし、やればやるほどもらえる額の平均値は25円に近づいていくはずです。

もし、このゲームの参加費が「20円」だったらどうでしょうか。やればやるほど多くのお金を得ることができるでしょう。一方、参加費が「30円」ならば、やればやるほどお金が減っていく、ということになります。

■サイコロのギャンブルで考えてみると……

そんなの当たり前だろ、と思うかもしれませんが、数字が複雑になればなるほど、期待値は見えにくくなります。

次に、サイコロを使ったギャンブルを考えてみましょう。サイコロを振って、出た目に1万円をかけた金額がもらえるギャンブルがあるとします。1が出れば1万円。2が出れば2万円。6が出れば6万円です。

サイコロゲーム
写真=iStock.com/Marat Musabirov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marat Musabirov

サイコロは機械によって振られるので、イカサマはできないこととします。サイコロの目が出る確率はそれぞれ6分の1。期待値の計算はこうなります。

・1/6×1万円+1/6×2万円+1/6×3万円+1/6×4万円+1/6×5万円+1/6×6万円=3.5万円

1/6×1万円が「1が出た場合」、1/6×2万円が「2が出た場合」を表します。それらの数字を全部足していくことで、期待値が割り出せます。

ここでの期待値は「3.5万円」、すなわち3万5000円となりました。

■ギャンブルは常に「投資金額よりも期待値が低い」

つまり、もしこのギャンブルの参加費が3万円だったら、やり続けることで確実に儲けることができるということになります(途中で手持ちのお金が続かなくなれば別ですが)。一方、参加費が3万6000円だとしたら、最初のうちは儲かっても、続ければ続けるほど損をすることになります。

ちなみに世の中のギャンブルはほぼすべて、「投資金額よりも期待値が低い」ようにできています。それは当然の話で、期待値よりも投資金額が少ないギャンブルがあったら、誰でもいくらでも儲けられることになり、運営が成り立ちません。

ではなぜ、人はギャンブルをやるのか。それは「儲かるかもしれない」というワクワク感を買っているということなのでしょう。

ギャンブルならば少ない確率にかけて夢を追うのもいいかもしれませんが、ビジネスではそれはご法度です。ビジネスはしっかりと確率を計算し、それに基づいて行われねばなりません。その結果によって社員やステークホルダー、あるいは世間に大きな迷惑を与える可能性があるからです。

■「期待値」の算出方法はビジネスにどう生かせるか

期待値をビジネスに活かすとしたら、どのような方法が考えられるでしょうか。

斎藤広達『超文系人間のための統計学トレーニング』(PHP研究所)
斎藤広達『超文系人間のための統計学トレーニング』(PHP研究所)

以下の問いを考えてみてください。

自動車メーカーでマーケティングの仕事をしているAさん。今、予算内でどんな広告キャンペーンを打つかをチーム内で議論しています。テレビCMは過去の経験上、大外れすることは少なく、最高で1000万円、最悪でも500万円の広告効果が見込めます。

一方、最近はネットのキャンペーンに注目が集まっています。これまでやってきたネットキャンペーンの確率は五分五分でしたが、成功するとかなりの効果があるのが特徴。広告効果は最高で2000万円、ただ、外れるとテレビCM以下の300万円くらいのこともあります。

社内ではああでもない、こうでもないと議論が続いていますが……。果たして、どのように考えればよいのでしょうか。

では早速、期待値を計算してみましょう。

ここでの広告効果は、キャンペーンによる売上押し上げ効果(キャンペーンによって発生した売上)と考えると理解しやすいと思います。たとえば、お買い得価格で商品を買えるキャンペーンを展開するとして、それをテレビCMで告知するのか、ネットキャンペーンで告知するのか、といった問題になります。

■仮でいいから具体的な確率と数字を出すことが重要

テレビCMは「大外れすることが少ない」ということで、仮に「成功率75%」と考えてみましょう。成功すると1000万円、失敗すると500万円の売上増が見込める、という仮定にて計算をします。

・1000万円×75%(成功のケース)+500万円×25%(失敗のケース)=875万円

一方、ネットキャンペーンのほうは「五分五分」ということで、成功も失敗も50%ずつで計算します。すると、以下のような計算になります。

・2000万円×50%(成功のケース)+300万円×50%(失敗のケース)=1150万円

このように、あくまで「期待値」の上では、ネットキャンペーンに軍配が上がることになります。

また、期待値という具体的な金額が見えれば、このキャンペーンにいくらまで予算を使ってもいいかが見えてきます。広告コスト、お買い得価格の設定など、予算を分解して考えることが必要になるでしょう。

ここで上げた確率はあくまで仮ですし、得られる広告効果ももちろん推定です。「成功すれば1000万円、失敗すれば500万円」などと単純に切り分けられるものではなく、結果がその中間に収まることも多いでしょう。

しかし、ここで重要なのは「議論のベースを作ること」です。仮でもいいので具体的な確率と数字を出すことで、議論が前に進むようになるのです。

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斎藤 広達(さいとう・こうたつ)
経営コンサルタント
シカゴ大学経営大学院卒業。ボストン・コンサルティング・グループ、ローランド・ベルガー、シティバンク、メディア系ベンチャー企業経営者などを経て独立。現在はデジタルトランスフォーメーションに関わるコンサルティングに従事している。主な著作に『数字で話せ』(PHP研究所)、『「計算力」を鍛える』(PHPビジネス新書)、『入社10年分の思考スキルが3時間で学べる』『仕事に役立つ統計学の教え』『ビジネスプロフェッショナルの教科書』(以上、日経BP社)など。

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(経営コンサルタント 斎藤 広達)

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