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「訪問数を増やせ」「成功率を上げろ」営業現場を悩ませる永遠の課題に一発で答えを出す"ある手法"

プレジデントオンライン / 2022年4月20日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

営業の現場では「訪問数を増やすこと」と「商談の成功率を上げること」のどちらを優先したほうがいいのか。経営コンサルタントの斎藤広達氏は「重要なのは数字で考えること。ビジネスの進捗をステップごとに分解し、その確率を計算していく『ファネル』という手法が役に立つ」という――。

※本稿は、斎藤広達『超文系人間のための統計学トレーニング』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■「つべこべ言わずに動け」はもはや通用しない

【問題】
法人に対して研修ビジネスを提供しているわが社。最近の業績落ち込みに対し、昔気質のA課長と何事にも合理的なB課長が営業方針を巡って対立している。「今の若いもんは足で稼ぐということを知らない。やっぱり顧客へのアプローチ数を倍にすべきだ」とはA課長。一方B課長は「提案後のクロージングの精度を上げるべき。教育とツールの導入でここを倍の成功率にすることが不可欠だ」との意見。果たしてどちらが正しいのか。

今のビジネスに求められているのは「数字で語る」ことです。たとえば「もっと」なら、「具体的にどのくらい“もっと”なのか」を数字として示すのです。営業の現場で、「もっと訪問件数を上げよ」というのなら、具体的に何軒回るべきかを決める。「もっとクロージング時の成功率を高めよ」というのなら、現在40%の成功率を50%に上げる、など。

昔気質の営業パーソンは「つべこべ言わずに動け」などと言いそうですが、実は営業こそ「数字で語り、数字で動く仕事」なのです。

■できる営業パーソンの手法を数値化して明確化する

ここでぜひ、知っておいてもらいたい言葉があります。それは「ファネル」。言葉自体は前からあったものですが、ここ数年、オンラインビジネスが急速に発達するにつれ、使われることの多くなっている言葉です。ビジネスの進捗をステップごとに分解し、その確率を計算していくことを指します。

たとえば、まずはメールにて100社の顧客に新商品の案内を送ったところ20社から関心があるとの返事をもらった。その人たちのところを訪問し、詳細な説明をしたところ、10社が社内稟議にかけてくれた。さらにクロージングを行ったところ、5社で採用が決まった。この場合「100社→20社→10社→5社」というファネルになります。

ファネルとは「漏斗(ろうと)」という意味。ステップごとに案件数が絞られていく様子が、入り口が広く徐々に狭くなっていく漏斗の形と似ているため、この名前が付けられています。

この考え方自体は昔からあるものです。できる営業パーソンは意識しているかいないかはともかく、「新規を取るにはあと10件はアプローチしないと」などと確率から逆算して活動を行っているものです。それを数値化して明確化したものがファネルなのです。

赤の背景に緑の漏斗を保持している女性の手
写真=iStock.com/Marina Khromova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marina Khromova

■営業がギャンブルから科学になる

このファネルを明確化すると、営業がギャンブルから「科学」になります。

たとえば、先ほどのように「100社→20社→10社→5社」というファネルのビジネスなら、「20件の顧客にアプローチすると、1件成約する」という計算になります。もし、「あと10件注文を取ってこい!」という指示があったら、逆算して200件の顧客にアプローチすればいいということがわかります。

あるいは、なんらかの手を使ってメールに対する顧客の反応を倍にすることができれば、どうでしょう。100社にアプローチして今までは反応が20件だったのを40件にできれば、単純に成約率は倍になります。すると、アプローチ数100件でも、目標の10件の成約が見込めることになります。

営業活動を行うに当たっては、いくつかの「壁」があります。まずは相手に話を聞いてもらえなければ商談をスタートすることはできませんし、提案しても断られてしまうこともあります。「いける!」と思っていた案件が、最後のクロージング段階で相手の会社の稟議が下りず、土壇場でキャンセルになることもあります。

営業活動とは、こうした壁を突破していく活動だと言えるでしょう。

この「壁を突破する確率」のことを、「コンバージョン・レート」と呼びます。

■「訪問→提案→クロージング」突破率を計算すると…

さて、冒頭の例に戻りましょう。

二人の課長の意見は、以下のプロセスで判断することになります。

・顧客へのアプローチ数、実際にアポが取れた数、提案を検討してもらった数などのデータを集める
・それぞれの「壁」の突破率(コンバージョン・レート)を計算する
・その率に合わせて、自社の「ファネル」を導き出す

ここでは単純化するため、仮に営業を「訪問→提案→クロージング」の三つのステップで行っているとしましょう。

仮に、それぞれの壁の突破率が50%だとすると、以下のようになります。

・訪問成功率(50%)×提案成功率(50%)×クロージング成功率(50%)=商談成約率12.5%

8回トライして成功するのは約1回。仮に100人の顧客に案内を行ったとしたら、成約するのは12件か13件。思ったより低いと感じた人も、意外と高いと思った人もいることでしょう。

突破率50%ずつということで、これを「555ファネル」と呼びます。

ではまず、熱血課長の「アポを倍にする」施策を取ると、どうなるでしょうか。

200件×訪問成功率(50%)×提案成功率(50%)×クロージング成功率(50%)=25件

当たり前といえば当たり前ですが、成約数は倍になりました。

一方、理性的な課長の「クロージング率を倍に」だと、どうなるでしょうか。

100件×訪問成功率(50%)×提案成功率(50%)×クロージング成功率(100%)=25件

訪問件数を2倍にしても、クロージング成功率を2倍にしても、結果は同じ25件。計算力のある人なら「当たり前じゃないか」という話です。

この結果を受ければ、「A課長の言うこともB課長の言うことも同じ」というのが答えとなります。

■クロージング成功率100%はありえない

しかし……ここで冷静になって考えてみてください。どれだけ提案力を上げるトレーニングを積んだところで、「クロージング成功率が100%」になることなど、あるでしょうか。いくら素晴らしい営業トークを編み出したとしても、不確定要素は必ず発生します。突然トップの方針が変わった、思わぬ出費で予算が尽きてしまった、など……。

また、営業にはどうしても向き不向きがあります。どんなに営業ツールや商品力を磨き上げても、それをうまく伝えられなければ意味がありません。「なんとなく相手のことが気に入らない」という個人の好みで決まってしまうこともしばしばあります。

■あくまで計算上は「足で稼げ」が正しいことになる

さらに言ってしまえば、ここでは当初のクロージング成功率を50%と見積もりましたが、もしこれが60%だったらどうなるでしょうか。

これを倍にしたクロージング成功率120%というのは、10人のお客さんに案内すると12人のお客さんが買ってくれるということ。どう考えてもあり得ませんよね。

もちろん、あまりにもクロージング率が低く、それをちょっとした努力で伸ばすことができるのなら、話は別です。しかし、あくまで計算上の話で言えば、「訪問数を稼げ」というA課長のほうが正しいことになるのです。

■明確な数字で指示するマネージャーが重要になる

斎藤広達『超文系人間のための統計学トレーニング』(PHP研究所)
斎藤広達『超文系人間のための統計学トレーニング』(PHP研究所)

ただ、そこで問われるのは「伝え方」です。「とにかく営業は足で稼げ!」と命令するのと、「自社の営業ファネルはこうなっている。だから、アプローチ数を倍にしたい」と伝えるのとでは、営業パーソンの納得感が違います。また今は、デジタルを活用して、アプローチ数を倍にするなど、いろいろな打ち手が考えられます。足ではなく、頭とデジタルツールで数を稼ぐ方法もあるのです。

営業というのは大変な仕事です。断られることも多く、ストレスが溜まります。成果を上げるためには準備が必要ですし、その準備も空振りに終わることが多々あります。

そんなとき、明確な数字をもとに「これだけやれば、きっとできる」と言ってくれるマネージャーの存在は、きっと希望を与えてくれるはずです。

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斎藤 広達(さいとう・こうたつ)
経営コンサルタント
シカゴ大学経営大学院卒業。ボストン・コンサルティング・グループ、ローランド・ベルガー、シティバンク、メディア系ベンチャー企業経営者などを経て独立。現在はデジタルトランスフォーメーションに関わるコンサルティングに従事している。主な著作に『数字で話せ』(PHP研究所)、『「計算力」を鍛える』(PHPビジネス新書)、『入社10年分の思考スキルが3時間で学べる』『仕事に役立つ統計学の教え』『ビジネスプロフェッショナルの教科書』(以上、日経BP社)など。

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(経営コンサルタント 斎藤 広達)

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