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84歳までに行き詰まる…「60歳で資産5000万円」でもまったく安心できないといえる老後の現実

プレジデントオンライン / 2022年4月18日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

私たちの老後にはいくら必要なのか。会計学博士の榊原正幸氏は「60歳で資産が5000万円あり、年220万円の年金があっても、年間支出500万円なら84歳までに破綻する。何歳まで生きても収支がプラスになる運用能力を身につけることが必要だ」という――。

※本稿は、榊原正幸『60歳までに「お金の自由」を手に入れる!』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■「人生100年時代」は本当にやってきているのか

「人生100年時代」という言葉をイヤになるほど耳にします。

「人生100年時代」という言葉は『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット共著、池村千秋訳、東洋経済新報社)という著作で2016年末に一気にブレイクしました。それによると、2022年の時点において10代半ばの人のうちの2人に1人は107歳まで生きる可能性がある、というのです。

そのことが独り歩きをして「人生100年時代」という言葉が跋扈(ばっこ)するようになりましたが、冷静に考えれば、現在30歳以上の年齢の人たちは依然として100歳まで生きる可能性は半分以下ですし、10代半ばの人にしたって、「2人に1人」しか107歳まで生きないわけです。しかも107歳まで生きた人が、猛烈に元気で120歳や130歳まで生きるのかというと、そういうことではないでしょう。

2022年の時点において10代半ばの人が107歳まで生きた時というのは、今から90年後という想像を絶する未来のことなので、その頃には医療が超絶進歩していて、107歳まで生きた人が、猛烈に元気で120歳や130歳まで生きることができるようになっているのかもしれません。でも、それは今の段階ではまったくわかりません。

■かなり運が良い人でないと100歳までは生きない

逆に、新型コロナウイルスの比ではない極悪な細菌が蔓延して、人類の寿命が一気に縮まっているかもしれないわけですから、90年も先のことはなんともいえません。人類の寿命は伸びているかもしれないし、縮むのかもしれない、というのが正しい理解です(現実に、「新型コロナウイルスのせいで、アメリカ人の平均寿命が、コロナ前よりも1年くらい短くなった」というニュースを最近耳にしました)。

そしてなんといっても、たとえば私と同世代の、2021年において60歳の男性の平均余命は(保険数理の平均余命表では)約24年なので、平均的に考えれば、依然として84歳前後で死亡すると予想されます(女性は89歳前後)。かなり運が良い人でないと、100歳までは生きないでしょう(ちなみに、2021年において60歳の男性が100歳まで生きる確率は5%弱のようです)。

■「ピンピンコロリ」が実現できる人はおよそ2割

そうはいっても、昔より長寿化したことは事実です。84歳まで生きるとすると、60歳から起算してもまだ24年もありますし、もっと長いかもしれません。そう思うと、経済的な基盤をあらかじめ整えておかなかった場合には、「一生働くしかないか……」という状態に陥るのも無理はありません。

また、長寿化に歩調を合わせるように、年金支給時期の後ろ倒しが検討されています。近い将来、きっと年金受給開始時期そのものが75歳までに延期されるでしょう。そうなるまでに20年はかからないでしょうから、現在50歳より若い人は、「75歳まで働くのか……。それって、一生働くようなものだよな……」ということになりそうです。

好きな仕事をしているのであれば、「一生働く」のは願ったり叶ったりですが、そうではない場合は、かなり過酷です。

そしてここで、「そもそも、一生働くというのは、リアルにはどういうこと?」と考えると、「一生」ではなく、「働けるうちは働く」ということなので、「働けなくなってからはどうするの?」という問題が残るのです。

いわゆる「ピンコロ(ピンピン元気で、急にコロッと他界すること)」ができない限り、この問題はついて回ります。ちなみに、「ピンコロ率」には諸説ありますが、おおむね20%弱のようですから、80%強の人は、「働けなくなってからはどうするの?」という問題にいずれ直面するのですが、世間の多くの人はそういった「不都合な真実」からは目を背けているようです。

しかし、現実から目を背けてはいけません。かなり高齢になるまで働いたとしても、結局、終末期の何年間かは、働かなくても生活していけるようにしておかなければならないのです。

■60歳で“ハッピーリタイア”するために必要な準備

そこで重要になってくるのが「60歳 ハッピーリタイア論」なのです。あらかじめ周到な準備をしておき、「60歳でハッピーリタイア」することを実現させるのです。

そのために必要な概念は「エターニティ(Eternity)」です。

「エターニティ(Eternity)」の意味ですが、直訳は「永遠、永久」です。ここで「エターニティ」の意味するところは、「自分の金融資産残高(=『自分年金』の積立金残高)が永久に枯渇しないようなシステムを60歳までに構築してしまう」ということです。「60歳でハッピーリタイア」するには、「エターニティ」という発想が必要なのです。

ビーチで豪華な夕陽を楽しむ幸せなカップル
写真=iStock.com/anyaberkut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

平たく言えば、「働かなくても、収入と支出が均衡するか収入超過の状態」を確立すれば、「エターニティ」が完成するということです。

「エターニティ」を構成する要素は、次の三つです。

1 原資となる金融資産の総額とその平均の運用利回り(税引き後)
2 年間の収入総額
3 年間の支出総額

■毎年の収支が必ずしもプラスになっている必要はない

たとえば、次のような簡潔な数値を当てはめればわかりやすいでしょう。わかりやすくするために、ここでは「原資となる金融資産」を「1億円」という理想的な金額にします。

1 原資となる金融資産が「1億円」で、その平均の運用利回りが税引き後で「4.8%」
2 年間の手取りの収入総額は、1の運用収入と年金収入(たとえば手取り年額220万円)
3 年間の支出総額は、480万円(月額40万円)の生活費と臨時支出が毎年120万円

すなわち、

1 「1億円」で、運用利回りが税引き後で「4.8%」ですから、480万円
2 年間の手取りの収入総額は480万円(1の運用収入)+220万円(年金収入)=700万円
3 年間の支出総額480万円(生活費)+120万円(臨時支出)=600万円

となりますので、毎年の収支は「+100万円」となって、めでたく「エターニティ」を確立できています。60歳以降、いつまで生活していっても原資となる金融資産は減らず、むしろジリジリと増えていくのです。毎年の収支は、プラスである必要はなく、「±ゼロ」でもエターニティは確立できているといえます。

■死ぬ年齢は“予定通り”にいくとは限らない

なお、このサンプルでは、60歳でリタイアしたとすると、年金を受給できる年齢(たとえば65歳)までは「年額220万円の再雇用やアルバイト」に就くか、1億円に追加で1100万円(220万円の5年分)を蓄えておく必要があるということになります。

または、最初の5年間は収支差額の「-120万円」を元本から取り崩しておき、65歳以降に毎年の収支が「+100万円」となってから6年間で穴埋めする、と考えてもいいでしょう(この説明では、簡略化のために60歳時〜71歳時までに発生する複利の効果は度外視しましたが、1億円に対しての「-120万円」ですから誤差の範囲であり、71歳までには穴埋めは完了するでしょう)。

細かい計算はさておいて、大事なことは「60歳までにエターニティを確立する」ということです。「エターニティを確立する」のがなぜ大事なことかというと、「いくつまで生きるかわからないから」です。「いくつまで生きても、ずっと安泰」な状態を創り出しておくことこそが、「真の安心」につながります。

先ほど「現在60歳の男性が、100歳まで生きるのは稀だ」と書きましたが、実際には105歳まで生きるかもしれませんし、61歳で急死するかもしれないのです。それがわからない以上、「いくつまで生きても、ずっと安泰」な状態を創り出しておくことが必要なのです。

■「つかい切るプラン」では不安からは解放されない

一方で、次のような考えは、御法度です。

たとえば現在45歳の人が「60歳までに5000万円貯めておいて、手取り5%で運用していけば、105歳くらいまでもつだろう。その頃には元本もつかい切っているだろう」などと考えてはいけません。今から60年後には105歳では死ななくなっているかもしれないからです。

もちろん、105歳まで生きないかもしれません。しかし、寿命が短い場合は問題ありませんが、寿命が長くなった場合には、「つかい切るプラン」は破綻の原因になります。それに、「つかい切るプラン」は「先細りのプラン」なので、結局「不安」から解放されません。だからダメなのです。

■60歳で5000万円持っているだけでは84歳で破綻する

ちなみに、「60歳、5000万円、手取り5%で運用、105歳くらいまでもつだろう」と考える「つかい切るプラン」のこの人は、年金収入はいくらで、年間の支出はいくらの予定なのでしょうか。たとえば年金収入が手取りで220万円、運用益が250万円あるから、年間の支出が500万円なら大丈夫だろうと思ったら甘いです。最初の5年間に年金収入がないことも加味すると、この人は84歳の時に破綻します。

現在60歳の男性の平均余命が24年ですから、ちょうど84歳になります。この人は現在45歳ですが、仮に現在60歳の人の平均余命と同じ84歳でお亡くなりになれば予定通りですが、もっと長生きしたら、アウトです。配偶者が存命でも、アウトです。

■45歳から15年かけて運用能力を身につければ安泰

もちろん、「運用」を大前提にしていますから、「運用がうまくいかなかったら、どうしよう」という不安からは完全には解放されませんが、たとえば「税込みで8%〜10%(税引き後で6.4%~8%)」の運用ができる実力をひとたび身につけてしまえば、それよりも利回りが低い「税込みで6%(税引き後で4.8%)」の運用に対しては、ほとんど不安は起こらなくなります。100%安心ということは無理ですが、「99%大丈夫」くらいの気持ちにはなれます。

榊原正幸『60歳までに「お金の自由」を手に入れる!』(PHPビジネス新書)
榊原正幸『60歳までに「お金の自由」を手に入れる!』(PHPビジネス新書)

そもそも、人生なんて「一寸先は闇」かもしれないのです。天災・疾病・事故など、いつ起こるかわからないので、100%安心などということはどだい、存在しないのです。ですから、「99%大丈夫」なら、もうOKです。

また、働いていたって、「100%解雇されない保証」はないので、どっちみち不安がゼロになることはないわけです。

ですから、たとえば現在45歳の人は、今から15年かけて「税込みで8%〜10%(税引き後で6.4%~8%)」の運用ができる実力を身につけてしまうのです。そして、金融資産を「自分に必要な充分な金額(数千万円~1億円とか2億円)」まで育てておくのです。そうすれば、一生安泰です。

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榊原 正幸(さかきばら・まさゆき)
会計学博士
1961年、名古屋市生まれ。名古屋大学経済学部、大学院経済学研究科を経て、同大学経済学部助手。東北大学経済学部助教授、同大学院経済学研究科教授、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授を経て、21年3月に退任。現在はファイナンシャル教育の普及活動を続けている。著書に『株式投資「必勝ゼミ」』(PHP研究所)の他、『現役大学教授が教える「お金の増やし方」の教科書』(PHP研究所)、『会計の得する知識と株式投資の必勝法』(税務経理協会)などがある。

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(会計学博士 榊原 正幸)

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