1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

年率4%運用なら資産は減らない…そんなFIREの前提条件を日本人が信じてはいけない理由

プレジデントオンライン / 2022年4月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/phongphan5922

お金の不安を解消するには、どれだけの資産が必要なのか。アメリカ発の「FIREムーブメント」では、年間の生活費(年間支出)の25倍の運用資産があれば、あとは「年率4%」の運用益で生活費をまかなえると主張している。会計学博士の榊原正幸さんは「日本では“4%ルール”は荒唐無稽だ。アメリカを基準にした数字を信じてはいけない」という――。

※本稿は、榊原正幸『60歳までに「お金の自由」を手に入れる!』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■「FIREムーブメント」とは結局なんなのか

日本ではまだあまり耳慣れない人も多いかもしれませんので、「FIREムーブメント」とは何かについて説明します。

「FIRE(ファイア)」とは「Financial Independence: Retire Early」の略です。日本語にすると「経済的自立と早期退職」です。そして「ムーブメント」とは「動き」という意味です。「FIREムーブメント」とは、会社などからの収入に依存することなく、経済的な自立を確立して、人生における比較的早期の段階で会社を退職してしまい、自由に暮らそう! という動きのことをいいます。2000年頃に「ヤンリタ」といわれていたものと同じです。

この「FIREムーブメント」は、2010年頃からアメリカの「ミレニアル世代」の間で流行っているようです。

ミレニアル世代とは、2000年に20歳になった人たちと、それよりも最大15歳若い人たちの総称です。すなわち、1980年~1995年に生まれた人たち(2022年の時点で27歳〜42歳くらいの人)の間で、「できるだけ早く会社を退職してしまい、自由に暮らそう!」という気運が高まっていて、現在まで続いているということのようです。

■「FIRE」を語るのに欠かせない「4%ルール」の由来

アメリカではこの「FIREムーブメント」を語る時に、必ず「4%ルール」(または「25倍ルール」)というものが出てきます。年間の生活費(年間支出)の25倍の運用資産を築き上げてしまえば、あとは「年率4%」の運用益で生活費をまかなえると考えるのです。

年間の生活費(年間支出)が仮に240万円なら、6000万円の運用資産を築き上げておいて、あとは毎年「年率4%」で運用していけば、(6000万円×4%=)240万円の運用益を得られるので、それで生活していけば、運用資産の総額はずっと減ることなく、一生働かずに生活していける、という考え方です。

では、ここでなぜ「年率4%」という運用利回りを前提にしているのかというと、アメリカの株式市場における代表的な指標である「S&P500」が、第二次世界大戦後の75年間の長期的な平均で、「年率7%」で上昇してきたという事実と、その同じ期間に物価上昇率が「年率3%」だったことを根拠として、株式市場に投資しておけば、差し引きで(7%−3%=)「年率4%」の利回りが誰でも得られるはずだ、というのです。

■「投資さえしていれば総じて利回り年率4%」なわけがない

しかし、株式投資のことを多少は理解している私に言わせていただければ、こんな仮定は、あまりに乱暴だと言わざるを得ません。ちなみに、私も株式市場への投資は大賛成。それどころか、株式投資による資産運用を大前提としてしか、目標とする「60歳でのハッピーリタイア」は実現できないと断言します。

しかし、この「4%ルール」(または「25倍ルール」)は乱暴すぎます。その根拠のうちでも主なものを以下に列挙してみましょう。

1 正確な数値はわかりかねますが、「4%ルール」が日本にも当てはまるとは限りません。

2 アメリカでさえ、「過去はそうだった」というだけで、株式市場が未来永劫7%で成長するとは限りません。

3 株式投資による資産運用の成果(年率の利回り)は、長期的な平均値でも、個人差が大きいのが実状です。平均値でも「マイナスの人もいれば10%以上の人もいる」というのが実状なので、「株式市場に投資さえしておけば、(物価変動調整後で)総じて『年率4%』の利回りが期待できる」などという仮定は、おへそがお茶を沸かしてしまいそうです。

4 また、この「4%ルール」(または「25倍ルール」)は、株式譲渡益課税と配当課税という「税金」を無視してしまっている点も、非現実的で、荒削りすぎます。

■日本の株式市場では「7%以上の年率利回り」は期待薄

これらについて、さらに深掘りします。

1の「『4%ルール』は日本にも当てはまるとは限らない」という点についてですが、戦後開所来の日経平均株価(またはTOPIX)と物価上昇率の「長期的な成長率の年率の平均値」がどのくらいなのかというのは、各種の資料を検討したり、インターネットでググったりすればわかるかもしれません。

しかし、2に述べたように、それらのデータをもとにしたところで、「過去はそうだった」というだけに過ぎず、日本の株式市場が未来永劫、その率で成長するとは限りません。ただ、後述しますが、ある程度の期待は持てるとは思いますが。

なお、75年もの超長期の正確なデータではありませんが、私の手もとに過去40年分の日経平均株価のデータがあるので、そのデータで日経平均株価の「長期的な成長率の年率の平均値」を算出してみました(複利で計算しました)。

2010年の年初~2019年末までの10年間 8.35%
2000年の年初~2019年末までの20年間 1.12%
1990年の年初~2019年末までの30年間 -1.65%
1980年の年初~2019年末までの40年間 3.26%

このように、日本でも最近の10年間は7%以上の年率利回りになっていますが、20年間と30年間では全然ダメです。20年前は「ITバブル」の頂点からの計測になるため、そして30年前は「1980年代後半のバブル」の頂点からの計測になるため、全然ダメなのです。

■日本では「4%」での運用も難しい

40年間でも3.26%なので、7%ということはありえません。私の肌感覚ですが、この40年間の物価上昇率は、約2倍です。たとえば、名古屋の喫茶店のコーヒーが1杯230円→450円で約2倍とか、国立大学の授業料(年額)が30万円→53万5800円で約1.8倍とかです(レギュラーガソリンの価格は、原油価格という国際価格と為替に依存しながら大きく変動するので、ここでは度外視しました)。

40年間で2倍というのは年率換算にすると1.75%なので、差し引きでは(3.26%-1.75%=)1.51%となり、物価上昇には打ち克っていますが、日本では「4%」にはほど遠いです。

■4%ルールはあくまで「NYダウ」の話

なお、やはりアメリカの代表的な株価指標であるNYダウについて同じ期間で、為替(ドル円)の影響を考慮に入れて円建てベースで調べると、次のようになります。

2010年の年初~2019年末までの10年間 12.36%
2000年の年初~2019年末までの20年間 5.05%
1990年の年初~2019年末までの30年間 7.01%
1980年の年初~2019年末までの40年間 7.02%

このようにアメリカ(NYダウ)については、2000年の年初がITバブルの高値からの換算なので5.05%と少し低くなっていますが、30年間と40年間では7%を維持していますし、最近10年間は12.36%で、高い値になっています。やはりアメリカで「4%ルール」が主張されるのは、それなりの結果が伴っているからですね。

急落するチャートを見て頭を抱える男性
写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat

■日本の株式市場はアメリカより30年成熟が遅れている

さて、このようなわけですから、日米では様子が全然違います。結果論でしかありませんが、過去40年間においては、アメリカ株に投資しておけばよかったということになります。そのような「まさに(悪い意味での)結果論」を言ってもしかたがありません。しかしながら、ここで私は希望的な考え方をしたいと思います。

「日本の株式市場は、アメリカと比べると25年〜30年は近代化が遅れている」ということを耳にします。「日本が大好き」である私のナショナリズムからしますと、屈辱的なことではありますが、私の肌感覚でも悔しいことながら、確かにそれは言えているなぁという印象があります。少なくとも、1989年末までのバブル相場の時は、完全に発展途上国的なナンセンスな株価形成でしたし、株主への配当額も「1株当たり5円」のオンパレードで、配当利回りとかの重要な指標はまったく無視されていました。

配当に代表される株主還元やIR活動やコーポレートガバナンス(企業統治)のことなども、日本では2008年のリーマンショック前までは充分に充実していたとはいえないと思います。私の見るに、株主還元・IR活動・コーポレートガバナンスといったことが企業側からも意識され、整備されてきたのは、ここ10年くらい(2010年以降)ではないかと思います。

ですからやはり、「株式市場の成熟度」という点だけから見れば、アメリカと比べると日本は25年〜30年は遅れている感じです。前にお示しした、過去40年分の日経平均株価の「長期的な成長率の年率の平均値」を見ても、まともな数値が算出されたのは、2010年の年初~2019年末までの10年間(8.35%)だけですね。

このように考えてくると、やはり日本の株式市場は、残念ながら、アメリカと比べて25年〜30年くらい遅れているのでしょうが、このことは光明でもあります。

■人口減少はリスクだが、今後は年率7%での成長が期待できる

日本の株式市場は国際化が進展してきており、外国人投資家の比率が増大してきています。ですから2010年以降は、1980年以降のアメリカのように、10年単位の区間で見て、どの期間でも7%の成長をしていく可能性がこれまでよりは高いのではないかと予想(いや、期待?)できます。

このようなわけで、日本の株式市場についても、「今後に期待」といいましょうか、アメリカのようになっていくのでは? ということは、まんざらあり得なくもないとも考えられます。

一方で、「長期的に見ると、日本の株式市場は1980年以降のアメリカのようには成長しない」という説もあり、それにも一理あると思います。長期的に見て、日本の人口が減少するのは明らかですから、生産年齢人口はもとより、(あまり指摘されませんが)消費年齢人口の減少も意味します。

つまり、移民を大量に受け入れるか、生産性が画期的に向上するかの少なくともいずれかが実現しない限り、日本経済のパイは小さくなっていき、GDPの規模も減少していくことになるでしょう。そういったことを長期的に織り込んでいくと、日本の株価は成長しない、という考え方です。

そうであるとしても、私は何も問題はないと思います。

■日本経済が成長しなくても運用資産を成長させる方法はある

私が日本の株式市場について、過去30年間における「東証1部上場企業の時価総額」の推移を調べたところ、以下のような事実が見えてきました。

・「1社当たりの時価総額」のボトム(底)は「1500億円前後」で、ピーク(天井)は「3300億円前後」である、ということ。
・日本の株式市場が成長しないとしても、今後も「1社当たりの時価総額」が「1500億円前後」でボトム(底)となり、「3300億円前後」でピーク(天井)になるような上下動を繰り返す可能性があるということ。ただし、ボトム(底)は、ややジリ貧の値になっており、日本経済の長期的な弱体化が見てとれる、ということ(2020年3月末はボトムアップしています)。

榊原正幸『60歳までに「お金の自由」を手に入れる!』(PHPビジネス新書)
榊原正幸『60歳までに「お金の自由」を手に入れる!』(PHPビジネス新書)

特に重要なのは、後者です。日本経済が成長しなくても、こういった波動にうまく乗ることができれば、運用資産は成長し続けることができるのです。

株式市場に投資さえしておけば、(物価変動調整後で)総じて年率4%の利回りが期待できるなどということは、前提にはできません。しかし、強いて言うならば、「きちんと勉強して、ファイナンシャル・リテラシーのレベルを上げれば、(物価変動調整後で)総じて『年率4%』の利回りが期待できる」ということは、充分に正しいと思います。

ファイナンシャル・リテラシーのレベルを上げて、株式投資による資産形成をライフワークとして身につけた人だけが、「4%ルール」を達成できるのだと思います。もっと言えば「4%よりも多少高いパフォーマンスを実現することすら可能である」と思います。

----------

榊原 正幸(さかきばら・まさゆき)
会計学博士
1961年、名古屋市生まれ。名古屋大学経済学部、大学院経済学研究科を経て、同大学経済学部助手。東北大学経済学部助教授、同大学院経済学研究科教授、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授を経て、21年3月に退任。現在はファイナンシャル教育の普及活動を続けている。著書に『株式投資「必勝ゼミ」』(PHP研究所)の他、『現役大学教授が教える「お金の増やし方」の教科書』(PHP研究所)、『会計の得する知識と株式投資の必勝法』(税務経理協会)などがある。

----------

(会計学博士 榊原 正幸)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください