小5の娘が1日15時間プレイし、「殺す」と叫ぶように…子供の生活を壊すメタバースの怖すぎるリスク
プレジデントオンライン / 2022年4月19日 17時15分
■メタバースに活路を見出したFacebook社
メタバースとは、Meta(超越する)とUniverse(世界)を組み合わせた造語だ。元々は、1992年のニール・スティーブンスンのSF小説『スノウ・クラッシュ』の中で出てきた仮想空間サービスの名前だった。そこから転じて、様々な仮想空間サービスの総称となっている。
注目を集めたきっかけは、2021年にFacebook社が社名をMetaに変更し、CEOマーク・ザッカーバーグが「今後はメタバースに注力する」と宣言したことだろう。TikTokなどの他のSNSが台頭し、Facebookの成長率は近年鈍化し、ユーザー増加率は過去最低となっている。そんな中、メタバースに活路を見出したというわけだ。
そして、コロナ禍でインターネットを通じたコミュニケーションが当たり前となったことで、多くのユーザーや企業が熱い視線を送っている状態なのだ。
■早すぎたメタバース「セカンドライフ」
一方、過去の類似のブームを知っている人からはこんな冷ややかな声も聞こえる。
「メタバースにはまって3Dアバターで交流を繰り返す人もいるけど、セカンドライフと同じですぐに消えると思う。メディアと企業が騒いでいるだけなのでは」
セカンドライフはメタバースの先駆けと言われることが多いが、正確にはどこまでをメタバースに含めるかという定義が定まっているわけではない。人気オンラインゲーム「フォートナイト」や「Minecraft」などを含める人や、「あつまれどうぶつの森」も該当するという人もいる。
■2000年代のネット速度はあまりに遅かった
筆者も流行当時、セカンドライフを利用してみたことがある。見るもの聞くもの新鮮で面白かったが、すぐに画面が動かなくなってしまい、快適とは言い難い体験となった。
当時はパソコンの処理能力は低く、インターネット速度は遅かったため、セカンドライフに入っても画面が固まってしまうことが頻発。スムーズに利用できるユーザーは多くはなかった。セカンドライフは、時代をあまりに先取りしすぎたのだ。
セカンドライフの時代から20年近く経った現在は5G時代であり、環境は様変わりした。コンピュータの処理能力が格段に高くなり、インターネットが高速・大容量で利用可能になったことは大きいだろう。
※編集部註:初出時、セカンドライフの説明に不適切な引用があったため、当該箇所を削除しました。(4月22日22時10分追記)
■ネット交流に対する心理的抵抗感もなくなっている
メタバースも、専用ゴーグルを着用して仮想空間にいるような視覚体験を得るサービスから進化している。MetaのVRプラットフォーム「Horizon Worlds」も現在はQuest2のヘッドセットの仕様が必須だが、2022年後半にもスマートフォンやパソコンなどをつなぐ新しいソーシャルアプリを目指しているという。
KDDIが手掛ける「バーチャル渋谷」「バーチャル大阪」は、バーチャルSNS「Cluster」上でコミュニケ―ションやイベントを楽しめるサービスだ。2020年のハロウィーンイベントには、バーチャル空間にできた「渋谷」の街に世界中から約40万人が訪れたという。ClusterはVRゴーグルだけでなく、スマホやPCでダウンロードしたアプリから利用可能だ。
SNSが「溝(キャズム)」を超えたのは、スマホの普及も大きかったはずだ。VRゴーグルやハイスペックPCが必須なのであればハードルは高いが、スマホで利用可能なのであれば敷居はぐっと下がり、ユーザーの裾野も広がる。
さらに、コロナ禍も普及を後押しする可能性がある。世界的にインターネットの利用時間は長時間化しており、日頃からネットコミュニケーションに慣れ親しんでいるユーザーは増えている。
20年前とは違い、メタバースを利用するための環境も整っているし、ユーザーの心理的抵抗感もなくなっている。これが、メタバースの普及を大いに後押しするだろう。
■家にいながらライブ会場にいるような臨場感
ゲームの領域でメタバースの普及が進むことはまず間違いない。「フォートナイト」などのゲームはほとんどメタバースに近い感覚が得られるし、「あつまれどうぶつの森」などがメタバース寄りに進化する可能性も高いのではないか。
オンラインでのライブ視聴も一般的になりつつあり、バーチャルライブも行われている。たとえば2020年には、フォートナイトで米津玄師がバーチャルライブを開催して話題を呼んだ。参加したユーザーは、集まった他のプレーヤーと共に、メインステージの巨大スクリーンに映し出されたライブ映像を観る一体感が味わえたという。
このように、オンラインでも会場にいるような臨場感を得られるので、ライブ感が重視されてきたイベントにも活用が広がっていくだろう。
■医療・ヘルスケア分野でも活用が期待されている
コロナ禍で広まったテレワークでは、社員間コミュニケーションがうまくいかないことを課題として挙げる人が多い。その点、メタバースはコミュニケーションを活性化させ、国境をまたいだ会議などにも有効に使える。アバターを使ったオンライン会議や社員ミーティングで、実際に会った時と近い感覚で話し合いができるはずだ。
医療・ヘルスケア分野でも、メタバ―ス空間での遠隔診療だけでなく、メタバース技術の活用が期待されている。
医療ITベンチャー「ホロアイズ」がVRとMR(複合現実)技術を使って開発した医療用画像処理ソフトウェア「Holoeyes MD」は、人体の3Dデータを3D空間で体験、共有できる。手術前に実際の手順をシミュレーションでき、術中の出血量を減少させたり、手術時間を短縮したりする効果があるという。
このように人が行っている活動の大部分が、メタバース上でも実現する可能性があるのだ。
■国内外の大企業がメタバースに参入する狙い
メタバースに大企業が続々と参入しているのは、コミュニケーション上の巨大プラットフォームとなった時に、標準規格となるものを作れたら巨大な利益が得られる可能性があるためだ。少なくとも、先行者利益につながる可能性がある。
たとえば、Metaやソニー、Appleなど多くの企業がVRやMRのヘッドセットを発売するとみられている。Metaは相互運用性が不可欠という立場であり、他社もアクセスできるメタバースを作り、ヘッドセットも様々な機器やサービスとの互換性を持つと考えられている。
多くのユーザーを獲得できて、世界標準規格となれば、どの企業もビジネスチャンスを握れる可能性はある。メタバースに必須とされるアバターの作成は、特に日本企業が得意とするところであり、期待できるだろう。
■休日に15時間もゲームし続ける小5の娘
一方、メタバースにも懸念されることはある。それは、依存状態になってしまうリスクだ。現在も、低年齢の子どもたちがフォートナイトやMinecraftといったオンラインゲームにはまる事例は多い。
ある母親は、フォートナイトにはまりすぎた小学5年生の娘に心底悩んでいる。「夜もこっそり起きてプレイしており、寝不足で学校で居眠りしていると先生から言われた。いつの間にか課金もしており、お年玉を使い込んでいた」
彼女は、当初の約束の時間である2時間を過ぎてもプレイし続け、休日など長い時は15時間もプレイしていることもあった。母親がゲームをやめさせようとすると、「ゲームができなくて私が仲間はずれにされてもいいの」と泣き出してしまう。友だちに対する言葉遣いも悪くなり、ゲーム中に「殺す」「いっぺん死ねば」などと叫んでいたこともあったという。
Minecraftにはまりすぎて外出もせず、起きている時間はずっとプレイしている未就学児(6歳)についての相談を受けたこともある。YouTubeでプレイ動画を見てはまり、攻略法を見てはプレイし続け、画面を見る時間が長くなりすぎたせいか視力が下がってしまったそうだ。
こうした事例からも分かるように、ネットユーザーの低年齢化は進んでいる。内閣府の調査では、0~6歳の70.4%、6~9歳の89.1%がインターネットを利用しているという。10~18歳では実に97.7%だ。0歳~中学生の利用目的では「ゲームをする」が上位に位置している。
■子供が過剰にはまらないよう保護者が見守るべき
厚労省のゲーム依存症対策関係者会議の資料によると、週に30時間以上ネットやゲームを使用するネット・ゲーム依存症の人は国内に少なくとも100万人以上いるとされる。特に、大人数が同時に参加できるオンラインゲーム「MMORPG」とシューティングゲームの依存リスクが高く、症例としては昼夜逆転や不登校になるほか、使用制限をすると盗みや暴力に発展するケースが報告されている。
2019年5月には、WHO(世界保健機関)が、ゲームをする頻度や時間をコントロールできない「ゲーム障害」を精神疾患の一つとして位置づけた。
オンラインゲームはゲーム性だけでなく、他人とのリアルタイムコミュニケーションが依存症を促進させているといわれている。同様に、メタバース上でのリアルタイムコミュニケーションにはまる子どもは少なくないと考えられる。
また、仮想空間であるメタバースでのコミュニケーションが増えることで、オフライン、つまり現実世界のコミュニケーションが減る可能性が高い。友達関係を通してコミュニケーションを学ぶべき年齢の子どもが十分に経験を積めないのは明らかに問題だ。子どもだけではコントロールが難しいので、過剰にはまらないよう保護者が見守るべきだろう。
リスクもあるが、可能性も大きい。メタバースが今後どうなるのかは未知数だが、我々の生活を一変させる可能性を秘めているのだ。
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成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。
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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)
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