新人のメンタル不調の元凶「何かあったらいつでも言ってね」という上司は管理職に向かない
プレジデントオンライン / 2022年4月19日 15時15分
■リモートワークで20代の幸福度が低下するワケ
2021年5月にパーソル総合研究所が発表した「はたらく人の幸せに関する調査」によると、リモートワークで20代の幸福度が顕著に下がっているというデータが示されています。
経験を積んだ30代以上ではリモートワークで幸福感が増したという人が多いのに対して、20代だけが真逆の結果になっているのはなぜか。このデータは、マネジメント層が心に留めるべき「リモートワークの特性」が示されたものであろう、と考えます。
■過干渉な上司より放任上司のほうが問題が大きい
リモートワークでは、通常のマネジメントスタイルが強調される傾向があります。普段からきめ細かいフォロー、サポートをするマネジャーはともすると「過干渉」に、部下の自律・自走を重んじるマネジャーは、一歩間違うと「丸投げ」「放任」になるのです。上司の思いと部下の受け取り方にすれ違いが生じやすいのは、コミュニケーションの時間が短いリモートワークのデメリットのひとつでしょう。
特に若い世代へのマネジメントで注意すべきは、過干渉よりも「放任」です。
日本では「困難に直面してこそ成長する」「仕事のノウハウは、上司や先輩の背中を見て盗むもの」といった考え方がまだまだ根強いようです。経済が右肩上がりで成長してきた時代は、こうした“昭和型”のマネジメントでも部下は成功体験を積むことができたでしょう。しかし、時代は大きく変わっています。今の社会に求められているのは、最速・最短で効率よく人材を育成することのはず。
経験やスキルに見合わない仕事を急に任されて、不安に押しつぶされそうになっている若手社員の声を耳にするたび、「若手を責めるよりもまずは管理職改革を!」という思いを強くします。
■若手の離職の原因は「マッチングミス」ばかりではない
中堅層や管理職層との相談では、「最近の若者は主体性がない」「困ったことがあっても相談もしてこないから、把握できない」といった不満を聞くことが少なくありません。
けれど、そもそもなぜ、若手社員に主体性を求めるのでしょうか。経験もスキルも未熟な若手社員に必要なのは、スモールステップで成功体験を積み、職場に適応することです。一つひとつの仕事を積み上げていくことで、いずれは先輩や上司のようにスキルを獲得し、会社や社会に貢献できるという期待感が醸成されます。
この土台を無視し、「自分で考えて動け」「なぜ言われたことしかやらないのか」という叱咤(しった)が繰り返されているとしたら、それは指導という名のパワハラでしょう。
また、きつい言葉をかけられることこそなくても、ベテラン社員と変わらないような簡単な指示、フォローしか受けられず、途方に暮れてしまう若手も。毎日、「これでいいのだろうか?」という不安の中で仕事をする苦しさは、想像するに余りあります。
私のところには、「自分にはこの仕事は向いていないのかもしれない」とうなだれて離職の相談にくる若手社員も少なくありません。彼らが離職を考えるほどに追い詰められてしまったのは、決して業務へのマッチングミスからではありません。最大の原因は、自分の将来に期待が持てないことへの幻滅なのです。
■管理意識から脱却して令和型マネジメントに
1990年代半ばまでの経済成長時代は、一律の管理のほうが日本の働き方に合っていて、「管理職」という言葉も生まれました。不公平があってはならないという日本的な平等主義もあってか、広く一律のマネジメントが行われてきました。
しかし、現代においては、製品もサービスも、そして顧客も多様化しています。管理職という概念も、新しい時代に合わせてアップデートすることが必要でしょう。
かつての一律のマネジメントの中では、そのマネジメントスタイルに適応して成果を出せる人が優秀で、そこからあぶれた人は能力不足とレッテルを貼られていました。しかし、人材獲得の競争も激化している今、ひとつの型にハマらないからといって「無能」としてしまうのでは、あまりに効率が悪い。
令和型のマネジメントでは、集団ではなく一人ひとりに目を向け、それぞれの長所を伸ばしていくことが重要です。マネジメント層の仕事は、「管理」よりも「育成」。いよいよ意識改革をするタイミングに来ていると思います。
■説明不足はパワハラである
人材育成に必要なのは、合理的な根拠をきちんと示すことです。たとえば、若手社員を大きなプロジェクトのメンバーに抜擢するとき、「このチームに入ってもらうから、よろしく!」だけでは、部下は自分に期待されている役割がわからず戸惑ってしまうかもしれません。
「今回のプロジェクトでは、先輩と一緒に顧客満足度のリサーチを任せたい。今まで担当したA社とB社の経験を生かしたデータ分析を期待しています。アシスタント的役割からステップアップするためにも、いい機会になるはず!」
こうした説明があれば、部下は自分の役割をしっかり把握し、目標を立てることができるでしょう。
なぜこの仕事を担当するのか、納期はいつか、目標とするゴールと達成までの道筋、求められる品質。これらをきちんと説明することは、上司の役割です。
合理的な根拠を挙げ、それをしっかり伝わるように説明し、必要があればサポートをする。根拠と説明、サポート、この3つがあれば、部下は期待感を持ちながら仕事に取り組むことができます。逆にどれか1つでも欠ければ、不安や不信が芽生える要因になり、パワハラに近づくということでもあります。
■「何か困ったことがあったら言ってね」は上司失格
部下の様子を気にかけて、「何か困ったことがあったら言ってきてね」という声かけをしている上司も多いでしょう。しかし、若手社員のサポートにおいては、「何かあったら言ってきてね」だけでは不十分と言わざるを得ません。
特に、コロナ禍で出社率を下げている企業では、要注意。出社環境にあれば、ふとした雑談の際に質問をしたり、上司の手が空いていそうなタイミングを見計らって声をかけることもできるでしょう。しかしリモートでは、そうした機会が激減してしまいます。「このくらいのことで、電話やメールをするのは迷惑かもしれない」。こんなふうに考えて、小さな不安、困りごとを抱え込んでしまう若手がいたとしても責めることはできないでしょう。こうしてわからないことが積み重なると、負のスパイラルです。仕事が滞り、つらい気持ちが高まって、ついにはメンタル不調にまで発展してしまうこともありえます。
部下に「休みたい」「辞めたい」と言われて初めて、「相談してくれればよかったのに」「なぜ今まで言ってくれなかったの?」と驚く上司は、自分の怠慢を告白しているようなもの。彼らは相談してこない部下の問題だと思い込んでいますが、それは大きな間違いです。部下は「相談しなかった」のではなく、誰にどのように相談すればいいかすらわからないまま、あるいは相談を許されないような雰囲気の中、一人で悩みを深めていたことに気づかなければなりません。「相談不足」と部下に責任転嫁するのではなく、「説明不足」「サポート不足」がなかったかと自らを省みる姿勢を持つことが重要です。
そして、折に触れて若手に対してベテランと同じようなマネジメントをしていないか、放任になっていないかをチェックし、一人ひとりのスキル、経験にあったマネジメントを行っていくことを心がけてほしいと願います。
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日本メンタルヘルス講師認定協会 代表理事
1961年生まれ。大学卒業後、外資系コンピューターメーカーなどを経て、98年に野村総合研究所に入社。主席研究員としてメンタルヘルスの研究調査、研修開発に携わり、日本のメンタルヘルス研修の草分けとして活躍。2015年より日本メンタルヘルス講師認定協会の代表理事に就任。20年かけて開発した2日間の「ヒューマンスキルを強化するマネジメント研修」は大企業を中心に絶大な支持を得ている。著書に『心が折れる職場』『上司が壊す職場』(以上、日経プレミアシリーズ)など多数。
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(日本メンタルヘルス講師認定協会 代表理事 見波 利幸 構成=浦上藍子)
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