「夫婦合計月13万円の年金だけで老後生活は十分できる」森永卓郎が体を張って実験した結論
プレジデントオンライン / 2022年4月21日 11時15分
■年金は夫婦で13万円まで減少する
私は、最近、『長生き地獄にならないための老後のお金大全』(KADOKAWA)を上梓しました。この本は、年金だけでなく、老後の仕事と暮らし、医療・介護、相続や贈与、税金や社会保険料負担から終活にいたるまで、老後のすべてが分かる百科事典のような存在なのですが、本稿では、主として50代のみなさんに焦点を絞って、老後をどう生き抜いたらよいのかという視点から、書籍のエッセンスをご紹介したいと思います。
現在の厚生年金世帯が受給している平均年金月額は、夫婦合計で21万円です。しかし、この支給額は、30年後に13万円まで下がります。約4割の減少です。厚生労働省は、今後も年金は増え続けていくと主張していますが、そんなことはあり得ません。
いまの公的年金は「賦課方式」で運営されています。つまり現役世代が支払った年金保険料を、その時点の高齢者で山分けする制度になっているのです。今後の少子高齢化で、保険料を支払う現役世代の数は減り、山分けをする高齢者の数は増えていくのですから、年金給付は減少せざるを得ないのです。それでは、厚生労働省はなぜ年金は減らないと主張しているのでしょうか。
実は、厚生労働省の将来推計には、現実離れした前提条件が、いくつもあるのです。第1は、実質賃金が毎年1.6%も上昇し続けるということです。実質賃金が上昇すれば、年金保険料収入も増えますが、現実には、1997年以降、日本の実質賃金は四半世紀にわたって下がり続けています。
■介護施設から会社に出勤するのが普通になる⁉
第2は、労働力率の想定です。厚生労働省の想定では、60歳台後半の4分の3が働き、70歳台前半でも半数が働くことになっています。しかし男性の健康寿命は72歳です。介護施設から通勤しない限り、こんな労働力率は達成できません。
第3は年金積立金の運用利回りです。名目で5%、実質で3%の高利回りが想定されていますが、金利ゼロの時代に、そんな利回りが達成できるはずがないでしょう。こうした極端な想定をやめて、普通に人口構造から推計すると、30年後の厚生年金世帯の夫婦の年金月額は13万円になります。
その数字は、厚生労働省の「財政検証」で、最も厳しい想定を置いた時の推計結果と、ぴったりと符合しています。
■公的年金でまかなえるのは老後生活費の半分だけ
それにしても月13万円という年金収入は衝撃的です。なぜなら、いま厚生年金で暮らしている高齢夫婦の月間生活費が月額26万円だからです。年金だけでは生活費の半分しかまかなえないことになったとき、どう対処すればよいのでしょうか。
すぐに頭に浮かぶのは、退職金やいままでの貯蓄を運用に回して、運用益で生活費の不足分をまかなうことです。しかし、それは絶対にやってはいけません。いまはゼロ金利の時代です。預金金利は雀の涙です。
運用益を確保しようと思ったら、株式などリスクのある商品に手を出さざるを得ません。ところが、いまの世の中、「エブリシング・バブル」と呼ばれるほど、株価や不動産や暗号資産や原油や穀物などの商品に至るまで、あらゆる投資対象がバブルを起こしています。
■105歳まで長生きすると老後資金は6240万円必要
バブルの広がりとバブルの大きさは、これまで人類が経験のないレベルになっています。ですから株式投資をしたら、それが3分の1とか、下手をすると10分の1に暴落しても、何の不思議もない状態なのです。若いうちなら、それでも裸一貫からやり直すことができますが、老後を間近に控えた50代は、取り返しがつきません。
それでは、老後の生活資金不足を埋められるほど大きな貯蓄を現役時代に作っておくというのはどうでしょうか。これは一つの解決策です。ただ、女性は105歳まで生き残る確率が1.2%もあります(※)。
つまり、99%の安心を確保しようと思ったら、65歳から105歳までの40年間の不足資金を貯めておく必要があります。単純計算で、その金額は、6240万円にもなります。普通のサラリーマンに実現できる貯蓄額ではないでしょう。
(※)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」平成29年推計
■死ぬまで働くのは幸せですか?
そこでいま政府が勧めているのが、「死ぬまで働き続ける」という選択肢です。もちろん、これは一番実現可能性のある生き方ですし、私自身も働き続けること自体に反対はしません。
ただ、働いて収入が増えると、税金や社会保険料の負担が増えるだけでなく、住民税非課税世帯が受けているさまざまな恩恵を失うことになります。さらに、働き続けることには重要な前提条件があります。それは楽しい仕事をすることです。
現役世代のときは、家族を守るために大きなストレスを抱えながらも、歯を食いしばって働いてきた人がほとんどでしょう。その責務から解放された老後でも、再びつらい仕事で長時間働くという人生が本当に幸せでしょうか。
■「田舎暮らし」はお勧めできない
私が一番お勧めしていることは、年金給付が減っていくのであれば、それに応じて生活コストを下げる家計の構造改革を断行することです。しかし、生活コストを半減させることなどできるのでしょうか。私は、大都市に居住する人は、容易に実現可能だと思います。大都市を捨てればよいのです。
大都市は、家賃や駐車場代が高いだけでなく、あらゆる消費財が割高になっています。だから郊外や田舎に引っ越せば、生活費が劇的に下がるのです。田舎に行けば、住宅は限りなくタダに近い価格で手に入ります。
ただ、若い人は別にして、私は50代の皆さんには、田舎暮らしをお勧めしていません。田舎は人間関係が濃くて、そこに溶け込むことが中高年からだと難しいからです。田舎には生業のほかに、道路整備とか消防団とか村祭りの準備とか、お金にならない仕事がたくさんあります。コミュニティの一員として、まだ受け入れられていないなかで、そうした仕事をするのは、中高年にとってはとてもつらいことなのです。
だから私は「トカイナカ暮らし」をお勧めしています。トカイナカというのは、都心と田舎の中間のことで、イメージ的には、東京圏だと都心から50キロ圏くらい、大阪圏だと30キロ圏くらいになります。そこでは田舎ほどの濃密な人間関係はありません。町の仕事も、回覧板を回したり、ごみ集積場の掃除の当番をしたりと、ごくわずかです。
■一人社会実験の結果、月13万円の暮らしは十分に可能
一方で、物価は安いですし、都心に出稼ぎにでることもできます。自然が豊かで、物価が安いという大きなメリットもあります。医療機関や商業施設もそこそこ充実しています。
「そんなにうまい話があるはずがない」と思われるかもしれません。
しかし、私はもう37年もトカイナカ暮らしを続けています。正確に言うと、コロナ前までは、平日は東京の事務所に泊まり込んで「平日都民」の暮らしをしていたのですが、いまはトカイナカに拠点を完全に移しました。そして、コロナ禍のこの2年間、年金13万円時代に自分が耐えられるか、一人社会実験をしてきたのです。
■30坪の農地でほぼ自給自足は可能
結果は、十分暮らせるという確信でした。トカイナカには、東京のようなおしゃれなレストランやブランドショップはありません。でも、ファミリーレストランや地元のうどん店でも十分美味しいですし、着るものはイオンのバーゲン品で十分です。東京のようなキラキラしたエンターテインメントはありませんが、その分、豊かな自然があります。
コロナ禍になってから、私は自宅近くの耕作放棄地を借りて、いま30坪余りの農地で野菜や果物を育てています。そのため、冬場を除けば、ほぼ自給ができています。もちろん肉や魚は購入するのですが、食費は大してかかりません。
住宅ローンは残っていないので、家賃負担はありません。ですから、普段の暮らしを続けるだけなら、月額13万円で十分家計が回るのです。もちろん、さまざまなテクニックを使って家計の節約に努めていますが、その中身は書籍をご覧いただければと思います。
つまらない老後の暮らしだと思われますか。そんなことはありません。畑は毎日出かけても、飽きることがないほど、仕事があります。雨が降ったら家で本を読めばいいのです。皆さんも晴耕雨読の暮らしをしてみませんか。
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経済アナリスト、獨協大学経済学部教授
1957年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。専門は労働経済学と計量経済学。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』『グリコのおもちゃ図鑑』『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』『なぜ日本経済は後手に回るのか』などがある。
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(経済アナリスト、獨協大学経済学部教授 森永 卓郎)
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