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脱ロシアを宣言したけれど…「ロシアの代わりは見つからない」欧州のエネルギー不足の深刻度

プレジデントオンライン / 2022年4月17日 11時15分

2022年3月10日、フランス・パリ郊外のベルサイユ宮殿で非公式に行われたEU首脳会合を前に、ドイツのオーラフ・ショルツ首相を迎えるフランスのエマニュエル・マクロン大統領(左)。 - 写真=EPA/時事通信フォト

■エネルギーの「脱ロシア」をEUは実現できるのか

2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した。この事態を受けて、欧州連合(EU)は安全保障上の理由から、ロシア産の化石燃料からの脱却を目指そうと躍起になっている。3月8日、EUの執行部局である欧州委員会は「リパワーEU」と名付けた政策文書を発表した。欧州委員会はこの政策文書の中で、2030年までにロシア産の化石燃料の利用をゼロにするという計画を明らかにした。

特に喫緊の課題となっているのが、ロシア産の天然ガスへの依存の問題である。先の政策文書によると、EUは2021年時点で、天然ガス輸入の45.3%をロシアに頼っていた。EUはこの部分を、天然ガスの使用量そのものの削減と、非ロシア産のLNG(液化天然ガス)の輸入増、そしてロシア以外からのパイプラインによる天然ガスの輸入増によって補うとしているわけだ。

LNGの輸入先としてはカタールや米国、エジプト、西アフリカなどが念頭に置かれている。一方で、パイプラインによる天然ガスの輸入先に関してはアゼルバイジャンやアルジェリア、ノルウェーなどが念頭に置かれている。それ以外にも、バイオメタン(バイオガスを精製して濃度を上げたもの)や水素エネルギーの利用を増やしていくことで、EUはロシア産の天然ガスからの自立を図ろうとしている。

本当にEUが2030年までにロシア産の化石燃料から脱却できるか定かではないが、一方でこうしたEUの意向に呼応する動きもEUの外で出てきている。例えば、西アフリカにあるナイジェリアは世界有数の産油国であるが、同国のティミプレ・シルヴァ石油相は3月25日、首都アブジャでEUの高官と会談を行い、EU向けに天然ガスの供給を増やす意向があると表明した。

すでにナイジェリアには、隣国ニジェールやアルジェリアとともに、欧州に天然ガスを供給する「トランスサハラ・ガスパイプライン(TSGP)」を建設する計画があるが、ナイジェリアはEUによる同プロジェクトへの投資を期待しているようだ。またアルジェリアでは、国営石油・ガス会社ソナトラックがイタリアのエニとともに積極的な油田開発に努めており、欧州向けの石油・ガス供給の強化を目指している。

■ギリシャは石炭火力発電の延命を決定

EU各国の動きを確認すると、ロシア産の天然ガスに対する依存度を下げるため、ギリシャが石炭の利用の拡大を決定している。具体的には、4月6日、ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相が今後2年間の時限措置として石炭を50%増産する方針を示した。一方で、2030年までに温室効果ガス排出量を55%減らし、50年までに実質ゼロにする目標は堅持した。

そしてミツォタキス首相は、2022年中にギリシャ北部コザニ県のプトレマイダで稼働する予定である国営電力会社(PPC)の火力発電所(プトレマイダ5)に関して、2028年まで石炭を燃料に使い続けると発表した。従来の計画だと、プトレマイダ5は2025年まで石炭を燃料に利用するが、翌2026年からは脱炭素化対策として天然ガスを燃料にする方針であった。

同時にミツォタキス首相は、今後の天然ガスの供給量や価格動向に応じて、2023年までに順次閉鎖する予定であったプトレマイダ5以外の石炭火力発電所に関しても、稼働を延長させる可能性に言及している。ミツォタキス首相は2021年9月、ギリシャにある石炭火力発電所を2025年までに全廃する方針を示していたが、それを大きく修正するかたちとなった。

なお英BPの統計によると、2020年時点で、ギリシャの石炭生産量は1399万8000トン、EU加盟国の中で5番目に多かった。とはいえこの10年で、脱炭素化のトレンドを受けて石炭の生産量は75%も減少していた。この動きと歩調を合わせる形でギリシャの電源構成は天然ガスや再エネへのシフトが進み、電源構成に占める石炭火力の割合も52%から14%まで低下していた。

■脱炭素を止められないドイツは再エネ投資の強化を選択

他方でドイツは、再生可能エネルギー(再エネ)への投資の強化という道を選択した。オーラフ・ショルツ首相率いる連立政権は4月6日、各種エネルギー関連法を改正する包括法案(通称「イースターパッケージ」)を閣議決定した。そのうちの改正再エネ法の中に、電源構成に占める再エネの割合を2030年までに現状の倍となる80%に引き上げる目標を盛り込んだ。

EU主要国のロシア産天然ガスへの輸入依存度
出所=欧州連合統計局

この「イースターパッケージ」には、2035年までに電力部門における温室効果ガス排出量の実質ゼロを達成するという目標も盛り込まれた。いずれの目標にも、連立政権の一翼を担う環境政党である「同盟90/緑の党」の意向が強く反映されている。また一部の報道によると、再エネ投資の強化に必要となる財源には、環境投資のために積み立てられた基金が充てられる模様である。

これに先立ちショルツ政権は、3月8日に原発の稼働の延長案を否決しており、今年中の脱原発の実現を優先する方針を改めて示していた。先述の通り、ギリシャはロシアのウクライナ侵攻を受けて脱ロシアの観点から石炭火力の延命を図ったわけだが、対照的にドイツは再エネ投資の強化を通じて脱炭素化に向けた動きを加速させる戦術に打って出たかたちとなった。

ドイツはEU主要国の中でも天然ガスのロシア依存度が高く、2020年時点で輸入の65.2%をロシアに頼っていた(図表1参照)。3月5日には北部シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州のブルンスビュッテルで液化天然ガス(LNG)ターミナルを建設すると発表するなど、ショルツ政権は天然ガス調達の多様化にも取り組む方針だが、あくまで再エネを主力とする方針に変わりはないようである。

■見切り発車で「脱ロシア」に突き進む欧州は成功できるのか

石炭火力の延命を図るギリシャや再エネ投資を加速させるドイツ以外にも、今後EU各国はそれぞれの事情に合わせて脱ロシアの動きを加速させていくだろう。またロシアがウクライナに侵攻する前から、フランスや中東欧諸国は原発の増設を志向していたが、そうした動きにも弾みがつくと考えられる。例えばフランスのマクロン大統領は2月10日、原発の増設計画を発表していた。

ベルギー・ブリュッセルのEU本部ビルの前ではためく各国の旗
写真=iStock.com/FrankyDeMeyer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FrankyDeMeyer

具体的にフランスの動きを確認すると、同国は2028年までに国営原子力企業オラノの独自規格である欧州加圧水型炉(EPR)の次世代型であるEPR2の建設に着手、計6基を建設する方針だ。また追加で8基のEPR2の建設を検討するほか、10億ユーロ相当の小型モジュール炉(SMR)の開発支援も行う。同時にフランスは、再エネに関しても積極的な投資を行う予定である。

とはいえ、本当にEUが2030年までにロシア産の化石燃料の利用をゼロにできるかは不確実である。加えて、それぞれの取り組みには課題もついて回る。LNGの輸入やロシア以外からのパイプラインによる天然ガスの輸入は、ロシア産の天然ガスを輸入するよりもコストが高くつくはずだ。また石炭火力発電の場合、温室効果ガスが排出されるため脱炭素化目標との兼ね合いが問われてくる。

それに再エネ発電の場合、安定性の低さ(気象条件に左右されること)をどう克服するかという問題がある。さらに原子力発電の場合、使用済み核燃料の中間貯蔵施設や最終処分場の議論が避けて通れないはずだ。こうした問題についてまだきちんとした解答を示すことができていないまま、EUおよびEU各国は、ロシア産の化石燃料からの脱却を目指そうとしているのが現状と言える。

そうは言っても、今後も「脱ロシア」を念頭に置いたエネルギー政策の在り方が欧米を中心に模索され続けることになるはずだ。その動きは、石油やガスといった化石燃料を中心とするエネルギー価格の上昇圧力になるだろう。日本もまた2021年10月に「第6次エネルギー基本計画」を策定したばかりだが、今般の情勢に鑑み、その再考が求められるところである。

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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