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仕事がデキる人は説明できる…大ヒット中の日本コカ・コーラ「檸檬堂」と日向坂46の"ある共通点"

プレジデントオンライン / 2022年5月1日 12時15分

「Yahoo!検索大賞2019」アイドル部門賞に決まった日向坂46のメンバーら=2019年12月4日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

新しいヒットを生み出すためには、何が必要なのか。高千穂大学の永井竜之介准教授は「多くの日本企業は“完璧”を求めすぎている。アサヒビールの『生ジョッキ缶』や日本コカ・コーラの『檸檬堂』、アイドルグループの『日向坂46』は完璧主義の罠にはまらなかったことで、ヒットした成功例だ」という――。

■多くの日本企業が陥る「完璧主義の罠」

「何を重視するか」を変えれば、マーケティングは一新できる。

「最初から完璧」であることを当然視する価値観は、モノづくりに限らず、日本のビジネスに広く浸透している。この完璧主義は、日本のビジネスの強みでもあり、弱みにもなっている。完璧主義には、粗も隙もなく仕上げた商品・サービスで顧客の信頼を獲得できるという強みがある一方で、完璧を求めるあまり開発期間が長期化したり、リスクを避け、前例のない新分野を開拓する取り組みには手を出さなくなったりする弱みも抱えている。

多くの日本企業が、「最初から完璧」だからこそ成功できた過去の成功体験に縛られ、常に完璧を求めすぎるようになってしまい、その結果、新しいことや面白いことに挑戦できなくなり、身動きが取れなくなっている。しかし、こうした「完璧主義の罠」から意図的に抜け出し、ヒット商品の実現に成功した事例が出てきている。

■「100点満点じゃないと認めない」を覆した商品開発

【事例1】アサヒビール「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」

缶を開けると自然に泡が立ち、生ビールの味わいをどこでも楽しめるアサヒビールの「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」は、「100点満点じゃないと認めないという従来の開発方針だと、絶対に生まれなかった商品」(※1)と開発チームが口にしているように、完璧主義の罠から抜け出すことで誕生したヒット商品である。

※1 アサヒビール採用サイト「生ジョッキ缶開発ストーリー<クロスオーバー編>」より引用。

「店で飲む生ビールが家でも楽しめたらいいのに」というニーズは、誰もが一度は感じたことのあるものだ。しかし、技術的にクリアできず、「仕方ない」とずっと諦められてきた。「自宅で楽しめる生ビール」のポイントになる泡を、専用装置やホームサーバーではなく、一番手軽な缶で実現するというのは、難攻不落の課題だった。なぜなら、もともと缶ビールでは、缶を開けたときに泡が立たないことが品質上望ましく、泡が立つのは不良品とされていたからだ。缶を開けると生ビールのように泡が立つ「生ジョッキ缶」を実現するには、これまでとは正反対の設計が求められることになり、開発は困難を極めた。

■成功の保証がない挑戦を4年がかりで続けた結果

生ジョッキ缶の設計・開発にあたって、社内のパッケージング技術研究所は、塗料メーカーと共に試行錯誤を重ねた。苦難の末に、缶の内側に特殊塗料を焼き付けて細かい凹凸を付ける「クレーター構造」を編み出し、缶を開けると泡が立ち上がる設計をクリアしたが、今度は品質の安定性という課題が大きく立ちはだかった。研究所で作る場合と、工場で大量生産する場合では、どうしても品質に差が生じてしまった。また、冷やす温度によって泡立ち方が変わりやすく、泡が立ちすぎて溢れてしまっては問題になるし、泡が少なすぎれば「生ビール」感が失われてしまうことにも頭を悩ませた。どんな条件下でも均一に泡が立つ設計のため、調整・改良が懸命に重ねられた。

こうした生ジョッキ缶の開発は、困難で、前例がなく、成功の保証がないものだった。完璧を追い求める従来の開発方針では、なかなか前に進めなかったという。しかし、「不完全かもしれないけど、すごくいい価値を秘めているから、みんなで作りながら考えよう」(※1)という姿勢を貫き、顧客に驚きと感動、新しいワクワク感を届けるために勇気ある挑戦が進められた。そうして、缶を開けると泡が立つ設計と、工場での大量生産における安定品質の実現に4年がかりでたどり着いたのだ。

泡立つビールのクローズアップ
写真=iStock.com/kokoroyuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki

■2021年を通して数量限定での販売が続けられた

アサヒビールは、2020年、11年ぶりに売上トップの座をキリンビールに奪われた。そこで「家飲み」需要を取り込もうと勝負をかけたのが、この生ジョッキ缶だった。生ジョッキ缶は、2021年4月6日にコンビニで先行発売されると大きな反響を呼び、同月20日の全国発売時には売り切れが続出し、翌日には一時販売休止となるほどの人気を博した。その後も人気は継続し、2021年を通して毎月1回の数量限定販売が続けられ、400万ケース(1ケースあたり340ml缶24本)が販売された。2022年には前年の約5倍まで生産体制を強化し、ヒット商品としての座を揺るぎないものにしている。

■早く小さくたくさん作る「スモールスタート」

【事例2】日本コカ・コーラ「檸檬堂」

完璧主義の罠から抜け出すためには、早く小さくたくさん作る「スモールスタート」の方針も有効だ。これは、じっくり時間をかけて「100」の大きな商品を作って販売するのではなく、早く小さく「10」の商品に仕上げたら発売してみる、といった感覚である。多くの時間とコストをかけて最初から完璧を目指した「100」で失敗したら、甚大なダメージを受けてしまう。しかし、「10」のダメージならば大きな痛手にはならないため、思い切ったチャレンジが可能になる。数多くの「10」を素早く作り、市場に出してニーズを確認してみて、その反応を受けて迅速・柔軟に軌道修正しながら、有望な「10」を「100」に大きく育てる。このスモールスタートによって誕生したヒット商品が、日本コカ・コーラのレモンサワー「檸檬堂」である。

■プロジェクト開始から発売まで「たった1年」のスピード感

清涼飲料の王者である日本コカ・コーラは、「ホワイトスペース」と呼ぶ新市場の開拓に力を入れる方針を立て、そのために企画・開発・販売における速度を重視している。これは、初めは商品を販売する地域や店舗を絞り、市場の反応を確かめたうえで、段階的にブランドとして大きく育てていくもので、まさにスモールスタートと言える。

すぐに飲めるRTD(Ready To Drink)市場が成長を続ける中、そこで最も人気が高く、競争の激しいレモンサワーをあえて選び、最後発ブランドとして名乗りをあげる形で檸檬堂はスタートした。檸檬堂は、日本だけでなく、世界全体のコカ・コーラ社にとって初めてのアルコール飲料になったが、その開発は、プロジェクトの開始から発売まで1年間という、同社として異例の速度で果敢に進められた。

■お酒に厳しい「九州」で先行発売

檸檬堂は、こだわりを持った30代から40代の低アルコール飲料を好む消費者がターゲットで、「こだわりのレモンサワーを出すお店」をコンセプトに、居酒屋で味わえる「こだわりのクラフトレモンサワー」を缶で楽しめるという価値を追求する商品として開発された。商品の真価を測るため、もともと焼酎文化が強く、お酒に対する評価がシビアな九州で限定発売して、お酒好きに認められるかどうかが試された。

上から見た福岡の街並み
写真=iStock.com/Sean Pavone
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sean Pavone

2018年5月に地域限定で発売すると、丸ごとすりおろしたレモンをお酒に漬け込む「前割り製法」の新しいおいしさが支持を集めた。「少し贅沢な家飲みを楽しめる」と評判を呼んで飛躍的に売上を伸ばし、九州におけるレモン缶チューハイ市場でトップを握るまでになった。季節変動を見るために1年ほど売れ行きの推移を見た後、2019年10月に全国販売に踏み切った。

2020年には、目標としていた年間500万ケースの販売目標を大きく上回る約790万ケースの販売に成功している。商品展開も、定番レモン、鬼レモン、はちみつレモン、無糖レモンなどに拡大した。それぞれアルコール度数と果汁率を変えて、飲む人の繊細なニーズに合わせたラインナップが好評を博し、いまやレモンサワーのトップブランドとして定着している。

■「加点型マーケティング」で成功した日本のアイドル

【事例3】日向坂46

iPhoneやAmazon、DJIのドローンやTikTokなど、アメリカや中国のベンチャー企業が実現してきたヒット商品・サービスの多くは、完璧主義の罠から抜け出し、「加点型マーケティング」を実践することで成功を収めている。加点型マーケティングとは、商品の新しい価値や強み、面白さを重視して、必要最低限の品質に仕上げたらいち早く発売し、支持してくれるファンを作り、ファンに応援されながら商品の改良・再発売のサイクルを高速で回すものだ。商品は、「最初から完璧」ではなくとも、ファンと共に成長することで、「最後には完璧」な理想の商品を目指すことができる。

じつは、このプロセスを実践して成功を収めた、とても身近な事例が日本にもある。それは「日本のアイドル」だ。モーニング娘。やAKB48グループ、坂道シリーズなどの日本のアイドルの中で、特に「日向坂46」は、苦難を乗り越えた成功の物語を発信できる意味でも、加点型マーケティング、ファン・マーケティング、ストーリー・マーケティングなど、最先端のマーケティングを通じて分析することができる成功事例だ。ただし、「初めから意図した」というよりも、「結果から分析できる」という点には留意しておきたい。

■シングルCDデビューも冠番組もないまま活動をスタート

最初から完璧な存在ではなく、未成熟なままデビューして、応援してくれるファンを増やしながら、長所を伸ばしてファンと共に成長を遂げ、その成長の物語がエンジンとなることでさらに活躍を広げる。この日向坂46の軌跡は、アメリカのGAFA、中国のBATHをはじめとする世界のベンチャー企業の飛躍プロセスに重ね合わせられる、マーケティング的な示唆に富んだ事例と言える。

もともと日向坂46は、欅坂46(現、櫻坂46)の姉妹グループのような立ち位置で集められた「けやき坂46(ひらがなけやき)」からスタートした。けやき坂46は、同じ坂道シリーズの先輩グループとは違ってシングルCDデビューや冠番組が決まっていない状態で、先の見えない長い苦悩の日々を経験した。当初は、歌や踊りのレッスン機会すら十分ではなく、自分たちが何を期待されているのか、どこを目指せばいいのか分からないまま、アイドルとしての一歩目を歩き出すことになった。華々しく活躍する先輩グループたちの陰で、握手会では自分たちの所にだけほとんど誰も来てくれず、ライブでも数曲しか歌えないなど、悔しい経験を積み重ねた。

ステージ上のクローズアップされたマイク
写真=iStock.com/deepblue4you
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

多くの日本のアイドルが、多かれ少なかれ苦難を経験しているものだが、姉妹グループが華々しく活躍する傍ら、比べられ、取り残されたかのような形で始まった、けやき坂46の苦難は特殊なものだったと言える。いわば「0からのスタート」ではなく「マイナスからのスタート」で、自分たちが独立したグループなのか、先輩グループの控え的な立ち位置なのかもあやふやな中、存在理由に思い悩んだ。

■挑戦の物語が、応援したくなるファンを増やした

しかし、けやき坂46はそんな苦境から、自分たちの力で存在理由を切り拓いていった。その、作り物ではないリアルな挑戦の物語が自然とファンに共有されることで、彼女たちの姿を見て応援したくなり、そして自分も頑張ろうと思うファンが後を絶たない特別な存在になったと言えるだろう。

活動の機会が限られるからこそ考え抜き、貴重なチャンスに全力で挑んでファンを開拓していった。また、ファンと接点を持てるリアルとネットの機会を大切にし、強固な関係を築いていった。歌う・踊るというアイドルの本業以外でも、バラエティ番組などに常に全力で挑戦する姿は、視聴者はもちろん、共演者やスタッフまでを「挑戦を応援したいと思うファン」に変えた。苦悩する姿や思いをさらけ出し、東京ドームでのライブ公演という大きな目標をファンと共に目指す。その挑戦の物語を知るほどに、羽ばたいて活躍する姿を応援したくなるファンが増えていった。

「友情・努力・勝利」を体現するような生きざまを見せながら、ファンと共に成長を遂げ、武道館でのライブ公演を成功させたり、自分たちの冠番組を持ったりして、結成から3年越しで日向坂46に改名し、正式なデビューへ辿り着いた。その後、曲のヒットや紅白歌合戦出場などの音楽面での活躍はもちろん、バラエティやモデル、芝居、ラジオ、ゲーム、スポーツなど活躍の幅を広げ、デビュー3周年の2022年3月には悲願だった東京ドームでのライブ公演を達成した。それでも、日向坂46はアイドルとしてのゴールをはるか先に掲げて、さらなる成長と活躍を続けていくだろう。

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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『嫉妬を今すぐ行動力に変える科学的トレーニング』(秀和システム)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)などがある。

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(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)

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