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発言をコロコロと変えて、物価高と株安を招いた…岸田首相の経済政策に市場のプロが怒るワケ

プレジデントオンライン / 2022年4月22日 15時15分

2021年11月26日、首相官邸で開かれた、新しい資本主義実現会議で発言する岸田文雄首相。 - 写真=時事通信フォト

岸田文雄首相はさまざまな場面で「聞く力」をアピールしている。だが、エコノミストのエミン・ユルマズさんは「経済政策では投資を促す一方、配当金の税率を引き上げるなど矛盾がとても多い。株式市場が岸田首相を嫌っているのは、日経平均に如実に表れている」という――。

※本稿は、エミン・ユルマズ『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)の一部を再編集したものです。

■なぜ日本はマザーズ株で一人負けしたのか

2022年に入ってから日本の企業業績はさほど悪くはないのだが、足元の株価が年初からまったく冴えない。

なぜなのか?

一つには2022年3月期決算は悪くはないが、来期(2023年3月期)は鈍化する可能性が高い。2021年3月期決算が悪かったことから、2022年3月期決算は大きく反発して、来期は鈍化する。逆V字のような格好になる。それがいま起きている。

特に中小型株の下げ方がかなりエグい。マザーズ株がひどい有様となっている。2021年のIPO社数125社のうちマザーズが93社と過去最高で、“需給”の悪化が影響したのに加えて、マザーズは基本的に先行指数なので、何かまだ市場に見えていないリスクを織り込んでいる可能性が大きい。

そのリスクは二つあって、一つは地政学的リスク。もう一つはFRBあるいは世界の主要中央銀行のタカ派、つまり引き締めへのシフトを織り込んだマザーズが先に下げているのではないか、ということだ。

その他マザーズ一人負けの要因は、世界的な金融緩和で時価総額の大きい順に買われる大型株優位の相場の影響。2022年4月4日に予定される東京証券取引所の「市場区分見直し」の影響などもあるのだろう。

逆に言えば、何かショッキングなことが起きたとき、真っ先に反応して上がるのがマザーズなのだと思う。コロナショックのときがそうであった。他の主要な指数が崩れるなか、マザーズは底を打って急上昇に転じた。

■日本はすでにインフレになっている

このところ日本株の動きが冴えないし、チャートの形が悪い。経験上、このような場合には、企業業績やコメントには見えない何か悪い要素を市場が検知し、株価に織り込んでいる場合が多い。

思うに、すでに日本はインフレになっているということだろう。前の菅政権による携帯料金の値下げがなければ、日本のインフレ率は1.6%になっていたと、新聞各紙が書き立てている。具体的な指標としては、2021年11月の日本の輸入物価指数が前年比で44%増となった。さらに同年11月の企業物価指数は9%増で、これは1981年以降、最大の伸び率である。それこそ輸入原油高(オイルショック)以来の数字である。

企業はそんなにすぐには最終商品の値上げはできないから、いまのように円安で輸入コストが上昇すれば利益が圧迫される。それがいま起きているのだと思う。

円安で喜んでいる企業もあるにはあるが、今回の円安は多くの日本企業にとって、あまり良い円安ではないと思われる。その影響が出ていて、結果的に業績悪化、利益圧迫を嫌がって、株価が下がっているのではないか。

■日経平均2万7000円台に急落…「岸田ショック」の背景

そしてもう一つは岸田政権がマーケットから好かれていないことが、株価下落をもたらしているということだ。岸田政権発足以来の月足チャートがきわめて悪いのが、その証左といえる。

岸田政権が自社株買いを制限しようとしたり、金融所得増税をしようとしたのを見て、彼は、あまりマーケットフレンドリーな政治リーダーではないと、市場は判断したのだろう。それが日本株の動きに反映している。

市場が岸田首相を嫌っているのは、日経平均に如実に表れている。前首相の菅氏が退陣を表明、総裁選が行われることが決まったとき、日経平均は高値を付けた。下げ出したのは、総裁選前に最有力候補と見なされた岸田氏が金融所得増税を導入する構想を示してからだった。

市場のあまりに悪い反応に岸田氏は、発言を慌てて撤回、「いま直ちに金融所得増税をするわけではない」と二枚舌を使ったことから、市場の信頼をおおいに損ねてしまった。

以降、菅前首相が辞任発表の日に付けた日経平均の高値には戻らなかった。「結局、岸田首相は金融所得増税を導入するのではないか」とするマーケットの疑心暗鬼は収まらず、岸田首相はまたも前言を翻した。

さらには「自社株買いに制限をかける」と発言し、再び日経平均を下げてしまった。こうした経緯は日経平均を月足で見ると、本当にわかりやすい。

菅前首相のときも大きな下向線は出ていたが、それはデルタ株絡みで、菅氏の発言そのものが下げ要因になったのではない。ところが岸田首相の場合、コロナの状況が良くなっているのに、日経平均が下がっているわけで、本来はおかしな話なのだ。

■「年収の壁」子育て給付で深まる疑念

岸田首相は財務省に傾斜しているのではないか。市場としては、そんな印象を抱いてしまったのだろう。この首相の下では、株式投資を難しくしてしまうリスクがあるのではないかと。そうなるとますます、米国株に比べると日本株の魅力が薄れてしまうわけである。

円安にもかかわらず、日経平均が下がっているということは、ドルベースにおいてはさらに大きく下がっている。海外の投資家も岸田首相のことをかなり研究しているようだ。

聞くところでは、岸田政権は財務省のアドバイスをよく聞いているのか、どうも緊縮財政をやりそうな気配だと感じ取っている向きがかなり多い。

「子育て世帯への臨時特例給付金」の話もややこしかった。これについても、無駄にややこしくしているとしか思えないフシがあった。

18歳以下の子供のいる全世帯に10万円をそのまま配ればよかったのだ。そこに960万円という年収の壁を設けたりした。私は、子供に渡すお金なのだから、親の収入は関係ないはずで、矛盾していると思った次第である。このあたりも微妙に、岸田首相はマーケットフレンドリーではないと、市場に捉えられたのではないだろうか。

一時高値を付けた日経平均は10月初旬には2万7000円台半ばに急落し、「岸田ショック」と呼ばれた。下げ幅は11.3%に及んだ。新首相就任直後にショックを起こしたのだから、これはきわめて不名誉なことだと言わざるを得ないだろう。

■投資してほしいのか、ほしくないのか分からない

岸田首相は日本の借金の膨大さを憂い、財政規律を重視している可能性が高い、というのが私の岸田分析だ。

菅前首相がアベノミクスを踏襲したのに対し、岸田首相はかなり違う路線を歩むのではないかと思う。金融緩和、財政出動など、市場にお金が増える政策に積極的ではないが、かといって増税などもあまり考えておらず、かつ貯蓄から投資へという投資誘導路線を重要視していると言いながら、株取引で得たキャピタルゲインや配当収入に対して課せられる税金の税率を、現在の税率一律20%から25%に上げようとしている。まことに矛盾が多いのだ。

マネーコインのバランス
写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

米国にも似たような流れがあるにはある。だが米国の場合、そもそも論として、米国では、総額としては株を一部の人たちが独占的に握っているとしても、株を持っている人の数がかなり多い。しかし、日本の場合はそうではない。25%の金融所得増税を実施してしまうと、株を買って運用する人のシェアが増えないのは目に見えている。さらに言えば、日本人の投資が日本株に向かわなくなってしまう。

■「金持ちいじめ」と受け止められても仕方がない

個人資産2000兆円のうちわずか11%しか株に回っていないのは、常々、私が言及していることであるが、あまりにも少ないと言える。1980年代後半のバブル全盛時には日本人の個人資産のうち株式での運用が30%を超えていたのを考えると、いまは3分の1に縮んでしまったことになる。

50%超の米国には届かないにしても、いまの3倍程度には増やしたいものである。そうすれば本当の意味で「貯蓄から投資へ」の世界が実現されるだろうし、日本の株式市場にもお金が回ってきて、活性化されよう。ただし、いまのままでは厳しいだろう。

「成長と分配の好循環の実現を目指す新しい資本主義」

これが岸田首相が掲げるスローガンなのだが、市場はこういうわかりにくいメッセージを嫌がる。新しい資本主義などと言われると、市場には何か中国式資本主義のように聞こえるからだ。もしくは金持ちを締め付ける資本主義とも聞こえかねない。

いままでより格差是正、分配優先、社会福祉に中心を置く資本主義ではないかとの憶測が飛んだ。これらはイコール金持ちいじめにつながるわけだから。

私見に過ぎないが、岸田政権の路線については、ちょっと行きすぎている気がする。確かに米国の政治は、いま明らかに格差拡大を是正し金持ち優遇を見直そうとする左派に向いている。けれども、日本はまだ米国やヨーロッパと同じ問題を抱えているわけではない。

日本の場合はとんでもない金持ちが多くいるわけではないし、株で儲かっている資産長者がさほど出ているわけでもない。

岸田政権が欧米や中国に政策を合わせようとしているのは、あまり意味を見出せないように思う。日本はこれらの国とまったく違う性質でまったく違う問題を抱えているのだ。投資家への増税より投資家を増やすことにこそ重点を置くべきである。

■ステルス値上げを止めるには減税が必要

いまのところ日本は製造業の調子がいいのだが、その理由は単純に言うと円安である。円安により日本の輸出競争力が上昇しているわけである。

これも私がずっと主張してきたことだが、世の中は“ドル不足”だと、ドル高になる。さらに今後、いまのドル高傾向は強くなると思っているので、円安で日本の輸出企業が恩恵を受けることはおおいにあり得る。

ただし一方でコモディティ高の状況での円安は、あらゆるモノの価格を押し上げてしまう。特に日本のなかで、内需関連の仕事をしている企業にとっては苦難が待っている。とりわけ原材料を輸入に頼っているところは値上げ必至で、それが最終的には消費者に転嫁されていく。すでに食料品などは、値段は据え置いても量が少なくなるステルス値上げが日常化した。さらに少しずつ値上げをして、輸入材料の上昇を価格に転嫁する企業も増えてきた。

こうした状況下において日本政府は、本来ならば減税を実施すべきだと思う。たとえば消費税をもう一回5%に戻すのだ。

政府が条件をつけて10万円を配ったりしてもまったく無意味で、配るなら全員に配って、配らないなら配らないというやり方にしたほうがよかった。私は消費税を5%下げるか、もしくは消費税を還元するというやり方がいいと考える。たとえば大きな買い物で支払った消費税を5%還元するというやり方もある。

■バブルのトラウマを抱える日本人

設備投資をしたり、その国の未来に投資するのが本来の投資手法なのだが、いずれ過剰投資が起きて、投機熱に浮かされるようになる。そして、その逆は先進国の上場会社が設備投資をせずに、自社株買いで自社の株価を吊り上げることに血道を上げていることだ。

設備投資をしないことは、最終的にはインフレを生まないし、高成長も生まない。だから世の中で、特に先進国は低成長に陥っている。これをジャパニフィケーションと呼んでいる。日本で最初に起きたことだからである。

日本がバブルのときは現金の価値が低く、不動産や株式などのリスク資産の価値が高かった。バブル崩壊後に日本で何が起きたかというと、日本の会社、特に銀行セクターは大量の不良債権を抱えていたが、それを国が救済した。もう一つは、膨大な人たちが不動産や投資で大損をしたので、現金の価値が高まった。

現在はもうその必要性はないのだが、心理的な状況はいまでも続いていて、日本人は現金をすごく大事にする。それはバブルのトラウマを抱えているからだ。

だから、日本はデフレから抜け出せない。結局、現金のニーズが高まっても、日本人はバブル前よりもお金を借りなくなってしまった。銀行に借りに行かない。銀行から遠のいてしまった。そうなると、デフレ脱却は無理なのだ。お金は中央銀行がつくっているのでなく、信用創造でつくられるわけだから、誰かが銀行で積極的に借金をしない限り、社会に出回るお金は増えない。

したがって、他国に資金を貸し出すキャリー体制とは、本質的にはインフレになりにくい、デフレ的な環境といえる。

■米国株ばかり買う人にすすめたい「日本株の積み立て」

日本の個人金融資産総額がどうやら2000兆円を突破したようだ。昨年9月末時点で、1999兆8000億円だったから、当然といえば当然である。

ただ、先にも述べたが個人金融資産の中身を見ると、相変わらず株で運用している人は11%でしかない。やはり預金は54%と高い。

しかし、これから日本がインフレになってくれば、株で運用しなければならなくなるだろう。日本人の株への投資で残念なのは、日本株を買わずに、いまは米国株に夢中になっていることである。こうした人たちはドル高で儲かっているのと、米国株が上がっているのでダブルで儲けて、金融資産を増やしている。

これが2022年から米国株が大きく下がり始めると、日本人の米国株買いの流れが変わるかもしれない。

日本株も当然連れ安となるのだろう。けれども、米国株ほどは落ちない。下げ幅は限定的で、再度上がっていく。

理由は、株はサイクルであるからだ。要は順番なのだ。ここ30年間日本株がバブル崩壊後、低迷を続けたのに対し、米国株は高値を何度も更新、株高時代を存分に謳歌(おうか)した。これが逆転するわけである。

したがって、私がお勧めしたいのは「日本株の積み立て」である。ただ、指数や好きな個別株を少しずつ買い増していくのも良い。

日本の金融株式市場のイメージ
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

■割安株にコツコツ…防衛、食料、飲料が最適

これは冗談に聞こえるかもしれないが、有事が近づきハイパーインフレになるような場合には、自己防衛として預金の価値を減らさないためにも、株式投資を勧めたい。

リスクの低い投資先としては、防衛関連株などのバリュー株は最適である。三菱重工、川崎重工、IHIなどの防衛関連株は、これまで見向きもされなかったので、とても割安である。少し範囲を広げて、重厚長大で、これまで株価がもたついていたところも狙い目ではないか。

もう一つは食料、飲料関連株だろうか。これもやはりディフェンシブ銘柄で、たとえ有事になっても需要は落ちることはない。これらの株式はいまのところ大バーゲンセール状態のように割安である。以上のような個別銘柄をコツコツと買い進めて、長く持つつもりで宝物にするのは、今後お勧めの投資法だと思う。

少なくともインフレには負けないだろうし、そのうえに年間3%くらいは配当が取れるからだ。

■ハイパーインフレから資産を守るには

預金して何もしないよりは断然いい。いままで日本はデフレだったから預金するのは妥当な選択といえた。けれども、今後はインフレを常に意識しなければならなくなる。

エミン・ユルマズ『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)
エミン・ユルマズ『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)

半導体関連株も悪くはないのだが、これもサイクル的な要因から、いまはとても割高となっている。調整局面が訪れると大きく値下がりすると思われることから、いまは手出ししないほうが得策だ。

ハイパーインフレの可能性を感じるとき、われわれ庶民は何を持って対抗すればいいのだろうか。一つは、インフレに非常に強い資産である株である。指数で持ってもいいし、個別株で持ってもいいだろう。基本的に株はインフレヘッジにもなる。その銘柄(会社)が活動している限り、株は生き続けるからだ。

株の次にはゴールドではないか。ただし、ゴールドの場合は儲けもしないし、損もしないという性格を備えているのを自覚しなければならない。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『新キャッシュレス時代 日本経済が再び世界をリードする 世界はグロースからクオリティへ』(コスミック出版)、『コロナ後の世界経済 米中新冷戦と日本経済の復活!』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)、『それでも強い日本経済!』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)などがある。

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(エコノミスト エミン・ユルマズ)

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