高層階ほど節税額が増える…富裕層がこぞって「タワマン最上階」に住みたがる本当の理由
プレジデントオンライン / 2022年4月20日 9時15分
※本稿は、大村大次郎『世界を変えた「ヤバい税金」』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■ひげ、公衆トイレ…滑稽で喜劇のような古今東西の「税金」
税金は、学者や政治家などが綿密な分析のもとに、国家の将来を見据えて制度設計してつくっている。だから、きちんと払わなくてはいけない……そんなふうに思っている人は多いのではないでしょうか?
しかし、税金の実態を知っている元国税調査官から言わせてもらえば、税制は、国家の将来のために機能しているとは限りません。問題はたくさんあります。
人類の歴史を振り返ってみても、税金が国民のためにしっかり使われていた国は、非常に稀です。
国の指導者や上層部は、とにかく好き勝手に税金を使おうとします。その費用をねん出するのに、どの国の財務官も四苦八苦しているのです。
財源不足を補うために、古今東西の財務官たちは試行錯誤を繰り返し、さまざまな新しい税金を考案してきました。
古代ローマでは公衆トイレに課税し、18世紀のロシア帝国ではひげに課税し、戦時中の日本では芸者遊びに「300%」という超高率の税金を課したこともありました。その様子は、一歩離れた目で見ると非常に滑稽で、喜劇のようでもあります。
■タワマンの高層階は富裕層の節税アイテム
税金のかけ方次第で、国のあり方は大きく変わります
金持ちに高い税金を課し、貧しい人は免税にする。そうしたことができないと、貧富の差は広がるばかりです。また、何にどれだけ課税するかによって、産業の発展・衰退も決まります。「税制が国の行く末を左右する」と言っても過言ではありません。
実際に、税金によって、歴史が大きく変動したこともあります。
たとえば、イギリス植民地時代のアメリカは、税金のかからない元祖「タックスヘイブン」でした。そこに、イギリス本国が税金を導入しようとしたことも、アメリカ独立戦争の一因になっています(「資源も何もないから無税天国にするしかない…アメリカが『自由の国』となった理由は“税金”にあった」)。
人類史の裏面とも言える、税金のもたらす人間ドラマ。
その1つとして本稿では、昨今人気が集まっているタワーマンションをみていきます。1億円以上のいわゆる「億ション」が一瞬で売れてしまうことも多々ありますが、これには税金が関係しています。
「タワーマンションの高層階は税金が安い」、そんな話を聞いたことのある人もいるのではないでしょうか? 実は、富裕層の節税アイテムとして注目されているのです。
■田舎の一軒家よりも都心の高級マンションのほうがお得
不動産を所有すると、毎年、固定資産税が課せられます。標準税率は、土地や建物の評価額に対して1.4%です。
ただし庶民の生活費を圧迫しないよう、狭い住宅地には大幅な割引特例制度があります。住宅用の狭い土地(200m2以下)に関しては、固定資産税は6分の1でいいのです。
たとえば、郊外にある600m2の土地を2000万円で買い、家を建てた場合について考えます。この土地は200m2を越えていますから、1.4%の固定資産税を払わなければなりません。
一方で、都心の一等地にあるマンションの、50m2の物件を2億円で買った場合はどうでしょうか。土地の相当額は1億円ですが、部屋の広さは50m2に過ぎません。そのため、固定資産税は通常の6分の1になるのです。
固定資産税割引制度の条件は、土地の広さです。価格はまったく考慮されません。だから200m2以下であれば、いくら都心の一等地のマンションであっても、郊外の広い土地より低い税率になります。
また、マンションの固定資産税対象となる「土地所有面積」は、所有する物件の敷地面積ではありません。マンション全体の敷地を総戸数で割ったものとなります。
200m2以上の高級物件だったとしても、マンションの敷地面積が6000m2、総戸数が100戸であれば、土地所有面積は60m2として扱われるのです。
戸数の多いタワーマンションであれば、実際の部屋の広さよりもかなり小さい数値となり、土地所有面積が200m2を越えることはほとんどありません。タワーマンションのほとんどは、土地の固定資産税が6分の1になります。
田舎の一軒家に住むよりも都心の高級マンションに住んだ方が、税金の面では断然お得だと言えるのです。
■2倍以上の価格差でも固定資産税の評価額は10数%
高層階には以前、さらに有利な点がありました。固定資産税の評価額は、同じマンションでは1つの価格しかつかないことになっていたのです。高層階の部屋と低層階の部屋では価格はまったく違いますが、広さが同じであれば、固定資産税は同じになります。
高層階の値段が高い物件を買えば低層階と同じ評価額しかされないので、その差額ぶん節税することができたのです。
当局もこの不公平さに気づき、2017年度には、固定資産税の評価額が改正されます。20階以上のマンションの高層階に対しては、階を上がるごとに高くなるように設定されたのです。1階と最上階の税率の差は、最大で10数%程度にもなりました。
しかし、この改正は、かえって「タワーマンション節税」を有利にした可能性があります。
というのも、不動産市場において、高層階と低層階の価格の違いは10数%では済みません。マンションによっては、2倍以上の価格差が生じる場合もあります。
にもかかわらず、固定資産税の評価額では10数%しか差がありません。新しい固定資産税を適用されたとしても、節税策としてはまだ十分にメリットはあるのです。
また、この新しい課税方法が適用されるのは、2017年4月以降に販売されるマンションです。それ以前に販売されたものについては、従来の固定資産税が適用されることになります。
ということは、中古のタワーマンションを購入することの節税効果は、以前とまったく遜色ないのです。
■追加課税でもタワマン節税の人気は衰えない
しかも、しかも、です。固定資産税の額は、相続税とも連動しています。相続税の資産評価額は、本来は時価が基本になりますが、不動産などの場合は固定資産税の額で申告していいという特例があるのです。
タワーマンションの高層階の土地代についても、時価よりもかなり低い額で相続税申告できることになります。
ただし、この節税方法には落とし穴があります。相続税の評価額を固定資産税の評価額で申告していいというのは、便宜上そう決められているだけで、原則としては時価で換算することになっています。
固定資産税を基準にして申告しても、あまりに時価と差があれば、税務署に修正される恐れがあるのです。
また、税務当局もタワーマンション節税を快く思っておらず、明らかな節税目的の購入に対しては、追徴課税がされたこともあります。
とはいえ、相続税との連動を差し引いても、タワーマンションの高層階が節税になることは変わりません。人気はしばらく衰えそうにないでしょう。
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元国税調査官
1960年生まれ。大阪府出身。元国税調査官。国税局、税務署で主に法人税担当調査官として10年間勤務後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。難しい税金問題をわかりやすく解説。執筆活動のほか、ラジオ出演、「マルサ!! 東京国税局査察部」(フジテレビ系列)、「ナサケの女~国税局査察官~」(テレビ朝日系列)などの監修も務める。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』(中公新書ラクレ)、『ズバリ回答! どんな領収書でも経費で落とす方法』『こんなモノまで! 領収書をストンと経費で落とす抜け道』『脱税の世界史』(すべて宝島社)ほか多数。
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(元国税調査官 大村 大次郎)
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