「成長したいけど、意味のない理不尽は嫌」今の若者が"ちょっと厳しい職場"をあっという間に辞めてしまう理由
プレジデントオンライン / 2022年4月29日 9時15分
■イントロダクション
コロナ禍による一時的な採用絞り込みの動きはあるものの、近年の日本では、生産年齢人口減少などの影響を受け、企業の「人手不足」が深刻になっている。
それなのに、やっとの思いで採用した新卒の若者がすぐに辞めてしまう、といった嘆きがよく聞かれる。なぜ彼らはせっかくの就職をふいにしてしまうのか。
本書では、中高年からはなかなか理解されない現代の若者の仕事やキャリアに対する考え方やその変化、それに影響する大学教育の実態などについて、調査データと著者自身の経験をもとに考察。
現代の若者の多くは職場での「成長」を重視するが、それは「受け身」のものであり、企業が「成長させてくれる」ことを望む。それが叶わず、主体的な努力が必要な厳しい職場であることがわかると、躊躇なく辞めてしまうのだという。
著者は神戸学院大学現代社会学部教授。経済学博士。旧労働省に入省し、厚生労働省大臣官房国際課課長補佐(ILO条約担当)等を経て、兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科教授。2014年から現職。
1.本格化する若者激減時代
2.甘い経営者と中高年管理職の認識
3.若者は弱いか?
4.日本を衰退させる若者の仕事観
5.日本を再浮上させる若者の仕事観
6.若者はなぜ「成長」したがるのか?
7.もはや小中高と大差ない大学
8.若者を有効活用できている企業がやっていること
9.今の若者に欠けているもの
おわりに 日本企業は大学より遅れている?
■「成長しないとヤバい」不安を感じている
就職先を決めるに際して若者が最も重視するものは何か。リクルート就職みらい研究所「就職プロセス調査(2021年卒)」では、「就職に際して何を重視したか」という質問に対する答えとして、「成長できるかどうか」が最も多くなっています。
ところで、大学の授業で困るのが私語です。私語を聞かされる周りの学生は迷惑します。どう黙らせるか。試行錯誤を重ねて編み出した方法の一つは、授業の中身をなるべく学生の実生活と絡めて解説してやることです。自分と無関係ではないとわかった瞬間、どんな学生も聞き耳を立てようとします。
その中で、「武器」「護る」「盾」といった防衛本能をくすぐるような言葉を使うと、急に演壇の方を向く学生が多くなることに気付きました。英語の授業などでも「これからはインバウンドやグローバル化で、英語ができれば自分を護る大きな武器になるよ」と言うと、聞き耳を立てるようになるのです。
みな、どこかで不安を感じているのです。この文脈で成長という言葉を捉えると、全く違った風景が見えてきます。武器と同様に成長しないとヤバい。若者にはどこかそんな感覚があるということです。
■「成長=意味のない理不尽に耐えること」ではない
どうして、そんな危機意識が若者にあるのか。まず、就職氷河期という時期が現実にあったことを知っていることです。いくら人手不足だとはいっても、経済状況や国際社会の動きで、自分の立場は一気に危うくなる。そういう意識が身心のどこかに強く刷り込まれているのです。就職氷河期を間近にみたこともあるし、自分の父親や母親がリストラの憂き目にあったことなどもあって、不況の怖さを体感しているのです。
それでは、若者にとって「成長する」とは何を意味するのでしょうか。まず、はっきりさせておくべきことは、成長とは、たとえ労働条件に優れた大企業であったとしても、「意味のない」理不尽に耐えることではないということです。
![アジア人ビジネスマンが指差す手](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/b/1200wm/img_4b65a13d41f7abdb69fc1ff38015f0f9368648.jpg)
(*若者のいう)「成長」の意味するところをひもとくと、(*その一つは)専門能力を身につけることです。企業からクビを切られそうになっても、次の会社に移っていけるだけの専門能力を積み上げることが成長だと思っているのです。
若者が成長できるという時のもう一つの意味は、自分の専門能力を築くといった主体的なものではありません。ものすごく受け身的なものです。それは「成長できる職場環境」かどうかということです。その職場にいただけで成長できる。そういう場所で働くことを求めているのです。
■自分を成長させてくれる上司がいる職場を求めている
この場合の「成長できる」というのは、専門能力といった具体的なものではありません。非常にぼやっとしたものです。おそらく、仕事全般とメンタルを含めた総合的なものを成長と呼んでいると思います。仕事のやり方を覚えた、仕事を早く処理できるようになった、仕事のスキルや専門知識を身につけることができるようになった、少々のことではへこたれないようになった、打たれ強くなったなどです。
今の若者が厄介なところは、こういうことを主体的に学ぶのではなく、学べたり体験できたりする場を誰かが整えてくれる、あるいは、整えてくれるべきだと考えているところです。「誰か」が誰かと言えば、企業ということになりますが、もっとも身近なところでいえば、上司ということになります。様々なことをきちんと教えてくれて自分を成長させてくれる上司がいれば、そこは若者にとって「成長できる職場」ということになります。
どうして、こういう受け身的な考えが出てきたのか? バブル経済が崩壊して一流大学→一流企業というモデルが崩壊しました。実力主義も声高に叫ばれるようになりました。そして、教育業界では、学校で学ぶことによって力がついた、それによって教育機関や教師の力量もはっきりするということがようやく最近、認められだしたのです。教育内容次第で急激に偏差値を上げる大学も出現するようになりましたし、これまでは無名でも教育内容次第で偏差値が変わるようになったのです。
■成長は「誰かが経験させてくれるもの」になった
ここから、経験や学びによって成長できる、成長できれば人生が変わるという公式が徐々にですが、少なくとも、若者や保護者の間には浸透しつつあって、企業も同じ範疇でみられるようになったということです。成長は自分で勝ち取るものではなく、誰かが経験させてくれるもの。こういう考え方が刷り込まれた結果、成長させてくれる職場はどこか、成長させてくれる上司や同僚はいるかと探すようになった。
本来、成長するかどうかは自分次第。どんな環境でも学ぶことができるし、成長することができるはずなんですが、社会人になる前に、学校をはじめとする様々な場所で成長できる経験を提供されてきたこともあって、成長できる経験を提供してもらえると思い込んでいる部分があるのです。
![日本の中学生が教室で勉強している](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/b/1200wm/img_1b6882b8f847862810b2a1778a1c6b03494411.jpg)
医療と教育は90年代後半以降、マーケットメカニズムが最も導入された分野です。ゆとり世代を中心に、今の若者は恵まれた教育環境で育ってきました。医療や学校といった従来、医者や教師の上から目線で運営されていた組織が大きく変化して、学生は急に顧客扱いされるようになった。教育機関は必死になって学生の能力を伸ばし、成長させようと躍起になった。
■すぐに転職できるから、厳しさに耐えようとしない
そういうものすごく甘い環境で若者は教育を受けてきた。若者はその延長線上で企業にも何かを求めている。かつては、こういう状況で卒業した学生は体育会系の理不尽な終身雇用の世界に入っていって、社会の現実を知って変化していくというパターンでしたが、今や若者が極端に少なくなっていて、企業の厳しさに直面する若者はさっさと仕事を辞めてしまう。
人手が余っていれば、こういう状況でも問題はなかった。職がなくなり苦しくなった若者はわがままを言っている余裕などない。やがて企業に頭を垂れてくる。頭を垂れない場合には不安定な非正規の職が待っているだけ。しかし、今や、人手不足でこの突き放しが通用しなくなった。転職市場は整備されつつあり、ブラックで気に入らないと思えば若者は辞めていく。特殊な技能を持った若者の場合、これからは高額報酬をちらつかせる欧米や中国の外資系企業に転職していく可能性も高くなっている。
■抽象的な話は「最悪」、必要なのは「具体的なアドバイス」
さて、こういう若者を前にして何をすればいいでしょうか? まず、受け入れましょう。自分と違った存在であり、自分と相当異なった考え方をするとしても受け入れましょう。次にやるべきことは何か。彼等を指導する上司であること、もう少し年を重ねた中高年の場合には彼等を上手く使う管理職であることをきちんと自覚することです。
![中野雅至『なぜ若者は理由もなく会社を辞められるのか?』(扶桑社新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/b/1200wm/img_eb3acfa49ccb78b49067ea230459491d239413.jpg)
若者を使いこなす管理職に求められる具体的な能力が何かを説明します。参考になるのは、エンジャパンの調査(「ユーザーアンケート調査」2018年2月23日)です。上司に何を期待するかを聞いたものですが、35歳以上と34歳以下で微妙に違うものがあります。34歳以下の若者は「業務について具体的なアドバイスをくれること」「分かりやすく細かい指示を出してくれること」という二つの項目をあげる者が多い(*35歳以上では「公平・公正に評価してくれること」「仕事を任せてくれること」の多さが目立つ)。
この回答から導くことのできる、若者を上手く扱う第一歩は、自分自身が仕事をきちんと把握していることです。自分自身が仕事を把握していない限り、部下に細かで具体的な指示など出せないからです。仕事ができる上司であれば、具体的なアドバイスができるはずです。抽象的ではダメです。具体的なアドバイスができるかどうかが肝なのです。
抽象的なアドバイスで誤魔化そうとする上司は沢山います。若者はそんな上司の胡散臭さをよく理解しています。スマホで様々なデータや情報を取れる今の若者は、具体的な解決策を求める傾向があり、抽象的な話で誤魔化す上司は最悪に映るのです。
※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの
■コメントby SERENDIP
若者に対して上司や管理職は、「ヒントを与えて自ら考えさせる」ことも必要だろう。それをしなければ、若者はこれから待ち受ける多くの理不尽で複雑な状況に対処できず、「成長」はおぼつかない。大事なのは、それを「具体的なアドバイス」と組み合わせることではないだろうか。その際、具体的なアドバイスの中に「考えるための曖昧なヒント」を巧みに紛れ込ませることもできる。だが、もっと有効なのは、自ら考えることの重要性を、具体例を挙げながら、最初にていねいに説明してあげることだと思う。おそらく現代の若者は、それを素直に受け入れる傾向にあるのではないか。
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(書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」)
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