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グレーな行為も見て見ぬふり…税務署が絶対に逆らえない"政治家より怖い存在"

プレジデントオンライン / 2022年4月29日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Daly

国税庁、国税局、税務署の職員は退職後に税理士となることがある。元国税調査官の大村大次郎さんは「こうした国税OBは大企業に天下ることがあるが、それは税務署の職員と癒着しているからだ。OBのいる企業に対して、厳しい税務調査はやりづらい。信じられないかもしれないが、そうした癒着の構造がある」という――。

※本稿は、大村大次郎『実録! 税務署の怖い話』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■国税庁、国税局、税務署はどう違う?

税金のニュースなどでは、よく「国税庁」「国税局」などという名称が出てきます。税金の統計発表などをするときには「国税庁」という名称が使われ、脱税を摘発のニュースではほとんどが東京国税局のような「国税局」です。しかし一般の人にとって、税金を徴収する機関というと「税務署」のはずです。

国税庁、国税局、税務署はどう違うのか、一般の人にはなかなかわかりづらいところですよね。なので、まずそれについてご説明します。

税金には「国税」と「地方税」があります。国税というのは、国が徴収して使用する税金のことで、法人税、所得税、消費税(8割)などがあります。地方税というのは、都道府県や市区町村が徴収して使用する税金のことで、固定資産税や自動車税などがあります。そして、本稿のテーマとしている税務署というのは「国税」を取り扱う機関です。

国税を取り扱う省庁は、国税庁です。そして国税庁の下には、東京国税局、大阪国税局など全国12の国税局があります。その国税局の下に税務署があるのです。税務署は全国で524カ所です。国税庁が税務行政に関する方針を決め、国税局はそれを受け、税務署を指導します。だから、当然、国税庁→国税局→税務署というピラミッド的な関係になります。

■大型事案や悪質な税金逃れは国税局が扱う

また国税局は、税務署が扱わないような大型事案を取り扱います。原則として、税務調査は管轄する税務署が行うものですが、一定以上の規模の業者に対しては、税務署ではなく国税局が調査を行います。「年間の売上が10億円以上あるような企業は、国税局が扱う」という感じです。どの程度の規模になれば国税局管理になるか、というのは、各国税局によってまちまちです。

また、悪質で巨額な税金逃れの可能性があるということが見込まれる業者に対しても、税務署ではなく、国税局が調査します。たとえば税務署の調査で1000万円以上の脱税が見込まれるような事案があった場合は、それを国税局に報告し、国税局が税務調査を引き継ぐのです。

マルサと呼ばれる組織も、国税局の中の部署の一つなのです。たとえば東京国税局のマルサの場合は、「東京国税局査察部」というのが正式名称です。

■政治家以上の影響力を持つ「国税OB税理士」

税務調査に関しては、政治家よりも国税OBの方がよほど影響力があり、介入の頻度も多いです。政治家は、支持者から口利きを求められたときにだけ介入してきますので、税務署としてもそう簡単には口利きには応じません。

しかし国税OBの場合、税務署と日常的な癒着の構造があるのです。具体的にいえば、国税OBの税理士が顧問となっている企業には、税務署は手心を加えることが多いということです。

税理士というのは、企業の決算書、申告書をつくるのが主な業務です。税務署に対し、企業側の代理人的存在であり、国税(税務署)との折衝役的な存在でもあります。

この税理士の多くは、国税のOBなのです。国税職員というのは、約23年間勤務すれば、税理士の資格が得られます。そのため、国税職員は、退職すると、ほとんどが税理士になります。つまり、それまで企業の税務調査などにあたっていた税務署員たちが、退職後は企業側に回って、代理人になるのです。

現役の税務職員にとって、国税OB税理士は先輩にあたります。それが、納税者の味方、つまり自分たちの敵として対峙(たいじ)するわけです。普通の「緊張関係」を保てるわけがないのです。

そもそも国税職員というのは、先輩と後輩の結び付きが強い組織です。後輩は先輩の言うことを絶対聞かなくてはならないし、先輩は後輩の面倒を必ず見なければならないという不文律があります。

■大阪国税局の職員十数人がOBから接待

また国税職員というのは酒の付き合いが非常に多いです。そして酒席となれば、必ず先輩が後輩に奢ってやらなければならないという暗黙の掟もあります。そういう関係というのは、先輩が国税を辞めたからといって簡単に断ち切れるものではありません。

すると、どうなるでしょうか? 当然のごとく税務署員と税理士の癒着になるのです。たとえば、2008年11月に、こういう事件が発覚しています。

大阪国税局の職員十数人が、同国税局出身のOB税理士から飲食の接待を受けていて、処分を受けたのです。このOB税理士は2002年まで大阪国税局に勤務しており、当時は大阪市内で税理士業を開業していました。

そして個人の課税関係の現職職員らに飲食の接待などをしていたそうです。

この大阪の事件は少し古いですが、現役の国税職員に聞いてみると、今も国税の体質は変わっていないようです。この件での大阪国税局監察官の調査などでは、職員が税理士に対して具体的な便宜を図った事実は確認されなかったので、贈収賄事件には発展していません。

■影響力は国税の中枢におよんでいることも

しかし、この行為は国家公務員倫理法に抵触していたのです。贈収賄としては立証できなくても、国税職員たちがこのOB税理士の顧問先に、なんらかの手心を加えたことは、明白です。

こういう接待を受けた場合、そのOB税理士の顧問先でまともな税務調査などできるわけがないのです。

あからさまに税金を安くすることはなくても、落ち度を見て見ぬふりをしたり、普通よりも軽めの調査になることは非常によくあることなのです。筆者も、現役時代にOB税理士から御馳走されたこともありますし、OB税理士から紹介された飲食店で、料金を安くしてもらったこともあります。こういう経験がない税務署員は、皆無だと言っていいでしょう。

しかも国税OB税理士が、元幹部だったりすると、国税局に強い影響力を持つことになります。直接の後輩が国税の中枢にいることが多いからです。だから、国税の大物OBには、職員レベルではなく、国税局や税務署までも遠慮してしまうことになるのです。

書類に記入するビジネスマン
写真=iStock.com/KittisakJirasittichai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KittisakJirasittichai

■元国税局長の「幼稚な脱税」が当初バレなかったワケ

国税OB税理士と税務署員の癒着について、象徴的な事例を一つ紹介しましょう。2002年、元札幌国税局長の税理士が、約7億4052万円を隠し、約2億5273万円を脱税していたとして起訴される、という事件がありました。

この税理士の脱税の手口は非常に幼稚で、収入の一部のみを申告し、大部分の収入を申告していなかったというものです。経費の水増しや、ダミー会社を通すなどという工作さえ一切用いられていなかったのです。

なぜこのような幼稚な脱税をしていたのかというと、国税はOB税理士に甘いからです。この税理士の場合は、元国税局長という大幹部です。国税局長というのは、普通はよほどのことがない限りノンキャリアの人間がなることはありません。

この税理士はノンキャリアで国税局長になったのだから、まれに見る大出世といえます。「ノンキャリアの星」とまでいわれた人物です。

この税理士は、国税局人事二課長、国税庁首席監察官など、国税の重要ポストを歴任していました。東京国税局人事二課長の時代には、国税庁と検察庁との調整役を果たすなどしていました。

国税庁首席監察官というのは、国税職員全体を監視する役割です。国税には、監察という部署があり、ここは国税職員が不正や不祥事などを起こさないように見張るところです。

■摘発に踏み切った意外なきっかけは…

税務署は、金銭が関係する仕事であり、贈収賄などの誘惑を受けやすいものです。そのため、監察という専門部署を設け、職員を日ごろから監視しているのです。監察は職員の素行調査などを行うこともあり、また全職員の素行データをも全把握する立場にありました。

つまり、この税理士は国税庁の内部事情、国税庁と検察庁との関係など、国税庁のトップシークレットを握っている人物でした。

そういう大物OBに対して、税務署は手出しをすることができないのです。だからどんな大胆な脱税をしていても、発覚することはまずなかったのです。

そういう大物の国税OB税理士がなぜ捕まったのかというと、国税側にやむにやまれぬ事情があったからなのです。

この税理士は、大手芸能プロダクションが脱税して査察に踏み込まれたとき、顧問税理士になったのです。普通の査察事件ならば、この税理士の威光で、査察の調査も鈍ったかもしれません。しかし、大手芸能プロの事件です。マスコミが連日、周辺を嗅ぎまわるので、査察としても手心を加えるわけにはいかなくなったのです。それどころか、マスコミはこの税理士のことも調べ始めました。

そこに危機感を抱いた国税当局は、マスコミにすっぱ抜かれる前に、自らの手で脱税摘発に踏み切ったのです。つまりは、この税理士が大手芸能プロの事件に関与しなければ、今でも逮捕されていない可能性が高いのです。

■大企業と国税の構造的な癒着

大物OBと国税との癒着は、構造的なものです。というのも、少し前まで国税は大っぴらに幹部職員の退職後の顧問あっせんを行っていたくらいなのです。

これは、税務署が管内の企業に働きかけて「今度、うちの署長が辞めるのだけれど、顧問として雇ってくれないか」と打診するというものです。その打診を受け入れる企業は、当然のことながら、税務署に手心を加えてもらおうと思っているはずです。

また税務署の方も、税務署長を雇ってくれた企業に、そうそう厳しいことも言えません。自分たちもゆくゆくお世話になるかもしれないからです。

こういう「あっせん」を国税は長い間、堂々とやっていたのです。国税と企業の癒着もいいところです。信じられないことかもしれませんが、これは事実です。

■大企業は国会議員の口利きなど必要ない

数年前に国会で問題にされたため、あっせん制度は2010年に、一応、廃止されました。しかし、今でも内々では行われています。この制度に関しては、国税職員の間でも常々疑問に思われていることなのですが、最高幹部のやっていることなので、なかなか廃止できないというのが、実情です。

大村大次郎『実録! 税務署の怖い話』(宝島社)
大村大次郎『実録! 税務署の怖い話』(宝島社)

そして、日本の大企業の大半は、国税の大物OBと何らかの形でつながっています。顧問にしたり、職員として受け入れたりもしています。そのため、大企業が厳しい税務調査を受けることはないのです。

国会議員の口利きなどは、この大企業と国税庁の癒着に比べれば可愛いものです。国会議員が口利きをする企業というのは、だいたい上場企業ではなく、中小企業に毛の生えた程度の規模がほとんどなのです。

本当の大企業は、国会議員に口利きなど頼まず、国税の大物OBとあらかじめつながっているのです。

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大村 大次郎(おおむら・おおじろう)
元国税調査官
1960年生まれ。大阪府出身。元国税調査官。国税局、税務署で主に法人税担当調査官として10年間勤務後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。難しい税金問題をわかりやすく解説。執筆活動のほか、ラジオ出演、「マルサ!! 東京国税局査察部」(フジテレビ系列)、「ナサケの女~国税局査察官~」(テレビ朝日系列)などの監修も務める。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』(中公新書ラクレ)、『ズバリ回答! どんな領収書でも経費で落とす方法』『こんなモノまで! 領収書をストンと経費で落とす抜け道』『脱税の世界史』(すべて宝島社)ほか多数。

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(元国税調査官 大村 大次郎)

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