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海底には巨大な油田が眠っている…中国共産党が台湾侵攻を絶対に諦めない2大理由

プレジデントオンライン / 2022年5月9日 17時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kool99)

中国共産党は、独立を目指す少数民族を徹底的に弾圧してきた。『お金で読み解く世界のニュース』(PHP新書)を出した元国税調査官の大村大次郎さんは「国家としてのメンツもあるが、それ以上に経済的な事情が絡んでいる」という――。

※本稿は、大村大次郎『お金で読み解く世界のニュース』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■資本主義を巧みに使いこなす中国共産党政権

中国の経済成長方法は、欧米や日本の経済成長方法とはかなり異なる。

簡単に言えば、「外資を呼び込み、外国人に工場を建ててもらって、産業を発展させる」という方法である。

イギリス、アメリカ、ドイツ、日本などの中国以前の工業国は、自国の企業が起たちあがってくることで経済発展をしてきた。初期の段階で外国の支援を受けたこともあったが、本当に国力をつけるときというのは、自国の企業が原動力になっていた。

たとえば、日本では、明治初期に外国の支援を仰いだり、一部、外国企業が進出したりもしていた。が、すぐに紡績会社などが国内で起ちあがって、工業国の仲間入りを果たしたのである。

イギリス、アメリカ、ドイツなども同様で、自国の企業が成長するのと比例する形で、経済成長をしてきた。

しかし、中国の場合は、これらとかなり違う。

中国の経済発展は、他国の企業が主役なのだ。他国の先進企業が、次々に進出し、工場を建てる。そこでつくった製品を、その企業の母国や諸外国に輸出する。中国は場所と人材を提供するだけである。

それでも、外国の企業は、人件費や様々な諸費用を落としてくれる。しかも、外国企業の技術やノウハウ、先進の設備などを、どんどん中国に持ってきてくれるのだ。

この「外国企業主導経済」により、中国は、急激に経済発展したのである。「資本主義」の恩恵をもっとも受けているのは中国といえる。

■中国主導の投資銀行・AIIBという脅威

国際経済の中で、昨今、注目されている事項にAIIB(アジアインフラ投資銀行)がある。AIIBは、1000億ドルを出資金として集め、それをアジア各地の開発に投資するという目的を持っている。

AIIBは、中国版マーシャル・プランとも呼ばれている。特に、シルクロードが通っていた地域を重点的に開発する意向があると見られていて、中国は出資金のうち、30%程度を負担する。もちろん、それは、出資国の中では最大である。

つまりは、AIIBは、「中国が金を出し、その金を開発投資に使おう」という趣旨を持っている。他の国から見れば、中国の出した金を安く借りて開発に使える機会が生じるわけである。よほどのことがない限り損はない。だから、世界中の国がこぞって参加するわけである。

イギリスはいち早く参加を表明し、ドイツ、フランスなどの西欧諸国も次々に加盟した。アメリカと強いつながりを持つ韓国、オーストラリアも参加している。

2021年時点で100カ国以上が加盟しており、これは日本が主導して運営されているアジア開発銀行の参加国数を上回るものである。

日本とアメリカは、このAIIBへの参加を今のところ見送っている。

アジア地域においては、日本とアメリカが長く、インフラ投資支援などを行ってきた。AIIBと同じような趣旨を持つアジア開発銀行は、半世紀前の1966年に設立されている。出資比率は日本とアメリカが15.7%で筆頭である。日本が最大の発言権を持っており、日本主導の機関だといえる。

このアジア開発銀行は、アジアのインフラ投資にこれまで随分、貢献してきたという自負もあり、日本とアメリカは今更、中国が中心となるAIIBに、参加をしたくないということである。

■インフラ投資を日米に主導されたくない

一方、中国としては、日本主導ではない、中国主導のアジア開発銀行をつくりたい、と考えたのだろう。

AIIBは、出資比率に応じて議決権があり、中国の議決権は26%程度である。AIIBの議決には75%以上の賛成が必要なので、中国が議決権26%を行使して反対すれば、その事案は通らないことになる。つまり、中国が拒否権を持っているのである。

この中国の拒否権に対して、日本のマスコミなどは「拒否反応」を示すことが多い。AIIBは中国の意のままである、と。

が、この方法は、実はIMFを真似たものなのである。

IMFは、議決をする際に85%以上の賛成が必要である。アメリカは加盟国の中で唯一15%以上の出資をしており、15%以上の議決権を持つ。そのため、アメリカが反対した事案は、絶対に通らない(つまりアメリカは拒否権を持つ)ということになっているのだ。

世界の国々にとって、日米のメンツなどはどうでもいいことのようで、AIIBの加盟国は急増している。

2016年8月には、カナダが参加を表明した。カナダは、アメリカともっとも親密な関係を持ってきた国である。「アメリカ人にとってもっとも信頼できる外国」という世論調査をした場合、だいたいカナダが1位か2位に選ばれる。

そのカナダが、アメリカと対立の構図にあるAIIBに加入したのである。

カナダ政府は、AIIBの参加について、アメリカ政府と連絡を取り合っていると述べており、アメリカ政府が反対していたわけではないようである。

もしかしたら、アメリカも電撃的に参加するかもしれない。そうなると、日本だけが取り残されることになる。

■中国がウイグルやチベットを弾圧する経済的理由

このように、今後、世界でもっとも経済力を持つであろうと見られている中国だが、泣き所もある。しかもかなり深刻なものである。

フラッグライジング
写真=iStock.com/AdamWong28
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AdamWong28

中国は現在、チベット自治区や新疆(しんきょう)ウイグル自治区での人権侵害を行っているとして、先進諸国から厳しい非難をされている。

この中国の人権問題は実は、経済問題でもあるのだ。というのは、中国はチベットやウイグルの独立運動を力ずくで抑え込まなければならない「経済的事情」を抱えているのだ。

中国は、現在、世界最多の人口を抱え、世界で4番目に広い国土を持つ大国である。しかし、この大国は意外な弱みがある。

中国の地図で見てみてほしい。きっとおかしなことに気がつくはずだ。中国の上(北)の部分は、ほとんどが自治区になっている。自治区を除外した、中国本土の面積というのは、かなり狭い。

中国は、現在5つの省が自治区になっており、県レベルでも多くの自治区がある。

自治区全体の面積は、実に中国全土の65%を占めるのだ。

■自治区が独立すれば国土の3分の2を失う

中国には56の民族があり(細かい区分けをすれば数千にもなる)、自治区は少数民族が住んでいる。中国の人口の約92%は漢民族であり、ほかの民族は約8%しかいない。つまり、8%の少数民族が中国の国土の65%を持っていることになるのだ。

たとえば、昨今、世界中から人権侵害があるとして非難されている新疆ウイグル自治区は、中国の面積の約6分の1を占めている。ウイグルでは90年代初頭から分離独立運動が起き、1997年には独立派のイスラム教徒と漢民族が衝突、死者10名以上を出した。現在も激しい独立運動が続いている。

中国は、これらの独立運動が激しい自治区には強力な弾圧を加えてきた。

もし一つでも自治区を独立させてしまったら、当然、ほかの自治区にも波及してしまうからだ。全部の自治区が独立すれば中国は、国土の3分の2を失ってしまうのだ。そうなれば、12億の漢民族を、今の3分の1の領土で養っていかなくてはならない。ただでさえ資源に不安を抱えている中国は大変なことになるのだ。

中国のウイグル、チベットなどの人権問題は、政治信条や宗教思想の問題ではなく、根底はそろばん勘定の問題なのである。

■台湾問題は中国経済のアキレス腱

中国は国内の人権問題のほかに、台湾問題というものも抱えている。

台湾は、かつて共産党と国民党が争い、国民党が破れて逃げ込んだ地である。中国本土は共産党が掌握し「中華人民共和国」を建国したが、台湾は国民党政権が支配を続けた。そういう状態が70年以上続いているのだ。

台湾
写真=iStock.com/Pontuse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pontuse

「台湾と中国は70年間も別々の政府だったのだから、もう分離でいいじゃないか」

世界ではそう思っている人も多いはずだ。しかし、中国は頑(かたく)なに台湾の領有を主張し続け、もし台湾が独立を強行するならば一戦も辞さないという態度をとり続けている。

この台湾問題も、チベット、ウイグル問題と同様の背景があるのだ。

中国が台湾を手放さないのは、もちろん国家としてのメンツもある。が、それ以上に経済的な事情が絡んでいるのだ。実は中国という国は、世界で第4位の広い国土を持つ国だが、排他的経済水域は驚くほど狭い。

中国の排他的経済水域は世界で10番目であり、229万平方メートルしかない。日本は世界で8番目であり、中国の2倍近くの排他的経済水域を持っている。

■少しでも排他的経済水域を増やしたいワケ

排他的経済水域というのは、その国が海洋上の権利を持つ水域のことである。他の国は、船、航空機などの通過は許されるけれど、漁業や資源採掘などはできないということになっている。

近年、海洋開発の技術が進み、海には陸以上の資源が眠っていることがわかってきている。そのため、排他的経済水域の広さというのは、その国の資源埋蔵量に直結する問題になってきているのだ。

中国という国は、東アジアの広大な地域を占める「陸の大国」である。が、近海には、日本、フィリピン、台湾があり、ちょうど中国からの海への道をふさぐような形になっている。また中国の南端と東端には、インドシナ半島と朝鮮半島があり、韓国、ベトナムなどと海を分け合う形になっている。

つまり、中国という国は、海に向かうといろんな国とぶつかり合う位置にあるので、排他的経済水域は、国土の割には非常に狭くなっているのだ。

中国は、少しでも排他的経済水域を増やしたい。そのため、日本をはじめ、フィリピン、ベトナムなどの海域を侵し、紛争の種となっている。

■メンツと経済的利益…中国は絶対に台湾を諦めない2つの理由

尖閣諸島問題なども、もろに海洋資源が絡んでいる。

尖閣諸島とは、沖縄から左(西)に約400キロ離れた八つの小さな島である。この尖閣諸島は、戦後まで何のトラブルもなく日本の領土として国際的に認められていた。

大村大次郎『お金で読み解く世界のニュース』(PHP新書)
大村大次郎『お金で読み解く世界のニュース』(PHP新書)

しかし、1969年、国連の海洋調査で「近海に豊富な油田が存在する可能性がある」と発表された途端に、中国が領有権を主張し始めたのだ。

また日本が戦後、領有権を放棄した南沙諸島も同様である。南沙諸島周辺の海域には、豊富な石油、天然資源が眠っているとされている。中国の調査では、2000億バレルの石油が埋蔵されているという。

これはサウジアラビアの埋蔵量に匹敵する。そしてこの南沙諸島は現在、中国、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどが領有権を主張している。

中国としては他国の領域さえ分捕ろうという姿勢なのだから、台湾を手放すようなことは絶対にないのだ。

しかし、現在の台湾を形成した国民党政府は、第二次世界大戦以前からアメリカ、イギリスなどの連合国が支援してきた政府であり、現在も強い結びつきがある。アメリカ、イギリスなどのメンツもあるので、香港のように、簡単に中国に吸収されることはないだろう。

台湾問題も、今後の世界情勢において大きな火種になりかねないのだ。

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大村 大次郎(おおむら・おおじろう)
ビジネスライター
1960年生まれ。調査官として国税局に10年間勤務。退職後、出版社勤務などを経て執筆活動を始め、さまざまな媒体に寄稿。『脱税のススメ』『お金の流れでわかる世界の歴史』など著書多数。近著に『お金で読み解く世界のニュース』。

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(ビジネスライター 大村 大次郎)

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