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「TVerは使えない」は期待の裏返し…テレビはまだまだ「オワコン」ではないと私が考えるワケ

プレジデントオンライン / 2022年4月22日 15時15分

民放公式テレビ配信サービス「TVer」オフィシャルページより

4月1日、民放公式テレビ配信サービス「TVer」がリニューアルした。ところが、ネット上では「見た目も使い勝手も悪い」と散々な評判となっている。コラムニストの木村隆志さんは「これだけTVerが注目を集めるというのは期待の裏返し。テレビ離れが進んでいるといわれるが、まだまだテレビ局のつくるコンテンツへの期待は高い」という――。

■TVerリニューアル直後に批判が殺到したワケ

民放公式テレビ配信サービス・TVerが4月1日に行ったリニューアルの評判がよろしくない。リニューアル当日からネット上には、「何でこんなに使いづらくした?」「見たい番組がさらに見つけづらくなった」「無料アプリとはいえ、いろいろストレス」「広告が多すぎる」などの声が上がり続けている。

つまり、その多くは「見た目も使い勝手も悪い」というユーザーインターフェースのダメ出しなのだが、「使ってない人が作ったとしか思えない」「改悪」「とにかく前の仕様に戻して」「TVerはもう見ない」とまで言われてしまうとは思っていなかっただろう。

それらの声を受けたTVerは4日に「『お気に入り』の表示順」など一部機能の改善を実行。さらに8日、「『まもなく配信終了』リストの掲載」「『さがす』ページの使い勝手」「新着情報の掲載方法」「ランキングページの表示内容」の早期改善を予告するという緊急対応を余儀なくされた。

それでも不満の声は収まっておらず、かねて指摘されてきた「テレビ業界はネット配信が下手」「他の動画配信メディアに劣る」という印象を拭えていない。さらに、「『無料で番組を配信している』という上から目線」「このリニューアルは『嫌なら見るな』ということなのか」などの姿勢に関する強烈な批判も見られる。

テレビ局は現在、TVerやネット配信についてどんなことを考えているのか。彼らに本当の意味での危機感はないのか。なぜこのような批判を招いてしまうのか。日ごろ、各局のテレビマンから見聞きしている情報をベースに、彼らの現在地点を掘り下げていく。

■テレビ局員がネット配信に対して本音で思っていること

現在、テレビ局はネット配信についてどんなことを考えているのか。テレビマンの多くは危機感を抱き、少しの希望を見いだしはじめている。

やはりYouTubeや動画配信サービスの普及は彼らにとって驚異であり、「テレビ自体の相対的価値が下がった」ことを実感している。

それは単に「視聴率が下がり続けているから」だけではない。例えば、起用していたタレントやスタッフ、さらには同僚の局員が「YouTubeや動画配信サービスに出演・転身する」というケースが続いていることも、ボディーブローのようなダメージを与えている。

また、先週話した40代のあるテレビマンは、「妻はNetflixで韓国ドラマ、子どもはYouTubeばかり見ている」と苦笑いしていた。コロナ禍の約2年間、ずっとこんな様子が続いているのだから、自信が持てなってしまうのも当然だろう。

その危機感は、日本テレビならHulu、テレビ朝日ならTELASA、フジテレビならFOD、TBSとテレビ東京ならParaviという自社系列の動画配信サービスが、放送による広告収入の低下をカバーするような成果を上げられていないことも理由の1つとなっている。

だからこそTVerへの期待値は高く、現時点では「ここで人々を引きつけておかなければ未来はない」「TVerでウェブ広告を得ることを真剣に考えなければいけない」というのが彼らの本音だ。しかもコロナ禍に入ってから、TVerを中心にした見逃し配信の視聴が急カーブで上昇している。

■フジテレビが水曜22時にドラマ枠を新設したワケ

実際、フジテレビは3月の見逃し配信数が6455万再生の過去最高値を記録。前年比305%、月間ユニークブラウザ945万という強烈な数値であり、同局だけでなくTVer全体の動画再生数やアクティブユーザー数が増えているため、「今はここを伸ばすことに注力すべき」という声が上がっているのだ。

フジテレビはそんな戦略を裏付けるように今春、水曜22時台にドラマ枠を新設した。「ドラマはバラエティーより5~10倍の配信視聴数が得られる」と言われている上に、「NetflixやDisney+などと連携して海外配信で稼ぐ」という新たなマネタイズも期待されている。

2018年4月19日、アクアシティお台場ショッピングモールとフジテレビ本社ビル
写真=iStock.com/Mirko Kuzmanovic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mirko Kuzmanovic

■放送による広告収入より配信収入を増やす

TBSも今春に配信との連動をベースにしたドラマ枠「ドラマストリーム」を新設した。同局は昨年から「TOKYO MER~走る緊急救命室~」「日本沈没 希望のひと」を海外配信していたほか、今春放送の「マイファミリー」もDisney+で世界配信されている。

彼らは2030年に向けて、メディアグループからコンテンツグループへの転身を明言するなど、「どの局よりも危機感が強い」と言っていいかもしれない。

「放送による広告収入だけではなく、配信収入を増やすことが最重要であり、TVerはその突破口」という認識が局を超えてテレビマンの間に広がっているのだ。

批判を招いた要因① ライバル局が集まる難しさ

では、なぜ今回のような批判を招いてしまうのか。その理由は、組織の大きさとビジネスモデルによるところが大きい。

もともとTVerは民放キー局5社と大手広告代理店4社の共同出資で設立され、のちに在阪の準キー局も加わり現在に至る。

テレビ業界でなくても、大企業、しかもライバル企業が集まれば、牽制し合うとまでいかなくても、どこか声を上げにくいようなムードが漂ってしまうもの。

例えば、「本当はちょっと気になっているが、他社さんたちがそれでいいならウチも異存ない」という行為が生まれやすくなる。とりわけユーザーインターフェースなどの「細部に見えて実は重要なところに目が行き届かない」というケースは少なくない。

一方で、「各局をまとめなければいけない立場のTVerが、その大きな役割をこなしきれていない」という声を何度か耳にしたこともある。

各局には社内事情や戦略の違いがある上に、担当者個人の意見も一致するとは限らない。こういうケースでは、往々にしてユーザーより関係者のほうに意識が向いた落としどころになってしまい、批判につながっていく。

■「これくらいの使い勝手があれば十分だろう」という声も

テレビマンの中に「TVerは在京キー局と在阪準キー局の番組を集約した便利な“まとめサイト”だ」というイメージで甘く見る人がいることも指摘しておきたい。

「無料で各局の番組を網羅してるのだから、これくらいの使い勝手があれば十分ではないか」という感覚の人がいるのだ。TVerが十分な収入を上げられるようになるまで、テレビ局はこのような感覚の人を一掃できないのかもしれない。

しかし、TVerのユーザーは「テレビファースト」ではなく「ネットファースト」の生活を送る人々であり、テレビマンが思っている以上にインターフェースを見る目はシビア。

長くメディアのトップに君臨してきたテレビマンの甘さを許してはくれず、今回のような批判につながってしまう。

批判を招いた要因② まだネット配信だけでは十分に稼げない

ビジネスモデルという意味での不自由さもまだまだ存在している。周知の通り、テレビは放送で広告収入を得てきたのだが、その売り上げが減ったから「すぐにビジネスモデルをネット配信との2軸に変えられるか」と言えば、極めて難しい。

実際のところ、「配信による収入が増えている」と言っても、「地上波の広告収入と比べたら、わずか数%程度しかない」という厳しい現実があるからだ。

稼げない以上、NHKのように人材と金を大量投入することもできないため、「放送と配信の2軸」ではなく、「放送が主で配信が従」という状態からなかなか抜け出せない。

いまだ放送での広告収入に頼らなければいけないから、TVerへの取り組みにも甘さが出てしまうのではないか。

ちなみにTVerを見ているとテレビ局の自社CMの多いことに気づくはずだが、これは「まだ思うようにネット広告が売れていない」ことの証し。

TVerのCMが埋まらなければ、「いくらで売っていくのか」という基準すら定まらない不安定な状態が続き、企業サイドは出稿に二の足を踏むことになる。

■自信満々の“同時配信”も効果は限定的

TVerを語る上で、触れておかなければいけないのは、11日にスタートしたばかりの同時配信。これによって、ゴールデン・プライム帯(19~23時)を中心に多くの人気番組がリアルタイムでネット視聴できるほか、放送途中でも番組の最初から楽しめる「追っかけ再生」や、自由にチャンネルを変える「ザッピング」も可能になった。

各局は同時配信を「見逃し配信再生数のアップ」「自社系列の動画配信サービスによるアーカイブ再生数のアップ」「それらを放送視聴につなげて視聴率アップ」「人気番組を増やしてグッズやイベントなどの収入アップ」などにつなげようとしている。

しかし、同時配信はあくまでベース機能にすぎないため、その影響力は限定的なものにとどまるのではないか。

各局はこの同時配信を大々的にアピールしているが、ユーザーの感覚としては「多少便利になった」という感覚にすぎないのがつらいところ。現在の人々が求めているのはリアルタイムの同時視聴ではなく、「好きなときに見る」オンデマンドであり、「同時配信より配信期間を1週間以上に延ばしてほしい」というのが本音だ。

テレビ東京がTVerのリアルタイム配信スタートを告知する「お詫び広告」で話題を集めたが、これも自虐の面白さにすぎない。もともと放送終了後に見られていた番組が30分から1時間程度早く見られるようになっただけであり、本当に喜んでいる人はそれほど多くないだろう。

■進んでいるのは「テレビ離れ」ではなく「録画離れ」

TVerの現在地点を語る上で最後に挙げておきたいのが、人々のタイムシフト(録画)離れ。

BD・HDDレコーダーなどの録画機器が売れなくなり、一時はもてはやされた全録機器の普及も進まず、「リアルタイム視聴率は下がっているのに、タイムシフト視聴率はそれほど上がっていない」という状態が続いている。

分解されたHDD
写真=iStock.com/Ivan-balvan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ivan-balvan

つまり、ネットの普及で「録画する」という行為自体が減り、視聴人数を増やすためには配信で稼ぐしかないということ。だからこそTVerの重要度は高くなり、各局の本気度が増す要因になっている。

■期待しているからこそ不満は大きい

グーグルなど検索エンジンに「TVer」と入力すると、「無料」「パソコンで見る方法」「リアルタイム視聴」「ログイン」「ダウンロード」「使いにくい」「見れない」「テレビで見る」「無料 ドラマ」「番組表」という10個の予測変換ワードが表示された。ここにTVerに対する人々の期待と不満の大きさが表れている。

とかくテレビは「つまらなくなった」「レベルが低い」などと一方的に批判を受けがちだが、ネット上には常に「YouTubeはつまらない」「動画配信サービスの海外ドラマは合わない」などの声も飛び交っている。そんな人々ほどTVerに期待し、だからこそ不満を抱いているのだろう。

TVerには、批判的な声が目立つユーザーインターフェースだけでなく、「配信期間が1週間では短い」「ローカルセールス枠のバラエティーなど見られない番組が多い」「映像や音声がないシーンがある」「ローカル局の扱いが中途半端」などの課題は少なくないが、これらの改善にはまだまだ時間がかかりそうだ。

■意外なほど謙虚なテレビマン

ただ、広告費の設定や出演者の報酬など、本気で取り組めば、早急に折り合いをつけられそうなこともある。現在は出稿に乗り気でないスポンサーや、ネット配信を渋る芸能事務所がいるのは事実であり、まずは両者への理解を進めることを優先させるべきではないか。

「オワコン」「時代錯誤」などと揶揄(やゆ)するような書き込みは多いが、テレビマンやTVerスタッフの多くはビジネスパーソンとして優秀であり、意外なほど謙虚。

私のような書き手の言葉にも耳を傾けるし、「良いものに変えていくために、ダメなところはどんどん書いてほしい」という真摯(しんし)な人のほうが多い。彼らの顔を思い浮かべたとき、「今回の批判をプラスに変えていけるのではないか」と期待してしまう自分がいる。

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木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)

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