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当初は人気ユーチューバーを囲むサークルだった…反ワクチン集団「神真都Q」が過激化した根本原因

プレジデントオンライン / 2022年4月21日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/janiecbros

4月7日、反ワクチン集団「神真都(ヤマト)Q」のメンバー4人が医療機関に無断で侵入したとして逮捕された。また20日には、リーダー格とされる元俳優の男も逮捕された。一体どんな集団なのか。関係者に接触してきた著述家のKヒロ氏は、神真都Qには他の陰謀論集団とは明らかに異なる特徴がいくつかあると言う――。

■警視庁公安部が事務所を家宅捜査

4月7日、東京都渋谷区のクリニックに無断で立ち入り、新型コロナワクチン接種反対の抗議活動をしたとして、陰謀論集団の男女4人が逮捕された。報道を見た多くの人が、「神真都Q」という集団名、そして「ヤマトキュー」というその読みを初めて知ったではないだろうか。9日には集団の事務所を警視庁公安部が家宅捜索したという続報もあり、当局からテロ集団と同等の存在とみなされているのかと驚いたかもしれない。

さらに20日には、「岡本一兵衛」(イチベイ)を名乗るリーダー格の人物が、建造物侵入の疑いで警視庁公安部に逮捕された。

筆者は以前から、元「神真都Q」関係者と接触したり、現役メンバーの家族からの相談を受けたりしてきた(「『東京ドームに押しかけて接種妨害』反ワクチン団体に参加しているのはどんな人々なのか」)。この突如として現れた不可思議な集団「神真都Q」とは何か。どのような人々が参加しているのか、他の陰謀論集団と何が共通していて、何が決定的に違うのか。いま筆者が把握していることを、当記事で説明しようと思う。

■前身は人気ユーチューバーを囲むサークル活動

神真都Qの前身は、ある人気ユーチューバーを囲む一種のサークル活動だった。ただのサークル活動と違ったのは、その人気者が「イチベイ」を名乗る2枚目の元俳優で(俳優時代は「岡崎礼」と名乗っていた)、話術に長(た)け、番組の話題が反ワクチン論を含む陰謀論だった点だ。

「イチベイを囲む会」的な集団だったこの頃の動画が、YouTubeに数多く残っている。幅広い年齢層の女性が参加し、屋外で交流を楽しんでいる様子は、アイドルイベント以外の何物でもない。

このライトな陰謀論サークルに、陰謀論インフルエンサーの「甲兄」こと村井大介などが合流し、アメリカの陰謀論集団「Qアノン」の主張を独自解釈したメッセージをYouTubeや各種イベントで発信するようになった。

■全国的な規模で共鳴者が存在

独自解釈の内容を具体的にいえば、大和民族をたたえる民族主義的な傾向、Qアノンにはないオカルト的な説や描写の追加であり、最終的には、世界を影で支配する悪い宇宙人の種族と、善なる宇宙人の遺伝子を引き継ぐ大和民族や龍神との戦いという物語にまで、Qアノンの主張を換骨奪胎してしまった。彼らの陰謀論のなかで、新型コロナワクチンの接種は悪であり阻止しなければならないものとされた。

製薬工場の生産ラインに並ぶワクチンバイアル
写真=iStock.com/luza studios
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/luza studios

この独自の陰謀論が完成すると、2021年12月26日に「神真都覚醒」が宣言され、イチベイをリーダーとする神真都Qが設立された。YouTubeやTwitterを使って活動をしていたこともあり、すでに共鳴者は全国的な規模で存在していた。とりわけ、イチベイの強いタレント性がファンにはたまらなかったようだ。

神真都Qは設立から2週間足らずの1月9日に、東京で大規模な反ワクチンデモを実施している。こうした活動を支え、大所帯をまとめるのに活用されているのが、全国の地域グループごとに開設されているLINEのオープンチャットだ。接種妨害行動のような重要案件は極秘裏に計画され連絡が行われているが、幹部からの通達の拡散や構成員同士の会話は、24時間いつでもLINE上で行われているのである。

こうしたネットツールの使いこなしは神真都Qの特異性のように語られがちだか、むしろネットツールを使わないと活動が成り立たないほどの組織化にこそ、彼らの本質がある。

■陰謀論グループには珍しい中央集権的な組織化

一般的には、陰謀論の提唱者は匿名で、統括する組織も特になく、賛同者同士の交流は何かのイベントの際に行われる程度だった。ネット掲示板を発祥の地とし、賛同者が会員制交流サイト(SNS)で活発に交流しているQアノンはその意味で新しいが、やはり明確な組織化はなされておらず、提唱者「Q」は今も匿名である。

だが神真都Qは、教祖らしく振る舞うイチベイを頂点にした、1万3000人の構成員を持つとされる中央集権的な組織である。しかも全国くまなく地方組織がつくられているため、連絡網としてネットツールが不可欠なのだ。

構成員の個人情報を事細かに管理している点でも、神真都Qは中央集権的である。参加するには本名だけでなく、住所やメールアドレス、電話番号まで提出しなければならない。2022年3月に会員制度が始まると、入会金900円、年会費3600円の納付とともに、顔写真と会員カード用の生年月日を含む個人情報を再度提出するよう求められた。ここまで個人情報に執着する陰謀論カルトは、今までなかったのではないだろうか。

■自治空間をつくる「エデンの村興し」計画

個人情報だけでなく、金銭への執着も強い。神真都Qの活動のなかで特に注目すべきは、設立直後に提唱された「エデンの村興し」と、計画実現のための集金活動だ。「エデンの村興し」とは、全国各地に取得した土地に構成員が移住して自治空間をつくる計画で、イチベイは自らのYouTubeチャンネルで、すでに土地の提供を受けて「エデン造り」が始まった場所があることを語り、さらなる計画進行のため資金提供を呼びかけている。

古いタイプライターで印字された陰謀論の文字
写真=iStock.com/FREDERICA ABAN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FREDERICA ABAN

個人情報に執着し会費を徴収するばかりか、土地取得のための資金集めまで行っている点から、筆者は神真都Qを営利目的の「集金型カルト」と見ていた。だが、この確信を揺るがせたのが、当初は地方都市から始まった、新型コロナワクチン接種会場への実力による妨害活動だった。その攻撃的な姿勢を維持したまま、ついに幹部自らが東京ドームの接種会場に乗り込む騒ぎを起こし、ついには冒頭のクリニックへの妨害活動で逮捕者を出して、警視庁公安部の家宅捜索を受けるまでに至った。自らの退路を断つかのような過激化は、集金型カルトにはそぐわない。

■随所に感じる「ちぐはぐさ」

神真都Qのデモやイベントに公安部が張り付いていて様子が尋常ではなかったと、情報提供者から筆者に報告があったのは3月上旬だった。その1カ月以上前、反ワクチン派のコスプレイヤー男性が神真都Qのデモに便乗して騒動になったときも、現場には制服警官に加えて公安部の捜査官の姿があった。ターゲットの顔を記憶し、後ろ姿や多少変装した姿からでも人物を特定できるようにする「面割り」と呼ばれるマーク作業が、着々と進められていたのである。

大規模なデモを行うだけでも公安部は目を光らせる。実力行使の過激化だけでなく、1995年に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教の「サティアン」を思い出させる「エデンの村興し」を計画する神真都Qが、国家による監視や鎮圧を想定していなかったとすればお粗末すぎる。

中央集権的にきちんと組織化され、「一般社団法人神真都Qの会」として法人登録までしている神真都Qだが、実際の活動は思いつきに近く、肝心の陰謀論も既存の他の陰謀論やオカルト理論で聞いたことがあるような、突飛な話の寄せ集めでしかない。そうしたちぐはぐさが、神真都Qという集団を特徴づけている。ちぐはぐさに不満を抱いた層は神真都Qの結成直後に脱会しており、残った構成員は幹部と組織を称賛こそすれ、不満を抱いてはいないようだ。

■構成員のボリュームゾーンは40~50代

ただしその構成員も、神真都Qの使命を本気で実現しようとする者と、組織をただ利用しようとする者に二分される。組織を利用しようとする者は自分のビジネスや講座などへの勧誘を目的としているケースが多いが、異性との出会いを求めてデモや集会に参加している例も男女を問わずある。

神真都Qの使命を本気で実現しようとする人々は、自己肯定できる居場所を求めて構成員になっているケースが多い。神真都Qの構成員のボリュームゾーンは40代から50代、次に多いのが60代以上の退職者世代だ。いずれも自分が社会から正当に評価されていないという不満を抱き、自分に見合った役割を求めてデモや実力行使に参加している。

神真都Qの構成員たちと接したことがある40代男性は、「高齢者ほど組織から期待されていることに喜びを感じ、中年以下の世代も活動を通して自分自身の存在意義を確かめているようだ」と筆者に語っていた。

■陰謀論の「キーワード」だけを拾って読む

それにしても、自らの納得できない気持ちを整理できないからと、「悪い宇宙人」が登場する荒唐無稽な陰謀論を信じてしまえるものなのだろうか――。その疑問を解く鍵は、神真都Qが陰謀論を「エンターテインメント化」している実態のなかにあるかもしれない。

代表のイチベイは、着流しに和傘、白い帽子にスーツなど、いつも趣向を凝らしたスタイリングでデモの現場に登場する。すると構成員や彼らの子供から「イチベイさんがきたよ」「イチベイさんのところへ行きたい」と歓声が上がる。まさに、「会いに行けるアイドル」ならぬ「会いに行ける陰謀論カルト代表」だ。アイドルのファンが、そのアイドルに設定された世界観と一体化することに幸せを感じるように、神真都Qの構成員たちはイチベイが設定した世界観に没入することで幸福感を得、一方で現実への認知をゆがませていく。

イチベイが設定する世界観、つまり神真都Qの世界観は、陰謀論としての体裁を整えてはいるが、構成員にとっては壮大な物語というより、キーワードが散らばった空間に等しい。YouTubeやイベントでイチベイが語る陰謀論には、大和民族、サタニスト(悪魔主義者)、ピック(処刑のための拉致)、豆腐船(ピックした人物を拷問のうえ処刑して死体を処理する船。米海軍の宿泊鑑をそういう船だと見立てている)といった、特徴的なキーワードが登場する。

これらのキーワードを覚え、復唱するだけで、何かを知り何かを語った気になっている構成員が多い。文章のなかの読めない漢字や知らない単語を飛ばして読んで、にもかかわらず全体を理解した気になっているようなものだ。

■アイドルグループとファンの生態系に近い

筆者が相談を受けた構成員の親族の方々からは、「サタニストやトランプさんといった、特定のキーワードを含む言葉を浴びせかけてくる」「陰謀論がどうこう以前に、話の筋道が通っていない」「話せば話すほどキーワードの羅列になる」といった話を聞いている。構成員たちによるLINEのオープンチャットやTwitterを観察しても、ほぼキーワードだけの会話に終始している。

つくられた世界観に没入しすぎて現実感覚を失いやすかったり、論理的・多面的な思考が苦手で社会との関係に問題を抱えていたりする人々にとって、キーワードを拾えば世界の真実がわかるような感覚を与えてくれたのが神真都Qだった。この問題について、筆者は構成員の親族から貴重な証言を得ており、また稿を改めて紹介したいと思う。

神真都Qとはどのような集団なのかを考えるとき、一般的な陰謀論や過去のカルト集団の性格を基に考えてもうまくいかない。「エデンの村興し」がサティアンづくりに似ているとしても、オウム真理教のただの焼き直しでもない。

むしろ、俳優経験のあるイチベイを主役に据えた、観客参加型のエンターテインメント企画として神真都Qをとらえたほうがしっくりくる。陰謀論はイチベイのキャラ設定と、彼が立つステージの世界観。デモやワクチン接種の妨害といった集団での実力行使は、ファンが参加できる演出の一部。個人情報の収集や金銭欲は、アイドルグループの世界でよくある「運営の問題」ととらえればよい。ことあるごとに構成員の反応を気にしながら、「演出」を微調整する様子が垣間見えるところも、実に「芸能」的な感じがする。

■この先どこまで行く気なのか

今どきの芸能界で使われる手法を、ここまで取り入れた陰謀論集団は、神真都Qが初めてではないだろうか。神真都Qの真の幹部がイチベイなのか、それとも元俳優の彼をステージに担ぎ上げた人物が別にいるのかどうかはまだわからないが、今のところこの新機軸は功を奏しているように見える。

だが、エンターテインメントとして構成員が楽しんでいるだけならともかく、神真都Qはちぐはぐな陰謀論を頼りに、「参加型」の実力行使で世界を変えようとする集団だ。彼らが活動をエスカレートさせた先に何があるのか、私たちはまだ知らない。

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K ヒロ(けい・ひろ)
著述家、写真家
1964年北海道北見市生まれ。大学在学中から写真家として活動。広告代理店勤務の後、コピーライティングおよび著作活動に従事。東日本大震災後10年を契機に、日本と日本人を見つめなおすプロジェクトに改めて着手。noteにてハラオカヒサ氏と共同で、コロナ禍を記録する「コロナ禍カレンダー」ほか、反ワクチンや陰謀論、さまざまな社会運動などについての論考を展開している。

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(著述家、写真家 K ヒロ)

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