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「メールを送っただけなのに…」知らぬ間に社会人失格の烙印を押される人たちの"文章の特徴"

プレジデントオンライン / 2022年4月27日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oatawa

文章をうまく書けるようになるには何が必要か。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんは「10年前に比べて劇的に文章を書く機会が増えているのに、現代人はかえって文章力が低下している。とくに150字の文章力の強化が重要だ」という。セブン-イレブン限定書籍『「超」書く技術』の一部を特別公開する──。(第1回/全3回)

※本稿は、野口悠紀雄『「超」書く技術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■10年前より増大した「文章を書く機会」

文章を書く力は、どんな仕事を行う場合にも重要です。これまでもそうでしたが、その重要性が高まっています。これまで電話で連絡していたことを、メールで連絡する場合が増えているからです。

文章を書く機会は、10年前と比べても劇的に増大しています。しかも、口頭での伝達とは違って文章の場合には、その人の知的水準や能力があからさまに現れてしまいます

メールは毎日何通も書いているので、書く力を毎日のように評価されていることになります。メールの文章を通じて、一般的な能力を評価されているのです。仕事環境は、大きく変わりました。

■文章力が低下している…

文章の重要性が増しているにもかかわらず、文章を書く力が落ちています。

これは、ツイッターなどのSNSの影響も大きいと思われます。これらの多くは匿名で書けるため、不正確な文章を気楽に書いてしまうからです。あるいは、親しい友達に対するメールです。絵文字などを使い、話していることを単に文字にしただけのものです。

このような文章を書くことに慣れてしまうと、そうした文章が普通の文章だと思うようになります。そして、仕事でも、それと同じような文章を書くことになってしまうのです。

対面で話している場合には、敬語の使い方を間違えてもあまり気になりません。しかし、文章では大変気になります。重要な取引相手に対して敬語を間違えれば、社会人失格の烙印(らくいん)を押されてしまうでしょう。

■文章力が向上すれば、認められる

文章力が強く求められるようになっているにもかかわらず、多くの人の文章力が低下している。これは、考えようによってはチャンスです。

そのことに気づいて文章力を鍛えた人が、認められるからです。多くの人の文章力が落ちる中であなたが文章力を向上させれば、必ず認められます。

単に文章力が認められるだけではありません。あなたが文章力を示すことができれば、それはあなたに仕事をする能力があると示せることになります。これによって、あなたは新しいチャンスをつかむことができます。

会社で働いている人は、周りの人や上司から能力を認められて、新しい重要な仕事を与えられるでしょう。

社外から勧誘がかかってくることもあるでしょう。思いもかけないところから転職の誘いがあるかもしれません。

■いまはチャンス

経済情勢が厳しいいま、どんな会社も有能な人材を求めています。これまでの日本の社会では、学校を卒業したときの就職で一生が決まってしまう場合が多くありました。いまでも、企業間の流動性は十分とはいえません。しかし、状況が大きく変わりつつあることは間違いありません。

これまでは、社外の人々の能力を適切に判断する機会が少なかったために、なかなか転職が進みませんでした。しかし、その条件が大きく変化しているのです。

仕事を頼む側にしてみれば、面接をしなくても、文章を見るだけで能力を正確に評価できます。あなたも、正式な就職の申し込みをしたり、試験を受けて面接を受けたりしなくても、自分の能力を多くの人に伝えることができるのです。

この機会をぜひ活用し、チャンスをつかんでください。

■「書く力をつける」のは難しくない

では、文章力をつけるには、どうしたらよいでしょうか?

野口悠紀雄『「超」書く技術』(プレジデント社)
野口悠紀雄『「超」書く技術』(プレジデント社)

これは、それほど難しいことではありません。物理学で新しい発見をしたり、数学の難しい定理を証明したりすることに比べれば、ずっとやさしいことです。特別の才能はいりません。誰にでもできることです。

書く力が衰えるのは、「日本人だから、日本語ぐらいは書ける」と考えて、格別の訓練をしないからです。

人々を感動させる文章や、格調高い文章を書く必要はありません。考えていることを、正確に、分かりやすく伝えることができればよいのです。このための訓練を、日々続けてください。

なお、学校では文章力の教育は簡単にはできません。そこで、自分で学ぶのがよいでしょう。つまり、独学で文章力をつけるのです。

■文章力はあなたの味方であり、最強の武器

「文章を書くのは苦手だ」と考えている人が多いかもしれません。「必要に迫られなければ書く気にならない」という人も多いでしょう。

文章を遠ざけていると、書く力はなかなかつきません。そして、文章を書くことがますます億劫(おっくう)だと考えるようになってしまいます。

こうした人は、文章を敵だと考え、なるべく近づかないようにしているのです。その結果、文章があなたからますます遠ざかってしまいます。

発想を切り替えて、「文章は自分の味方であり、最強の武器だ」と考えてください。そして、積極的に文章を書くのです。

すると、文章力が自然に鍛えられて、文章を書くことが楽しみになります。そうなれば、文章力がさらに向上するでしょう。

このように、文章を敵と考えるか、あるいは味方と考えるかは、大きな違いをもたらします。文章は、敵ではなく、あなたの味方なのです。

■文章を書くことで好循環が始まる

文章を書くことは、あなたの生活を変えることになります。

文章を書き続けることによって、これまでは気がつかなかった多くのことに気づくでしょう。これまでは疑問に思わなかったことを、疑問に思うようになるでしょう。それらの中から、新しい可能性を発見することもあるでしょう。

こうしたことによって、あなたの生活や仕事が変わります。

文章力を活用する機会は、昔に比べてずっと多くなりました。それらを通じて、あなたの文章力を広く伝えることができます。文章力が多くの人に認められるようになれば、あなたは文章力をさらに強めようと努力するでしょう。

こうして、好循環が発生します。このような過程をぜひ実現してください。

■文章は150字、1500字、10万字の3種類

文章には3種類のものがあります。150字の文章、1500字の文章、そして10万字の文章です。

150字の文章は、ツイートや短いメールです。通常は、3個から4個程度の文章から構成されます。大学入試で文章を書くことが要求される場合がありますが、その長さは、通常この程度のものです。

1500字は、まとまった考えを伝える論述や報告書などです。新聞の社説がこの程度の長さです。また雑誌や週刊誌の1ページが、ほぼこの程度です。大学入試で長文読解が要求されることがありますが、その長さは通常この程度のものです。

仕事上でも、メールの長さ程度の文章ではなく、もっと長い文章が必要になる場合があります。それらについては、メールを書くのとは違った注意が必要です。

10万字は、1冊の書籍です。

なお、150字、1500字、10万字というのは、目安にすぎません。実際には、かなりの幅があります。「1500字の文章」といった場合、1500字から3000字程度の間でさまざまな長さのものがあります。

■150字の文章は、あらゆる文章の基礎

150字の文章を正しく分かりやすく書くことは、どんな長さの文章を書く場合にも重要なことです。これが、文章を書く基礎技術になります。

400字程度までの文章であれば、150字の文章をただ並べるだけで作ることができるでしょう。150字の文章をどのように並べるかは、あまり大きな問題ではないのです。

しかし、1500字程度になると、こうはいきません。150字の文章をどのように並べていくかが、大きな問題になるのです。

最初に結論を示すのがよいのか? あるいは、最初に問題提起をし、順に論議を進めたあと、最後に結論を書くのがよいのか? また複雑な論議を進める際に、それをどう説明するか? などが問題となります。

つまり、150字の文章を単に思いつくままに並べても、1500字の文章を作ることはできないのです。それらを、正しい順序で並べていく必要があります。

10万字の文章は1500字の文章から構成されることになりますが、ここでは、1500字の文章をどのように並べて全体の構成を作るかが問題となります。

「伝えるべき内容をいかに構成するか」という問題については、拙著『「超」文章法』(中公新書、2002年)、『書くことについて』(角川新書、2020年)を参照してください。

ビジネスマン同士が成功を祝してフィストバンプ
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

■44字の文章が人生を変える

さて、「150字の文章が大事」と言うと、「そんなに短い文章では、重要なことは何も書けない。重要なことを伝えるには、もっと長い文章が必要だ」と考える方がいるでしょう。

私自身、そう考えていたことがあります。ツイッターが利用できるようになった頃、140字の制限ではたいしたことは書けないと思い、しばらくの間、無視していたのです。

しかし本当にそうでしょうか? 新約聖書にある次の文章を見てください(この文章は、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』のエピグラフとして引用されています)。

一粒の麦、もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてありなん。もし死なば、多くの実をむすぶべし(ヨハネ伝、第12章)

この文章が何字かを数えたことがなかったのですが、いま初めて数えてみて、わずか44字しかないことに驚きました。私は漠然と、数百字の文章だと思っていたのです。

わずか44字であるにもかかわらず、この文章のなんと力強いことでしょう。

この文章は、人生の進路を変えさせるほどの力を持っています。この教えを知ったために人生の重要な局面で異なる決断をした人は、数え切れないほどいるはずです。

ツイッターの文字制限のわずか3分の1弱の文章で、これほど強力なメッセージを送ることができるのです。

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野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問を歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社)ほか多数。

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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)

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