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酔っ払った大人はカッコ悪い…全世代で進む「アルコール離れ」にアサヒビールが始めた新戦略

プレジデントオンライン / 2022年4月25日 12時15分

提供=アサヒビール

アサヒビールのノンアルコール飲料「アサヒ ドライゼロ」が好調だ。健康意識の高まりからノンアルコールビールテイスト飲料市場が拡大する中、同商品は6年連続売り上げ1位となっている。なぜ支持を集めているのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする――。

■コロナ禍で売り上げが伸びた「ノンアルコール飲料」市場

2020年から続くコロナ禍も3年目。この間に起きた「在宅勤務の定着」「飲食店での酒類提供制限」で伸びた飲料がある。「ノンアルコール飲料」だ。

ノンアルコール飲料は、日本では「アルコール分が1%未満の飲料」とされる。酒税法でアルコール分1%以上の飲料が酒類と定義されているためだ。ただし、業界自主基準により通常はアルコール分0.00%の飲料を指す。

近年はビール大手各社が積極的に商品開発をしており、ビール風味、チューハイ風味といった“アルコール分0.00%”の商品が店頭にずらりと並ぶ。繰り返し発令された「飲食店での酒類提供制限」では、酒類の代わりにお客に提供された。現在、注目の市場なのだ。

今回はその中で、ビール風味の「アサヒ ドライゼロ」(アサヒビール)に焦点を当ててみた。缶の商品パッケージは同社の看板ブランドに似ており、以前の缶には「目指したのは、最もビールに近い味」の文字もあった。今年4月からはテレビCMもスタートしている。

なぜ、ビール会社がノンアルに注力するのか。ブランドの責任者に取材しながら考えた。

■「在宅時間が増えて運動不足」が追い風に

「ビール類市場を『100』とすると、ノンアル市場は『5』程度。まだまだ小さいですが近年の伸び率は高く、業界誌などの推定によると、2021年はノンアルビール全体で前年比約111%となっています。海外でも成長が続いており、将来的にも有望な市場といえます」

ブランドマネージャーの吉岡孝太さん(アサヒビール マーケティング本部 新価値創造推進部 担当課長)はこう説明する。

「その中で、2021年の『アサヒ ドライゼロ』は前年比113%で、市場全体よりもさらに伸びています。ノンアルコールビールテイスト飲料市場(※)では6年連続売り上げ首位です。ドライゼロはビールらしい味わいが好評ですが、ノンアル市場全体が伸びた最も大きな理由は、健康意識の高まりです。

社会人の場合、コロナ前に比べて出社日数も少なくなり、在宅勤務が増えました。得意先への訪問や出張も制限されるなど運動不足になりがちです。自宅でお酒を飲む機会が増えた人も、時にはノンアルに変えて調整したいなど、健康志向が追い風となりました」

この2年で“コロナ太り”した人もおり、健康意識がより強まったのだろう。

※インテージSRI+ノンアルコールビールテイスト飲料市場 2016年1月~2021年12月 累計販売金額 7業態(SM・CVS・酒DS・一般酒店・業務用酒店・DRUG・ホームセンター)計

■試行錯誤の末、ビールの味にかなり近くなった

昨年、競合他社に取材してこんな話を聞いた。各社の共通認識のようだ。

「かつては、ビールが飲めないときの代替品という位置づけでしたが、今は消費者から積極的に選ばれます。味も進化してビールの味に近づいています」

この春「アサヒ ドライゼロ」はリニューアルを実施した。吉岡さんはこう説明する。

「原材料の配合を見直し、より麦の香りや飲みごたえ、のどごし、キレを強化しました。ビール特有の“発酵由来の複雑な香気成分”を再現するため、通常のビールからアルコール分を除去した際に、アルコールと共に喪失してしまう香気成分について、香料会社と共同で研究・開発し、ビール感を高めたのです」

アサヒ ドライゼロ350mL、500mL、びん
提供=アサヒビール
  - 提供=アサヒビール

味の好みは、人によって分かれるが、周囲の仕事関係者に話を聞くと、「ドライゼロが一番ビールっぽい」という愛飲家が多い。

同ブランドが発売されたのは2012年、今年で10周年を迎えた。その前身となる商品にも関わってきた吉岡さんにとって、10年という歳月は感慨深いようだ。

「おいしさは進化しましたが、お客様の嗜好(しこう)もどんどん進化します。ブランドが掲げる『目指したのは、最もビールに近い味』にはゴールがないと思っています」

ブランドマネージャーの吉岡孝太さん
提供=アサヒビール
ブランドマネージャーの吉岡孝太さん(撮影のためマスクを外しています) - 提供=アサヒビール

■20代~60代で飲酒を楽しむ人は「半数」しかいない

ところでアサヒビールといえば、「アサヒ スーパードライ」が代名詞だ。1987年に発売されたこの商品によってビール業界の勢力図が変わった。35年たつ現在も、ビール類市場で売上首位のブランドだ。その会社が、なぜノンアルコールに力を入れているのか?

「今まで酒類メーカーは、お酒を飲む楽しさを訴求してきました。でも体質的に飲めない人、さまざまな事情で飲まない人もいます。会社として、そうした人も尊重し、飲料を選ぶ楽しさを伝えたいのです」

後述する「酒離れ」もあるのだろう。具体的な数字も挙げて説明する。

「日本の20代から60代の人口は約8000万人。このうち日常的に飲酒を楽しむ人が約2000万人、飲酒が月1回未満の人も約2000万人。残りの約4000万人が飲めない人、または、あえて飲まない人になります」

同社は「スマドリ」(スマートドリンキング)という言葉で、飲めない人、あえて飲まない人も楽しめる飲み方の多様性を訴求する。吉岡さんが所属する「新価値創造推進部」の部署名は、その思いを込めたのだろう。

■2009年から始まったノンアルの歴史

日本における清涼飲料の歴史は長いが、ノンアルコールの歴史は短い。市場が動き出したのは、2009年「キリンフリー」(キリンビール)の発売からだ。

商品開発のきっかけは、2007年の飲酒運転の厳罰化(同年の道路交通法改正)だった。その前年に福岡県で飲酒運転の車に衝突されて幼児3人が死亡する痛ましい事故が起き、大きな社会問題となった。これを受けて同社は「運転前に安心して飲める商品」を開発した。

「キリンフリー」は、世界初の「アルコール分0.00%のビール風味炭酸飲料」だという。次いでサントリービールから2010年に「オールフリー」が、2012年に「アサヒ ドライゼロ」が発売されて、大手3社のビール風味ノンアル飲料が出揃った。

一方、消費者の健康意識の高まりは少し前から始まっていた。2006年に「メタボリックシンドローム」(メタボ)が新語・流行語大賞に入賞し、2008年に厚生労働省による「特定健診・特定保健指導」も始まった。少子高齢化が加速し、将来の年金不安も続く。

こうした流れを受けて、「できるだけ健康で働き続けたい」意識は強くなった。かつては職場に、健康診断の悪い数値を競い合う“不健康自慢のオジサン”がいたが、最近は見かけなくなった。

■ノンアルでも「ビールっぽいもの」が飲みたい

現在の話に戻ろう。アサヒビールが消費者調査をすると「在宅勤務が多くなり、仕事とプライベートの区分がなくなった。何かでメリハリをつけたい」と話す人は多いという。

同社はドライゼロの飲用シーンとして、次の6つを掲げている。

(1)スポーツ後の爽快感に、(2)テレワーク合間の息抜きに、(3)まだやることがある夕食時に、(4)翌朝が早い夜の晩酌に、(5)料理の準備をしながら、(6)趣味のアウトドアで、の6つだ。コロナ禍の生活実態も強く意識するが、より選ばれるシーンは何か。

「やはり食事と一緒が多いですね。平日の在宅勤務は、仕事中なのでアルコールを摂取したくない。昼食時に登場する回数も増えています」

「酔わないノンアルは身体がラク」という人もいる。同じノンアルでも、レモンサワーなどのチューハイ風味ではなく、ビール風味を選ぶ理由は何だろう。

「昔からビールが『1日のお疲れさま』として選ばれていたように、リフレッシュ気分が強いのでしょう。ノンアルでも『ビールっぽいのを飲みたい』方は多いです」

■「酔っぱらうのがカッコ悪い」と思う世代に向けて

ところで、ずっと前から夜の居酒屋では「最近の若者は酒を飲まなくなった」と中高年世代がこぼしていた。実は数字でも裏づけられている。

「成人1人当たりの酒類消費数量の推移」というデータ(国税庁統計年報)がある。

それによれば、平成以降は30年前の1992年(平成4年)をピークに全体数字は減少。現在はピーク時の8割未満に落ち込む。「飲酒習慣のある者の割合」の年代別では20代が圧倒的に低い。

「若い世代では、お酒に対してネガティブイメージを持つ人も多く、必要以上に酔っぱらった大人の姿を、カッコ悪いと思っています」

欧米には「ソバーキュリアス」(Sober Curious)という考えが広まってきている。飲めるけど、あえて飲まない(少ししか飲まない)という生き方だ。

こうした層も意識して、アサヒビールが行うのが前述の「スマドリ」で、微アルコール商品にも注力する。2021年3月30日に「アサヒ ビアリー」(アルコール度数0.5%)を発売後、6月29日に「アサヒ ビアリー 香るクラフト」(同)を追加投入。9月28日には「アサヒ ハイボリー」(0.5%、3%の商品もある)を発売した。今年は5月17日にスパークリングワインテイスト飲料「ビスパ」(0.5%)の発売が予定されている。

ハイボリー、ビアリー商品画像
提供=アサヒビール

ノンアルや微アルで「飲み方の多様性を提唱し、多様な選択肢」という戦略だ。

■なぜか正月明けや連休明けに選ばれる傾向

今回紹介した事実を踏まえると、ノンアル市場は今後有望だ。

「これまで『ビールの味に近い』『アルコール分0.00%』といった機能的価値を中心に訴求してきましたが、今後は『飲む楽しさ』といった情緒的価値も訴求していきたい。これからの課題だと思っています」

微アルについては訴求がむずかしく、例えば0.5%でも飲んだら運転できない。昨年発売した商品は好調だが、「市場の受け入れ性がどこまであるのか」という声も聞く。

また、ノンアルには興味深いニーズ動向がある。正月明けや連休明けに選ばれやすい傾向にあるという。

「年末年始や連休でアルコールを飲みすぎた方が、やはり調整で買われるようです」

昨日の自分への”罪滅ぼし”といえようか。例えば前日に、「焼肉食べ放題」を楽しんだら、翌日はさっぱりとした和食系にするといった意識だ。こうした層への訴求もあるかもしれない。

将来にわたって長いユーザーとなる若者の酒離れを食い止め、中高年の健康志向にも対応できるノンアル飲料。ビールメーカー各社は「次の柱」としてノンアルへの期待が高まる。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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