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だから人が自然に寄ってくる…世界で闘う人が「しょうもない話」「タリーズ」「円卓」を重視する理由

プレジデントオンライン / 2022年4月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ljubaphoto

強いチームを作るためにリーダーは何をすればいいのか。元ラグビー日本代表キャプテン・廣瀬俊朗さんが心を砕いたのは監督やチームメイトなどとの対話だ。「たわいのない会話の積み重ねから、相手の人となりが分かっていって、心の結びつきが深まっていくような気がします」という――。

※本稿は、廣瀬俊朗『相談される力 誰もに居場所をつくる55の考え』(光文社)の一部を再編集したものです。

■たわいもない会話も重ねる「しょうもない話をしよう」

ラグビー日本代表のキャプテンを任されていた当時(2012~13年)、「Evernote」というアプリをチームで共有しました。ノートを取るように情報を蓄積できるアプリで、自分たちがやってきたことを可視化して、日々の練習で良かった点と改善点、翌日にフォーカスする点を確認できるようにしたのです。

実際に、どれぐらいの選手が見ていたのか。そこまで多くの選手が、見ていなかったかもしれません。

一人ひとりがモチベーションが高い組織でも、そのまま走り続けるのは難しいものです。その部分をサポートするために「Evernote」はそのひとつの材料でした。「今日もまた、ひとつ良くなったことがあったんだ」と確認ができる場所があれば、「明日もまた頑張ろう」と思えるんじゃないかと考えました。五郎丸歩さんも「見る、見ないは人それぞれだったでしょうが、時間を割かずにみんなで共有できるのは良かったですね」と言ってくれましたね。

「Evernote」に書いてあることは、コミュニケーションの材料にもなりました。全員が漏れなくチェックしていなくても、毎日何かが更新されていることはみんな知っています。知っているから、ちょっと時間が空いたときに見たりするわけです。何となくでも見れば、心にちょっと残る。深く反省するとかではないけれど、その日の自分はどうだったかなと振り返る。

自分はどうだったかと振り返っている時点で、内省しているわけです。そうすると、そばにいるチームメイトに聞きたくなる。合宿中はふたり部屋が多いので、同室の相手とはすぐに話ができます。

「今日の練習なんだけどさ……」といったぐあいに、ちょっと確認をすると、そこからコミュニケーションが始まって、お互いのプレーについて話したり、ポジションごとの話をしたり。気分を換えてラウンジへ行ってコーヒーでも飲もうかとなって、そこでまた違チームメイトに会って、新たな視点が得られて。

ラグビーの話が終わったら、次は普段の話に自然と移っていく。とにかく対話を増やすことはチーム作りの重要なポイントです。たとえば、夫婦間の話とか子どもの話は、お互いの経験が参考になります。とくに失敗談は貴重です。本人はいたって真剣にやったことでも、第三者からすると「それはアカンやろ」ということもあって、お互いに突っ込みながら笑っているうちに、みんなの表情がスッキリしていくこともありました。精神的にリフレッシュできていたのだと思います。

僕自身は真面目な話よりも、しょうもない話を大事にしています。

家族とか親友とは、今日の天気とかランチに何食べたとか、記憶に留めておかなくてもいいような話をしますよね。「何を話そう」とか「何を聞こう」とか考えることもなく、思いついたことを気兼ねなく聞いて、話す。そういう会話の積み重ねから、相手の人となりが分かっていって、心の結びつきが深まっていくような気がします。

仕事だから話をするとか、同じチームだから話をするのではなく、たわいもない会話も重ねていく。「しょうもないなあ」と笑い合う。人間関係を深めていくには、実はそれがとても大事だと思います。

■なぜ、エディ・ジョーンズは「タリーズ」を選んだのか

人間関係を築いていくなかで、「相手の話を聞く」のはとても大切だと思います。

仕事仲間でも、家族でも、友人同士でも、相手を理解するには相手の話を「聞く」ことが欠かせないからです。

「いつ、どこで、どのタイミングで」聞くのかも大事かなと思います。

カフェで話を聞くとして、「いつ」聞くのか。日差しが入り込んで、店内が明るい時間帯にするのか。店内が落ち着いた雰囲気に包まれる夕方から夜にするのか。

カフェのどこに座るのか。窓際の席にするのか、店の奥にするのか。できるだけ静かな場所にするのか、賑やかな雰囲気を選ぶのか。座りかたもひとつではありません。ふたりなら向き合って座るのが一般的ですが、横並びで聞いたほうがいいかもしれない。斜めに座るのもありです。

シチュエーションも大事でしょう。コーヒーを飲みながらにするのか、お酒を吞みながらにするか。お酒を吞むとしても、お店の種類はたくさんあって、それぞれに雰囲気が変わってきます。

ラグビーを通して、様々な国籍の指導者や選手と接してきました。外国籍の人たちは、日本人に比べて「聞く姿勢」をうまく作り出すイメージです。シチュエーションの選びかたがうまい。真剣度の高いミーティングとか打ち合わせは会議室で、カジュアルな話はコーヒーを持ってきて「ちょっと話さない?」と誘ってきたり。

僕が日本代表に招集されていた当時のヘッドコーチ、エディー・ジョーンズさんもうまかったですね。最初にふたりで会ったのは、お互いにとって便利な場所にあるタリーズでした。そこで「1年間、ジャパンのキャプテンをやってほしい」と言われたのです。

2012年4月17日、京都のタリーズコーヒー
写真=iStock.com/tupungato
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tupungato

カフェではなくホテルのラウンジとか、クラブハウスのミーティングルームで言われたら、ちょっと身構えてしまったかもしれません。僕らラグビー関係者が「ジャパン」と呼ぶ日本代表のキャプテンは、大変な名誉とともに大きな責任を背負うからです。けれど、明るい雰囲気の店内で言われたことで、気を楽にしてもらえたような感じがします。

外国人の方は「今日はこれとこれを決める」というのがはっきりしているので、非常に効率がいい。「イエス」と「ノー」がはっきりしているので、コミュニケーションがストレートでどんどん進んでいく。時間もきっちり区切る印象があります。

廣瀬俊朗『相談される力 誰もに居場所をつくる55の考え』(光文社)
廣瀬俊朗『相談される力 誰もに居場所をつくる55の考え』(光文社)

一方、日本人は「今日はこれとこれを決める」というものが決まっていない前提でも、ゴールへ持っていくことがうまいと感じます。モヤッとしたところから話がスタートしても、最終的に着地点を見つけられる、と。行間を読むとか間とか独特で面白いですね。

どちらのスタイルでも、大切なのは「相手へのリスペクトを根底にした聞く姿勢」なのでしょう。相手は受け入れられていると感じて初めて、ちゃんと話してくれたり良い判断をしてくれます。

それから、自分の意見をしっかりと伝えて、同意したことには責任を持つことも。オンとオフを問わずに、自分が「やる」といったことはきちんとやることを心掛けています。

それが次のタイミングで廣瀬に話をしにいこう、廣瀬の話を聞いてみたいと思ってもらえることにつながります。

■なぜか話が弾む「丸いテーブル」でいろいろ話す

スポーツチームが合宿や遠征などで共同生活をすると、食事は大広間に集まってビュッフェ形式でみんな一緒に、ということになります。基本的には大人数でワイワイと食べることになります。

エディー・ジョーンズさんの日本代表では、甘いものが禁止されていました。それなのに、ビュッフェにはスイーツが置いてあるのです。当時のチームメイトだった立川理道選手は、「まるでトラップのようで、そこに手を出したら次の朝からこっぴどい練習が始まるんですよね」と笑っていましたが、食事は合宿や遠征では楽しみの一つでした。

楽しい時間ですから、会話が弾みます。コミュニケーションを深める機会としても、チームに欠かせないものでした。

テーブルは円卓を推奨していた気がします。丸いテーブルというのが、実は大切なポイントだったと思います。

四角いテーブルは、2人掛けや4人掛けが基本的なサイズです。6人とか8人がまとまって座ると、どうしても縦長になります。同じテーブルを囲んでも、右端と左端では距離が遠い。全員がいつも共通の話題で盛り上がるのは難しく、2つとか3つに分かれて話をしていく、という感じになるのではないでしょうか。

それが悪い、と言うつもりはありません。ただ、せっかく同じテーブルに着いたのです。結果的に2人ずつ、3人ずつで話をすることになっても、ひとつのテーマで盛り上がることのできる環境があったらいいでしょう。

円卓なら、ひとつのテーブルに6人とか8人が座ることができます。それも、身体の向きを変えずに、全員の顔を見渡すことができる。

ホテルの宴会場にあるセットされた円卓
写真=iStock.com/802290022
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/802290022

食事をして、話をして、食後にコーヒーや紅茶を飲んで、また話をして。みんなが同じ話題について語り合って、ときには熱く議論をして、もちろんしょうもない話もたくさんして、東芝でも日本代表でも食事の時間を有意義に過ごすことができました。

円卓がいいなと思うもうひとつの理由は、色々な選手と話ができることです。6人掛けでも8人掛けでも、いつも同じ顔触れになるわけではない。普段はあまり話す機会のない年下の選手に、「一緒に食べようよ」と気軽に声をかけることもできる。食事のたびに顔触れが変わって、そのぶんだけたくさんの選手と話ができます。試合前日に選手だけで実施するプレイヤーズミーティングでも、いすを動かして選手の顔が見える状況を作っていました。

コロナ禍では「黙食」が推奨されています。食事をしながら会話を楽しむことについては、まだもう少し慎重にならざるを得ないのでしょう。このウイルスとうまく付き合えるようになったら、スポーツチームの食堂にもかつての賑わいが戻ってくることを願っています。

円卓と言えばホテルでの会食や中華料理が連想されますが、たとえばキャンプに行ったとき、バーベキューをするとき、何となくそう座っているのではないかと思います。みんなの顔が見えて、話しやすいし、話も聞きやすいですよね。日常から取り入れられると良いのではないでしょうか。

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廣瀬 俊朗(ひろせ・としあき)
HiRAKU 代表取締役/元ラグビー日本代表キャプテン
1981年生まれ。慶應義塾大学卒後、東芝ブレイブルーパスでプレー。東芝ではキャプテンとして日本一を達成。2007年には日本代表選手に選出され、日本代表として28試合に出場。2012~13年の2年間はキャプテンを務めた。2019年、株式会社HiRAKU設立。現在の活動範囲はラグビーの枠を超え、学生の部活動サポートから大きな組織の企業研修まで、様々な形で経験を活かしたチーム・組織作り・リーダーシップのアドバイスやサポートなどを行う。2020年10月より日本テレビ系ニュース番組『news zero』に木曜パートナーとして出演中。

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(HiRAKU 代表取締役/元ラグビー日本代表キャプテン 廣瀬 俊朗)

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