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敵に奪われるくらいなら焼き払う…フランスの侵攻にロシアがとった「焦土作戦」のおぞましさ

プレジデントオンライン / 2022年4月28日 12時15分

(作者=ジャック=ルイ・ダヴィッド/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

ナポレオン1世率いるヨーロッパ連合軍が帝政ロシアに侵攻した「ロシア遠征」は、世界史においてどういう意味を持つのか。当時の世界情勢の推移を、『バトルマンガで歴史が超わかる本』(飛鳥新社)より紹介する――。(第2回)

■フランス領コルシカ島に生まれたナポレオン

登場人物紹介
【小太郎】ごくフツーの中学生
【つきじい】偉大な歴史家トゥキディデスの生まれ変わり

【つきじい】小太郎くん、この絵を見たことがあるかな?

【小太郎】かっこいい。誰だっけ?

【つきじい】ナポレオン・ボナパルト。フランスの軍人じゃ。

【小太郎】何をした人ですか?

【つきじい】地中海のコルシカという島の、貴族の家に生まれた。コルシカ島は、フランスの植民地みたいなもので、住民はイタリア人じゃ。

【小太郎】じゃあ、ナポレオンもフランス人じゃないんですね?

【つきじい】そう。だから少年時代から、「フランス王はコルシカの敵だ」と教わっていた。しかしフランスは大国で強い。どうすれば勝てるか?

【つきじい】ナポレオン少年は考えた。「フランス軍に入り、フランスの戦い方を学ぼう!」

【小太郎】おおっ!

■若きナポレオンが得意としていた“ある学科”

【つきじい】10歳のナポレオンは、フランスに渡って陸軍学校に入った。コルシカの方言をバカにされてくやしい思いをしたが、数学の成績が抜群によかった。軍隊で数学は必要だからな。

【小太郎】えっ? 何に使うんですか?

【つきじい】大砲じゃ。何キロも離れた標的に大砲の玉を当てるにはどうすればいい?

【小太郎】適当に撃ってるんじゃないんですか?

【つきじい】いやいや、ちゃんと砲弾の軌道を計算して、角度を調整するのじゃ。そのとき計算間違いすると、絶対に当たらない。大砲を撃つ兵士を砲兵という。ナポレオンは砲兵の才能があったのじゃ。

【小太郎】ぼくも数学、頑張ります!

■全ヨーロッパにフランス革命の思想を広げる

【つきじい】フランス革命が始まると、ナポレオンは革命軍に参加した。ちょうど、外国の軍隊が次々に攻め込んできたときじゃ。

【小太郎】国民軍と傭兵の戦いですね!

【つきじい】やる気満々の国民軍を天才ナポレオンが指揮したのだから無敵じゃった。

【つきじい】敵をフランスから追い払い、逆に国外へ攻め込んだ。

【小太郎】なるほど!

【つきじい】このまま連戦連勝を続ければ、ヨーロッパを統一できるかもしれない、フランス革命の理想が、全ヨーロッパで実現できると彼は考えた。

【小太郎】だんだん話が大きくなってきた!

【つきじい】実はずっと昔にヨーロッパが一つの国だったことがある。何という国かな?

【小太郎】うーん……。

【つきじい】ローマ帝国じゃ。だからナポレオンは、現代のローマ帝国をつくり上げようとした。自分がその皇帝になろうと考えたのじゃ。

【小太郎】なんか……ブッ飛んでる……。

【つきじい】フランス国民は熱狂し、ナポレオンは国民投票で皇帝に選ばれた。

■国民投票で選ばれた皇帝はオーストリア、ロシアに侵攻

【小太郎】つきじい、王と皇帝って違うんですか?

【つきじい】王は一国の君主、皇帝はヨーロッパ全体の君主じゃ。当時、皇帝は二人いた。オーストリアとロシアじゃ。

【小太郎】どうして二人いたんですか?

【つきじい】古代のローマ帝国は東西に分裂した。西ローマ皇帝はオーストリアの「神聖ローマ皇帝」、東ローマ皇帝は「ロシア皇帝」が受け継いだのじゃ。

【小太郎】なるほど!

【つきじい】そこにナポレオンが割り込んで、「オレも皇帝だ!」と言い出した。

【小太郎】これは、もめますね。

【つきじい】ナポレオンはオーストリアに攻め込んで、黙らせた。しかしロシア皇帝アレクサンドルは抵抗を続けた。これを倒せばヨーロッパを統一できる!

■ヨーロッパ連合軍70万を率いてロシアに侵攻したナポレオン

【開戦】ナポレオンのロシア遠征

1812年6月。フランス革命軍を中心とするヨーロッパ連合軍70万がロシアになだれ込んだ。歴史上、これほどの大軍が編制されたのははじめてであり、数万の傭兵しか動員できないロシア帝国は風前の灯だった。夏までにロシアを降伏させ、全ヨーロッパの頂点に立てるとナポレオンは空想していた。

シナリオ=茂木誠、マンガ=大久保ヤマト『バトルマンガで歴史が超わかる本』
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シナリオ=茂木誠、マンガ=大久保ヤマト

■侵攻を食い止めるためにロシアが行った作戦

シナリオ=茂木誠、マンガ=大久保ヤマト『バトルマンガで歴史が超わかる本』
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シナリオ=茂木誠、マンガ=大久保ヤマト

■負けることに慣れているロシアが得意とした戦法

【小太郎】ロシアって、スゴい。負けたふりして、最後は勝っちゃった。

【つきじい】ロシアという国は、遊牧民との戦いでは、何度も何度も負けてきたのじゃ。

【小太郎】ええっ、そうだったんですか?!

【つきじい】日本はモンゴルを撃退したが、ロシアはモンゴルに負けて200年間も占領されている。

【小太郎】知らなかった……。

【つきじい】だから負けることには慣れている。じっと耐えて、反撃の時を待つ。

【小太郎】でも、自国の町や村を焼いちゃうって、むちゃくちゃです!

【つきじい】焦土作戦――敵に奪われる財産なら、破壊してしまえ、という考えじゃ。

【小太郎】家を焼かれたロシア人は、どう思ったのかなぁ?

【つきじい】ロシアでは、皇帝の専制政治が長く続いた。人々の声は政府に届かない。

【つきじい】フランスのような民主主義国家では、こんなことはできない。

■一度、味わった自由の味は、なかなか忘れられない

【小太郎】ナポレオンは、どうなったんですか?

【つきじい】ロシア遠征の失敗を見たヨーロッパ諸国が、次々にロシア側に寝返ってフランスに攻め込んだ。

【小太郎】ええっ、ヤバいです!

【つきじい】ナポレオンは抵抗したが捕まって、島流しにされた。フランス革命はなかったことになり、革命で処刑されたルイ16世の弟が王になった。

【小太郎】フランス革命はムダだった、ってことですか?

【つきじい】いや、一度、自由を知ってしまった人間は、専制政治に我慢ができなくなる。フランスではその後2度の革命があり、再び自由を手に入れた。

【小太郎】なるほど。

■敗れたフランスの革命思想がロシアに飛び火

【つきじい】それからフランス革命の思想がロシアに飛び火した。

【小太郎】えっ、どういう意味ですか?

茂木誠、大久保ヤマト『バトルマンガで歴史が超わかる本』(飛鳥新社)
茂木誠、大久保ヤマト『バトルマンガで歴史が超わかる本』(飛鳥新社)

【つきじい】フランスを占領したロシア軍の若い軍人たちが、フランス革命の思想――「自由」「平等」「人権」を知ってしまったのだ。彼らはロシアがいかに不自由で、不平等で、人権無視の政治であるか、目覚めてしまった。

【つきじい】だから、フランス革命をお手本にして、ロシアでも革命をやろうとした。皇帝に議会を認めさせ、身分制をなくそうとしたのじゃ。

【小太郎】おおっ! それで?

【つきじい】1日でつぶされた。メンバーは処刑され、あるいはシベリアに追放された。

【小太郎】……。

【つきじい】ヨーロッパの国々が議会を認めたあとも、ロシアだけは専制政治を続けた。議会を認めたのは80年後、ある国との戦争で負けたときじゃ。その国はアジアの国だが、すでに議会を開いていた。

【小太郎】どこですか?

【つきじい】日本じゃ。日露戦争に負けたことで、ロシアはようやく目覚めたのじゃ。

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茂木 誠(もぎ・まこと)
駿台予備校/N予備校世界史科講師
ノンフィクション作家、予備校講師、歴史系YouTuber。学習参考書のほか、一般向けの著書に『世界史で学べ! 地政学』(祥伝社)、『超日本史』(KADOKAWA)、『「戦争と平和」の世界史』(TAC出版)、『「米中激突」の地政学』(ワック)、『政治思想マトリックス』(PHP)、『「保守」って何?』(祥伝社)、『グローバリストの近現代史』(ビジネス社)など。YouTubeもぎせかチャンネルで発信中。

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(駿台予備校/N予備校世界史科講師 茂木 誠)

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