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元スポーツ選手が学費年150万円で「早稲田大学大学院卒」ゲットは学歴ロンダリングなのか

プレジデントオンライン / 2022年4月22日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

30、40代のサッカーやラグビー、バレーボールの元日本代表や、50代のタレントなどが今春、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に合格した。なぜ、入学を希望したのか。SNSには「学歴ロンダリングではないか」と口さがない人もいるが、実際はどうなのか。スポーツライターの酒井政人さんが取材した――。

■著名人が続々合格「早大大学院スポーツ科学研究科」の謎

この春も多くの若者が“新たな学び”を得るために進学した。そのなかで近年、世間の耳目を集めているのが名門大学の大学院に進む著名人だ。

私学の雄、早稲田大学の大学院スポーツ科学研究科には4月からタレントの恵俊彰さん(57歳)、サッカー元日本代表GKの川口能活さん(46歳)、同MFの福西崇史さん(45歳)、ラグビー元日本代表の五郎丸歩さん(36歳)、元バレーボール女子日本代表の荒木絵里香さん(37歳)らが入学した。

少し前になるが、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科にはお笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳さんが2019年に進学して、昨年(3月)卒業している。

文部科学省の調査によると大学進学率は2021年度に過去最高の54.9%に到達した。そして学部卒業者の大学院進学率は11.3%(2020年度)。10人に1人は大学院に進学する時代になっている。

しかし、上記に挙げた著名人たちは若者とはいえず、前年度まで大学に在籍していたわけでもない。五郎丸さんは早稲田大学スポーツ科学部を卒業しているが、他の元アスリートは大学を卒業していない。“亜種”ともいえる大学院進学組なのだ。

近年は大学院に進む社会人が増えており、大学を卒業していないものの、大学院に進学するケースも目立っている。どのような“からくり”があるのだろうか。

文部科学省が規定する修士課程・博士課程(前期)の入学資格は10項目ある。そのなかで大卒以外の人に当てはまるのが、「大学院において個別の入学資格審査により認めた22歳以上の者」という条項だ。

つまり各大学院が独自に実施する審査により認められれば入学資格を得られるわけだ。なお早稲田大学大学院の社会人入学試験は、「原則として3年以上の実務経験を有し、当研究科において、個別の入学資格審査により、大学を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者で、入学の時点で最終学歴卒業(修了)後、3年以上経過し入学までに22歳に達する者」となっている。

その審査は「入学資格審査票」という書面で行われ、試験としては面接(口頭試問)のみになる。大学一般入試のような筆記試験はない。社会人で積んできた実務経験などからジャッジされるわけだ。

早稲田大学大学院の入学式に出席した恵俊彰さんは、「夢のような気持ち。今年58歳になりますが、皆さんと一緒にスポーツについていろいろと勉強していきたい。やる気がみなぎっています」と語っている。恵さんは高校の頃から早稲田大学に憧れを抱いており、3浪の末、進学を諦めた苦い経験を持つ。またPL学園高校卒の桑田真澄さん、中京大学体育学部卒の青山学院大学陸上競技部・原晋監督も早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の修了生だ。

■大学を卒業してないのになぜ大学院に進学できるのか?

こうした流れを見て、口の悪い人の中には「学歴ロンダリング(出身校よりも高いレベルの大学院に進学して最終学歴をよく見せること)ではないか」とささやく者もいる。

修了生はすでに名前を挙げた者以外にもスポーツ関係者やメディア関係者が多い。いずれも社会人としてのキャリアを評価されて入学しているわけで、学歴ロンダリングと揶揄される筋合いはないだろう。田村淳さんも「慶應大学大学院卒」という学歴を得たが、それを番組で打ち出すわけではなく、これまでに築いたキャラクターを超えるものではない。

なお早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の修士課程1年制はエリートコーチングコースを除く5コース(トップスポーツマネジメント、スポーツクラブマネジメント、健康スポーツマネジメント、介護予防マネジメント、スポーツジャーナリズム)。通常2年間かかる修士課程を1年間で修了することになるため、原則ほぼ毎日ある授業(早稲田キャンパスを中心に平日夜間および土曜日に開催される)を受ける必要がある。

早稲田大学
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

気になる学費は入学金(登録料)などを含めて総額152万円ほどだ。合格したとしても修了するまでは費用と時間を費やして、限られた期間で修士論文を完成させなければいけない。かなりハードな1年を過ごすことになる。決して安易な気持ちで、入学することはできないだろう。

なお早稲田大学のサイトによると、同研究科では人材の養成を以下のように考えている。

1 スポーツ医科学の専門知識を生かした学術研究者および高度職業人の育成
2 スポーツ文化の発展に貢献することのできる学術研究者および高度職業人の育成
3 スポーツビジネス実務者への高度専門教育を通じてのスポーツ界をリードする高度職業人の育成

すでに確固たる地位を築いている恵俊彰さん、川口能活さん、福西崇史さん、五郎丸歩さん、荒木絵里香さんが修了した後にどんな“進化”を見せるのか。ただの自己満足ではなく、大学院で学んだことを世の中に還元できるような活躍を期待せずにはいられない。

■日本人に潜む学歴コンプレックス

なお、大学院ではないが、タレントの小倉優子さん(38歳)がテレビ番組の企画で、早稲田大学の合格を目指して勉強に励んでいる。朝5時起床を4時に改めるなど、仕事と主婦業の隙間時間を使い、努力しているが、「なぜいま受験するの?」や「目標が早大合格ではなく早大卒業であってほしい」という声もある。

一方、高校の通信過程を3月に卒業したタレントのスザンヌさん(35歳)は今春に日本経済大学に入学。芸創プロデュース学科ファッションビジネスコースで学ぶことになった。入学式後に取材を受けたスザンヌさんは、「高校を卒業し、学びを深めたいとの思いが強くなり、入学を決意しました。洋服の作り方や広め方を学び、将来は自分で洋服を作りたい」と話している。コチラには厳しい声はほとんどなく、「いくつになっても学びたいという気持ちは素晴らしい」というような称賛の声が強い。

小倉さんとスザンヌさんはともにシングルマザーで、境遇・キャラクターはカブる部分がある。しかし、大学選びは方向性の違いがあり、ネットの声が割れている。なぜ小倉さんは叩かれるのか。

そこには日本人に潜む“学歴コンプレックス”があるのかもしれない。

大学の進学率は1990年が24.6%、1995年が32.1%、2000年が39.7%、2005年が44.2%、2010年が50.9%と右肩上がりで推移。一方、18歳人口は1990年の201万人から2020年は116.7万人に大幅減少している。

現在の40~60代は現在と比べて同学年の人口が多く、受験戦争も激しかった。希望していた大学に進学できなかった人は少なくない。それに受験の仕方も現在ほど多様ではなかった。

いまだに一般選抜(一般受験)が「善」で推薦入試が「悪」という風潮もあるが、時代は大きく変わっている。

文部科学省が実施した2020年入試の調査では、私立大学の入学者のうち、AO入試が12.1%、推薦入試が44.4%だった。半数以上は一般入試以外で入学しているのだ。早稲田大学ですら募集定員全体に占める一般入試以外の割合を6割まで引き上げる目標を立てている。

さらに国立大学協会も2008年にAO入試(現・総合型選抜)と推薦入試(現・学校推薦型選抜)の合格者が占める割合を、「入学定員の5割を超えない範囲にする」ことを掲げた。現時点では5割に遠いが、近年は増加傾向にある。

大学もグローバルな人材を育てるべく、入試でも多様性を意識している。ペーパーテスト以外の“評価”も重要視される時代になっているのだ。

この現状を知れば、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に入学した著名人を「学歴ロンダリング」などというのは筋違いということになるだろう。いずれにしても「肩書き」としての学歴ではなく、すべての学生さんには講義などで得た知識や経験を生かして、社会に貢献することを意識しながら新たな学校生活を送っていただきたい。

『早稲田大学 大学院スポーツ科学研究科』HPより
『早稲田大学 大学院スポーツ科学研究科』HPより

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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