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「メンタルが弱いからではない」心療内科医が指摘する"職場で心を病む人"の共通点【2021編集部セレクション】

プレジデントオンライン / 2022年5月8日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gahsoon

2021年にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2021年11月5日)
職場でメンタル不調になりやすい人にはどんな特徴があるのか。心療内科医の鈴木裕介氏は「真面目で善良な人ほど心身を病みやすい。一人で抱え込まず、自分に不快を与える人をうまく遠ざけることが大切だ」という――。

※本稿は、鈴木裕介『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■社会にはあなたの真面目さや善良さにつけ込む人がいる

最初にみなさんにお伝えしたいのは、「社会には不公平なトレードがあふれている」ということです。

私たちは日々、いろいろなものを他人とトレードしながら生きています。家族や恋人、友人とは愛情や思いやりをトレードし、お店では商品やサービスと代金をトレードし、職場では労働時間や労働力、能力、アイデアなどと給料をトレードし……。

この世の中は、そうしたおびただしい数のトレードによって成り立っています。

ただ、トレードは必ずしもフェアに行われているとは限りません。代金に見合わない商品やサービスは山のようにありますし、愛情や思いやりに関しても、「一方ばかりが愛情を注ぎ、もう一方はそれに応えるどころか、愛情や恩を仇で返すようなことをする」というのは、よくあることではないでしょうか。

もちろん、会社においても同様です。

というより、会社こそ、不公平なトレードに満ちているといえるかもしれません。

■会社にあふれた“不公平”なトレード

たとえばあなたは、職場でこんな状況を味わったことはありませんか?

・いわゆる「ブラック企業」で、パワハラが横行し、上司や経営者によって厳しいノルマを課され、サービス残業の連続で、睡眠時間もろくにとれない。
・形骸化した意味のない会議や打ち合わせ、手続きに、やたらと時間をとられる。
・「一番年下である」「女性である」などを理由に、ほかの人がやりたがらない雑用を押しつけられる。
・上司や同僚に仕事の邪魔をされたり、手柄を横取りされたりする。
・良かれと思って同僚の手伝いを申し出たら、どんどん仕事を押しつけられ、ミスの責任まで負わされる。
・やる気のない部下の教育を任され、仕事の足を引っ張られ、ストレスばかりがたまっていく。
・クライアントが、代金に見合わない無茶な注文ばかりしてくる。

ビジネス的リーダーシップの抽象的な構成
写真=iStock.com/FreedomMaster
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FreedomMaster

本来、あなたと経営者、あなたとクライアントは、給料や代金と引き換えに、あなたがそれにふさわしい時間や労働力、能力、あるいは商品やサービスなどを提供するという、フェアなトレード関係にあるべきです。

また、あなたと上司、あなたと同僚も、互いの利益、互いの幸福のために、フェアに時間や労働力、能力、アイデアなどをトレードし合う関係にあるべきです。それこそが健全で公平な人間関係だと、私は思います。

ですが、社員や仕事を受注する側は、しばしば経営者やクライアントから、不公平なトレードを要求され、我慢を強いられます。

■あなたを苦しめている“不公平さ”に気づいてほしい

世の職場には、「自分だけが得をしたい」「自分の存在感を示したい」「少しでもラクをしたい」「自分の身の安全さえはかれればいい」「自分より目立つ人間は許せない」といった思いを抱え、あなたの真面目さや善良さ、罪悪感、立場の弱さなどにつけ込み、利用しようとする人間が少なからずいます。

彼らは「社会人とは~であるべきだ」「管理職とは(部下とは)~するべきだ」「お客さま(お金を払う側)は神様だ」といった一方的なルールを押しつけ、あなたの領域を平気で侵害し、あなたの時間や労働力、能力を、さらにはあなたの価値観やルール、幸せで穏やかな生活、人生そのものさえ奪っていきます。

今までのあなたは、もしかしたら、そうした他人のルールを疑うことなく受け入れ、「社会人とはそういうもの」「自分は管理職だから(もしくは部下だから)仕方がない」「自分は仕事をもらう立場だから仕方がない」と、不公平なトレードをおとなしく許していたかもしれません。

「頼りにされているうちが花」と、自分に言い聞かせてきた人もいることでしょう。

しかし残念ながら、あなたとの関係が不公平であることに気づきもしない人に丁寧に接していたとしても、その関係がフェアになることは少ないでしょう。関係をつくるべき「フェアな人」と、そうでない人を峻別する力を養う必要があると思います。

■不快な人を上手に遠ざける3ステップ

不快な人を上手に遠ざけるには、次の3つのステップが有効です。つい自分が我慢をしてしまうタイプの人は、ぜひ試してみましょう。

【STEP1】第三者に相談する
【STEP2】気持ちを伝える努力をする
【STEP3】相手を「NO」の棚に分類する

つい我慢をしてしまういい人は、人間関係の中でなにかいやな気持ちにさせられることがあっても、自分の感覚を信じきれず、「自分が気にしすぎているのではないか」などと考えてしまう傾向にあると思います。

もしあなたが「自分の感覚を信じきれない」と思うのであれば、一度、自分がもやもやしたり不快に感じたりした事柄について、率直かつ客観的な意見を言ってくれそうな、信頼できる第三者に相談してみましょう。

実業家のシルエット
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

自分に対しての扱いが不当かどうかを、判定してもらうのです。そのようにして、あなたが信頼できる人の判断軸を、少しずつインストールしていきましょう。

次に相手に悪気がなく、話せばわかってもらえそうな場合や、あなたがその相手と、できれば良い関係を続けたいと思っている場合は、まず、自分の気持ちを率直に伝えてみましょう。

その際、大事なのは、「そういうことをされると、私はつらいです」「そういうことを言われると、私は悲しいです」といったように、「アイ・メッセージ」で話すことです。

■気持ちを伝える「アイ・メッセージ」

アイ・メッセージとは、アメリカの臨床心理学者トマス・ゴードンが、『親業』という本の中で提唱したコミュニケーションの方法であり、「『私』を主語にして、自分がどう感じたかを伝える」というものです。

不快感を覚えたとき、「(あなたは)なぜそういうことをするのですか」「(あなたの)その言い方は良くないです」など、ユー・メッセージで話すと、相手は自分が攻撃されたと感じ、防衛的なコミュニケーションになってしまいます。

せっかく勇気を出して指摘したのに、あなたの思いが伝わりにくくなるのはもったいないので、できるだけユー・メッセージは避けましょう。

もし、うまくいかなかったとしても、あなたには「伝えるためのベストを尽くした」という経験が残ります。その経験の積み重ねは、あなたの「本音を話そうとする勇気」と「伝える技術」を成長させます。それは、よき人間関係を構築するための「筋力」として、相手が変わってもあなた自身に蓄積されていくものです。

■それでも関係が改善できない場合は……

最後にあなたが誠実に気持ちを伝えても、相手に聞く気がなかったり、状況が改善しない場合、その相手は「あなたを大切にしない人」であることを認めましょう。

あなたを大切にしない人を、あなたが大切にする必要はありません。

たとえ親や友人、同僚であっても、相手を躊躇なく、あなたの心の中の「NO」の棚に入れ、距離を置くことを強くおすすめします。

「NO」の棚に入れた相手に対しては、接触機会を最低限に抑えて心の安定をはかるのが基本です。そうすることで自分の心身の調子がどう変化するかをモニターしましょう。

「関係を改善しよう」などと考える必要はありません。

鈴木裕介『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)
鈴木裕介『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)

「話しかけられても、一言、二言でそっけなく返す」「話しながら、ちょこちょこと時計を見るそぶりをする」「誘いにはいっさい乗らない」「返信の頻度を徐々に減らす」など、コミュニケーションを積極的にとる意思がないことを態度で示し、しっかりと境界線をつくっていきましょう。

相手からのメールを「迷惑メール」フォルダに振り分け、目につかないようにするのも一つの方法です。

以上が、私なりに考えた「不快な人を上手に遠ざけるための3ステップ」です。

今回の方法では相手から恨まれたりするのではないか、他人に意見をいうのが怖いという場合は、もう少し細かいステップで境界線を育てていく方法もあります。拙著『我慢して生きるほど人生は長くない』では、職場での我慢、リラックスできない環境、疲れる人間関係をどうすればいいのかについて、心療内科医の立場から気づいたことを記しています。

社会のなかでの「よい」「わるい」という基準に合わせすぎず、自分の内側から感じられる「ここちよい」「ここちよくない」といったあなた自身の情動や主観にのっとって人生を選択できるような一助となることを心から願っています。

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鈴木 裕介(すずき・ゆうすけ)
内科医・心療内科医・産業医
2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)などがある。

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(内科医・心療内科医・産業医 鈴木 裕介)

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