「もっとシンプルな部屋で暮らしたい」そんな人が永遠に"思い通りの暮らし"ができない根本原因
プレジデントオンライン / 2022年4月28日 12時15分
※本稿は、南直哉『「前向きに生きる」ことに疲れたら読む本』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■「人間の欲望」に振り回されずに生きる方法
時間、地位やお金、承認や賞賛、特定の状況、たくさんの友だちや人脈など、「欲しい、欲しい」と願い続けている人がいます。
常に何かが足りないと感じている。そういう人たちは、本当に何かが欲しいのではありません。多くの場合、「欲しい」の底に強い不安があるのです。
だから、「○○が欲しい」と話す人たちに、「何がどのような理由で欲しいのか」を尋ねても、あいまいな答えしか返ってきません。また、話を煮詰めていくと、じつは簡単に手に入るものを求めている場合もあります。
私は福井県の永平寺で僧侶として20年近くを過ごした後、縁あって青森県にある霊場、恐山の院代(住職代理)となり10年以上が経ちました。その間、生きづらさや苦しさを感じているという、たくさんの方々とお会いしてきました。
皆さんのお話を伺う中で、仏教の考え方がさまざまな問題の解決の糸口、生きるためのテクニックとなるのだということに気がつきました。
仏教は、こだわりや執着から起こる悩みや苦しみの正体を知り、その取り扱い方を身に付けるためのツールとして利用できるのです。
ここでは、拙著『「前向きに生きる」ことに疲れたら読む本』(アスコム)の中から、自分の中の本音を見極め、不満や不安などの負の感情とうまく付き合う方法について、いくつかお話したいと思います。
■「自分が何を大切にしたいのか」を見極める
以前、悩み相談に来た女性が「結局、私は心安らかな毎日が欲しいだけなんです」と言うので、「それは、どういう毎日ですか?」と尋ねてみました。
彼女が話し始めたのは、「朝7時頃起きて、ゆっくりお茶を飲んで、朝食をきちんととって……」と、今すぐにでもできそうなことです。それなら話は早いと、具体的に聞いていきました。
「では、今何時に起きているんですか?」
「8時にしか起きられないので、いつもバタバタなんです」
「それなら早寝して7時に起きれば、すぐ心安らかになれるじゃないですか」
「いや、忙しくて寝るのが遅いから、睡眠時間は削れません」
「だったら、仕事を早く終わればどうですか?」
「時給で働いているので毎日1時間短くすると、月に○○円も低くなって……」
と、つつましい計算が始まりました。
しかし、自分が何を大切にしたいのかがわかっていれば、人に聞くまでもありません。朝ゆっくり過ごして平穏な日々を送りたいのなら、多少の収入減は受け入れる。お金が欲しいのなら、あわただしい毎日は仕方ないと考え、しっかり働く。
どちらかを選べばいいだけです。悩む必要はまったくありません。
結局、自分が何を求めているのか、何を大切にしたいのかが、よくわかっていないから混乱してしまい、不安になるのです。そして、「何か」が手に入れば、幸せになれると勘違いするのです。
![頭を抱えた男性のシルエット](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/f/1200wm/img_4ff541b4ea119a6762841b43e0be398272530.jpg)
■「欲しいもの」は不安の代用品である
逆に、何が欲しいのかを聞いていくと、非現実的な夢を語り始める人もいます。「豪邸が欲しい」「有名になりたい」など、初めから明らかに本人も無理だと心の中では思っていることを「欲しい」と言う人もいます。
そんな人たちの共通項は、満たされていない「何か」があり、きわめて不安な状態が続いていること。そして、自分自身が不安であることにすら気づいていないことです。
「こんなはずではなかった」
「このままでいいのだろうか」
そんな漠然とした不安の代用品が「欲しいもの」であり、もっと言うなら、「自分の生活を思いどおりにしたい」という欲望なのです。
「思いどおりにしたい」という意味では、ここ数年流行している「物を持たない暮らし」も同じです。最近では、物どころか、家具さえほとんどない殺風景な部屋で暮らす生活が注目されています。
しかし本質を見れば、そういったシンプルすぎる部屋は、ガラクタで溢れるゴミ屋敷と変わりありません。
極端なほどシンプルな暮らしの根本に何があるかと言えば、対象を「思いどおりにしたい」という欲望です。物を捨てる行為は、「物を所有したい」という欲望と同じであり、「思いどおり」の中に「捨てる」ことが含まれているにすぎないのです。
どんな暮らしをするのも自由です。ただ、物事が思いどおりになることは少ないと覚悟してやったほうがいいでしょう。
しかし、もっとも大事なのは、なぜ自分が「欲しい」と思うのか。あるいは、「捨てたい」と思うのかです。
その理由がわかっていなければ、どんなに「欲しいもの」を追いかけても、あるいは、無駄な物が一切ない殺風景な部屋で暮らしてみても、問題は永遠に解決しません。
だから、話の次元を変えないといけないのです。自分はいったい何が不安なのか。どのような状況が自分を不安にさせているのか。手間と時間をかけてきちんと考え、見極めなければいけないのです。
■自分をわかって欲しいと思わないほうがいい
「誰も私のことをわかってくれない」
「あの人のことは、どうしても理解できない」
こう悩む方がいます。
![窓際で頭を抱えて悩む男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/c/1200wm/img_cc678e6843e5655f0f7ababffd7f3b4370648.jpg)
しかし、人が理解し合えないのは当たり前です。まず、自分をわかって欲しいと思わないことです。
自分だって自分のことをよくわかっていないのに、他人にわかるわけがありません。自分以外の人間には絶対になれない以上、他人のことは決して全部わからないのです。
他人との関係において、もし相手のことをわかったと思うのなら、あるいは、自分を理解してもらえたと感じるのなら、それはしょせん誤解にすぎません。
「理解」という言葉の意味を正確に言うと、「合意された誤解」です。もし、お互いに理解し合えたと思うのであれば、それは、「誤解で合意した」だけ。実のところは、それぞれ自分の都合で解釈し合っているにすぎません。
それでも、友だちが多いほうが毎日楽しいし、人脈も広いほうがいいと考えるのなら、もちろんその人生を楽しめばいいでしょう。
しかし、もし人間関係に煩わしさを感じているのなら、人脈は言うに及ばず、友だちも必要ありません。むしろ、友だちなどつくろうとしないほうがいいのです。
■人脈も友だちも、要らない
考えてみてください。自分にとって、本当に大事な人間、大切にしたい人間はどのくらいいるでしょう。せいぜい10人程度。多くて20人くらいではないでしょうか。
「いや、今の自分には友だちもたくさんいるし、仕事の人間関係もある」と思うかもしれません。しかし、自分の状況が変われば人間関係は一変します。
そう考えると、自分の生き方やあり方を決定づける人間関係は、そう多くはありません。本来、人が生きていくのに必要な人間関係はごく限られているのです。
暴論だと思われるかもしれませんが、友だちは要らないと私が言うのには理由があります。
友人をつくると、人はどうしても相手と良好な関係を維持しようと努力します。また、「自分をわかってもらいたい」「相手のためになることをして感謝されたい」「相手に認めてもらいたい」と思います。それは、ひとつの欲にすぎません。
思惑どおりに受け取ってもらえればまだいいでしょう。しかし、いつもそうなるとは限りません。コミュニケーションの行き違いは、新たな悩みやストレスになります。
■「多すぎる友だち」は心を疲弊させるだけ
特に、多過ぎる友だちは心を疲弊させ、精神的な健康を害します。
それだけ多くの人間関係を維持しなければならないからです。ましてや、SNSでつながるだけの関係など、一切なくて大丈夫です。
![南直哉『「前向きに生きる」ことに疲れたら読む本』(アスコム)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/e/1200wm/img_9e4bdc4c7397212760950147739bd745105054.jpg)
そもそも人間関係でみんな疲れているのに、なぜそんなに友だちを欲しがるのか、増やしたいのか。私には不思議で仕方ありません。
友だちをつくろうとしなくても、自分自身のやるべきだと思うことをやっていて、それが本当にやるべきことであれば、必ず人が集まってきます。
また、同じようなテーマを持つ人間がそれを嗅ぎ分け、その相手との人間関係が自然にできていきます。そんな相手とは、たとえ年に一度しか会わなくても、会えば深く通じ合うものがあります。折に触れ、相手が何をしているのか気になり、風の噂を聞いただけで何を考えているのかがすぐわかる。そんな関係です。
そんな相手が私にも何人かいますが、その人間がいなくなれば、親を亡くすよりこたえるでしょう。
自分が大切にしたいものが決まれば、後は簡単。自分にとってどうしても必要な人間関係を調整していくことを考えればいいだけです。
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禅僧
1958年、長野県生まれ。青森県恐山菩提寺院代(住職代理)、福井県霊泉寺住職。早稲田大学第一文学部卒業後、大手百貨店勤務を経て、1984年に曹洞宗で出家得度。同年から曹洞宗・永平寺で約20年の修行生活をおくる。著書に『恐山 死者のいる場所』、『超越と実存 「無常」をめぐる仏教史』(いずれも新潮社)、『善の根拠』『仏教入門』(講談社)、『死ぬ練習』(宝島社)など多数。
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(禅僧 南 直哉)
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