「"いい人"でい続けるのがしんどい…」人間関係の悩みが一気に晴れる禅の教え
プレジデントオンライン / 2022年5月11日 9時15分
※本稿は、枡野俊明『やめる練習』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■理解してもらえないのが人間関係の常
人から理解してもらえないことは、寂しさや孤独をもたらします。しかし、そうした孤独や寂しさには多少なりとも甘えが含まれているかもしれません。なぜなら人が人を理解するのは、そもそも難しいことだからです。
自分のことをちゃんと理解して欲しいと強く望むのは、人としての未熟な面がどこかにあるせいかもしれません。
そもそもどんな関係であろうと、十分にきちんと理解してもらえないのが人間関係の常です。距離が近い関係ほど理解も正しくされていると思うのも違います。
たとえば身近な家族であっても、あなたのことをちゃんと理解しているでしょうか。自分のことをよく理解してくれていると思っても、よくよく観察するとその人の都合のよい解釈であなたを見ていないでしょうか。
■自分のことすら理解できていない現実…
他人のみならず、自分のことですら人はまともに理解していません。自分では自分のことをいちばんよくわかっていると思い込んでいますが、実のところそうとはいえないのです。
何かの拍子に「あれっ? 自分にはこういう面があるんだ」と感じたことはないでしょうか。そうなのです。あなたのなかには、海面下に隠れている氷山のように「あれっ?」と初めて気づく未知のものがたくさんあるはずです。
日常生活を送るなかではなかなか気づきませんが、思いがけない出来事に出くわしたりすると、意識の底のほうに沈んで隠れているものがひょいと顔を表したりします。
自分のことですらそうなのですから、ましてや他人から正しく理解してもらおうなどというのは、前提からして間違っています。
■半分でも理解してもらえれば上々
SNSを通して自分のことを事細かに発信する人は、私を見て欲しい、私という人間をわかって欲しいという願望が強くあるんだと思います。
会ったこともない多数の人とネット上の友だちになったり、LINEで自分の行動を逐一報告し合ったりするのは、「私のことを気にしてね」という理解を求めるメッセージを送っているわけです。
ネット空間において人との出会いやつながりを強く求めるのは、現実の人間関係に満たされないものがあるからかもしれません。こういう人は、「人と人は理解し合うもの」という期待が強いような気がします。
それが現実にはうまくいかないから、ネットでの人間関係づくりに熱心になる面があるのではないでしょうか。
半分でも理解してくれればもう上等。そのぐらいの期待値で人と向き合ったほうがきっとうまくいくはずです。
■自分を「盛る」のをやめる
自分を実際以上によく見せることを、最近は「盛る」というカジュアルな言葉で表現したりします。SNSの世界では、写真や動画に嘘の小細工を施したり、誇張した言葉で自分をよく装ったり、「盛る」ことが当たり前のように行われています。
現実の自分を知らない不特定多数の人たちに向けているから多少盛ってもわからないし、よく見せればそれだけ賞賛も多く得られる。そんな気持ちから「盛る」ことに大勢の人が精を出すのだと思います。
■盛っていると本当の自分は成長しない
「盛る」ことには遊びの要素もあって楽しいのでしょうが、それが日常になってしまえば、ある意味怖いことです。なぜなら、「盛る」ことを続けていると、「ありのままの自分」がいつまでたっても成長しないからです。
よく「等身大の自分」といういい方をしますが、人は等身大の自分を自覚して生きてこそ、人間関係からのさまざまな学びを得ます。自分を盛ってしまうクセがつくと、そのうち自分でも実際の姿と盛った姿の区別がつかなくなってしまうかもしれません。厳しいいい方をすれば「偽りの人生」になってしまいます。
そもそも「盛る」のは、自分に自信がないからです。だから背伸びをして格好をつけるのです。そんなことにエネルギーを注ぐのは、虚しい努力でしかありません。
「盛る」ことは一時の自己満足にはなるかもしれませんが、傍からは「盛る」姿勢が透けて見えて失笑の対象にならないとも限りません。
■飾りを取り払う勇気
自分を盛るクセがある人は、まず己の小ささを自覚するといいのです。そのとき格好悪いことをしていたなと感じれば、今度は自分の内側を磨くことに目を向け始めます。ありのままの自分を磨く努力は、「盛る」努力とは違ってちゃんと見返りがあります。
「明歴々露堂々(めいれきれきろどうどう)」という禅語があります。すべてが隠すところなく明らかに現れているという意味です。
自然はまさにそうであり、真理もまたそこにあります。人も素の自分、あるがままの姿で生きたらいいのです。
飾りをとったありのままの自分を見つめ、駄目な部分も素直にさらけ出して生きる。人は自分の未熟さを自覚することで成長していくものです。それが本当の自信にもつながり、折れることのないしなやかな強さを生み出すのです。
■増え続ける「いい人と思われたい」人々
ネットに馴染んでいる最近の若年世代は、恋愛関係をどこかで望んでも深入りしない人が多いそうです。距離を縮めることで自分が傷つくのが怖いために友達でい続けたりするといいます。
その結果、相手の女性(男性)にとってはいつまでも「いい人」であるだけで終わってしまう。
「いい人」というのは、善い人を目指してそうなるのではなく、悪く思われたくない結果としてそうなるわけです。昨今はそんな「いい人」と思われたい人が、男女、世代を問わず増えている印象があります。
■「いい人」願望の正体
「いい人」願望というのは、悪く思われると人間関係のストレスが増す、だからそれをできるだけ避けたいという心理から起こるものです。
社会が複雑になれば人間関係も複雑になりますから、ストレスはかつてないほど強くなっているのでしょう。
「いい人」という仮面をとりあえずつけるのは、ストレスを減らし、心の安全を守るための防衛心理といえます。
ただ、「いい人」の仮面をいつもかぶっていると、素の自分が出せなくなります。実際の姿や本心を見せることは、その人がその人らしく生きていくうえで大切なことです。
■貴重な人生の時間を無駄にしない
「いい人」を演じ続けていると、素の自分が呼吸できなくなり、それもまた別のストレスになります。
本心ではこういうふうにしたいと思っても、それを出すと嫌われたり、トラブルになったりするかもしれない……。
そうやって「いい人」の仮面をかぶり続け、自分の考えや信念を常に隠して生きるのなら、その人自身は何のために生きているのかという話になります。
その人はこのうえなく貴重な人生の時間を無駄にしてしまっています。
■「仮面」と「素」のバランスを
できることなら、いつも自分の気持ちや考えに素直に生きることができればよいのですが、相手がいるとなかなかそうもいきません。
「いい人」という仮面はとても便利ですが、その便利さにおぼれてしまってはいけません。
「いい人」という仮面を必要に応じてときおり使いつつ、なるべく素で生きる時間を長くする。そのバランスを上手に工夫していきたいものです。
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「禅の庭」庭園デザイナー、僧侶
1953年生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学環境デザイン学科教授。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本文化に根ざした「禅の庭」を創作する庭園デザイナーとして国内外で活躍。著書に、『心配事の9割は起こらない』(三笠書房)、『傷つきやすい人のための 図太くなれる禅思考』(文響社)、『禅、シンプル生活のすすめ』(知的生きかた文庫)など。
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(「禅の庭」庭園デザイナー、僧侶 枡野 俊明)
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