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「携帯料金を支払えない人はこんなに多いのか」そんな迷惑客がコールセンターに逆ギレするワケ

プレジデントオンライン / 2022年4月30日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

携帯電話料金を延滞すると「利用停止予告」が送られてくる。予告書には電話番号が書かれており、コールセンターには、さまざまなお客から「支払い延期の依頼」の電話がかかってくる。一体どんなやりとりが繰り広げられているのか。実録ルポ『コールセンターもしもし日記』(三五館シンシャ)より紹介しよう――。

■オペレーターデビュー初日…執拗にゴネる客

ついにオペレーターデビューの日が来た。

ただひたすらに緊張しかない。緊張のしすぎで指先が冷たくなっている。やさしいお客ならいいが、怒鳴りつけてくるような人に当たったらどうすればいいのか。できることならコールセンターのどこかに障害が発生して、電話が鳴らないまま1日が終わってほしい。そんなことまで考えてしまう。

障害など発生するわけもなく、業務が始まる。

電話は半分以上が支払い延期の依頼(※1)だった。料金を払わないと利用停止予告が自動的に送付される。それにはこのままだと○月○日に電波がとまると記されている。お客はそれを見ると電話してくる。

※1:「今月の料金が払えないから支払いを待ってくれ」という依頼。コールセンターに勤めて、支払えない人がこんなにも多いのかと実感した。携帯だけでなく、ガス・電気・水道までとめられたという人をときどきテレビで観る。私も貧乏生活ではあるが、幸いにしてどれも止められたことはない。

「手紙が届いたんだけどさ。必ず払うからさ。少し待ってくれ」

利用者の情報を画面に出せば、支払い状況やこれまでの応対内容がわかる。延期の依頼が初めてであれば、オペレーターがその場で3日程度の支払い延期に応ずることができる。その場合は「延期は今回限り」と約束してもらう。

しかし、何度も延期しているような人には断る。だが、ゴネればどうにかできる(※2)ことを知っている人は、執拗(しつよう)に食い下がる。

※2:コールセンターで働いてわかったのはゴネることの大切さだ。ゴネる人は物わかりのいい人よりも得をしている気がする。

「前回延期した際に、今回限りとお約束していただいてますね?」
「それはわかるんだよ。わかるけど頼む。仕事で使ってるんだ。頼むよ」
「本来できないことを前回やったわけですから……」
「わかる。わかるけど頼む。お願い。お願いします」

こんな人はまだいい。中にはしてもらって当たり前という人もいる。

■怒鳴られたり脅されたり…利用停止日の悪夢

「払えねえから支払い日を延ばせ」
「今回限りと先月お約束……」
「ガタガタ言ってんじゃねえよ! 10日には払うって言ってんだろ!」
「それでしたらお支払い後の利用再開となり……」
「ふざけんなこの野郎! おめえじゃ話になんねえ! 上に代われ!(※3)

各グループにはSVと呼ばれるスーパーバイザーが2人ずつ配置されている。この料金センターを運営しているドコモサービス(※4)の正社員もいれば派遣社員もいる。年齢も性別もさまざまだが、SVはこうした難しいお客をあしらうことが仕事だ。SVがお客と1時間以上やり合うことは珍しくなかった。

※3:「上に代われ!」と怒鳴られて、SVを探すが、全員応対中だったことがある。「上の者がみな話し中なので、私で勘弁してください」と頼んだら、「おめえしかいねえのか。しょうがねえなあ」と納得した。変なところで物わかりのいいクレーマーもいる。
※4:ドコモの料金業務や人材派遣業を営んでいたドコモのグループ企業。吸収合併され、現在はドコモCSとなる。

オペレーターより給料はいいが、ストレスは溜まるだろう。その点では正社員であろうと派遣社員であろうと違いはない。

利用停止日が近づくと支払いの延期を頼んでくる電話に追われ、電波がとまる利用停止日は電話が鳴りっぱなしになる。オペレーターに呼ばれたSVがフロアじゅうを走りまわる。

「電話が使えないんだけど! どうなってんのよ!」
「なんで使えねえんだ? 何? 払ってからだ? いいからさっさと使えるようにしろ!」
「名前覚えたからな。夜道、気をつけたほうがいいぞ」
「バカ野郎! 死ね!」

■気味が悪い…同じ言葉をただ繰り返す

怒鳴られたり脅されたりする(※5)のもつらいが、同じ言葉をただ繰り返すだけの人も得体が知れず気持ちが悪い。

※5:「殺すぞ」というような脅し文句を言われた場合、「今なんとおっしゃいました?」と聞き返し、再度言うようであれば「その言葉は脅しになりますので切らせていただきます」と言って電話を切ってよかった。実際に私も「ぶっ殺すぞこの野郎!」と言われたことがある。切ってもよかったのだが、我慢ならずに応戦した。

「ドコモ中央料金お問い合わせセンター・吉川でございます」
「すぐつなげ」
「はい?」
「すぐつなげ」

データを呼び出してみると、2カ月前に支払いの延期をしている。これは断らなければならない。

「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」
「前回お約束いただいてますよね?」
「すぐつなげ」
「前回、9月27日に『今回限り』(※6)とお約束いただいてますよね?」

※6:支払い延期を受ける際には「今回限り」と約束してもらうのがルールだった。それでも、2回目、3回目の人も多く、際限なく「今回限り」を繰り返す人もいる。

「すぐつなげ」

クチャクチャというガムを噛む音がひっきりなしに聞こえる。まっとうな仕事をしている人間ではなさそうだ。

「お支払いの延期は何度もできないんですよ。それで前回、『今回限り』とお約束いただいてるんですよ」
「すぐつなげ」
「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」
「9月27日に『今回限り』とお約束いただいてますよね?」
「すぐつなげ」
「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」

薄気味悪くなってきた。クチャクチャというガムの音も不快だ(※7)。この男が本気で怒ったらどうなるのだろう。待ち伏せして痛めつけることくらいしそうな気もしてくる。こういう人には深入りしたくない。断らなければならない案件だが、やむを得ない。

※7:クチャクチャという音が不快なだけでなく、ガムを噛みながらの会話は強烈な見下され感を与えられる。

「『今回限り』とお約束していただければやらせてもらいますが、お約束いただけますか?」
「すぐつなげ」
「お約束いただけますか?」
「すぐつなげ」
「ですので、お約束いただけますか?」
「すぐつなげ」

なぜ同じ言葉しか言わないのか。気味が悪い。早く切りたい(※8)

※8:オペレーター側から電話を切ることは禁止されている。しかし慣れてくるにしたがって、「お前じゃダメだ。上に代われ」と言わせるテクニックがついてきた。早く切りたいときは、お客がこのセリフを言うように誘導した。

「今回はやらせてもらいますが、25日までにお支払いの確認が取れない場合は再度ご利用ができなくなります。お支払いの用紙はお持ちで……」
「すぐつなげ」
「ですので、今回はやらせてもらいます。あと5分ぐらいで利用再開になります。ですがこのようなことは今後一切できませんので……」

ガムを噛む音を残して電話は切れた。

■止まると毎月欠かさず電話…怒鳴り続ける「貧乏くじ」

繁忙期が終わり(※9)閑散期に入っていた。この時期は罵声を浴びせられることもない。肩の力を抜いてすごせる時期だ。そろそろ昼休みというころ、ヘッドセット(※10)を通して聞こえた呼び出し音に、キーボードのエンターキーを押して出る。

※9:12月から1月末にかけては2カ月間ずっと忙しかった。疲労が限界まで溜まり、特別手当を出してくれないものかと真剣に思った。
※10:このときに使っていたものは大きく重く、長時間使っていると頭が締めつけられるような痛みが出た。最近のものは性能はそのままで軽く小さくなっている。

コールセンターのパソコンとヘッドセット
写真=iStock.com/inside-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/inside-studio

「なんで今月は早いんだよ! どうなってんだよ!」

いきなり怒鳴りつけられた。何を怒っているのかわからない。お客の情報を出そうにも、怒鳴るだけでこちらの話を聞いてくれない。

「お客さまの携帯番号とお名前をおっしゃって……」
「うるせんだよ! なんで今月だけ早いんだよ! どうなってんだよ!」

怒鳴り散らしている。

「携帯番号とお名前をおっしゃっていただかない限り、なんのお話もできません」

そう繰り返すと、怒りながらも教えてくれた。

情報を呼び出せば、個人の属性や契約期間、支払い状況、これまでの応対履歴(※11)などさまざまなことがわかる。29歳の男性で、未払いで利用停止になると怒って毎月電話してきている人だった。内容もヘビー級だ。オペレーターでは解決できず、SVに交代し、それでもダメで課長を電話に出させて怒鳴りつけている。応対時間も毎回1時間を超えている。貧乏くじを引いたとわかった。

※11:お客と話した内容の記録。これを見れば、誰がいつどんな話をしたかがわかる。履歴がない人はこれまでに一度も電話してきていない人で、履歴が数ページにもわたっている人は一筋縄ではいかないたいへんな人。

だが、今はまだ利用できているはずだ。なぜ、今回に限って利用停止になる前にかけてきたのだろう。怒鳴り声を聞き流しながら調べてみると、利用停止日を記載した手紙が2日前に発送されていた。

「今、私のほうでも確認しましたが、利用停止のお手紙が届いてますよね」
「そうだよ! なんで今月は19日なんだよ! 先月までは20日だっただろう! なんで今月は早いんだよ!」

怒っている理由がわかった。利用停止日が1日早まったのだ。

■システムの問題なのに…怒りの矛先はオペレーターへ

利用停止のスケジュールはコンピュータが決めている。判断基準はお客のランク(※12)だ。

※12:判断基準はお客のランク……このランクは利用停止日を決められる際の基準となるだけで、ランクによって料金が優遇されたり、サービスが違ったりするわけではない。

Aランクは、ドコモの指定した引き落とし日に口座振替やカードで支払っているお客である。Bランクは、残高不足などで引き落としができなかった場合、翌月に再度の引き落としで支払われるお客。Cランクは、支払い期限内に請求書でコンビニやドコモショップなどで支払っているお客。Dランクは、支払い期限がすぎたあと、コンビニやドコモショップなどで支払っているお客。Eランクは、利用停止後に支払ったお客、である。

Aランクのお客の払いが遅れて利用停止日が設定されたとしても、その日付はDやEランクのお客より10日から2週間遅い翌月の初めごろだ。

これに対し、DランクやEランクのお客は、その月の20日ぐらいから電話がとまりはじめる。この人の場合は何度も利用停止になっているため、日にちがさらに1日早まったようだ。

「利用停止の日は機械が決めていまして、こちらではどうすることもできない(※13)んです」

※13:こちらではどうすることもできない……システム上の決めごとなので力になりたくても何もできない。お客もわかっているが、怒りの持っていき場がなくオペレーターに向かって怒るのかもしれない。

「それじゃあ機械をなんとかしろよ! こっちはこれまで20日だったから今月もそのつもりでいたんだよ! 19日だと電話を使えない日が1日増えるんだよ! 仕事で使ってるんだよ!」

お客の怒りをただ聞いているしかなかった。通話時間は30分が経過した。みんな昼休み(※14)に行ってしまい、グループで残っているのは私ひとりだ。通常はSVだけは残ってくれるが、日曜日の今日は2人いるSVの両方が運悪く休んでいて、もうひとつのグループのSVはどこにいるのか姿が見えない。ひとりでどうにかするしかなさそうだ。大声で怒鳴られ続けて耳が痛くなったので、ヘッドセットを耳からずらして、怒鳴り声を外に逃がすようにしていた。

※14:昼食は休憩室で食べるか、外に食べに出るかのどちらかだった。業者が300円の弁当を売りに来ており、私はそれを買って公園で食べることもあった。

■わかってはいるんだけど…そして男は解約した

すると怒鳴り声がやみ、声の調子が変わった。

「あんたみたいに聞いてくれた人は初めてだよ」

ヘッドセットのずれを戻して聞いた。

「払わない俺が悪いんだけど、いつも頭ごなしに『できない、できない』って言われて、それで俺も腹が立って怒ってしまうんだよ。でも、あんたは違った。俺の話をちゃんと聞いてくれた」

ちゃんと聞いていたわけではなく、ヘッドセットをずらしていただけだが、どうやら信頼されてしまったようだ。

「またあんたと話できるか?」
「私もお話しさせてもらいたいんですが、指名を受けるということができません。今日お聞きした内容は記録にきちんと残させてもらいますので」

オペレーターにできることは、利用停止になる前に払ってくださいとお願いすることぐらいしかない。

「わかった。来月とまったら、また電話するわ」

どうせ払うなら、とまる前に払えないものだろうか。

吉川徹『コールセンターもしもし日記』(三五館シンシャ)
吉川徹『コールセンターもしもし日記』(三五館シンシャ)

一度頑張って期限内に払えば、支払いのサイクルが正常な形に戻る。そのサイクルを崩さないようにすれば利用停止にはならず、毎月怒って電話をかけてくるようなことにはならない。この人はオペレーターの話を聞くことができる。支払いも正常な形に戻せるはずだ。

翌月の19日。男のことが気になり、夕方になって電話が落ち着いたときを見計らい、データを呼び出し応対履歴を見てみた。オペレーターはお客との会話の内容を応対履歴に残さなければならないため、応対履歴を見れば、どのオペレーターが話をしたのかもわかる。男は予告したとおり電話してきていた。女性オペレーターが機械的な応対をしてすぐにSVに交代、SVが頑張るがさらに課長に代わり、課長はなんの話もできないまま通話を打ち切られていた。

さらにその次の月の19日。調べてみると男は電話を解約していた。

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吉川 徹(よしかわ・とおる)
元コールセンター従業員
1967年新潟県生まれ。大学卒業後、JAの全国連合会に就職するも、過度なストレスで体調を崩し、退職。その後、派遣社員として、ドコモの携帯電話料金コールセンター、プラズマテレビのリコール受付、iDeCo(個人型確定拠出年金)の案内コールセンターなどに勤務。

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(元コールセンター従業員 吉川 徹)

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