百戦錬磨の有名記者が教える、ネガティブな相手の態度も一瞬で和ませる「最強の切り返し方」とは
プレジデントオンライン / 2022年5月12日 11時15分
■共感する。寄り添う。事実を世に問うために
東京新聞社会部の記者として、本来の私の活動は裏方です。現場に駆けつけ、周辺取材を重ね、事実を文字にして「伝える」。それが日々の業務です。ただ菅義偉官房長官(当時)の定例会見に出席し、質問を重ねる姿がメディアで取り上げられ、自ら発信する機会も増えてきました。
日本の政治や社会に問題意識をもっていると、あまりに虐げられた声なき声や、それらを消そうとする大きな力に出合うことが多くあります。海外メディアの大々的な取り上げ方と、日本国内の小さな報道のギャップに首をかしげることも少なくありません。そんなときは、だからこそ、その奥に何が潜んでいるのか。隠したい事実があるのではないか。そこに光を当て、明るみに出す。傷つけられた人々の小さな声を、大きな声にして世に「伝える」。それが私の使命だと思っています。
そのためにまず必要なのは、「共感し、寄り添う力」ではないでしょうか。被害者とされる人々は、記者がどれだけ熱意をもっているか、自分たちの立場で物事を考えられるか、ものすごく敏感です。過剰な感情移入は避けるべきですが、彼ら彼女らの繊細な想いをくみ、声を聞き続けることで、記事に厚みが出て、説得力が増すと考えているのです。
もうひとつ、「問題意識をもち続ける力」も欠かせません。取材して終わり、ではなく、絶えず関連取材を続けていく。性的暴行を受けたとして訴訟中のフリージャーナリスト、伊藤詩織さんとは、もう5年ほどやりとりを続けています。
私の駆け出しのころの話ですが、ある男性官僚を女性記者たちが囲む懇親会があり、その関係性に違和感を抱いたこともありました。でもとにかく記事にするネタが欲しかったから、結局声を上げることはなかった。だからセクシャルハラスメントに関しては、私たちの世代が勇気を出していれば、という深い自責の念があります。でも問題意識をもち続けていれば、声が束になり、大きなうねりとなって、行動を起こす人が現れる。そんな力も信じられるようになりました。
■相手の事情を考えればリスペクトが生まれる
仕事の幅が広がり、各所で講演会を行うことがあります。そこで「伝える」ために意識しているのは、意外かもしれませんが「笑わせる」こと。
話がシリアスだからこそ、某政治家のモノマネを挟むとすごくウケますし(笑)、熱心に聴こうとしてくれます。
結局人は、楽しそうに活動している姿に引かれるものなんですよね。
もちろん、ネガティブな質問を受けることもあります。その場合、まず笑顔で「ありがとうございます」と受け止め、「とても貴重な意見です」と温かく返すようにしています。これは政治家の立ち居振る舞いから学んだことかもしれません。
こうして経験を重ねるにつれて、立場が敵対している人と向き合ったときも「この人にも事情がある」と深く想像を巡らせるようになりました。
すると相手に対するリスペクトが生まれ、問題意識を共有しやすくなる気がしています。
この複雑な世の中で勧善懲悪などないとするならば、さらに活発に意見を交わし、隠された事実に切り込んでいきたい。それが私の生きる道なのです。
伝え方賢者の愛用品
左/最近はオンライン記事や配信のため、記者自ら動画撮影することも多く、機材を持ち歩く機会が増えている。右/不規則な日々には、エスティローダーの名品「アドバンス ナイト リペア」が強い味方に。
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東京新聞社会部 記者
1975年生まれ。東京新聞社会部記者。2017年6月から官房長官の会見に出席、質問を重ねる姿が注目される。同年、平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞受賞。『新聞記者』『報道現場』(ともに角川新書)、『ジャーナリズムの役割は空気を壊すこと』(集英社新書)ほか著書多数。
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(東京新聞社会部 記者 望月 衣塑子 構成=本庄真穂 撮影=望月みちか)
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