「出版業界もひとごとではない」相次ぐ性被害告発の声に映画原作者たちが立ち上がった深い理由
プレジデントオンライン / 2022年4月27日 13時15分
■作品が映画化された作家18人で声明文を発表
今回、この声明を出したのは、映画の世界で性暴力を受けたと告発した女性たちに賛同したいという強い気持ちがあるからです。(映画監督や俳優から性行為を強要されたという)被害女性たちの告発を受け、作家同士で主にオンライン上で相談し、それぞれの意見を採り入れ、数え切れないぐらい何度も声明文を作り直しました。
賛同した作家は他にもいるのですが、説得力を出すため、名前を出すのは原作者として映画化が決まっている人や、既に映画化された経験がある人に絞りました。これまで私たちは自分の小説が映像化されるとき、その制作プロセスにはほとんど絡まず、許可を出したら後は劇場公開前の試写で見るだけという感覚だったのですが、よく考えてみると、最初に契約書は交わしているわけなので、もし、その段階で何かを要求していれば、性加害やさまざまなハラスメントを防げたのではないか。みんなでそう話し合うようになりました。
■映像化に条件をつければ性加害を抑止できるのでは
小説家は映画化の話をもらうと、うれしいもの。オファーが来たら私の周りでは基本的には受けるもので、よほどのことがない限り契約にも注文をつけません。後は台本をチェックするぐらいで、「良い映画ができたらいいな」と思っているぐらいの関わり方なんです。私も過去に小説が映画化されたとき、ほとんどノータッチでした。しかし、契約している以上、その現場で起きていることは私たちも関係がある。もしかしたら、私たちには抑止できる力があるのではないかと思いました。
また、映画業界の人に話を聞くと、もちろん性被害を無くしたいと思う人たちはいて、個人として声を発する勇気はあるものの、そこから連帯することがなかなか難しいそうなんです。というのは、制作会社や製作委員会という大きな船のようなプロジェクトに1人ずつ参加しているので、いくつかの組織をまたいで告発するのにはハードルがある。それなら、私たち作家の多くは個人事業主なので、こちらから声を上げられるのではと思いました。
■映画業界だけでなく出版業界にも根強くはこびる考え
また、声明にも書きましたが、出版業界にも同じ問題はありますよね。
この声明を出したことで新聞や雑誌から取材を受けましたが、そのとき「御社ではどうですか?」と尋ねると、問題はあると答えてくださる方もいます。その中で、出版社の社員だった女性が「胸が大きいから」という理由で男性作家を囲むパーティーに呼ばれてお酌をさせられた、雑誌の編集部員の女性が飲み会の帰りのタクシーで男性の編集長にキスされたという話を記者さんから聞いて憤慨しているところです。さらに、現在、女性作家からセクハラや性強要をされたという勇気ある告発も出てきています。
私がかねて疑問に思っていたのは、出版業界や映画業界でよく聞かれる「素晴らしい作品を作るためには、何かしらの犠牲なり苦しみなりがどうしても必要だ」という理屈。私はデビューしてそんなに日が長くないので(2008年にオール讀物新人賞を受賞しデビュー)、「楽しい思いをしているだけじゃ、小説は書けないよ」というようなことをたびたび言われたんですね。それで「そういうものなのかな」と思い込んでいたところがあるんですが、今回の一連の報道を受けて、やはり創作物は健全な環境で作られるべきで、健全ではない場所で作られた作品をよしとするのは、そろそろ社会全体の共有概念として過去のものにしてもいいのではと思いました。
![テーブルの上には開いて置かれた書籍](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/6/1200wm/img_26241ee093281fddcc6c841d9c673e1d263987.jpg)
■創作物は誰にも無理をさせない健全な環境で作られるべき
原作者として映画に関わる人を守るため、契約書にどんな条件を入れればいいのかということは、作家同士で話し合いながら勉強しているところです。性的なことに限らず、例えば小説の登場人物に合わせるために役者さんに体重を増やすようなアプローチはさせないとか、あらゆることで無理を強いないようリクエストできるかもしれない。制作スタッフの男女比を半々ぐらいにすれば、性強要が起こりにくい状態になるのではと考えた作家もいます。
■性加害に遭った人は被害者。声を上げた勇気を讃えたい
もし現在、性暴力や性加害に遭っている人がいたら、ひとりで抱え込まず、警察に通報するか、信頼できる人や性暴力の救援窓口などに相談してほしいと思います。間違っても「自分にすきがあったからかも」なんて思わなくていい。あなたは悪くありません。
今でこそ公然わいせつ事件が起こると地域の不審者情報として共有されますが、私が小学生の時は、通学路ではない道を歩いていただけで自己責任にされてしまったという経験があります。それが納得できなくて「世界、爆発しろ」というぐらいに思っていたんですけれど、その頃、女子大学生たちが海外旅行中に性被害に遭った事件がありました。テレビでは「なぜ外国で男についていくんだ」と彼女たちがバッシングされる中、尊敬する研究者の田嶋陽子さんが「玄関が開いていたとしても、物を盗んだら泥棒。彼女たちは被害者だ」と言っていて、とても救われたんですね。被害に遭った人に落ち度はない。セカンドレイプをしてはならない。社会全体がその意識を共有していくことが大事で、田嶋さんが言ってくれたような一言で救われる人はたくさんいるはずです。
当時、30年前は田嶋さんのような女性が「セクハラだ」と言うだけで叩かれていた時代でしたが、幸いにも現在は多くの人の意識が変わり、叩いた方が批判されるようになりました。だから、将来振り返ってみたとき、今回の告発と連帯をきっかけとして日本の映画業界が変わったということにしたいですね。実際に被害者の女性たちが声を上げてくれたことで、私たち、原作者も学んで変わることができたので、彼女たちに感謝し、その勇気を称えたいと思っています。
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター一覧
性暴力救援センター・SARC東京
(性暴力や性犯罪の電話相談を24時間365日受付)
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作家
1981年、東京都生れ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、2010年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。ほかの作品に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『本屋さんのダイアナ』『BUTTER』『マジカルグランマ』などがある。
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(作家 柚木 麻子 構成=小田慶子)
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