性欲の解消や承認欲求の充足ではない…50代既婚女性が「女性用風俗」でいちばん満足を感じた意外なこと
プレジデントオンライン / 2022年4月30日 11時15分
■幼少期から容姿に対して厳しいジャッジを下された
「女性用風俗」、略して女風が、ここ数年で活況を呈している。女性用風俗は、日本社会の水面下で着々と店舗数を増やし、デフレ化、低価格化が起きている。ひっそりとながら、着々とその勢いを増している現状がある。
女風を巡っては、有名インフルエンサーがYouTube上で店舗と積極的にコラボしたり、経営者が地上波に出演するなど、今までなかったような新たな動きも起きている。また、セラピストがSNSを通じて女性たちに直接ブランディングできるようになったことで利用する側のハードルが下がりつつある。
しかしそんな華やかな業界の仕掛けは、あくまで表層にすぎない。女性用風俗を長年取材してきた身としては、「女性の性」を巡る新たなムーブメントが起きた背景には、女性たちが抱える切実な「性」の生きづらさが見え隠れすると感じずにはいられないのだ。
女風の利用動機は人それぞれだ。性経験が少ないため利用したという人もいれば、夫や彼氏など特定のパートナーはいるが、セックスレスを思い悩み利用したという人もいる。
例えば性経験の無さが自信の無さにつながっているというAさん(35歳)は、長年「処女」であることを思い悩んでいた。幼少期から容姿をからかわれいじめを受けたことで、異性に長年積極的になれずにきた。
「とにかく自分に自信がなくて。男の人に縁がないのは自分の容姿に原因があるからだって、ずっと思ってたんです。本当に誰からも相手にされないんじゃないか、嫌がられるんじゃないか、そう思っていたんですよ」
物心ついたときから容姿をネタにからかわれた。小学校の頃は、同じ背格好の女子と一緒に、男子から「ブス」「太った女」と暴言を吐かれることが日常だった。中学になると、一緒にいじめられていた子も、手のひらを返したように男子と一緒になってあゆみさんの陰口を囁くようになる。まさに孤立無援だった。
■セックスなんて何も特別なことじゃなかった
コンプレックスは自らを牢獄の中に縛り上げ、苦しめる。私自身、いじめを受けた経験があるため、彼女の気持ちがとてもよくわかる。
そんな体験もあって、Aさんの口からはこと性的な話となると「私には」「私なんて」という自己を卑下する言葉が頻繁に飛び出す。異性に対する幼少期のコンプレックスもあり、恋愛やセックスを常に自分とは無関係だと思い込み、長年蚊帳の外に置いていたのだ。
それでも35年も生きていたら、男性と付き合うチャンスがなかったわけではない。
「大学生の時に、バイト先で好きな人ができました。でも、私なんかが告白しても、彼にとって迷惑だろうって。告白して逆に気を使わせたくないし、どうせ振られますから」
そんな彼女が女性用風俗に出会ったのは、1年前、SNSで「自己肯定感」が上がったという体験ルポマンガを読んだことがきっかけだった。
「こんなのがあるんだ」
――これはラストチャンスかもしれない。年齢的にも、これが人に裸を見せられる最後のチャンスだ。すぐに利用を決意した。それは人生の一大決心だった。
池袋駅北口で待ち合わせたセラピストと、2人でラブホテルに入った。Aさんは、34歳にして生まれて初めてゴツゴツした男性の体に触れた。
Aさんは、「それまでセックスを美女にしか許されない行為だと思っていたんです。セックスって、自分にはどうしても縁のない行為だと思っていました」と語る。
女風では本番行為はできないが、男性の体に触れることはできる。Aさんは男性にフェラしてあげたり、性器をなめられたり指を入れられるという体験をした。その体験に、「とにかく感動」したのだという。そして、リアルな男性との性体験によって、ずっとシャットアウトしていたセックスや異性という存在を生まれて初めて身近に感じることができたのだ。
「ずっと性的なことには無縁だと思っていたけれど、実際やってみると何も特別なことじゃなく、私にもできることなんだという感動がありました」とAさんは晴れ晴れとした表情で語る。
■ルッキズムに傷つけられた自分自身に向き合えた
女風の体験で勢いづいたAさんは、その後ある男性と処女喪失した。そして、現在付き合おうかと考えている人もいるという。
Aさんの話でとりわけ印象的だったのは、Aさんが長年抱いていたコンプレックスは、男性と性的な体験をしたからといって劇的に変わることはなかったということだ。
しかし女風を通じてコンプレックスを抱いている自分自身を冷静に見つめ直すことができたのは大きい。そしてそんな自分を、まるごと受け止めようとようやく思えるようになった。Aさんは、女性用風俗を通じて初めて人生のスタートラインに立ったと感じているという。
「女風が教えてくれたのは、コンプレックスは自分自身の問題だということ。それは、誰かの優しい言葉で癒やされるものじゃなくて、私にとっては、もっと深いところにあるものだった。そんな私にとって女風は自分自身と向き合ういいきっかけというか、荒療治になったと思います」
ルッキズム(外見至上主義)という言葉が、世間的にも知られるようになって久しい。しかし、かねてから特に女性たちは、幼少期から「美」や「かわいさ」を巡る視線に晒されているのが現実だ。そんなルッキズムが、Aさんのように、生涯に亘って深く人の尊厳を傷つけるということの重さに、私たちはもっと向き合うべきだろう。
■子供が巣立った瞬間「ぶわっ」とした性欲が湧き…
性経験の無さから利用する女性たちがいる一方で、深刻なセックスレスに悩み、やむにやまれず女風を利用する女性たちもいる。
Bさん(50代)は、夫が大病を患ってからというもの、セックスレスとなった。子供が大学を卒業し、就職が決まった時、その安心感か、突然「ぶわっ」とした性欲が湧き、止まらなくなる。考えてみれば、これまで妻や母として生きるのに精いっぱいだった。夫とも20年以上セックスしていない。しかし、そんな「母業」から解放されたところにやってきたのは「女」としての欲求が湧いてきたのだ。
行き場のない性欲に戸惑ったBさんだが、夫をさり気なくセックスに誘ったこともある。しかしBさんいわく夫は典型的な「昭和の男」で、そもそも女性を喜ばせようという発想が無い。セックスしても自分がフェラや手でやってあげるばかりで、何度かセックスしてみたものの「もういいや」と疲れてしまうのだった。
聞くと、Bさんはそれまで浮気などしたことがない貞淑な妻だったが、性欲に突き動かれるように、かつて付き合っていた人の連絡先まで無意識に探してしまうほどだった。Bさんは、中年期の女性の性欲というワードをスマホで検索し、女性用風俗に行きついた。Bさんの冒険が始まった。
■パートナーに「諦め」の念を抱く女性たち
初めてのセラピストはディルドを入れようとしたが、「20年開かずの扉」だったため、激痛が走り、なかなかうまくいかなくなった。
しかしその後、元AV男優のセラピストなどと出会い、「プロ」の仕事ぶりによって、自らの性感帯も初めて知ることになった。体中をやさしくなぞるフェザータッチは夫にはないもので、Bさんを驚かせた。
Bさんは、女風を通じていろいろな「性」を巡る冒険をした。夫には言えない甘ったるいスケスケのランジェリーを着てみたこともあったし、性欲が高まったときに自慰を行うためのディルドも抵抗なく買えるようになった。
女風を取材していて感じるのは、Bさんのように彼氏や夫などリアルのパートナーへの一種の「諦め」が利用動機になっているケースが多いということだ。話を聞いているとそこには前戯が少なかったり、ほとんどない状態でのセックスに日々うんざりしているという女性たちの本音がこれでもかと出てくる。
■性欲の果てには「女性同士のつながり」があった
Bさんは夫に内緒で、「性」の冒険を重ねていた。しかししばらくたつと、なぜだか「ぶわっとした性欲」は陰ってきた。その後は女風の利用の頻度も減っていく。
Bさんにとって一番大きかったことは、女風を通じて仲間ができたことだという。
ママ友とはどうしても「子供のスペック」を巡って意地の張り合いになってしまう。しかしSNSを通じて知り合った女風仲間とは性的なことも含めて、何でも打ち解けられる仲になった。
「ぶわっ」とした性欲の果てには、SNSなどを通じて知り合った女風仲間との出会いがあり、それは中年期以降の第二の人生においてかけがえのないプレゼントになった。
女風を長年取材していて驚かされたのが、そんな「女性たち同士のつながり」が終着点になるケースが多いということだ。
例えば、女風業界を巡っては、昨今女性用風俗をコンセプトにした「女風バー」が登場して話題となっている。女風バーは飲食業界が苦しむコロナ禍に歌舞伎町でオープンを果たしたのだが、売り上げも上々だと聞く。その中でも「女子会プラン」は人気だ。店内では、女性用の大人のおもちゃなどが展示してあったりSMショーが開かれるなどして盛況だと聞く。そこでは性についてあっけらかんと女性たちが語らい、イケメンのセラピストとともにワイワイ和やかな時間を過ごすのだ。
■ブームの背景にある光と闇
令和という時代は、このように女性たちが手を取り合い連帯するなどして、積極的に性に乗り出していくようになった新時代だといえる。近年、ストリップを鑑賞することを趣味にする「ストリップ女子」という言葉が話題になっているが、これまでヴェールに包まれていた「性」のプレジャーを女性たちは次々と開拓していっているという現状がある。こうして令和は、よりカジュアルにポップに女性たちが性を愉しめる時代へとなった。
その一方で、これまで取り上げてきたように、女風の利用動機の一部には女性たちの抱える「性」を巡る深刻な生きづらさが潜んでいることから目を背けてはいけないだろう。ルッキズム(外見至上主義)によるいじめがAさんを長年苦しめてきたのは事実だし、Bさんが語るようなベッドの上での男女の不均衡もまだまだ私たちの社会には健在だ。
私は生と性とは、決して切り離せないと感じている。なぜなら「性」は、人の実存や尊厳と深く関係しているからだ。そして人が生きている限り、ずっと付きまとう問題である。だからこそ、女性用風俗が「市場」として成長しているその背景にある深層に、私たちの社会はもっと真剣に目をむけるべき時がきているのではないだろうか。
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ノンフィクション作家
1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経てフリーライターに。著書に、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)などがある。また、東洋経済オンラインや現代ビジネスなどのweb媒体で、生きづらさや男女の性に関する記事を多数執筆している。
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(ノンフィクション作家 菅野 久美子)
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