「結婚どころか友達もできない」年収300万円未満の男性を孤独に追い込む"決定的要因"
プレジデントオンライン / 2022年4月28日 11時15分
■政府が孤独に関する大規模調査を初めて実施
内閣官房の孤独・孤立対策室において、日本における孤独・孤立の実態を把握するための初の大規模調査(約2万人対象)が実施されました。
今回は、その結果を紐解きながら、孤独の問題の本質は何かを明らかにしていきたいと思います。
本調査は、非常に多岐にわたる質問が用意されていますが、中でも配偶関係別に孤独の実態を調査している点が評価できます。性別や年代別だけでは見えてこない違いがあるからです。
まず、配偶関係別の孤独感について男女年代別に見てみましょう。
全体的には、未婚および離別・死別などの独身のほうが孤独を感じやすく、女性より男性のほうが孤独を感じやすい。さらに、年齢的には、30~50代の中年層が孤独を感じやすいという傾向が見てとれます。もっとも孤独を感じやすいのは、男性では50代で配偶者と死別した層、女性では30代で離婚した層でした。
■孤独を感じることと「それを苦痛に感じる」ことは別問題
しかし、単純にこれだけを見て、「やっぱり結婚したほうが孤独じゃないんだな」と結論づけてはいけません。そもそも「孤独が問題だ」と大声で騒ぐわりに、性別や年齢、配偶状況にかかわらず「孤独を感じる」という割合は過半数にも達していないわけです。高齢者の孤独という話題もありましたが、これを見る限り、むしろ高齢になるほど孤独感は感じない傾向もあります。ある意味、現役世代で人との交流機会が多いはずの年代のほうが孤独感は高いということになります。
そして、忘れてはいけない視点としては「孤独を感じることが決して万人にとって悪いことではない」ということです。言い換えれば「孤独を感じる」ことと、その「孤独を苦痛に感じる」こととは別です。
■「孤独が苦痛」な層は1割強にすぎない
私は、2020年に1都3県20~50代の未既婚男女(n15644)に対して、「孤独を苦痛と感じる」割合について調査したことがあります。それによれば、配偶関係別には以下の通りでした。
未婚男性 6.3%
未婚女性 1.9%
既婚男性 12.5%
既婚女性 12.1%
未婚男女においては「孤独が苦痛」なのは数%のレベルであり、既婚男女においても1割強にすぎないのです。つまり、未婚男女が4割近く孤独を感じるとはいっても、それを苦痛と思うのはその10分の1程度にすぎず、むしろ大多数は「孤独は感じているけれども、それは苦痛ではない」というのが正確な状況といえるでしょう。
もちろん、だからといって「すべての孤独は問題ではない」などと暴論を言うつもりはありません。が、一口に孤独といっても、それを苦に感じる人もいれば、むしろ孤独を楽しめる人もいるわけで、そうした人それぞれの置かれた環境や性格を無視して、ひとくくりに「孤独は悪だ」というほうが暴論なのではないでしょうか。
■「コロナ禍でひとりぼっちの若者」問題の本質は
当然、孤独が苦痛である層に対しては、相応の対応が必要になるでしょう。例えば、コロナ禍において、新入学した大学生の中には、入学してからずっとキャンパスにも行けず、同級生と話をすることもできず、ひたすら自宅でオンラインの授業と課題をこなす毎日を強要されました。地方から出てきて一人暮らしをしている学生にとって、これはいわば「独房に押し込められたような状況」に近く、その環境において孤独を感じた若者も多いことでしょう。
加えて、大学生の主要バイト先である飲食店やサービス業の働き先も時短営業や休業でなくなりました。誰も知らない土地に来て、誰とも知り合えず、誰とも直接的に交流できない状況が1年以上も続けば、それは人間の持つ帰属欲求の完全排除に近いわけで、つらかったろうと思います。
しかし、これの問題は「若者が孤独を抱えている」という問題ではなく「若者の交流の機会をことごとく剥奪した政府および大学の処置のまずさ」であり、「若者の置かれた環境」の問題です。問題の本質を見誤ってはいけないと思います。
一方で、孤独・孤立対策室の今回の調査では、性別・年代や配偶関係以外にも多岐にわたる条件の調査を行っており、興味深い結果が出ているのでご紹介します。
20~50代の現役世代だけを抽出して世帯年収ごとに「孤独を感じる」割合推移を見てみましょう。
■孤独の正体は「結婚できない」ではなく…
20代だけは多少バラツキが見られますが、男女とも年収が高くなるほど孤独を感じる割合が減少しています。注目したいのは、単身世帯でも2人以上の世帯でも同様に年収が増えるほど孤独感が減少する点です。これと、前述した配偶関係別のグラフと照合すると、以下のような仮説が浮かびます。つまり、孤独感とは、有配偶など誰か同居する人間がいるかいないかという問題より、年収の多寡で孤独感の増減が決まるのではないか、ということです。
もう少し深堀りして、続いて、孤独を感じる要因別にみていきましょう。
以下のグラフは、これまで経験したライフイベント別孤独感を表したものです。5段階評価のうち孤独感が「常にある」「時々ある」というトップ2合計数値と「ほとんどない」「決してない」というボトム2の合計数値との差分で比較します。グラフの右側に伸びているほうが孤独感が高いことを示しています。20~50代各数値を累積表示しました。
■最も多い「生活困窮・貧困」から見えてくるもの
これによると、「一人暮らし」など人との同居環境による変化は孤独感には影響をほとんど及ぼしていません。同様に、家族との離別や死別、友人などの離別についても少ない。
男女共通で孤独感を増幅させているのは、「病気・けがなどの心身トラブル」「DVや虐待など家族間のトラブル」「金銭的トラブル」などですが、男性側で特に多いのが「いじめやハラスメントなど人間関係のトラブル」と「生活困窮・貧困などの経済トラブル」です。女性側でも経済トラブルがもっとも孤独感を増幅させた要因となっています。
先ほどの年収との相関とあわせて考えると、孤独を感じるというのは、人間関係の問題ももちちんあるのですが、それと同等以上に「経済的問題」であることが分かります。
今まで、感覚的に「家族や友達など話し相手がいない」とか「コミュニケーションする相手がいない」ことだけが、孤独感の元凶のように語られていましたが、この初めての孤独に対する大規模調査から浮かび上がってきたのは、「孤独とは経済問題なのだ」という発見です。
■「年収300万円未満」男性の多くが未婚のまま
要するに、「お金が足りないから孤独感を感じてしまう」のです。裏返すと、経済的な欠落感がなくなれば孤独感は解消されるかもしれないという新たな解決方法も見えてきます。必要なのは、人間の友達じゃなく、お金という友達だったのでは、と。
そういうと「お金があっても孤独に悩む人がいる」「友達や家族はお金では買えない」「なんでもお金で解決できる問題じゃない」という人も出てくるかもしれませんが、それはある程度お金に余裕がある人の論理ではないでしょうか。
私は、未婚化・非婚化についても経済問題であるという点を繰り返し述べてきました。例えば、結婚適齢期である25~29歳の未婚男性の年収は額面300万円未満で49%を占めます。30~34歳に上がってもその割合は43%です(2017年就業構造基本調査より)。
結婚に際しては、「年収300万円の壁」というものが存在します。事実、2012年と2017年の5年間で結婚した男性の年収をみてみると、300万円を超えたあたりで急激に既婚増になります。「夫単独で300万円なくても夫婦ダブルワークで協力すればいいじゃない」と簡単に言う人もいますが、中にはそういう夫婦もいるでしょう。しかし、実際に300万円未満の男性の多くが未婚のまま年をとり続けているのは紛れもない現実です。
結婚相談所などにおいては、年収300万円未満の男性は入会拒否されるケースもあります。年収差別でも偏見でもありません。入会してもマッチングされないという今までのデータがあるからです。
■お金がないと人とのつながりすら消えてしまう
結婚だけではありません。社会人以降は、友人関係ですら同類縁です。つまり、友達になれる間柄というのは大体同じような収入のある者同士ということです。300万円に満たない年収の人間が1500万円の年収のある裕福層と一緒に遊ぼうと思っても、それを許すお金がありません。実施する趣味や行動にかけるお金のレベルも合わないでしょう。
何より200万円台で生活をするとなれば、それこそ毎月かつかつの生活を余儀なくされます。一人暮らしならなおさらです。まして、今後インフレが加速するのに賃金が上がらないのではお先真っ暗です。自分ひとり生きていくのに精いっぱいで、誰かと一緒に遊んだりする余裕すらなくなります。お金がないから人とのつながりもなくなるわけで、孤独の正体は貧困なのです。
孤独を苦痛と感じる人の根本が「人とのつながりがないことではなく、お金がないことの不安」だとするならば、話し相手がいればいい、とか、居場所があればいい、という前に「まず、金をよこせ」と言いたいのかもしれません。
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コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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