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あなたは「みそ」と「塩」、どちら派?…サッポロ一番が袋麺で「不動の首位」であり続ける納得の理由

プレジデントオンライン / 2022年4月27日 12時15分

「サッポロ一番 塩らーめん」と「サッポロ一番 みそラーメン」 - 写真提供=サンヨー食品

サンヨー食品の「サッポロ一番」は、発売から50年以上たった今も、袋麺市場で首位を守り続けている。特に人気があるのは「みそラーメン」と「塩らーめん」。なぜこの2つの味は愛され続けているのか。経済ジャーナリストの高井尚之氏がリポートする――。

■コロナ禍に売り上げが大きく伸びた「袋麺」

「コロナ前はそれほど食べなかったけど、在宅勤務が多くなり、食べる機会も増えました」

40代の男性会社員は、インスタントラーメンについてこう話した。

長引くコロナ禍と在宅勤務で、外食機会が減り、自宅で昼食をとる回数が増えた人も多いだろう。簡単にすませたい時に便利なのが、インスタントラーメン(即席麺)だ。

ご存じのように、即席麺は「カップ麺」と「袋麺」が2大勢力となっている。

業界団体の日本即席食品工業協会の発表データでは「カップ麺=39億2238万食(構成比66%):袋麺=18億6451万食(同31%):生タイプ1億8832万食(同3%)」(2020年度、同協会調べ)となっている。生産量では、カップ麺が袋麺の2倍以上あるのだ。

ただし、最初に巣ごもり需要となった2020年度(1月~12月)は、カップ麺よりも袋麺が大きく伸びた。同年度の袋麺は小売額ベースで前年比20.0%増、数量ベースで17.4%増となった。ちなみにカップ麺は、出荷額ベースで2.6%増だった。

※数字はいずれも「日本即席食品工業協会」調べ。表記は発表時

なぜ、消費者は袋麺を好んだのだろう。そこで今回は、袋麺で長年首位の「サッポロ一番」(サンヨー食品)に焦点を当て、人気の秘密を探ってみた。

■新たな袋麺の味わい方が消費者に浸透している

「現在、袋麺全体の数字は安定しており、2020年のような伸びはありませんが、2019年まで微減傾向だった数字が回復しています」

「サッポロ一番」のマーケティングを担当する川井理江さん(サンヨー食品 マーケティング本部 マーケティング部 第二課 課長)は、袋麺市場全体をこう説明する。

「その中で、2021年の『サッポロ一番』は一昨年の伸びを維持する前年並みで健闘いたしました。理由は“7つのサッポロ一番”と呼ぶ定番商品が手堅かったことと、アレンジレシピや汁なしで味わうといった新たな提案が、お客さまに受け入れられたと考えています。

また、公式ツイッターやインスタグラムでも情報発信していますが、料理研究家や声優の方など、ブランドのファンを公言する方も、折に触れて発信してくださいます」

川井さんが話した「7つのサッポロ一番」とは、(1)「サッポロ一番(しょうゆ味)」(2)「みそラーメン」(3)「塩らーめん」のほか、(4)「ごま味ラーメン」(5)「塩とんこつらーめん」(6)「みそラーメン 旨辛」(7)「ソースやきそば」をいう(画像参照)。

7つのサッポロ一番
写真提供=サンヨー食品

多くの人が一度は食べたことがあるのが、(1)~(3)の「サッポロ一番(しょうゆ味)」「サッポロ一番 みそラーメン」「サッポロ一番 塩らーめん」だ。

■半世紀にわたり「袋麺で首位」を譲らないワケ

「『サッポロ一番』ブランドの発売は1966(昭和41)年で、『サッポロ一番(しょうゆ味)』が最初でした。2年後の1968年に『サッポロ一番 みそラーメン』が、1971年に『サッポロ一番 塩らーめん』が発売されました。この3品が出そろった1972年から半世紀にわたり、袋麺ではほぼ首位を維持しています」

昭和、平成、令和と時代が変わっても、袋麺の首位ブランドに君臨し続けているのだ。

でもマーケティングの世界では「消費者はどんどん変化する」のが共通認識のはず。なぜ半世紀もの間、人気が続くのだろうか。

「『サッポロ一番』に関しては、舌と一緒に記憶も受け継がれていく、と思います。消費者調査では、『小さい頃、お母さんが作ってくれた』『土曜日だけはお父さんが作った』『お父さんが調理できる数少ない料理だった』という声も目立ちます。慣れ親しんだ味なので、実家を出て1人暮らしとなってからも作る人が多いようです」

在宅時間が増え、簡単な料理を作り始めた人も多い。「久しぶりに何かを作ろうとした方に『サッポロ一番』は選ばれやすい」とも聞く。これも「舌」と「記憶」なのだろう。

お湯を注げば勝手に調理してくれるカップ麺ではなく、調理が必要な袋麺を選ぶのは、「自分なりにアレンジをして仕上げる、ちょっとした達成感」ともいえる。

「サッポロ一番」のマーケティングを担当する川井理江さん (撮影のためマスクを外しています)
撮影=プレジデントオンライン編集部
「サッポロ一番」のマーケティングを担当する川井理江さん (撮影のためマスクを外しています) - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■「みそラーメン」と「塩らーめん」どっちが人気か

これまで「サッポロ一番」は、シリーズ累計で250億食以上を販売したという。その中で“最強2トップ”といえる存在が「みそラーメン」と「塩らーめん」だ。

今回、「最も好きなのは塩らーめん」です(30代の男性会社員)という声も聞いたが、塩らーめん派ではなく、みそラーメン派という人も多い。さまざまなデータで調べても「サッポロ一番 みそラーメン」が首位、「サッポロ一番 塩らーめん」が僅差で続く。

「2019年、ユーザーの方にTwitter上で投票していただき決着をつける『サッポロ一番 みそ派塩派大論争』キャンペーンをしたことがあります。その時も大接戦でした」

その結果は、次の通りだった。

「サッポロ一番 みそ派塩派大論争」の投票結果(2019年)

「サッポロ一番 みそラーメン」が発売された1968年、「サッポロ一番 塩らーめん」が発売された1971年は、ともに昭和40年代だ。この時代から日本人の食生活も大きく変わり、簡単便利なインスタント食品も次々に登場した。

ちなみに、みそラーメンは、レトルトカレーの「ボンカレー」(大塚食品)と、塩らーめんは、カップ麺の「カップヌードル」(日清食品)と同じ発売年だ。

■みそ味、塩味は当時としては革新的だった

「みそラーメンと塩らーめんは、即席麺の味としては先駆者でした。発売当時、すでに即席麺は各家庭に入っていましたが、ほとんどがしょうゆ味だったのです」

みそ味のラーメンに、北海道を思い出す人も多いだろう。国民の所得が向上した昭和40年代、道内は巨大観光地となった。その人気に拍車をかけたのは、流行歌では「知床旅情」の大ヒット(1971年)、そして「札幌冬季五輪」(1972年)といわれる。

当時、みそ味のラーメンを現地で食べた人もいたが、一般家庭で手軽に作れる「サッポロ一番」のみそラーメン、塩らーめんは異色の味だっただろう。みそラーメンに添えられた「七味スパイス」、塩らーめんの「切り胡麻」も斬新に思える。

「開発を陣頭指揮した井田毅(サンヨー食品創業者、前社長)は、色味にもこだわっていました。白い切り胡麻を選んだのも、スープに合わせた色彩感覚だったと思います」

実は、半世紀もの間「味はほとんど変えていない」そうだ。

「『サッポロ一番 みそラーメン』は、発売45周年の時に少し味わいを深くしました。粉末スープは、使われるみそを7種類のブレンドから8種類に増やしたのです。麺にもそのみそを練り込みました。でも消費者の方の味への思いもあり、大幅な変更はしていません」

店頭に並ぶサッポロ一番
筆者撮影

川井さんは、マーケティング部に来る前は、開発部門でスープを担当していたそうだ。

■どんな野菜ともマッチする味わい

袋麺に何も入れずに調理するのを“素ラーメン”と呼ぶ人もおり、「本当に疲れている時は素ラーメンにします」(20代の女性会社員)という声も聞いた。

だが、昔からそれでは「栄養が偏る」と言われてきた。栄養バランスとしては野菜を入れるのが望ましい。この人も「基本は冷凍野菜や乾燥わかめを入れます。塩らーめんの場合は、卵とネギも入れて中華スープっぽくして食べることが多いです」と話していた。

「サッポロ一番」を調理する際に、入れる具材は何が多いのだろう。

「どの味でもタマゴを入れる人が多いです。生卵、溶き卵、ゆで卵のほか、目玉焼きという人もいます。みそラーメンは、もやしやコーン、塩らーめんにはキャベツを入れるのも多いです。みなさん、冷蔵庫の中で余っている野菜を使われています」

昔の「サッポロ一番 塩らーめん」のテレビCMでは「♪白菜、シイタケ、ニ~ンジン、季節のお野菜いかがです~」と訴求していた。その後も、野菜を入れるシーンのCMは何度か投入してきたが、栄養バランスを意識した訴求だった。

■なぜ定番の「しょうゆ味」は強くないのか

ところで、「サッポロ一番(しょうゆ味)」は、みそや塩に比べて強くない。コアな愛用者はいるが、多くの人は「選ぶのは、みそ(塩)」と答える。その理由も聞いてみた。

「先駆者だった、みそや塩に比べて、しょうゆは競争の激しい世界です。当社の即席麺として最初に評判となったのは、塩味の『長崎タンメン』(1964年発売)でしたが、市場を見渡すと、しょうゆ味の即席麺の規模が大きく、活性化していた。そこで、しょうゆ味を投入した経緯もあります」(マーケティング本部 広報宣伝部部長の福井尚基さん)

長い間、小売店では「サッポロ一番(しょうゆ味)」は主に大阪より東で販売され、中国・四国・九州地方は「サッポロ一番 ごま味ラーメン」が販売される、という状況だったという。「それもあって、全国的に“しょうゆ、みそ、塩”の3品がそろう商品ラインナップは、長い間ありませんでした」(同)

外食でも、北は北海道から南は九州・沖縄まで網羅する大手ラーメンチェーンがないように、しょうゆ味は各地によってこだわりが違い、ご当地ラーメン人気にもなっている。

サンヨー食品も、冒頭で紹介した“7つのサッポロ一番”のように、「ごま味ラーメン」「塩とんこつらーめん」「みそラーメン 旨辛」という派生商品で訴求する。

■需要が落ち込む時季は「冷やし」で訴求

これから暑い日を迎えると、袋麺の需要は落ち込む。どんな対策をしているのか。

「2017年ごろから『夏は冷やしてサッポロ一番!』を訴求しています。もともとお客さまの中でも、夏は冷やして食べるという声もあり、本格的に訴求し始めました」

サンヨー食品の公式サイトでも「ひと手間レシピ」の中で「夏は冷やしてサッポロ一番!」を特集。作り方の紹介やレシピ提案も行う。

今だけの限定品として「サッポロ一番 みそラーメン〈冷やし焙煎ごまだれ仕立て〉」「サッポロ一番塩らーめん〈冷やし瀬戸内レモン味〉」の2品も発売中だ。5個パックの外袋には「冷・温 選べる」とも記されていた。

アイス業界が、秋冬商品に濃厚な味でも訴求する「冬アイス」で閑散期の底上げに成功したように、即席麺業界も工夫しているのだ。

最近では生麺のような食感の即席麺もあるが、それでも「サッポロ一番」の人気は高い。各方面に話を聞くと、消費者は店のラーメンとは違う味として受け止めているようだ。「あの適度なチープさがいい」と話した人(30代の女性会社員)もいた。

「一度ブランドから離れても、どこかで帰ってくる、戻ってくるような味だと思います」(川井さん)。気をつかわないですむ、居心地のよい実家のような存在か。発売以来、パッケージのイメージがほとんど変わらないのも、それを思わせた。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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