「円安が急ピッチで進む2022年」…では、2011年の東日本大震災で円安にならなかった理由を説明できるか
プレジデントオンライン / 2022年4月27日 11時15分
※本稿は、中野博幸『これだけは知っておきたい「為替」の基本と常識』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■円高・円安って何?
「高・安」は円の価値をあらわしている
▼「1ドル100円」ってどういう意味?
テレビニュースなどで「為替が1ドル100円」という言い方を耳にします。「1ドル100円」とは1ドル=100円、つまり1ドルと100円が同じ価値であることを意味しています。
「1ドル100円」のときに海外旅行に行くとしましょう。100円を持って両替所に行き、「アメリカに行くのでドルに替えてください」と言うと1ドル受け取れます。その人はアメリカで1ドルのモノが買えます。この1ドルのもとは100円です。
同じように、「1ドル100円」のときにアメリカ人が両替所で、「日本に行くので円に替えてください」と言って1ドル渡すと100円受け取れます。その人は日本で100円のモノが買えます。この100円のもとは1ドルです。為替が「1ドル100円」とはそういうことです。
では、「円安」「円高」とは? ニュースで「円相場が昨日より30銭高くなり……」などと言うのを聞きますが、数字を見ると30銭少なくなっています。
「円が高くなる」とはどういう意味なのでしょうか。「円が高くなる」ことを「円高」といい、「円の価値が上がること」を意味します。何に対して価値が上がったのかといえば、ドルやユーロなどの「外国通貨」です。
つまり、「円相場が昨日より30銭高くなり」と言うときは、ドルなどの外国通貨に対して、昨日より円の価値が30銭高くなったと言っているのです。もう少し具体的に説明しましょう。
▼もし1ドルが1円になると……
たとえば、ドルと円の相場が1年前には「1ドル100円」で、いまは「1ドル80円」になっているとします。これはリンゴの値段にたとえると、1年前もいまもニューヨークのお店で1個1ドルで売っているリンゴが、1年前は日本円で100円だったのが、いまは80円になったということです。20円も安くなったため、100円でリンゴ1個に加えて5分の1個分余計に買えるようになりました。円の価値が20円分上がったのです。これが円高です。
では、1年前の「1ドル100円」がいま「1ドル200円」になったら、1年前のように100円でリンゴ1個を買うことができません。1個どころか2分の1個しか買えません。円の価値が半分になったためです。円安です。
仮に「1ドル1円」という究極の円高になると、一瞬「たった1円になって悲しい……」と思ってしまうかもしれませんが、1ドルが1円の価値になったということなのです。1円が1ドルの価値をもったということです。このとき、100円をドルに替えると100ドルですから、アメリカに行くと1ドルのリンゴが100個も買えてしまいます。
円高・円安がわかりにくいという人は、「1ドル100円」と聞いたときには「1ドルが100円の価値」(1ドルが100円で買える)ととらえてください。
これが「1ドル80円」になれば、1ドルが80円で買えるようになったのだから円の価値が上がって円高です。「1ドル120円」になれば、1ドル買うのに120円出さなくてはなりませんから、円の価値が下がって円安です。
■為替で儲かる・損するってどういうこと?
為替の変動によって発生する「為替リスク」
▼為替差益と為替差損
「円高になって得をした」「円安で損をした」などという話を聞くことがあります。どういうことなのでしょうか。
あなたはニューヨーク旅行に行って1個1ドルのリンゴを買います。このリンゴは、為替が1ドル100円のときには日本円で100円ですが、1ドル120円の円安になると20円高くなり、1ドル80円の円高になると20円安くなります。
このように、円安の時期に海外旅行に行くと損をした気分になり、円高の時期に海外旅行に行くと得した気分になります。
では、リンゴを買わずに100円と交換した1ドルをしばらく持っておくことにします。
100円と交換した1ドルをしばらく持っていたところ、1年たつと円安(ドル高)になり、1ドル120円になりました。このとき、1ドルを円と交換する(1ドルで円を買う)と120円が手に入ります。20円儲かります。
ところが、もっと円安になればもっと儲かるので、もうしばらく1ドルのままで持っておくことにしました。ところが、1年後は円高(ドル安)で1ドル80円になりました。
このとき、1ドルを円と交換する(1ドルで円を買う)と80円しか手に入りません。20円儲かったはずが、20円の損です。この儲かった(はずの)20円のことを「為替差益」といい、損した20円を「為替差損」といいます。こうした為替の変動によって発生するリスクを「為替リスク」といいます。
■円高・円安は何を基準にしているのか?
自分の関心のある時点の相場と比較している
▼人によって基準が違う
「円高・円安って言うけど、いつと比較して言っているんだろう?」と思ったことはありませんか。円高・円安とは「いつ」を基準にしているのでしょうか。
ハワイから帰ってきた由美さんが、「円高でこんなに安くブランド品が買えたわ!」と喜んでいます。由美さんは学生時代にアメリカ旅行したときと比較して、そう思ったのでしょう。
また、企業の輸出担当者が「円高で困った!」と言ったら、その会社が利益を確保できる為替水準を設定した1年くらい前との比較で、円高を嘆いているはずです。
外貨預金をしている人なら、自分が円で外貨を買って預金した時点と比べて、円高・円安を意識するでしょう。このように、円高・円安は、その人によって起点が異なりますから、統一された基準はありません。
▼固定相場時代の3倍!
金融業界では、1973年に日本の為替制度が固定相場から変動相場に移行したときを起点にしています。73年以降の円相場は上がったり下がったりを繰り返していますが、大きなトレンドとしては、円高・ドル安です。
70年代から80年代半ばまでは、1ドル200~300円の間で上下を繰り返しましたが、85年から一気に円高が進みました。90年前後は円安傾向になりましたが、再び円高になり、94年に初めて1ドル100円を突破。その後は100~150円の間を上下し、リーマンショックが起こった2008年からまた円高に。
新聞やテレビで円高が大きく報じられるのは、過去の史上最高値に迫ったときです。長らく円相場の史上最高値は、1995年4月19日に東京市場でつけた79円75銭でした。それが2011年10月に75円32銭をつけました。そのときには、政府・日銀による為替介入が実施され、12年後半の日銀によるマイナス金利、量的緩和により13年に100円台に戻してからは100~125円で動いています。
1ドル360円の固定相場時代と比べると現在は3倍以上の円高ですが、いまさらそんな過去の数字をもち出す人はいません。自分の関心のある時点の相場と比較して、円高・円安と言っているのです。
■なぜ円高や円安になるのか?
通貨は売り買いされることで価格が動く
▼円がたくさん買われると円高になる
そもそも円などの通貨は、どうして高くなったり安くなったりするのでしょうか?
ひと言でいえば、みんなが持っていたいと思う通貨は、多くの人に買われることで価格が上がり、持っていても仕方がないと思う通貨は、みんなに売られて価格が下がります。
2011年3月11日、日本は東日本大震災という未曽有の災害に見舞われました。大災害が発生して「日本経済が落ち込む」と予測すると、円を売って外貨を買うために円安になるものです。
ところが、東日本大震災後は円高に動きました。それは、日本の保険会社が保険金支払いのために海外資産を大量に処分して円に換えるだろうとの見方から、いち早く投機筋などが大量の円買いに走ったためでした。
■【コラム】東日本大震災のとき、円相場はどう動いたか
2011年3月11日に起きた東日本大震災は、地震と津波によって東北地方の工場の操業停止や福島第一原発の放射能汚染をもたらし、日本経済に大きな打撃を与えました。震災後の3月20日、世界銀行は「日本の経済損失は約2350億ドル(約18兆円)」、日本政府は被害想定額を16兆~25兆円と発表しました。
これほど大きな損失があると、日本の経済成長率は数%のマイナスになりますが、このとき為替相場はどのように動いたのでしょうか?
成長率がマイナスになれば、円安になるはずです。実際、01年のアメリカ同時多発テロ発生直後は、アメリカ経済の混乱を見越してドル安になっています。
ところが、東日本大震災後は円高が急進し、原発が爆発するとさらに円高が進んだのです。先進国による協調介入が入るまで円高が続きました。その理由は、日本の保険会社が膨大になる保険金支払いの原資をつくるため、海外で運用している資産を一気に売却する(円に戻す)という予測があったからです(実際には、一気に売却する動きはありませんでした)。
その予測に基づいて大量円買いの投機取引がなされたために円高に動いたのです。これは1995年の阪神・淡路大震災時にも起きた現象です。ほかにも、日本メーカーが被災した工場を再建するために海外資産を売却するという見方も円高の原因になりました。
日本は世界最大の債権国であり、生保や損保などは海外に多くの資産を抱えていて、有事の際はその海外資産を大量に売って円を買うために円高になるという特殊な事情があるのです。
▼人気商品は少し高くても買いたい
このように、円がたくさん買われると価格は上がり、逆にたくさん売られると円の価格は下がります。それがレートの動く基本的なメカニズムです。
では、なぜ通貨は売り買いされることで価格が動くのか?
おいしくて有名な饅頭屋はいつも大繁盛しています。たくさん売れますが値段が高くなったという話は聞きません。それはお店が価格を決めて管理しているからです。
しかし、通貨は売る人も買う人も無限にいますから、特定の人物が価格を決めることはできません。これを経済学では「市場メカニズム」によって価格が決まるといいます。
基本的に市場では、売り手と買い手がたくさん存在し、買いたい人は少しでも安く買おうとし、売りたい人は少しでも高く売ろうとします。価格が上がり始めると、買いたい人は少し高い金額でも買います。このとき売りたい人は、高く売れそうだから高い価格で売りを出します。
その繰り返しで、しだいに価格が上がっていくのです。そして、買い値が高くなりすぎたとみんなが考えたときに、価格上昇がストップします。
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投資顧問会社顧問
1957年北海道生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。大蔵省(現・財務省)に入省後、金融行政に携わる。1991 年シティバンクに入社し、99年にゴールドマン・サックス証券へ転じる。2002年からソシエテジェネラル信託銀行に勤務、13年よりSMBC信託銀行にてプライベート・バンキング営業部長を務める。現在、投資顧問会社顧問。一貫して金融資産の運用に携わり、銀行・証券・信託に通じた総合的な運用・保全のアドバイザーとして活躍中。
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(投資顧問会社顧問 中野 博幸)
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