「親の話し方は『ドラえもん』のしずかちゃんが最高のお手本」わが子が化ける魔法の言葉がけ
プレジデントオンライン / 2022年5月2日 11時15分
※本稿は『プレジデントFamily 2022 春号』の一部を再編集したものです。
■わが子を自律した人間に育てるにはどうしたらいいか
「これからは教育熱心すぎるご家庭こそ要注意です」
どきりとする指摘をしたのは、自分のやりたいことを見つけていった子を数多く取材してきた教育ジャーナリストの中曽根陽子さんだ。中曽根さんのいう教育熱心とは、子供のために、親の視点で「あれもさせないと」「これもさせないと」と先回りしてしまうということだ。
子供時代からテーマを見つけ研究活動をしていたり、起業していたりする子の親の共通点は、子供視点を大切にしていたこと。つまり「子供が得意なこと」に注目していたというのだ。
「子供が好きなことを思い切り探究できる環境を整えてあげるのです。自分から進んで学べば、自信も持てる。だからどんどん深く学び、さらに探究できるんですね」(中曽根さん)
■手をかけすぎない。自分で決める訓練を
工藤さんも「手をかけすぎないこと」を強調する。
「子供が自律するためには、あれこれと与えすぎてはいけません。与えられることに慣れてしまった子供は自分の人生に当事者意識がなくなり、うまくいかないことがあると何でも人のせいにするようになります」
図表1の通り、日本の子供たちの自己肯定感は諸外国に比べてダントツで低い。少子化になり、親が子にいろいろと手出ししてきた結果だと工藤さんは考えている。
これまで学校では、どちらかというとトラブルを避けるような指導をしてきた傾向がある。教育は、困難に対して人の力を上手に借りながらも自分の力で解決できるよう支援することだと工藤さんは言う。
「多様な価値観で育った人たちと一緒に働き暮らす時代は、『思いやりを持ってみんな仲よく』では解決できません。多様性の中では対立は当たり前のことと受け止め、対立したときにどう合意形成をするかが重要です。例えばA案かB案かで対立が起きているケースでは、対話を通してA案では誰が不利益でB案では誰がどんな理由で不利益なのかを全員で確認し、誰一人置き去りにしない共通のC案を見つけ出すことが大事です」(工藤さん)
家庭で意見が割れたときなども、お互いの合意できるゴールを探して話し合う。家族間で決め事をするときも意識するといいだろう。
次からは、子供が自律するための親の心得を掲載。ぜひ子育てに取り入れてほしい。
■新時代に対応した親になる「4つの心得」
日々の声かけを変えてみよう!
1 自分で決めさせる
「自己肯定感を高めるには、自己決定してきたことの積み重ねが大切です。だから進路でも、最終的には子供に決めさせましょう」(工藤さん)
自己決定を促すには、次の三つの質問が有効だという。
②「どうしたいの?」
③「何か手伝ってほしいことはある?」
「この三つの言葉は効果テキメンですが、さまざまなシチュエーションで使いこなせるようになるのは難しいかもしれません。特に③については②で親の意に沿わない発言があるとつい『勝手にしろ』なんて言葉が口から出てしまうことがありますね」(工藤さん)
例えば「学校をやめて世界一周旅行に行きたい!」などと、親から見ると、突拍子もないようなことを言い出したとする。そんなときは「なに馬鹿なことを言っているの!」と馬鹿にしたり「勝手にしたら」と突っぱねるのをグッとこらえよう。
「こんなときに見習いたいのは『ドラえもん』のしずかちゃんです。彼女はアサーティブ(※)な言葉がけの天才です。誰の提案に対しても、必ずといっていいほど最初に『いいわね』『すてきね』と声をかけます。そのうえでしっかりと『でも残念だけど……』と本音を伝えます。いきなりの本音は拒絶を意味します。『いいね』『面白いね』などの一言が先にあるだけで認められたという安心感につながります」(工藤さん)
※お互いを尊重しながら意見を交わすコミュニケーション
「面白いね!」
「いいね!」
2 失敗を責めない
「子供が何かをするとき親はどうしても『失敗させたくない』と考えがちです。こうした親の気持ちが伝わると、子供は臆病になって次第にチャレンジをしなくなります。失敗はしてもいいと伝えて、挑戦を恐れない気持ちを育むことが大事です」(工藤さん)
たとえうまくいかなくても、挑戦した行動を認めよう。逆に、挑戦してうまくできたときの褒め方にもポイントがある。
「『すごいね』『天才だね』ではなく、努力したプロセスを褒めながら具体的に伝えましょう。ただし、褒めれば自己肯定感も育まれますが、逆効果の場合もあるので気をつけてほしい。それが条件付きの自己肯定感です。
『100点を取ったあなたはすごい』という褒め方になると、結果が出なかったら自分はダメだと伝わってしまう。すると、次の挑戦でうまくいかなかったら認めてもらえないという気持ちになって、挑戦するのが怖くなってしまうのです」(中曽根さん)
「もう一回チャレンジしてみたら?」
■親の決まり文句「勉強しなさい」は言うだけムダ
3 比較しない、焦らない
子供の成長は、他人とではなく本人の過去と比べることが大切だという。学校の評価の一つである、通知表に一喜一憂するのもこれからの時代にはミスマッチだ。子供の成長も得意なこともさまざま。学校の枠に必ずしも合わせる必要はないのだ。
「私が取材した活躍しているお子さんは学校の宿題が苦手で、それを先生に相談したケースがありました。探究的な学びが好きな一方で、決められたことをこなすだけの宿題をする気にはならないという子です。お子さんの性格や育ってきた環境などを伝え、学校に個別対応してもらうことができないかを伝えてみてもよいでしょう。そのとき一方的に主張を押し付けるのでなく、歩み寄る気持ちで味方になってもらえるように先生方とコミュニケーションを取ることが肝心です」(中曽根さん)
「今の社会で活躍している人のなかには学校が合わなかった人、嫌いだった人が大勢います。必ずしも学校の勉強が合わないからと悲観する必要はありません。むしろその選択のほうがよかったと言えるよう、さまざまな選択肢を探して長い目で見守りましょう」(工藤さん)
「自分のペースでいいよ」
4 あれこれさせない
「勉強しなさい」「学習習慣が大事」は親の決まり文句だが、「必要のない勉強は時間を奪うだけです。必要だと思う勉強を自分の意志でできる子に育っていくことが理想です。あれこれやらせてばかりいると、意味も考えずに、言われたことをこなすだけの子供になってしまいます。いったんそうなると主体性を取り戻すのは大変です」と工藤さん。
習い事もしかり。親がやらせたいことをあれこれ詰め込むのは禁物だ。
「例えば、プログラミングや英語が重要だと聞くと教室に通わせてスキルを身につけさせなきゃと焦るかもしれませんが、スキルは子供自身が必要と感じたときにいくらでも伸ばせる。それよりもスキルをつける際の土台となる好奇心や意欲を育むことが子供時代は大切です」(中曽根さん)
中曽根さんは好奇心や意欲を育むために、何も制限されない、好きなことをできる時間をつくってやってほしいという。
「ノーベル賞を取った人たちは子供の頃に余白時間をたくさん持っていました。親が心がけたいのは集中している時間を妨げないこと。これに尽きます。そのときに子供が何を好きなのかを観察して、その事柄をちょっと広げてやったり、時には一緒に面白がって調べたり。子供の興味に寄り添い、少しだけサポートする感覚で十分です」(中曽根さん)
「手伝うことある?」
私立横浜創英中学・高等学校校長
千代田区立麴町中学校の校長時代には担任制廃止など数々の教育改革を進めた。教育再生実行会議委員、経済産業省「『未来の教室』とEdTech研究会」委員などを務める。
中曽根陽子さん
教育ジャーナリスト
マザークエスト代表。海外の教育視察も行い、クリエイティブな力を育てる探究の学びを提唱。近著に『成功する子は「やりたいこと」を見つけている―子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)がある。
(プレジデントFamily編集部)
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