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外資系コンサルは空前のバブルなのに、発注元の日本企業はジリ貧…そんな矛盾が起きる根本原因

プレジデントオンライン / 2022年4月29日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pixelimage

いま外資系コンサルタント会社は空前のバブル状態にあるという。その一方、コンサル会社に課題解決を頼んでいる日本企業の業績が向上しているようには思えない。経営コンサルタントの倉本圭造さんは「日本企業の多くが守りの仕事に精一杯になっている。外資系コンサルに丸投げしても勝ちパターンは見つからない」という――。

■「外資系コンサル会社」だけが大儲けしている根本原因

いま、外資系コンサルタント会社は空前のバブル状態にあります。

案件が引きも切らず、人材紹介会社に普段なら考えられない費用を払って人員をかき集め、それでも案件をこなしきれないほどになっているのをご存じでしょうか。

例えば、会計系総合コンサルタント会社のデロイトトーマツコンサルティング。同社は2021年度におけるコンサル部門の業務収入が前年度比25%増えたと発表しました。いわゆる“戦略系”コンサル会社は業績を公開していない企業が多く、実態は謎に包まれていますが、関係者に聞けばどこも同じような活況であると口を揃えます。

変化の激しいグローバル競争の時代の中で、日本企業は次々と「考える機能」をコンサル会社に丸投げし、高額な費用を払って教えを請うているのが現状なのです。

しかし、経営コンサル会社が大繁盛しているのに、日本の会社は「良く」なっているのだろうか? という根本的な問題があります。

外資系コンサル会社の「中の人」に話を聞いても「自分たちは案件が増えて嬉しいが、本当にこれでいいのだろうか? という疑問はある」と言う人も少なくありません。

私は大学卒業後、アメリカの外資系コンサル会社に就職しました。

その後、そこにある「グローバルに共通な手法」と「日本社会のリアル」との間の齟齬がほったらかしにされている現状を埋める何らかの視座が必要になると切実に感じることがあり、退職後はブラック企業やカルト宗教団体に潜入するなどのフィールドワークを行った上で、現在は中小企業のコンサルティングを仕事にしています。

つまり、冒頭で紹介したような、外資系コンサル会社の「バブル状態」とは距離を置きつつも、一応似た業界の人間として仕事をしています。

オフィスで働くアジアのサラリーマン
写真=iStock.com/kokoroyuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki

そうやって、大企業向けのサービスを提供する外資コンサルの顧客にはならないような「日本の中小企業」を見てきた実感から言えば、日本企業の方々が次々と「他人にやらされる宿題」をこなしているだけのように見えます。

それでは会社や事業が良くなっていくことはありません。

■「他人にやらされる宿題」をこなしていても成功はできない

日本企業の皆さんが一生懸命取り組んでいる「他人にやらされる宿題」とは何か。私なりに説明すると、他人(ライバル企業など)を追いかける守りの仕事です。

企業を取り巻く環境分析の際に、「3C」(自社・競合・顧客)をバランス良く見ることが大事だ、とよく言われます。しかし、「他人にやらされる宿題」に追われていると、「競合」の事例ばかりに目が行きます。肝心な「自社」「顧客」の深堀りが疎かになる傾向があります。

もちろん成功している事例を取り入れることも重要ですが、自分たちに合った形に作り直し、現場で生起する課題を毎日丁寧に潰して実現できなければ意味はありません。

上層部が散発的に「流行り物」を追いかけ、号令を発してはそのうち立ち消えになり、残るのは現場の人々の疲弊感だけ――。これでは「ダメな日本の組織あるある」のような状況になってしまいます。

成功している中小企業の経営者には「他人に与えられた宿題をこなしているだけではいけない」という感覚は常識といっていいものです。大きな会社でも創業経営者がいるような会社でも同じだという印象を持ちます。

大企業には大企業ならではの事情があるのはわかります。

SDGs、サイバーセキュリティ、地政学リスク、脱炭素、危機対応マネジメント、コンプライアンスなど……大企業なら避けられない他人から与えられる宿題をこなす必要はどうしてもあるでしょう。

しかし、次から次へと言われたことをこなしているだけでは、その会社が良くなっていくはずがありません。「あと3歩ぐらい“自分ごと”に引き寄せる」ような攻めの姿勢が不可欠だと思います。

実際、私は経営コンサル業の傍ら、いわゆる「コーチング」のような形で少額の謝礼をいただきつつ「文通」を通じて今の日本を生きる色んな立場の人と人生を考える仕事をしています。

大企業で働いている文通相手から「他人から与えられた仕事で精一杯」「やらなきゃいけないことをこなしているだけで、その先の展望が開けない」という話をよく聞きます。では、どうすればいいのでしょうか?

■「GAFAはこうなのに日本ってダメだよね」と言っていても仕方ない

少なくとも日本の中小企業に関しては、「良く考えられた勝ち筋」を共有することから始める必要があります。他人の事例を追いすぎてもいけないし、自社のことで頭がいっぱいになっていてもいけないのです。

「自分たちだからこそ差別化できる勝ち筋」をしっかり考え、展望を示すことができれば、日本の組織は勝手に自分たちで問題解決に向かって回り始める性質を持っているケースが多いように思います。

いまの日本では、「日本はもうダメ」と「日本はスゴイ」の両極端な意見が目立ちます。コンサルタントとして企業経営を見ても、「他人の事例を追いすぎる言論」と「自分たちの事情に引きこもる言論」の両極端な傾向があります。

とても残念なことは、「自分たちだからこそ差別化できる勝ち筋」を考える機能が沈黙してしまっているのです。

いま必要なのは、「GAFAはこうなのに日本ってダメだよね」という現場無視の嘆き節ではありません。なぜならGAFAの事例は特種な成功例すぎて、多くの日本企業にとって前提が違いすぎるからです。

もちろん、だからといって「中身のない日本スゴい言論」も未来に繋がることはありません。

「“自分たちの場合は”こうやって行けば勝てる」というよく考えられた勝ち筋を、それぞれの業界、それぞれの会社で共有していくことこそが今の日本に必要なのです。

ビジネスミーティング
写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi

■「日本はもうダメ」と「日本スゴイ」の両極端化した弊害

ただ、中小企業と違って大企業レベルになると、そういう「勝ち筋をオリジナルに考える」ような機能を果たせる人がなかなかいません。「現場側の事情も知っていながらグローバルな事情にもアンテナが高い」というハイブリッドな人材が、じっくり時間をかけて結論を出せるような場がない。

そもそも一人や二人の賢い人がいれば結論が出せるようなサイズの課題でもなく、知恵を出し合って考える場が必要ですが、そういう場がなかなかない。

いまはバラバラに、「日本はもうダメ」と「日本スゴイ」の両極端化した議論の場に放出されてしまっているエネルギーを1カ所に集めて具体的な形に落とし込み、「自分軸の勝ち筋」を見出していく動きを、皆でバックアップしていくことが必要なのだと思います。

そういう「自分ごととして考えられた勝ち筋」のことをコンサル用語で「インサイト(洞察)」と言います。

その「良いインサイト」さえあれば、そこから先は優秀なコンサルタントにリードしてもらうことが急激に有意義なものになるでしょう。コンサル的に優秀な人材には「使われる」のでなく、自分ごとの軸をしっかりと立てて「彼らを使っていく」ことが大事なんです。

これはコンサル業界にいる人からしても、自分たちに丸投げせず主体的に考えてほしいと思っている人は多いはずです。

■ビジネスモデルの転換に成功した『鬼滅の刃』の事例

世界的規模の大ヒットとなった『鬼滅の刃』ですが、その背後には非常にオリジナルなビジネスモデルの転換があったことはご存じでしょうか?

日本のアニメはリスク分散のために非常に多くの会社が出資して作られることが多く、それが「船頭多くして船山に登る」的な動きの鈍さに繋がりがちでした。

一方で『鬼滅の刃』は出資関係を整理し、原作を連載していた『週刊少年ジャンプ』の集英社、ソニー子会社のアニプレックス、アニメ制作会社のufotableの3社に限定することで、アニメシリーズ・映画・幅広いコラボグッズの展開にいたるまで、スムーズに統一された意思決定が行える態勢を整えていました。

特に、「テレビ局の出資による支配」から脱したことで自由度の高さを実現させたと指摘されています。既存の関係を無理に「ぶっ壊す」ようなことはせず、むしろテレビ局を非常にうまく使うことで、ブームを急加速させることにも成功しました。

■使われるのではなく、使いこなす

私はこの「『鬼滅の刃』のヒットを生み出した仕切り方」に非常に高い可能性を感じています。

なぜなら、それは「昭和時代の延長を惰性で続ける」のではなく、「グローバルな事例をそのまま持ってきて“ぶっ壊す”をやろうとする平成風」でもなく、「グローバルな事例を活かしつつ、自分たちの特性に合ったオリジナルな勝ち筋を見出す“令和のソリューション”」だからです。

日本のコンテンツビジネスは、テレビ局が支配する構造によって色々な硬直性を生んでいるという指摘は古くからなされていました。

かつてIT起業家がテレビ局の買収を何度も試みましたが、今まで実現せずに来ました。「コンテンツを作る現場」という文化的にデリケートな場を、そのまま資本の論理に晒してしまうことへの拒否感があったのではないかと思います。

しかし『鬼滅の刃』は、「コンテンツの作り手の気持ち」を十分に理解できる人が、新しい時代の資本主義のテクニックを使って、現場の力を最大限に活かせる仕組みを独自に作り上げることで世界大ヒットを実現させました。

そのプロセスでは、外資系コンサルタントや外資系投資銀行が提供するような最先端のビジネススキルも存分に活かされているでしょう。しかし最も重要な点は、「彼ら(=外資系コンサルなど)に使われる」のでなく「彼らを使いこなす」ことができている点だと思います。

現場に根ざした業界の人たちが考え抜いた、最も動きやすい仕組みを実現させ、「オリジナルな勝ち筋」を導くことができた結果だと言えます。

■いま必要なのは「令和型のソリューション」

日本の会社はGAFAではありません。GAFAのマネをしても会社自体は変わりません。単に「日本の会社ってダメだね」と悲観するばかりでも現状は何も変わりません。日本の企業は、過去の遺産を食い延ばすことでしか生き残ることはできなくなります。

倉本圭造『日本人のための議論と対話の教科書』(ワニブックスPLUS新書)
倉本圭造『日本人のための議論と対話の教科書』(ワニブックスPLUS新書)

グローバルな事例に詳しい人と、国内の事情に詳しい人、アカデミックに俯瞰的な話ができる人や、話をまとめて人を動かすことが得意な人……などが集まって一緒に考え、「自分たちの勝ち筋」をそれぞれの業界で見出していくことが必要でしょう。

あなたのいる業界でも他人の真似をするだけでなく、『鬼滅の刃』のヒットの背後にあったような「オリジナルな勝ち筋」を、時間をかけて見出していくことができれば、コンサルタントたちとの協業も有意義なものになっていくでしょう。

私はそれを「令和型のソリューション」と呼んでいます。「昭和的な惰性の延長」でも「日本をぶっ壊す! の平成風」でもありません。

まずは、知恵を持ち寄ってリアルな議論を通して「自分たちの勝ち方」をしっかり考え抜くことが欠かせません。コンサルに任せるだけでは、勝ち方は描き切ることはできません。思ったような結果は出ず、彼らを大儲けさせるだけになります。

日本の会社はダメだと「ワンパターンの罵り合い」は止めにして、いかに勝ち筋を見出すリアルな議論ができるか――。ここに国の今後はかかっています。

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倉本 圭造(くらもと・けいぞう)
経営コンサルタント
1978年生まれ。神戸市出身。兵庫県立神戸高校、京都大学経済学部卒業後、マッキンゼーに入社。「グローバリズム的思考法」と「日本社会の現実」との大きな矛盾に直面し、両者をシナジーする一貫した新しい戦略の探求を開始。社会のリアルを体験するため、ホストクラブやカルト宗教団体等にまで潜入するフィールドワークを実行後、船井総研を経て独立。著書に『日本人のための議論と対話の教科書』(ワニブックスPLUS新書)、『「みんなで豊かになる社会」はどうすれば実現するのか?』(amazon Kindleダイレクト・パブリッシング)など多数。

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(経営コンサルタント 倉本 圭造)

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