「客が高速道路で4時間かけて来る」最高日商200万→420万円の佐賀の家族経営スーパーがやったこと
プレジデントオンライン / 2022年5月3日 11時15分
※本稿は、櫻井大輔『なぜ、人と仕事に困っているのにSNSを始めないんですか? 知識ゼロから学ぶ ショート動画生存戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■動画配信で最多日商が2倍以上になった佐賀のスーパー
【大京警備保障社長・櫻井大輔(以下、櫻)】「日本一面白いスーパー」というキャッチコピーだけあって、店内で社長がいきなりブレイクダンスを始めたり、店内放送やタイムセールでパフォーマンスをしたり、小売店業界では異例の配信ですよね(笑)。動画投稿はいつからスタートしたんですか?
【ファインズたけだ社長・竹田智史(以下、竹)】YouTubeを始めたのは3年前のことです。それまで、SNSどころかホームページでさえまともに整備できていなくて。「スーパーたけだ」「たけだストア」など店名すら間違った情報がネット上に混在している状況でした。
【櫻】じゃあ、最初からデジタルコンテンツに強かったわけじゃないんですね。
【竹】ええ。そもそも、Webの必要性に気付いていなかったんです。きっかけは商工会議所の無料相談です。当時、社長だった母が話を聞いてきて「うちって遅れているらしいわよ」と。
【櫻】ああ、その頃はお母さんが社長だったんですね。
【竹】はい。父が立ち上げたお店なんですが、父が他界してからは母が経営を引き継いでいました。
【櫻】それから長男の竹田社長に引き継がれた。副社長の弟さんは動画でお見かけしています。
【竹】ありがとうございます。ホームページもSNSも、母が言い出し、動いたのは私たち兄弟です。Instagramのリール(※)を2020年9月にスタートし、YouTubeショートが実装されると聞いて短めの動画をつくり始めました。
※リール……最大60秒の縦動画。リールタブを開いて表示する。
【櫻】その動画をTikTokで公開したんですね。
【竹】ええ。過去に投稿した動画からTikTokでも順番にアップして、「店内アナウンスのマイクパフォーマンス」でバズりました。
【櫻】再生回数240万回、すごい数ですよね。
■福岡や長崎から伊万里まで車で3〜4時間かけて来る客
【竹】その頃はまだ我々くらいの規模で動画投稿をしているスーパーはありませんでしたし、今までWebを使った情報発信が遅れていた分、「これを機に一歩リードできるかも」と期待が膨らみました。
【櫻】反響はいかがでしたか?
【竹】大きく変わったのは、それまで近隣のお客さまばかりだったのが、遠方からも来てくださるようになりました。たとえば、福岡や長崎からだと伊万里までは車で3〜4時間かかります。それをわざわざ高速道路を使って来てくださるんです。
【櫻】それはすごい! 観光スポットになっていますね。
【竹】そうなんです。伊万里と言えば焼き物が有名ですが、まさかわざわざ遠方からスーパーを目的に来てもらえるなんて。動画を発信することで伊万里に人を呼べることが嬉しいですね。
【櫻】売上への影響は?
【竹】一概には言えないのですが、日商200万円ベースだったのが動画投稿を始めてからは最多日商は420万円でした。
【櫻】倍以上!
【竹】最も多い日の来客数は2000人を超えます。特に、動画が効果を発揮しているのはイベント告知ですね。ファインズたけだの特徴はとにかくイベントが多いこと。「ラーメン積み上げ大会」や「じゃんけんゲーム」など定期的に開催しているんですが、こういうのは文字や写真よりも動画で見せた方が楽しさがよく伝わるんですよね。動画投稿を始めてからは「このイベントに参加したい」と電話がかかってくるようになりました。
![櫻井大輔『なぜ、人と仕事に困っているのにSNSを始めないんですか? 知識ゼロから学ぶ ショート動画生存戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/4/1200wm/img_949063f4f7eb6572abba3ff8a96bdb3e236745.jpg)
【櫻】イベント集客にはダイレクトに効果が出ているんですね。
【竹】もう一つは、私自身の顔を覚えていただけたのが大きいですね。他のスーパーだと社長の顔を知っているお客さまはいないけれど、ファインズたけだのお客さまは誰もが社長の顔を知っています。
【櫻】会いに行けるスーパーの社長(笑)。
【竹】そうなんです。動画を見て私の顔を覚えてくださっているお客さまは声をかけてくれますよ。その日の売り出しやおすすめ商品を伝えると「じゃあ買ってみよっかな」と購買にもつながるんです。
■「お母さんが働いているスーパー、すごいね」
【櫻】従業員さんは社長と副社長が動画投稿しているのを見て、どう思っているんでしょう?
【竹】温度差はかなりありますね。SNSにまったく興味がないという人もいます。でも、身近な人から「見たよ」と言われると実感するようです。
【櫻】たとえば?
【竹】50代のパートさんが「娘から、『たけだのTikTok見たよ』って連絡がありました」と嬉しそうに報告してくださったんです。詳しく聞いてみると、上京した娘さんとその話題がきっかけで話が弾んだそうです。「お母さんが働いているスーパー、すごいね」って。今までは「変なことやってるな」と見られていたのが「社長たちはすごいことをやってるんだな」と思ってもらえるようになったんです。
【櫻】竹田社長自身はSNSでの投稿はやりたいことだったんですか?
【竹】一番の目的は「伊万里市にこんなに面白いスーパーがある」と知ってもらいたかったんです。「日本一面白いスーパー」とキャッチコピーを付けたのは2019年のことですが、以前から「ファインズたけだは面白い」という自信があったんです。前社長だった母もユニークなアイデアを持っていて、それをどんどん露出していったらきっと注目されるに違いない、と。
【櫻】そしたら実際に面白いことがどんどん起きた。
【竹】でも、発信する情報やコンプライアンスには気を付けないと、と思っています。Instagramでリールを始めたばかりの頃、失敗があったんです。
【櫻】と言うと?
【竹】芸能人のゴシップをネタに動画を投稿したとき、フォロワーさんからコメントをいただいたことがあるんです。「大好きなお店なのにこんな風にして目立つのはちょっと悲しいです」と。
【櫻】それは胸に刺さりますね。
【竹】ええ、深く反省しました。それを機に他のアイデアを考えるようになって、店内放送でマイクパフォーマンスをするアイデアを思い付いたんです。
【櫻】失敗から新しいアイデアが生まれたんですね。
【竹】店内放送のマイクパフォーマンスは人気コンテンツです。本来、地元の人しか知らないはずのスーパーマーケットにSNSを通じて全国にファンができました。このご縁を活かして、全国のみなさんにも私たちの商品を届けられるようにライブコマースを検討しているところです。
【櫻】ファンは応援する人や自分が好きなお店から買いたいですからね。
【竹】今考えているのはカタログギフトを使った通信販売です。実は、ファインズたけだは「味の直行便」というカタログギフトの販売数が全国600店の中で夏冬3年連続日本一なんですよ。そのため、売れ筋商品やおすすめ商品のデータが蓄積されています。そのノウハウを使ってオンライン販売を始めたいと考えています。
【櫻】今は「誰から買うか」が重視される時代です。「こんな人たちがつくっているんだ」「こんな人が売っているんだ」と人柄や背景、ストーリーが伝わるから欲しくなるんですよね。
【竹】私たち小売業界が直面している問題は地域住民の方々、ひいては日本全体の人口減少です。これから資金を投じて実店舗を増やしていくよりも、自信を持って販売できる自社商品を全国の方に向けてPRし、販路を拡大したいと思っています。
【櫻】素晴らしい! SNSをきっかけに全国展開が始まるんですね。
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ファインズたけださんの話で特に驚くのは、スーパーをめがけて県外からもお客さんが集まるところ。SNSを通してたった一軒のお店が「地域活性」にまで役立てる。そんな可能性を感じるお話でした。
TikTokアカウント:日本一面白いスーパーファインズたけだ
フォロワー:27.6K
いいね:755.5K
TikTokデビュー:2020-11
YouTube チャンネル登録者数:2360人
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大京警備保障株式会社 代表取締役社長
東京都生まれ。高校卒業後、警備会社でアルバイトを経験。その後メールオペレーター、Webデザイナーを経て、28歳で父が経営する大京警備保障株式会社に入社。その後、31歳で事業承継。経営改善に着手。警備業界では活発ではなかったSNSを駆使し、外部へのブランディングを行う。特に社内の人間の雰囲気や人間性がわかるような動画を数々投稿することで、SNS総フォロワー数は150万人、TikTok等動画の総再生回数は3億回以上と着実に知名度を上昇させている。
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SMAT代表取締役
九州地方と山口県を中心に展開するスーパーマーケット「ハローデイ」に勤務。24歳のときに父が創業した「ファインズたけだ」に入社。34歳で父、母から受け継いで3代目社長となる。
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(大京警備保障株式会社 代表取締役社長 櫻井 大輔、SMAT代表取締役 竹田 智史)
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